<PCクエストノベル(2人)>


求めし者達

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1528 / 刀伯・塵 / 剣匠 】
【 1720 / 葵 / 暗躍者(水使い) 】

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葵:「此処なのかい?塵さん」
塵:「ああ、そうだ。此処が、ルクエンドの地下水脈だ。葵、期待してるぜ?」

 二人の目の前、自然が生み出した大きな穴がぽっかりと、闇を湛えて口を広げていた。その洞窟には、水脈が流れ幾つかの出口が存在する。
 ある出口は地底湖へ……ある出口は海へ……そして、異界へと通じる出口もある……まあ、それは噂に過ぎないのだが、だからこそこうして二人はその真実を確かめる為に此処へとやって来たのだ。
 大柄な体格に、ソーンではまず見かけない和装、腰には大振りの刀が一本、肩から掛けた朱房の数珠とその口に咥えた煙管がトレードマーク。顔にも体にも無数の傷跡……激しい戦いを潜り抜け『刀伯』の二つ名で知られた男、名を塵と言う。
 その隣、塵と同程度の背丈、細身の体に黒のジャケットにスラックス、肩口と眉の上で揃えられた緑色の髪がとても印象的な男、名を葵と言う。
 二人はお互いの目的の為、此処に立つ。どちらも可能性としては低いのかも知れないが、僅かな可能性があるのならやるしか無いのだ。

葵:「確か、塵さんは一度此処に来てるんだよね?」
塵:「ああ、多少なら道が分るけどなぁ……どっちかっつうと、何もわかんねぇとして調べる気だけどな」

 塵の言葉に、にこりと微笑みながら頷く葵。その笑みに影は無い。
 葵には記憶が無い。何処から何処まで無いのかと言われても、それさえも分らない程に……朧気に覚えている事もあるにはあるが、確実に覚えていたのは水を扱うと言う能力のみ。それさえも、咄嗟の事で発動した言わば本能のなせる業であった。失われた記憶を取り戻す、それが葵をこの洞窟へと導いた所以だ。
 一方塵は、以前この地下水脈へとやって来ていた。その目的はただ一つ、我が故郷『中つ国』へと帰る方法を探す事だ。噂でしか知られてなくとも、確かに噂があるのだ、異界――つまりは故郷への道だってきっとある。そう想い、以前やって来たのだが、苦労の果ては結局徒労に終わった。だからと言って、諦める訳には行かないのが人情と言うもの、塵は気持ちも新たに洞窟を見詰めていた。

塵:「じゃあ、行くとすっかねぇ」
葵:「そうだね。見付かると良いね」

 自嘲的に笑う塵、微笑む葵。二人は、暗く広がる入口へゆっくりと歩を進めた……


 洞窟と言うのは、得てして暗くてジメジメして気持ち悪いと言うのが定番だ。だが、此処は彼方此方から吹く風の影響か、然程気持ち悪い事も無い。暗いのはしょうがないのだが、その辺りは塵の力である蛍の明かりをいくつも灯す事で、事無きを得ている。
 塵が持つ以前来た時の地図を頼りに、二人は仄かに照らされた道を進む。

葵:「綺麗な所だね〜人の手が入って無いのにこんなに綺麗なんて、自然って凄いよね」

 辺りを見回せば、自然の風と水が長い年月をかけて作り出したオブジェの数々。段々になった岩棚、天井から垂れ下がる巨大なツララを髣髴とさせる鍾乳石群etcetc……初めて来た時、周りの風景を見る余裕の無かった塵も辺りを見回し目を細める。

塵:「本当にすげぇな。俺の故郷にもちょっとした所が有ったもんだが、此処はそれ以上だな」

 蛍の仄かな光が映し出す自然の偉大さを感じながら、二人は静かにその光景を見ながら先へと進んだ。
 不意に目の前に広い空間が現れる。塵が以前敵の襲撃を受けた場所である。そして、そこにはあの金の盃を持った像がある筈だった。

