＜PCシチュエーションノベル（ツイン）＞
旅は道連れ世は情け（ない）
旅は道連れ世は情け。
誰が言い出したのかは分からないが、中々的を射た言葉ではある。
が、この少年達の場合少しばかり修正が必要となるだろう。
虎王丸（こおうまる）１６歳、ラシェル・ノーティ（らしぇる・のーてぃ）１５歳。
彼らは今、全力疾走の真っ只中にあった。
さて、話は前後する。
知り合って二人旅、というのは前述した通り別に珍しくもなんともない。よくある話だ。虎王丸とラシェルの二人も出会って意気投合して二人旅。
街道を抜けて情報屋からからかった情報を元に、遺跡の探索へと出ていた。
「あー暇だよなあ」
しみじみと呟く虎王丸に、ラシェルは苦笑を返す。要するに遺跡の探索などに出てきたのが暇つぶしの一貫なのである。虎王丸にとっては、の、話だが。
「俺は楽しいけどね。失われた古代の歴史とか技術とか調べるのって」
「へーへー」
投げやりに答えた虎王丸は、松明の灯りを頼りに目の前の壁をごそごそと探る。
それは虎王丸とてサクサク進めているなら退屈もしないのだが場所は古代遺跡でまともに地図もない。灯り等は勿論ついていないから、松明やランタンの光りを頼りに、一歩一歩手探りで進むしかないのである。
そりゃ退屈もしようというものだ。
だがまあ、そう言う投げやりさとか用心深くない行為。要するに無謀とか無作為とかそう言う行動は、落し穴に実に引っかかりやすい。
「へ？」
「え？」
がこん。
妙な音と共に虎王丸の体が傾ぐ。岩壁がごごごと音を立てながら引っ込んでいくのにあわせて、手もずるずると引っ張られ、そこに体重がかかっていたから本人も傾いていくのだ。
慌てて飛び退った虎王丸は、その引っ込んだ箇所を松明で照らす。調度虎王丸が顔を突っ込める程度だろうか。岩壁にぽっこりと大きな穴が開いていた。
「なんだこりゃ？」
「なんだろうね？」
二人して顔を見合わせたその瞬間。
それは現れた。衝撃的に、素早く――わらわらと。
「っだー！！！！ 何しやがるてめえら！」
わらわら。
わらわらわらわら。
わらわらわらわらわらわら。
わらわらわらわらわらわらわらわら。
数多と言うか無数と言うか兎に角その数は多かった。細い穴からひょこんと一匹が飛び降りたと思うともう一匹、また一匹。
コミカルな動きでちょこちょことそれは増えていく。
最初は流石に目を丸くしたものの、直ぐにラシェルは迎撃態勢に入った。
しかしなんと言っても数が多すぎる。ちんまりちまちまちょろちょろなそれ――小人さん達は瞬く間にラシェルの身体に取り縋り、その武装を剥ぎ取った。
何しろ自分の体である。攻撃は出来ないし、一匹一匹剥がしても、その間にもっと多くの小人が取り付いてくるのだから始末に終えない。
「よろいだよろいだ」
「つえだつえだ！」
「へんなふくだふくだ！！」
「わああいわああああい！」
「わあああいじゃねー！！！！」
怒鳴ったところで小人はひたりと動きを停止する。その頃にはすっかりと武装は剥ぎ取られ、虎王丸に至っては既に褌一丁おしりぷりりん状態である。
ひたっと黙った小人さん達は大勢いる互いの顔を窺い、
「くす、くすくすくす」
と小さく笑い出す。
「何がおかしいのかな？」
「わあああい怒った怒ったー！！」
きゃはははと笑い声を立てながら、小人達はそれこそ鼠の大群よろしくだだーっと出口へ向けて逃走を開始する。
「待てー！！！！」
と怒鳴ったところで待ってくれる訳がない。
すばしこいそれを追っての、全力疾走が始まったのだ。
で、結果。
「なんなんだこの遺跡はああぁああぁ！！！」
「遺跡のせいにするのは良くないよ。見てご覧よ、これ比較的仕掛けが新しいし。第一入ってきたときにはなかったじゃない？」
「だからなんだよ！？」
「だからあのこたちが仕掛けたんじゃないかな、逃げながら。あれだけ数がいるなら簡単なのかもしれないね」
「感心するなあ！」
がたがた震えながら虎王丸はラシェルに怒鳴った。
いまやずぶ濡れである。
なんと言うか追いかけ出したはいいがその結果は惨憺たるものだったのだ。
上から水は降ってくるわ、その水にドジョウが入っているわ、階段には油が引いてあるわそこから落ちたと思ったらそこにまきびしが巻いてあるわ、天井から金ダライが降ってくるわまたそれがお約束で脳天に直撃するわ。
しかも見事にそれに引っかかったのは虎王丸のみ。ラシェルは涼しい顔である。
「兎に角行くぞ！ もうぜってー許せねぇ！」
「はいはい」
肩を竦めてラシェルは虎王丸の後を追った。
「さああああて、いき止まりだぞぉおおおおおお」
殆ど恐怖の大魔王ののりで、虎王丸は気炎を吹き上げる。
場所は入口付近の行き詰まり。どうにかそこまで小人を追い込んだ頃には虎王丸はどうしようもなく哀れな姿になっていた。
髪はくしゃくしゃ身体は傷だらけでずぶ濡れ。頭に巨大なたんこぶが出来ているし、最後の一枚はボロボロの上に何故かドジョウが突き出している。自前のドジョウではなく本当に沼とかにいるアレだ。自前がドジョウなのか気の毒にとかは突っ込んではいけないところである。
しかしその恐怖の大魔王を前にしても小人さんたちは恐れる様子もない。
まあこんな姿の恐怖の大魔王は、別の意味では恐怖だが、真剣に怯えろと言われても無理かもしれないが。
やはり大勢いる仲間達の顔を窺ってくすくすわらった小人さんたちは、それから一斉にわらわらっと前にでて頭上に掲げていた装備品を床へと下ろした。
「返すの返すの」
「え？」
ラシェルがきょとんと目を瞬かせる。
「たのしかったのたの」
「おもしろかったのなの」
「だからもういいのいいの」
「ええと、つまり遊んでいただけ、なのかな？」
小人に目線を合わせるように膝をおり、ラシェルが問い掛ける。大勢の小人さんたちは全員が一斉に頷いた。
「なるほど」
じゃあ返してもらうねとラシェルが手を伸ばしかけたその刹那、異変は起こった。
「……へっへっへっへっへっへ」
思い起こすのはほんの少し前。ドジョウに水に金ダライ、油に火攻めにまきびしにロープに三角木馬。中に何か違う経験も混じっているようだがそれは兎も角。
「ふっざけんなああああああ！！！！」
ごうっと、炎が、眼前で爆ぜた。
「えーとね」
「……」
「まあ細かい所はいいとしてね。俺の杖だけは弁償してもらうからそのつもりで」
「…………」
「それから、離れて歩いてくれないかな？」
「……………………」
装備は見事に灰となった。小人さんは優しくも装備を提供してくれるといったが小人さんの服などきれるわけはない。
結果。
「ふざけんなああああああ！！！！」
褌一丁でとぼとぼ歩く虎王丸は、その後そのぷりりんなお尻に惹かれたそう言う趣味のおじさん達によく声をかけられる事となってしまったのだった。
旅は道連れ世は情け。
「旅は道連れ世は情け、相方は情けない、だね」
勿論ラシェルが助けてくれなかった事など言うまでもない。
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