<PCクエストノベル(4人)>


 お気楽亭温泉部隊、ハルフへ

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 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 0401/ フェイルーン・フラスカティ/魔法戦士】
【 0402/ 日和佐・幸也/医学生】
【 1679/ サリエル/魔道士 兼 男娼】
【 1755/ ヴィーア・グレア/秘書】

 その他登場人物
【 名前 / クラス】
【ハルフ村温泉管理組合事務員/ハルフの村人】
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 1.ハルフ村へ

 エルザード周辺で温泉と言えば、やはりハルフ村である。その事に関して異論を唱える者は、まず居ないだろう。
 各地からハルフ村へ至る道は整備されていて、護衛を雇わなくても観光客が比較的安全に旅をすることが出来た。
 街道伝いにハルフ村の温泉へ行こうとして途中で魔物に襲われたという話も、近年はめっきり聞かなくなったが、少し街道を離れた裏道の荒野になれば、やはり魔物等が襲ってくる事はあった。
 4人連れの旅人は、そんな荒野を進んでいた。
 
 サリエル:「魔物がいっぱいだね…」

 褐色の肌をした魔族の青年が自嘲とも皮肉とも思える微笑を浮かべている。4人連れの先導役である、魔道士のサリエルだ。いかにも魔道士といった黒い外套を纏ったサリエルだ。

 ヴィーア:「予定通りですね」
 
 サリエルとは対照的に、暖かな微笑を浮かべているのはヴィーア・グレアだった。その肌の色もサリエルとは対象的に白い。まあ、街道を離れればこんなものでしょう。と、彼は笑っている。
 
 幸也:「だから、街道を普通に行こうと言ったんだ。俺は…」
 
 ぼやいている医学生は、日和佐幸也だ。ふぅー、と、彼はため息をついた。ため息の似合う男である。

 フェイ:「大丈夫、私達には温泉がついてるよ!」

 とりあえず元気に笑っているのは、魔法戦士のフェイルーン・フラスカティである。彼女の元気は根拠があろうと無かろうと、あまり変わらない。街道を通らずに近道してハルフ村へ行こうというのは彼女の提案である。
 先導役のサリエルとフェイを前衛に、ヴィーアと幸也を後衛にして、4人連れは裏道の荒野を抜けてハルフ村へ向かっていた。

 幸也:「おい、念の為聞くけど、目的忘れて無い…よな?」

 温泉、温泉。と度々繰り返しているフェイに、幸也が尋ねた。

 フェイ:「うん!
      お気楽亭の新メニューの為に温泉水を仕入れて、その後、温泉旅館で豪遊して美人の湯にサリエルちゃんを放り込んで、温泉で遊ぶんだよね?」

 フェイの言葉に、幸也とサリエルはため息をついた。ヴィーアだけは、ただ一人微笑を崩す事は無かった。4人連れはハルフ村へと歩く。一見すると単なる冒険好きの温泉旅行客にしか見えない4人だが、そうではなかった。4人はお気楽亭を代表してハルフ村へ向かっていた。
 事の始まりは数日前の晩だった。
 その晩、お気楽亭の馬鹿騒ぎ…いや、新メニュー募集の選考会は行なわれた。深夜を通り越して朝方まで及んだ馬鹿騒ぎ…いや、選考会の結果、新メニュー募集の大賞は、サリエル考案の『ハルフ村の温泉水で美容に効果のあるジュース』に決まった。
 かくして、お気楽亭を代表して、新メニューの材料である温泉水を仕入れる為に4人はハルフ村へ向かっていた。