塵:「ねぇ……ねぇぞ!!何でだ!?」

 地図に書かれた、像の有った場所へと駆け出す塵の後を葵が追う。地面を丹念に調べ始めた塵に習い葵も地面を調べる。

葵:「ねぇ塵さん?」
塵:「何だ?」
葵:「何やってるの?」

 ガン!
 思わず塵はずっこける。結構良い感じでぶつけた頭にちょっぴりコブが出来ていたり……そして、思い出す。そう、塵は像が有った事を葵に説明していなかった。

塵:「……あのな……此処に、黄金の盃を持った像が有ったんだ。でもねぇだろ?」
葵:「うん」
塵:「だからな、その像の痕跡が無いかを探してるって訳だ。分るな?」
葵:「うん。分った。有った事を証明出来れば良いんだよね?」

 葵の言葉に頷きで返す塵を見て、葵は地面を調べ始めた。そして塵も調べ始めた。
 時は流れて数十分後……調べた、この上ないくらいに。でも、痕跡は無かった……

塵:「何でねぇんだよ!!」
葵:「無かったよね。何も」

 二人の言葉通り、地面の窪みも移動させた跡も台座の跡さえ存在していなかった。

塵:「くっそー!どうなってやがんだよ!」

 塵は吼えながらも、懸命に思考を働かせようと考え込み始めた。葵は静かに辺りを調べたりして居る。
 どれ位そうして居ただろう、塵の肩を遠慮がちに葵が叩いた。

葵:「塵さん、塵さん」
塵:「何だよ葵?」
葵:「囲まれちゃったみたいなんだけど?」

 辺りを見回せば、確かに囲まれている。しかも、今回は黒くて足が一杯ある見るからに虫といった感じの異形達。

塵:「葵……そう言う事はもっと早く教えてくれ!」
葵:「いや、邪魔しちゃ悪いかなと思ったんだけど……ちょっと遅かったみたいだね?」
塵:「ちょっと所じゃねぇよ!!!」

 気配を察知する術は、実戦経験上優れている塵である。それが何故、全く反応出来なかったのか?答えは簡単、相手が虫だからだ。虫と言う物は、元来変温生物である為、環境に適した体温へと変化する。それはつまり、この洞窟に一体化しているに他ならない。まして、相手からは敵意等と言った物を感じる事は出来ない。何故なら、虫だから……しかもこの虫見るからにゴ○○リにそっくり……

塵:「気持ちわりぃ……斬りたくねぇ……」
葵:「僕も同感」

 わじゃわじゃと足を触覚を蠢かせるゴ○○リに似た奴等を見詰めながら、塵と葵はげんなりする。今の所襲ってくる気配は無いが、じわりじわりと包囲網が狭まって来た様な気もしなくも無い。

葵:「塵さん、どうする?」
塵:「こっちからは手ぇ出すなよ……あっちから来た時だけ、やるんだ……」
葵:「了解」

 塵は腰の刀に手をかけ、何時でも抜刀体制。葵はやや半身に構え、何時でも力を使える体制だ。心なしではなく包囲網が狭まって、後数メートルで戦闘距離か!と思わせる辺りで包囲網が止まる。そして、黒々しい中から、杖を突きながらちょっと光沢の薄れたゴ○○リが現れた。

ゴ○○リ:「おんしらは、何しちょるんじゃ?」

 言葉だ。それも人間の。

塵&葵:「「しゃべったぁ!!!」」
ゴ○○リ:「何を言うちょるんじゃ?喋るに決まっちゅうが?」
塵:「いやいやいやいや!!普通しゃべんねぇし!」
葵:「そうだね。普通は喋らないよね」

 塵は驚愕に、葵は何故か嬉しそうに言う。

ゴ○○リ:「まあ、そがいな事は置いといてじゃな」
塵:「置くなよ!!」
葵:「何処に置くの?」

 シーン……
 
塵:「葵……意味分ってるよな?」
葵:「ん〜何となく」
塵:「そう言う事だからな……」
葵:「なるほど!分ったよ、塵さん」

 納得し満面の笑顔の葵に些か疲れ気味の塵。その二人を見詰める、ゴ○○リもちょっと引いてたり……
ゴ○○リ:「ええが?」
塵:「あ〜まあ、たのまぁ……」
ゴ○○リ:「わしの名前は、ギオンちゅうきに」
塵:「聞いてねぇよ!!」
葵:「塵さん、ちゃんと相手の名前を知っておく事は良い事だよ?」
ギオン:「おお、お若いの。しっかりちゅうなぁ」
葵:「え?そうですか?」
塵:「照れるなぁぁぁ!!結局の所、お前らは何が言いたいんだよ!!」

