<PCクエストノベル(4人)>


ソーン全国サイコロの旅 〜第5夜〜

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1184 / バンジョー 玉三郎 / 男
            / 魔皇 / 40 / 映画監督 】
【 1185 / バンジョー 英二 / 男
              / 魔皇 / 30 / 俳優 】
【 1333 / 熟死乃 / 男
 / ナイトノワール / 43 / ディレクター兼カメラマン 】
【 1334 / 不死叢 / 男
 / フェアリーテイル / 37 / ディレクター兼ナレーター 】

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●前枠〜前回までのあらすじ【0】
 ハルフ村・温泉の入口前。
 ナイトノワールの逢魔・熟死乃が撮影するビデオカメラの前に、魔皇であるバンジョー兄弟の片割れ・英二が、書物を手にやや憮然とした表情で立っていた。
 ビデオカメラから少し離れた場所には、英二の兄である玉三郎が小さく肩を竦め、ちらちらと申し訳なさそうに英二たちの方に視線を向けている。そんな玉三郎の様子を見ながら、いつものごとくげらっげらと笑っているのはフェアリーテイルの逢魔・不死叢である。
英二:「むかぁしむかぁし、ある所にバンジョー弾きの玉三郎という男が居りました」
 書物を開き、声を出して読み始める英二。
英二:「玉三郎はことあるごとに、自分は無類の甘い物好きであると周囲の旅仲間に漏らしておりました。そんなある日のこと、旅の途中で立ち寄った村で温泉饅頭の早食い大会が催されることを知った玉三郎の旅仲間、ヒゲでデブな男がこう言ったのです」
不死叢:「参加してみたらどうですかな?」
英二:「……ヒゲでデブな男の言葉にまんまと乗せられた玉三郎は、早食い大会に参加することになりました。優勝賞品であるリゾート地の宿泊券を目指し、玉三郎は食べました。死ぬ気で温泉饅頭を食べたのです。そして見事――最下位になってしまいました。しかし、話はそれで終わりませんでした」
不死叢:「最下位ですから、罰ゲームで川下りですなぁ」
英二:「こうして玉三郎は、自分の責任で旅仲間を罰ゲームに巻き込んでしまったのです。ああ、可哀想な英二くん。英二くんはこれからどうなってしまうのでしょうか……」
 書物をパタンと閉じ、英二は離れてた所に居る玉三郎をじろりと睨んだ。
玉三郎:「……すみません……」
 蚊の鳴くような声で謝る玉三郎。
熟死乃:「……主人公変わってねぇか?」
 熟死乃はぼそりつぶやき首を傾げた。そういや、確かに変わりました、ええ。
不死叢:「じゃ、行きましょうか」
英二:「ああ?」
 今度は出発を促そうとする不死叢に対しじろりと睨む英二。
不死叢:「いやっ……だから、行きましょうかと」
 笑いながら不死叢が再度促す。
英二:「行きたきゃ、君らだけで勝手に行けばいいだろぉ? どこの誰がだぁ、温泉入ってる間に罰ゲーム決められて、『ああそうですか』って納得するか? 単なる馬鹿だろ、それはぁ」
不死叢:「うるせぇ、馬鹿! いいからとっとと行くぞ!」
英二:「お、やるってか?」
 毎度のごとく、口喧嘩を始めてしまう不死叢と英二。それでは、本編スタート――。

