<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


一通の手紙

「あなた冒険者さん?」
不意に声をかけられて顔を上げる。
そこには赤毛のストレートヘアのスレンダー美人が立っていた。
そんな人が自分に声をかけるわけが無いと周囲を見渡してみてもそれらしい人物は自分しかいない。
思わず自分を指差すと、スレンダー美人は「そう」と微笑んで頷いた。
「冒険者さんならお願いがあるの。
報酬はたっぷり支払うわ。だからこれを届けて欲しいの」
スレンダー美人は封筒に入った手紙らしきものを差し出した。
「街外れの山の山頂にお屋敷があるのはご存知?」
妖しげな微笑みを浮かべながら問い掛けるスレンダー美人。
屋敷の場所を聞かれても思い当たる事は無く、首を左右に振る。
「そう。じゃあこれが地図。ここにいる老人に届けて欲しいの…
決して中身は見てはいけないわよ?お願いね?」
スレンダー美人はそう言い、
押し付けるように封筒と数枚の紙幣を渡すと断る間もなく姿を消していた。



「…という事なんですが…最低でも三通あるって事ですか?」
「どうやらそうみたいですね」
「下手するともっとばら撒いてる可能性もありますけどね」
 白山羊亭のテーブル席に、三人の”冒険者”が座って顔つき合わせ話をしている。
その三人の共通点は…一通の手紙。
全く見た目が同じ手紙を、これまた全く同じらしい女性から預かり、
さらに、全く同じ届け先へ届けて欲しいとの依頼を受けたのだが…。
「あやしいことこの上ないですよね…」
 大きな耳をピクっと動かして、ロイド・ハウンドは苦笑いを浮かべる。
膝の上には、ぱっと見れば子犬にも見えるキメラを乗せていてその頭を優しく撫でる。
「お金などいただかなくても手紙くらい届けたのですが…」
 白山羊亭特製のジュースを口に運び、アイラス・サーリアスは呟く。
長く薄蒼の髪と、大きな眼鏡が特徴的な彼は、その眼鏡をくいっと動かし視線を横に向けた。
「まあ地図も預かってる事だし…俺は簡単に話を聞いてからすぐにでも出るつもりですが…」
 注文した軽食をたいらげて、不安田(ふあんだ)は手拭用のフキンで手を拭く。
どこか猫のようなイメージを受ける外見をしていて、その目を細めて手紙に目を向けた。
「こういう時って、中身には”この人を食べて下さい”みたいな手紙が入ってたりするんですよね…」
「まさか!大丈夫ですよ…そんな事…」
「とにかく怪しい事に変わりはないが…中身を見るわけにもいかないでしょう?
まあ、少しくらいなら透かして見るかもしれませんけどね、俺は」
 不安田は手紙を手に取ると、ひらっと頭上にかざして見る。
しかし店内の薄明かりでは何も透けて見えることは無かった。
「ここでちょっと聞いてみたんですけど、街外れの山の頂上には確かにお屋敷があるそうですよ?
ただあの山全体が私有地で誰も訪ねていった事は無いようなんですけれど…」
「ますますあやしいですね…」
 アイラスの言葉に、ロイドは肩を竦めて見せた。
しかし、三人とも…半ば一方的とはいえ、受けた依頼を投げ出すような無責任ではない。
たまたまこうやって出会ったことも何かの縁だろうという事で、
三人揃って…届け先へと出向くことにしたのだった。





「これって、何人かのうちひとりくらいしか届けられる可能性が無いから、
大人数にバラ巻いて届けてもらおうとしているって可能性はどうでしょうか?」
「それだけ危険な場所って事ですか?」
「――でも、今のところは何も無いですけれど」
 山の麓にある道の入り口には、大きな門を構えていた。
確かに私有地らしく、立ち入り禁止というわけではないが、無断で立ち入るのを躊躇われる雰囲気がある。
しかし今回は頼まれ事があるわけで、三人はゆっくりと門を押し開いた。
「簡単に開きましたね」
「という事は、頻繁に開閉しているって事…か」
 意外とあっさり開いた門に拍子抜けしつつ、ロイドが呟く。
不安田は門の様子を観察しながら、それに答えた。
「一応、もしもの事態に備えて戦闘準備はしておきますか」
 アイラスが先頭に立ちつつ言う。
周囲の様子を見ても、さして殺気や何かの気配があるわけでは無いのだが…
念のためという事で全員警戒態勢に入り、山頂への道を歩いた。
 道にはなっているものの、管理をされている様子もなく、
ほとんど獣道のようになっているその道は…両側の木々の間から何か飛び出してきそうな雰囲気もありつつ、
しかし何も起こらずに…真っ直ぐに頂上へと向かっていく。
「あ、屋敷が見えてきましたね」
「やけにあっさりと到着って感じですね…」
「もう少し何かあっても良さそうなものなんだけどな…」
 あまりにも何も起こらずに目的地へと到着してしまい、
三人は妙に拍子抜けしつつ…山道から、山頂の屋敷の敷地内へ足を踏み入れたのだった。



