<東京怪談ノベル(シングル)>


刻の名残の夢雫


現に惑う者が
夢に刻の名残を見た

刻は古に在りて
半の血を同じくする者と佇む

誰よりも憎悪に浸る
彼の者は主の仇となり

誰よりも哀愁に苛む
彼の者はサリエルの異父兄なり

未だ幼き頃より
唯一の護り人として

白き光の術を教え
人の道の仁へ導かんとする

柔らかな光が二人を包む度に
黒き血を宿すサリエルの魂は癒された

………っ

声にならぬ言霊が
兄の残像を捕らえようと

彼の名を呼び目覚めるは
闇に紫の帳の訪れた夜半の刻にて

先程まで身を包みし優愛に
夢の刻の名残の残酷さを知る

月は叢雲に姿を失せ
孤独に震える身を闇に隠す

己の足で去った
暖かな巣のような兄の傍ら

戻れぬ場所を夢に見て
寂しき自身の現に一滴の涙が伝う

傍に在るはずも無く
追い求めるのみの主は夢にも姿を現れず

抱いた絹布に
刻の名残の夢雫