<PCクエストノベル(1人)>


不死者たちのお茶会

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【 1780 / エルダーシャ / 旅人】
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 遠見の塔には、賢者の兄弟が住んでいるという。
 兄のカラヤンは聖獣と世界の知識に深く、弟のルシアンは魔法の知識に深いのだそうだ。
 だが、この兄弟に会った人間は非常に少数であり、それが本当のことなのかどうかはさだかではない。
 なにしろ、彼らに会いに行こうと遠見の塔を訪れたとしても、必ずしも会えるわけではなく、へたをすれば延々歩き続けるはめになるのだ。
 その塔の前に、ひとりたたずむ女性の姿があった。
 長い緑色の髪をひとつに結い上げた、細身のおっとりとした美女だ。
 細い銀色の瞳をさらに細めながら、果てなどないように見える塔を見上げている。
 遠見の塔の噂を聞きつけてやってきたエルダーシャだった。

エルダーシャ:そんな物騒なところには見えませんね〜。

 来る前にさんざん宿の人間におどされたのだが、やはり、実際に見てみるとそうひどいところには見えない。

エルダーシャ:まあ、実際にのぼってみなかったら、わからないかもですけど〜……とりあえずは、のぼってみましょう。

 まるで、ちょっと近くまで出かけてくるのと同じようなのんびりとした口調で、エルダーシャは塔の中へと入っていく。
 塔の中はエルダーシャが思っていたよりもずっとこぎれいで、これならばのぼり続けるのもさほど苦にはならないように思われた。
 一階はホールのようになっていて、人の姿はない。
 ただ、真ん中に、上へと続く螺旋階段があった。
 どこまで続くのかもわからない螺旋階段をエルダーシャはゆっくりとした足どりでのぼりはじめる。
 兄弟の気に入らない人間は、いつまでもその階段を上がりつづけなければならない――そう言われているというのに、エルダーシャはあっさりと二層目へとたどりついた。

エルダーシャ:あら? 私は大丈夫、だったということでしょうか〜……。

 なんだかあまりにもあっさりと二層目へとたどりつけたので、エルダーシャは拍子抜けしてしまった。
 けれどももともとの目的を思い出し、エルダーシャは目の前にある戸をノックする。

ルシアン:あ、来た来た! 待ってたんだよ!
エルダーシャ:え? あの〜、待ってたって……。
ルシアン:なんだか、面白そうな人が来るのがわかったからさ。早くこないかなって思って待ってたんだ。さあ、早く入って。ほらほら。
エルダーシャ:は、はい〜。

 ルシアンに強引に部屋の中へ招きいれられて、エルダーシャは目をぱちくりさせた。
 ずいぶんと気難しいふたりだと聞いていたのだが、それほどでもないらしい。

カラヤン:はじめまして。弟がさわがしくて、驚かせてしまったみたいで。すみません。
エルダーシャ:ああ、そんな〜。驚きはしましたけど、別に大したことはありませんから〜。あの、それで、おふたりがこの塔に住んでいる賢者さんたちですか?
ルシアン:うん、そうだよ。ねえ、キミはなにをしに来たの? なにか、聞きたいことでもあるの?
エルダーシャ:え? あ、あの〜……。
カラヤン:ルシアン、困ってるじゃないか。そんなに一気に聞くものじゃないよ。
ルシアン:ええっ、だって。気になるじゃないか。
カラヤン:まったく……いつもそうなんだからな。まあ、まずはどうぞ座ってください。

 すすめられ、エルダーシャは椅子に座る。カラヤンがお茶を出してくれて、なんとなくプチお茶会のような雰囲気になった。

エルダーシャ:あの〜……実はちょっと、聞いてみたいことがあるんです〜。
ルシアン:聞いてみたいことって? なになに?
エルダーシャ:私、昔いろいろあって呪いをかけられてしまって〜……不老不死なんですよ〜。でも、同じような方にはまだお会いしたことがなくって……いろいろ聞いてみたいんです〜。
カラヤン:不老不死、ですか……。
エルダーシャ:あ、あの、私、なにかいけないことを聞いてしまいましたでしょうか?
カラヤン:いえ。そうではなくて……ただ、つらいことも多いですから。
ルシアン:そうだよね。いいことばっかりじゃないし。
エルダーシャ:そうですよねえ……。でも私も、最近はなんだかあきらめがついてしまって。
ルシアン:わかるわかる。あるよね、そういうこと。
エルダーシャ:ええ……。そうなんですよねえ。なんだか、慣れてしまいますよね〜。私も、なんだかすっかり慣れてしまって〜。
カラヤン:退屈をまぎらわす方法とかも思いつきますしね。
エルダーシャ:それはちょっと興味がありますねえ。どんな方法なんですか〜?
ルシアン:えっとね……。

 時間を気にする必要のない3人は、そうしてしばらくさまざまなことを語りあった。
 呪いにかけられて以来、ひとりで旅を続けてきたエルダーシャにとって、それは楽しい時間だった。
 だが楽しい時間は過ぎるのもはやく、エルダーシャが気がついた頃には思ったよりもずっと長居してしまっていたのだった。

エルダーシャ:あら〜……ちょっと、長居しすぎてしまったみたいですねえ。

 さすがに、途中に食事などを挟みながら、3日も語っていたのは長すぎだった。
 3人にとって時間はありあまっているが、それでも、あまり長居しては迷惑だ。エルダーシャは立ち上がって、頭を下げる。

エルダーシャ:……あ、そうでした。最後にひとつだけ、聞いてもかまいませんでしょうか〜。
カラヤン:ええ、かまいませんよ。なんですか?
エルダーシャ:おふたりは、永遠の命というものは存在すると思われますか?
ルシアン:……永遠の命、かあ。
カラヤン:それは僕らにもわかりません……でも、もしも永遠の命なんてものがあるとしたら、つまらないものだと思いますよ。
エルダーシャ:つまらないもの……ですか?
カラヤン:終わりがない物語は、いつか飽きられてしまうものですから。
エルダーシャ:……ああ……そうかもしれませんね〜。

 エルダーシャは微笑むと、遠見の塔をあとにした。
 ふと思いついて訊ねた、「永遠の命があるのか」という問いに答えはないも同然だったが、エルダーシャはなにかを得たような気がしていた。
 エルダーシャは来たときと同じように、しっかりとした足どりで聖都へと戻ったのだった。

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【ライター通信】
 こんにちは、2度目の発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
 今回は遠見の塔へちょっとおでかけ……ということで、会話をメインに書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
 おっとりと3日も会話を楽しんでしまうような、エルダーシャさんののんびりとした感じが出ていればなあ、と思っております。
 クエストノベルは私もまだ3度目で、書いていてかなりドキドキしてしまいました。冒険、というよりはおでかけ、と言ったほうがしっくりくるような内容ですが、お楽しみいただけていれば大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。