 山頂にはどう見ても人が住んでいるようには見えない屋敷が静かに建っていた。
かなりの敷地で、建物自体も大きなものなのだが…
壁や屋根には蔦や雑草が生え放題で、窓にもヒビが入っていたり割れている個所が多い。
広大な庭もまったく手入れされておらず…どう見ても、どう考えても…
「やっぱり何かありそうな雰囲気ですね」
「でも見て下さい。人が通った形跡がある…しかも大人数ですよ」
「確かに建物の中からも気配を感じる…」
 三人は庭を歩いて、屋敷の扉に向かいながらさらに警戒心を強めた。
無数の視線を建物から感じるような気がして君が悪い。
扉を開いた瞬間に魔物でも飛び出してくるんじゃないかと思いながら、ゆっくりと…不安田が扉に手をかける。
ギィ、と鈍い音がして…扉が開く。
室内から、カビ臭くホコリ臭いニオイが流れ出してきて三人は思わず顔を顰めた。
「いらっしゃいませ…」
「うわっ!」
「!!」
「出たぁ!!」
 扉が開くと同時に、中から人が顔をぬっと突き出してきて、三人揃って叫んで一歩後退する。
思わず攻撃を仕掛けそうになるアイラスと不安田だったのだが…
「ようこそ…こんにちわ…」
 にこにことした人の良さそうな老人が、三人を迎え入れたのだった。
「あ…こんにちわ…ロイドと申します…あの…とある方から手紙を預かって来たのですが…」
「おーおー!お前さん方もですか!ささ、手紙を見せてもらえませんかの?」
「え、ええ…」
 言われるままに、ロイドは手紙を差し出す。
つられて、アイラスと不安田も老人へ手紙に差し出した。老人は三通を受け取り、
それを器用に開封して目を通す。そして、にっこりとした笑みを浮かべ。
「ロイドさんじゃったかの?お前さんは二階の右の廊下じゃ…」
「…はあ?あの…」
「それからそっちの青いメガネの…」
「アイラスです」
「アイラスさん…お前さんは図書室じゃ…一階の左じゃ」
「え?…あの、どういう…」
「最後にお前さん!」
「不安田です…」
「うむ。お前さんは裏庭じゃ!さあさあ!日が暮れる前に頑張ってくれ」
 老人は急きたてるように三人の背中を押す。
しかし、さっぱり事態が飲み込めず…
「あの!すみませんおじいさん!一体どういうこと…」
「行ってみればわかるわい」
 老人はにこにこと笑いながらそう言うと、三人の背中をポンポンと叩く。
そして自分はさっさと…一階の右の部屋へと入っていったのだった。
仕方なく、言われるままに指定された場所へと散る事にした三人だったのだが―――




「あら、可愛いコが来たわよ!」
「ほんと!むっさい男ばっかりだったから潤うわ〜!」
「なんだよ失礼な連中だな…」
 ロイドが指定された二階の右の廊下へ足を踏み入れた途端、数人の女性に囲まれて一瞬戸惑う。
その誰もが一見すれば冒険者風の女性なのだが…何故か、全員の手には…雑巾。
そして、他に見える男性達の手にも…バケツと雑巾。
わけがわからずに目を点にするロイドに、ひとりの女性が微笑みかけ。
「アンタも手紙届に来たんやね?」
「え、ええ…そうなんですが…」
「手紙の中身、知りたい?」
 女性は意味ありげに呟くと、その胸元から一通の手紙を取り出した。
開封してあるものの、それは確かにあの手紙と全く同じもので。
「あの?これ…」
「おじいちゃんが落としたのを拾ったんだけどねー…ま、そういう事よ」
 ロイドは女性から手紙を受け取り…少し躊躇いながらもその中に目を通した。

”親愛なるおじい様”
お屋敷の大掃除の事ですが、わたくしも両親も、忙しくて行けませんの。
その代わり、わたくしの友人・知人を変わりに手伝いに向かわせましたわ。
お礼はもう先にしてありますから、好きに使ってやってくださいな。
そうそう。
この手紙を届けた人は、廊下の雑巾がけが上手そうな人よ。
それじゃあ。また遊びに参りますわね。
                   あなたの可愛い孫娘マディナより”

「―――な、な…これ…」
「でしょー!笑っちゃった!ここに集まってるのは全員そうみたいよ?
まあ中には事情を知ってる上で手伝いにきてる人もいるみたいだけど…
ほら、先にけっこうな報酬貰っちゃったじゃない?
だから皆、なんだかんだ言いつつ掃除しちゃってるのよねー…帰った人もいるけどね」
 女性は笑いながらロイドから手紙をひょいと取り上げ、再び胸元へと仕舞いこんだ。
なんと言えば良いのだろうかとロイドはしばし固まる。
危険は無い事がわかり、良しとすれば良いのだろうが…
「それにしてもアレねえ…」
「な、なんですか?」
「ほんと、まさに廊下の雑巾がけ得意そうな風貌よね?」
 悪気は無いのだろうが、ロイドの外見を見つめつつ言う女性の言葉に、
ロイドは思わずムキになり…
「僕を犬なんかと一緒にしないで下さい!」
力を篭めてそう叫んだのだった。
 しかし結局。
ロイドは先に居る冒険者たちと混じり、廊下の雑巾がけをする事になったのだった。

一方その頃。
一緒に来た二人の仲間たちも…同じようにそれぞれの担当場所の掃除にかかっていたという…。



<FIN>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1505/ロイド・ハウンド(ろいど・はうんど)/666歳/男性/魔影狼/契約魔獣】
【1649/アイラス・サーリアス(あいらす・さーりあす)/19歳/男性/人間/軽戦士】
【1728/不安田(ふあんだ)/28歳/男性/人間/暗殺拳士】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度はご参加ありがとうございました。
ソーン初執筆のライター、安曇あずみと申します。<(_ _)>
今回はパロディ展開のシナリオでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
初めての執筆ですので、皆様のイメージしていらっしゃるPCさんと、
描写が違っていたら申し訳ございません。
クエストや冒険とは決して言えないような展開になってしまいましたが、
楽しんでいただけたら幸いです。
 またどこかでお会い出来るのを楽しみにしております。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>