●カヌーでGO!(講習編)【1】
 翌日早朝――ハルフ村より東方にある川の岸辺の近く。
不死叢:「おはようございます」
玉三郎:「……おはようございます」
英二:「…………」
 不死叢の挨拶に答える玉三郎。テンションの低さは、声のトーンではっきりと分かる。英二の方など、黙ったまま頭を下げただけなのだから推して知るべし。
不死叢:「お二方、元気がありませんなぁ」
英二:「……しょうがないだろぉ、やりたくねぇもん。だいたいだ、不死叢くん。『ぜひ川下りやらせてください』って、誰か頼んだか?」
 口を尖らせ抗議する英二。
不死叢:「おや、仰ってませんでしたかな?」
英二:「言ってねぇよ!」
玉三郎:「言ってたのはあなたでしょ? 『俺は川下りがしたいんだ』って」
 玉三郎が不死叢を指差した。すると不死叢が照れくさそうに話し出した。
不死叢:「いやあ、僕ねぇ……こういう雄大な自然の中でカヌーに乗ってね、ゆっくりと川下りをするのが夢だったんですよぉ。これこそ人間のあるべき生活というんですか?」
英二:「誰も聞いてねぇって。それにお前逢魔だろ」
 英二から鋭い突っ込みが入った。
不死叢:「逢魔でもですよぉ」
玉三郎:「でもあなたさっき、おかしなこと言ってませんでした?」
英二:「何?」
 不安げに眉をひそめた玉三郎に、即座に尋ねる英二。
玉三郎:「川の流れ見て、『思ってたより速ぇなぁ』って……」
不死叢:「いやねぇ、僕の頭ん中にはまるで止まってるかのようなイメージがあったんですよぉ。で、さっき見てみたら……速ぇ!」
英二:「君ね、それいつもだろ。行く前は散々『向こう行けば、もうこうですから!』なんて言っといて、着いて実際に見てみたら『おや、違いましたなぁ……』で済ませてるだろ? ディレクターだったら、ちったぁ調べろよ! そんなんだから、熟死ーだってあんな格好なんだよ」
熟死乃:「俺のことはいいだろぉ」
 矛先が自分の方へ向き、少しむっとしたように答える熟死乃。そんな熟死乃の格好は、上下ともにオレンジのジャージという何ともアウトドアを舐め切った服装であった。
玉三郎:「それから、もう1つ重要な問題が」
不死叢:「おや、何ですかな?」
玉三郎:「僕らカヌーの乗り方知りません」
 そりゃ確かに重要な問題だ。
不死叢:「その点は心配ありません。現地の方に講習を受ける手筈になってますから。そしてもう向こうに来ております!」
 そう言い、川の方を指差す不死叢。岸辺にはいつの間にか、口周りと顎に髭をたくわえた男性がやってきていた。この男性がカヌーの操縦法を教えてくれるのだろう。
不死叢:「お名前、ビートさんとかいうらしいですなぁ」
英二:「君、ようやくディレクターらしい仕事したね」
不死叢:「ささ、では講習の方へ行きましょう」
 岸辺へバンジョー兄弟を促す不死叢。こうしてバンジョー兄弟は昼前まで、みっちりとカヌーの操縦法を教わったのだった。

●カヌーでGO!(実践編)【2】
 昼前になり、そろそろ出発することとなった一行。ここでようやく、今回のルートを不死叢から聞かされることになった。
不死叢:「今回、お2人には夜までの予定でカヌーを漕いでもらいますから」
英二:「お、今日1日かい?」
 意外そうな表情を浮かべる英二。もっと長くなるかと思っていたのだろう。
不死叢:「あの大会の主催者側から、罰ゲームのルートがそう設定されてるんですよぉ。何でも、行き過ぎるとエルザードに入るとか入らないとかだそうで」
玉三郎:「……王様も驚くだろうねえ。変な4人組がカヌーでお城のお堀に入ってきたら」
英二:「てか、それ普通に捕まるだろ、兄さん」
 まあ何だかよく分からないがややこしい理由があるらしく、目的地は聖都エルザードの南方手前に設定されていたのである。
 そしてさあ出発だ――という時に、玉三郎がある疑問を口にした。
玉三郎:「そういえば……カヌー1隻だけなんですか?」
 言われてみれば、講習中から用意されていたのは2人乗りのカヌーが1隻だけである。だが一行は4人。どう考えたって、全員乗れるはずもない。
不死叢:「僕らは空です」
英二:「空ぁ?」
 さらりと言ってのけた不死叢に対し、英二が素頓狂な声を上げた。何でも背中の黒い翼で飛びながら撮影する熟死乃の上に、不死叢が乗るのだという。
玉三郎:「……熟死乃くん墜落するんじゃないかい?」
熟死乃:「不死やんがなぁ……どうかな」
英二:「熟死ー、落ちそうだったらそのヒゲ落としていいから」
 散々な言われようである。
 ともあれカヌーの疑問も解消し、ようやく川へ漕ぎ出すバンジョー兄弟。前に玉三郎、後ろに英二という席順だ。熟死乃と不死叢は、そんなバンジョー兄弟を空から見守るという形である。
玉三郎:「お、お、おっ。流れてる、流れてる!」
英二:「おいおい、これ見た目よりもさらに速くねぇか?」
 おっかなびっくりといった状態のバンジョー兄弟。けれども、カヌーは動き出してしまった。もう後戻りは出来ない。
不死叢:「お2人! 漕いでください、漕いでください!」
 頭上から不死叢がバンジョー兄弟に向かって叫ぶ。というのも、川には流木など障害物もあるからだ。単に流れに身を任せていては、それらにぶつかってしまう恐れがある。ぶつかれば……どうなるかは一目瞭然。
 そんな事態に陥りたくはないので、頑張って漕ぎ始めるバンジョー兄弟。最初の内は漕ぎ方もややぎこちなかったが、徐々に慣れてくると講習の成果も出てきて、まあ何とか見られる程度の漕ぎ方になっていった。