 ヴィーア:「フェイさん、今日の分のおやつですよ。食べ過ぎないようにして下さいね」
 
 お気楽亭スケジュール管理係のヴィーアは、おやつの準備を始めた。4人がハルフ村に着いたのは、丁度、ヴィーアの用意したおやつが無くなった日の夕暮れだった。
 
 2.ハルフ村の温泉水

 かくして、お気楽亭温泉部隊は荒野を抜けてハルフ村に到着した。近道の荒野で通りすがりの魔物と激闘を繰り返して疲れきったお気楽亭温泉部隊は、とりあえず温泉宿へ向かう。夕日は今にも沈みそうだ。温泉水を入手するにも、疲れた身体を温泉で癒すにも、温泉に行く必要があった。のんびりと街道を歩いてきた一般観光客に紛れて、四人はサリエルの案内で温泉宿に向かった。
 
 サリエル:「今日のところは温泉で休んで、明日、温泉の責任者に交渉しに行くか?」

 温泉宿に着いた所で、ふふっ、と謎の笑みを浮かべながらサリエルが言った。
 
 フェイ:「そうだね。今日はもう夜だもんね。
      本気で温泉めぐりをするのは温泉水を仕入れた後にして、今日は軽く温泉めぐりして休もうか!」
 幸也:「…軽くだぞ、軽く」
 ヴィーア:「今日のテーマは、休む事ですよ」
 フェイ:「はーい…」
 サリエル:「幸也サンとヴィーアサンは、真面目だな…」

 四人は温泉宿を探す。ハルフ村の宿屋は全て温泉宿なので、温泉宿探しには幸い困らなかった。むしろ、どの温泉宿に入るか迷う位だった。料金等の条件を考慮しながら、4人は宿を選ぶ。何軒かの宿を見て回った末、4人は一軒の宿を決めた。一階が酒場兼食堂で、二階が宿屋という無難な宿である。特に売りがある宿では無かったのだが、最近、所有する土地で新しい温泉の源泉が見つかったので、宿代を値引き中というのが四人の目に止まった。

 ヴィーア:「…という形で、よろしくお願いしますね。」

 てきぱきと、ヴィーアは宿屋の手続きを終える。特に問題が発生しない限りハルフ村滞在中は、この宿を拠点に活動する事にした。

 ヴィーア:「そうそう、『ホットウォーター亭』…この宿の名前ですね…を気に入ったら、お気楽亭にここの広告を貼る事で、宿代を少し値引きしてもらいましたよ」

 ヴィーアが値引き交渉に成功した事を他の3人に告げた。

 幸也:「広告料を取ったのか。凄いな…」
 サリエル:「僕のおかげだね…」
 フェイ:「すごいね!
      私の店も有名になったもんだ。うんうん。
      …で、幾らまけてもらったの?」
 ヴィーア:「300ゴールドです」
 フェイ:「私のおやつ代と変わらないね…」
 サリエル:「そんなもんだね…」
 幸也:「フェイ、帰りも300ゴールド、おやつを買っていいぞ…」
 フェイ:「うん…」
 
 そうして、お気楽亭に広告を出す事で宿代の割引をしてもらった一行は、夕食を取り、宿の外にある露天風呂に普通に行った後、部屋へ入った。部屋は6人用の安い大部屋で、4人で泊まるには広めだった。ゆったりと部屋のテーブルを囲んで、4人は温泉水の仕入れについて話し合う。
 
 フェイ:「ま、ハルフ村に着いたしね。お気楽亭の明日の為にがんばろう!」
 幸也:「がんばるのは良いんだが…具体的には、どうするんだ?」
 フェイ:「具体的な事は、私以外のみんなが考えるから大丈夫!」
 ヴィーア:「それじゃあ、考えようましょうか」
 サリエル:「そうだね」
 幸也:「ふぅ…念の為、確認しておくけど、温泉水をその辺の井戸水みたいに、勝手に汲んで帰るのはマズイんだよな?」