 なかなか本題に入らない話しに塵が業を煮やして問い掛けていた。

ギオン:「あ〜そがいじゃ……何じゃったきなぁ?」

 スパーン!!
 塵の特殊必殺技、ハエ叩きがギオンの頭を直撃する。

葵:「塵さん……こっちから手は出さないんじゃぁ……」
塵:「ノリだから問題なし!!」

 が、彼等にしてみれば問題あったのか、塵の方を睨みつけて(?)居るように見える。

ギオン:「おお!!思い出したが!!で?おんしらは何しちゅんじゃ?」
塵:「像を探してるんだよ!像を!此処にあっただろ!」
ギオン:「なるほどのぉ、おんしらはあれを探しちゅうがか。わしらの縄張りを荒らそうとかそう言うんじゃ無いのじゃな?」
葵:「ええ、それは違います。此方の塵さんは、自分の故郷へ帰る為に、そして僕は自分の記憶を取り戻す手掛かりが無いかを調べに来ました。決して、貴方達の平穏を脅かそうとしている訳では有りません」

 ギオンの問い掛けに、葵は柔らかく応える。周りのゴ○○リ達も何処か安心した様な感じに思えた。

ギオン:「分ったぜよ。あの像は、ほれそこに道があるじゃろ?あの道を真っ直ぐ行った広場に有るきに」

 ギオンが指し示す道、入って来た道の右斜め前にある道の様だ。塵はすぐさま地図に書き加え始める。
葵:「有難う御座います。つかぬ事をお聞きしますが、貴方のその喋り方は何方かに習われたのですか?」
ギオン:「そがいぜよ。何時やったか来おった男がこがいな喋り方しちょったきに、気に入ってもうてな、教えてもらったが」
葵:「なるほど」

 葵は何かを納得したらしい。すかさず塵がギオンに聞いた。

塵:「なぁ、何で像はあっちにあるんだ?」
ギオン:「あ〜そがいな事簡単じゃ、あれは門の番人じゃきにな。今度はあそこが門になるのじゃろうて」
塵:「門!?まさか、それは異界とかに繋がってる門じゃねぇだろうな?」
ギオン:「さぁのぉ〜そこまでは分らんぜよ。詳しくは聞いたが早いぜよ」

 意味不明な事を言うと、ギオンは杖を高々と掲げる。それを合図とし、回りのゴ○○リがわさわさと移動を始めた。一応塵と葵の周りは避けている様ではあるのだが、はっきり言って気持ち悪い。