●カヌーでGO!(応用編)【3】
 流れの速い川を下るというシチュエーション、いかにも何かが起こりそうである。しかし、現実はそんなに甘くない。
 ……何も起こらないのだ。ただ、ひたすらにカヌーを漕いでゆくだけ。ある意味これは苦行である。
不死叢:「どうですか! 楽しんでますか!」
英二:「楽しかねーよ!」
 ものの1時間程度でこの始末だ。これが2時間になると、退屈を紛らわせるためか、英二がモノマネしながら漕いでいた。
英二:「雄大な自然の中、男たちが川を下ってゆく……ハンター・チャンス!」
 何を狩るんだ、何を。
不死叢:「相変わらず冴えてますなぁ。英二魔皇様、あの人は出来ませんかな。ほら、映画評論家の」
英二:「あの人かい? だったら映画の予告編風にするかい?」
不死叢:「ほう、楽しみですなぁ。あ、名前はいいですから」
 ややあって、不死叢のリクエストを始める英二。
英二:「ついにあのっ、大スペクタクル巨編が日本上陸! 大自然の中でたくましい男たちがっ、果敢にも激流に挑むんですっ! もうっ、すっごい映画なんですっ! 私もたまりませんっ!!」
不死叢:「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
熟死乃:「不死やん、笑うと画面揺れるって!」
 そして3時間ともなってくると――。
不死叢:「本当に何も起こりませんなぁ……。どうですか、楽しんでますかぁ?」
 不死叢が真下のバンジョー兄弟に叫んだ。その言葉からは、退屈している様子がありありと浮かんでいた。
 実はカヌーを漕ぐでもなくビデオカメラを回すでもなく、特に何もすることがない不死叢が一番退屈だったりする訳で。
英二:「えー、兄さんが今、大変なことになってます」
不死叢:「おや、どうしましたかなぁ?」
玉三郎:「あのー、さっきから虫が……僕の顔にまとわりついてきてですねー。手が離せないので、追い払うことも出来ませんー」
 玉三郎の顔のそばには、何匹もの虫たちがまとわりつくように飛び回っていた。追い払おうにも玉三郎が言ったように、カヌーを漕ぐために手が離せないから追い払うことが出来ない。つまり、虫たちのなすがままになるしかなかったのである。
英二:「それから僕も大変なことになってます」
不死叢:「そちらはどうしましたかなぁ?」
英二:「首痛めました」
 初心者ゆえ首の筋でも違えたか、英二が首の痛みを訴え始めたのである。さて、どうするかと思いきや。
不死叢:「じゃ、じゃあ……僕が交代しましょうかぁ」
 何と、不死叢が自分が漕ぐと言い出したのである。カヌーを川岸につけ、交代する英二と不死叢。そして再びカヌーは川へ漕ぎ出す。
不死叢:「いやあ、僕川下りって夢だったんだよねぇ」
 早朝と同じような台詞を、嬉々としてまたここで言う不死叢。しかし、そんなの誰も聞いちゃいない。
 では夢だったのだから漕ぐのは上手いかというと、決してそんなことはない。夢と腕前は別物である。
玉三郎:「不死叢さんっ! ちゃんと漕いでますかっ? どんどんこれ、左に流されてますよっ!?」
不死叢:「漕いでるって! けど、動かねぇんだって!!」
 この会話からも分かるように、不死叢の舵取りが下手で、カヌーが左へ左へと流されていたのだった。このまま行けば、川岸へ乗り上げてしまうことだろう。
不死叢:「玉三郎魔皇様! とりあえずそこの木の枝をつかんで、方向変えましょう!」
玉三郎:「えっ、あっ、わあっ!?」
 川岸がかなり近くなり、玉三郎は不死叢に言われるまま目の前に伸びていた木の枝に手を伸ばし、しっかとつかんだ。が――。
 パキッ。
玉三郎:「ああっ!?」
 情けない声を上げる玉三郎。哀れ、木の枝は脆く折れてしまったのである……。
 一方、その頃の英二はというと。
英二:「熟死ー、いつもこんな視線なの?」
 明後日の方を眺め、楽し気な様子の英二。空の旅を満喫しているようであった。