 ため息をつきながら、幸也が言った。サリエルはおかしそうに微笑んでいる。

 ヴィーア:「ええ、マズイです。さっきも『ホットウォーター亭』の主人に確認したんですが、温泉は大事な収入源として、村の組織で管理しているそうです」
 幸也:「すると、その管理組合ってのに行かなきゃだめだな」
 フェイ:「みんなで盗賊に転職するとか…」
 サリエル:「盗賊でも魔道士でも通りすがりの魔法戦士の可愛い子でも、泥棒したのが見つかったら捕まるよ」
 幸也:「ふむぅ…大きな温泉を丸ごと一つ、材料用に買いとったり出来れば、楽だよな」
 ヴィーア:「私達の予算で買い取れるような温泉が、ハルフにあれば良いのですが…」

 正直、予算が豊富にあるとは言えない、お気楽亭温泉部隊である。

 サリエル:「無い袖は…振れないね」
 フェイ:「うぅ、お気楽亭に、もっとお客さんが居れば…」

 フェイが嘘泣きをするが、誰も気にしなかった。

 幸也:「明日、温泉の管理組合みたいな所で聞いてみるか。それしか無いよな」
 ヴィーア:「結局、そういう事ですね」
 サリエル:「状況確認以外、今、出来る事は無い…か」

 あまり、具体的な作戦も思い浮かばない。フェイなどは、久しぶりにありつけた室内のベッドで寝る事で、頭がいっぱいになっていた。言葉も少なくなった4人は、そのままベッドに寝転んだ…
 翌日、朝食を取った4人は、早速宿を出てハルフ村の温泉管理組合に向かった。村の温泉の状態は全て管理組合に届ける事になっている。無断で温泉を取り扱う事はハルフ村では重罪だった。とりあえず、名目上は確かにお気楽亭の代表であるフェイが、管理組合の受付で話す。

 フェイ:「ねーねー、ジュース作るから、温泉水頂戴!」
 管理組合事務員:「あ、はい。そっちの売店で売ってますよ」
 
 事務員は、受付近くの売店を指差した。『ハルフ村温泉の銘水』と書いてある500mlのペットボトルが幾つか並んでいる。

 フェイ:「え、えーとー、そうじゃなくて、もっとたくさん…」
 ヴィーア:「うちの酒場で、ハルフ村の温泉水を原料にした新メニューを始めようと思ったんです。
       それで、相談に乗って頂きたいと思いまして」
 管理組合事務員:「なるほど。そういう事でしたら、こちらに…」

 ヴィーアが事情を説明すると、4人は奥に通された。

 管理組合事務員:「ご相談の温泉水発注の件なんですが、おみやげ程度ならともかく、基本的に大規模な温泉水の販売という事は、うちの村では行なっておりません」
 ヴィーア:「なるほど…」

 ヴィーアが頷いている。それなら実力行使だ。と、フェイは大剣を抜こうとするが…

 幸也:「フェ、フェイ、サリエルが混浴温泉用の水着を選びたがってるから、ここは俺たちに任せて行って来い!」
 フェイ:「そうなの?わかったよー」
 サリエル:「はいはい、行って来るよ…」
 
 幸也に言われて、サリエルとフェイの2人は管理組合を去っていった。残った2人は、温泉水の仕入れに関しての交渉を続ける。

 管理組合事務員:「今…あのお嬢さん、剣を抜こうとしてたみたいですが…?」
 ヴィーア:「気のせいですよ」
 幸也:「そうです、気のせいです」
 管理組合事務員:「そ、そうですか…」
 ヴィーア:「で、『基本的』には温泉水の販売を行なっていないとの事なんですが?」

 基本的にという部分を強調して、ヴィーアは事務員に尋ねた。

 管理組合事務員:「はい、温泉水を少しペットペットボトルに詰めて売店で売るくらいなら簡単なんですけど、本格的に商売にしようとすると、色々面倒ですし…」
 幸也:「飲食関係だと、食中毒でも起こったら面倒だしな…」
 管理組合事務員:「そういう事です。小さい村ですし、温泉そのものの管理をするので精一杯で…」
 幸也:「ふむ…そこを何とか、してくれないかな?」
 管理組合事務員:「そうですね…例えば、小さい温泉を買ってしまうのは、どうですか?
          温泉の中にも、人が入るには小さい温泉もあります。
          温泉を買って頂ければ、温泉自体の管理は我々が行ないますが…」
 