塵:「……」
葵:「……」
ギオン:「それじゃのぉ〜」

 わさわさと去って行くギオンの背を見詰めつつ、杖いらねぇじゃんとか二人は思った……

 二人は教えられた道を行く。幻想的な風景を再び見ながら行くと、少し開けた場所に出た。その中央には確かに、像が存在した。

塵:「あった!間違いねぇ!あれだ!」
葵:「良かったですね。塵さん」

 喜び駆け出す塵と葵。以前は余り見てなかったが、それは女性の天使の像のようである。天に掲げる様に盃を持った神秘的な雰囲気があった。

塵:「こいつが門の番人って奴か。なんか仕掛けでもあるのかねぇ?」
葵:「普通の像ですよね?」

 塵と葵は二人で、台座の周りを調べたり、像自体を調べたり色々やっていた。と、その時……

???:『ちょっと!!変なところ触らないでよ!エッチ!!』
塵:「……?葵?何か言ったか?」
葵:「いえ、何も……何だか女性の声の様な……」

 視線を上げる二人の視線と、その視線が絡み合う。

???:「早くどけてよ!!えっちぃぃ!!!」

 像の口が動いている。いや、体全体が動いている。感触も像の冷たい感じではなく、ちゃんとした体温を感じる。思わず二人はその場から飛び退く。

塵:「なっなんだぁ!?」
葵:「驚きましたね」

 かなり驚愕の塵と本当に驚いているのか良く分らない葵、二人の反応を見ながら像が台座に腰を下ろした。

???:「全く失礼しちゃうわ!レディの体を何だと思ってるの!?」
塵:「いや……レディって……」
葵:「失礼しました。気付きませんで……」

 呆然とする塵に対して、葵は天使の像に謝罪する。謝罪を聞いて、気を取り直したのか打って変って笑顔だ。

???:「分れば良いのよ♪私の名前は、リィア。歪みの番人って所かしらね。この洞窟、何故か知らないけど良く歪みが起こるのよ。だからそれを抑えるのが私の役目って訳。このままの姿の方が良いんだろうけど、目立つでしょ?だから、像に変化してるって訳なの。分った?」
塵:「像だろうとなんだろうと、目立つわ!!自然の洞窟だろうが此処は!!」
葵:「うん、塵さんの言う通りだと思うよ?」

 二人の反論に思わずたじろぐリィア。

リィア:「しょうがないでしょ!!決めたの私じゃないもん!!文句あるなら、神様に言ってよ!!」
塵:「そんな事はどうでも良いんだ!歪みってなぁ、異界とかに繋がってるのか!?」
リィア:「そっそんな事!?……まあ、良いわ。ええ、そうよ。確かに此処とは違う世界に繋がってるわ。けど、それが何処かなんて、私には分らない。ただ、迷い込まない様に、私が鍵を掛けている様な物よ」
葵:「不意に開く感じなんですか?」
リィア:「そうよ?だから、しょっちゅう場所変えてるの。此処広いから大変なのよ〜」

 その言葉に、塵は愕然とする。

塵:「じゃあ何か……?俺は、もう戻れねぇのか?」
葵:「塵さん……」

 塵の故郷は中つ国……此処では無い。葵とて、故郷は違う場所……希望を持って此処まで来て現実は、二人に無慈悲だった。
 肩を落とした力無い二人を見て、リィアは口を開く。

リィア:「望む世界へ行く方法が無い訳じゃないわ。ただし、直ぐじゃないけどね?」

 塵が顔を上げる。

塵:「ほ、本当か!?」
リィア:「嘘は言わないわよ。天使だもん」
葵:「良かったね、塵さん」
塵:「ああ!ああ!!」

 喜ぶ塵を見て、我が事の様に葵も喜ぶ。そんな二人を見て、リィアも少しだけ微笑んだ。

リィア:「じゃあ、後5年待ってね♪」

 二人の動きが硬直する。

塵:「……5年?」
葵:「……塵さん?」

 塵は立ったまま、意識を失っていた……


 木漏れ日が気持ちいい午後、塵と葵は地下水脈から出た丘の上に居た。

葵:「ん〜♪気持ちいい〜やっぱり光合成してる時が一番気持ちいいなぁ」

 良く分らない事を言いながら気持ちよさげな葵を見つつ、塵は手を開き握っていた物を見る。一見普通の巻貝に、綺麗な紐が通してあるだけの代物。だが、これが塵を中つ国へ帰らせる為に必要な物であった。

リィア:『これはコールシェルって言ってね?私達天使が相手を呼び出したりする時に使う物なの。私達にしか作れないんだけど、一個貴方に預けておくわ。神様の話しだと、5年後に任意の場所に転移出来る門が開くらしいの。詳しい事は分らないけど色々聞いておくから。5年後私からそれを鳴らすわ。それが鳴ったら来て頂戴ね』

 リィアの笑顔を思い浮かべながら、塵は再びそれを握り締める。時を待つしか無い……それが歯痒く思えた。

塵:「なぁ、葵……」
葵:「何ですか?塵さん」
塵:「何か記憶に繋がる事は有ったのか?」
葵:「少しだけありました……でも、少しだけです」
塵:「そっか……」

 何処か寂しそうな笑顔の葵を見詰め、呟くと塵は寝転がる。丘の上を柔らかな風が吹きぬける中、塵は目を閉じた。
 この世界には、まだまだ知らない事が沢山ある。此処に異界への門がある様に、他にもあるかも知れない、そう思う。
 葵の記憶と塵の故郷……この探し物はまだまだ続きそうだ。

塵:「やってやろうじゃねぇか。諦めねぇぞ」
葵:「え?何か言いましたか?」
塵:「何でもねぇ」

 丘の上を、柔らかな風が通り過ぎて行く……サワサワと……