●今そこにある危機〜第4の選択【4】
 とまあ、ハプニングがありつつも、一行はどうにか夜遅くには目的地まで辿り着いた。
不死叢:「いやはや、着きましたなぁ」
 熟死乃のビデオカメラの前に立つバンジョー兄弟に話しかける不死叢。しかし、笑いを堪え切れずに吹き出してしまう。
不死叢:「あんた……誰?」
 玉三郎の顔を指差し、不死叢はげらっげらと笑い続ける。それもそのはず、虫にでもやられたのか、玉三郎の顔のあちこちが赤く腫れていたのである。はっきり言って、人相が変わってて怖い。
玉三郎:「皆様ご存知、バンジョー玉三郎ですが?」
 不機嫌そうに答える玉三郎。おかげでますます怖く見えてしまう。
玉三郎:「……もういいよ。もうさっさと楽器探して帰ろう」
不死叢:「そうですなぁ」
 危うく忘れてしまう所だったが、メインは『黄金の楽器』を探すことである。川下りではない。
不死叢:「ささ! 英二魔皇様、これを読んでください!」
 不死叢がすっと羊皮紙を英二に手渡す。それを英二がいつものように読み上げた。
英二:「これは第4の選択だね?
 1! 振り出しに戻る・聖都エルザード!
 2! もっと水に触れよう・アクアーネ村!
 3! こうなりゃ海が見たいぞ・フェデラ村!
 4! 賢者に教えを請う・遠見の塔!
 5! ここらで肝試し・ムンゲの地下墓地!
 6! ヴァンパイア退治だ・強王の迷宮!
 いやあ……この中では墓地とヴァンパイアがきついかなぁ」
不死叢:「では玉三郎魔皇様、サイコロを」
玉三郎:「えっ!?」
 不死叢からサイコロを差し出され、絶句する玉三郎。結局そのまま玉三郎がサイコロを振ることになった。
英二:「何が出るかな、何が出るかな!」
 踊りながら言う英二。玉三郎が勢いよくサイコロを振った。サイコロを追いかける熟死乃。
 そして出た目は……6。
英二:「6!?」
 羊皮紙に目を落とす英二。6の目は『強王の迷宮』である。
英二:「玉ぴー、やってくれたね……」
 英二がそう言って玉三郎の方を見ると、すでに玉三郎は両手で顔を押さえて、その場にうずくまっていた。
 こともあろうに、次の行き先はヴァンパイアが封じられていた迷宮。しかも未だ各種ギルドが協力して探索中という、どんな危険が待ち受けているか分かったもんじゃない場所だ。
 一行はこうして、かつてない危機に立たされたのである――。

【ソーン全国サイコロの旅 〜第5夜〜 おしまい】