 結局それか。と、幸也とヴィーアは思った。
 ただ、小さい温泉なら、買えない事も無いかという気もした。

 ヴィーア:「なるほど。温泉そのものを所有してしまえば、その温泉をどう使っても私達の自由ですよね。
       でも、私達はそんなにお金は持って無いですよ…」

 幸也とヴィーアは、それからもハルフ村温泉管理組合との交渉を続けた。
 一方、フェイとサリエルは、

 フェイ:「ところでサリエルちゃん、温泉水を使ったジュースって、どんなのを作るの?」
 サリエル:「ふふ…それはね…」

 混浴温泉用の水着を物色後、村を観光しながら温泉水を使ったジュースのサンプルを作成していた。遊び8割、仕事2割と言った所である。
 夜には、4人はホットウォーター亭で落ち合った。

 3.ハルフ村の温泉

 ヴィーア:「まだ、調整は色々残ってますけれど、大体の話はまとまりましたよ」
 
 ヴィーアは温泉管理組合と話した内容をフェイとサリエルに伝える。
 結局、温泉水を商業用に大量に仕入れるには、温泉そのものを所有するしか無かった。温泉の管理自体は僅かな金でハルフ村が行なってくれるので、後は定期的にお気楽亭から温泉水を取りにくれば、仕入れる事は可能という事になった。
 ヴィーアと幸也は、お気楽亭の予算でも所有できそうな温泉を幾つか見積もって来た事もフェイとサリエルに伝えた。

 フェイ:「なるほどねー。じゃあ、明日、お気楽亭温泉をどこにするか、見に行こうね」
 幸也:「そうだな。温泉と言っても、入るのに適する所もあれば飲むのに適した所もあるからな。その辺も調べておこう」

 温泉の詳細な成分分析でも出来れば良いんだけど、それは無理だよなー。と医学生の幸也は思った。

 サリエル:「うん、飲むのに使うだけなら、そんなに大きな温泉じゃなくても良いわけだしね。
       量より質…だね。
       …で、僕達も昼間のうちにジュースのサンプルを作っておいたよ」

 サリエルはヴィーアと幸也に、昼間作ったジュースのサンプルを示した。

 フェイ:「売店で売ってた温泉水に、サリエルちゃんが何所かから用意した謎の材料を混ぜて作ったんだけど、おいしかったよ」

 フェイが言うので、幸也とヴィーアは謎の温泉水ジュースを飲んでみた。

 ヴィーア:「なるほど…」
 幸也:「変なビキニとか買って歩いてただけじゃなかったんだな…」

 美容に良いかは謎だけど、確かに美味い。と、ヴィーアと幸也が感心している。

 フェイ:「変なビキニとは何よ、変なビキニとは!
      なるべく温泉に身体が触れるようにコンパクトに作られた、すんごい水着って言ってよ!」

 フェイが言った。
 今、フェイとサリエルは、お揃いのビキニ風の水着、胸と腰だけを覆ったような水着を着ている。
 4人は、混浴の温泉に水着で入りながら話し合っていた。ちなみに、ヴィーアと幸也は、無難な水着を着ている。 
 
 フェイ:「サリエルちゃん、特賞の美人の湯だよ!
      心行くまで、温まってね!」
 サリエル:「特賞…って、みんなで一緒に入ってると、ありがたみが無いような気も…」

 まあ、別に良いけどね。とサリエルは温泉に肩まで入りながら答えた。
 それから数日後、小さな温泉を一つ買い取ったお気楽亭の一行は帰路についた。
 全ての手配が済み、ハルフ村の温泉水がお気楽亭に定期的に届くようになったのは、もうしばらく後の事だった。
 そうして、サリエル考案のジュースは、お気楽亭のメニューに並ぶ事になった…

 (完)