<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


未知との遭遇

 さぁさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
 ここは地獄の一丁目。見なきゃそんだよおばけ屋敷だよ。おばけだよ?

 懐かしき口上おばけ屋敷。入口付近は観音開きの扉からふわんと飛び出す真っ白幽霊人形。テキ屋のおばけ屋敷の呼び込み口上。
「呼び込むなーっ!!!!!!」
「んーな硬いこと言わなくってもいいじゃん?」
「硬くないっ! まっとうな事を言ってるんだ俺は!」
「うっわ傷つくなあ。それじゃまるで俺が真っ当じゃないみたいに聞こえるよー?」
「お前の何処がまともだと言うんだ何処が!?」

 南無阿弥陀仏。



 さてところ焔隠れの庵。と言っても本家ではない。
 本家は懐かしきは中つ国。主人が消えて今頃どうなっているのかは誰も知らない。わにもぺんぎんも元気だろうか?
 そう思いつつ縁側で思いを馳せているのは刀伯・塵(とうはく・じん)そのひと。膝に乗っているのは孫でも猫でもなく温泉ペンギンである。勿論隠居願望は叶えられる事無く心労白髪は増える一方。最近の趣味は地面に自閉しての写経かもしれない。
「はあ……」
 それでもヒト族の適応力というのは中々に強かで、塵は一切全く心の底から大絶叫するほどに拒否していはいたが、どうにも適応してきてしまっている。このソーンの不条理さに。
 ――尤も不条理は不条理だが、塵の周囲で起きている不条理というものは、ソーンの常識から言っても結構不条理の部類に入る。
 お茶くみ温泉ペンギンだの、カエル貴族だの、43人の半透明人類外生物(現在)だのというものは、単体でならまあ『珍しい』程度ですむのだろうが、それが大挙して押し寄せているとなると立派に『不条理』の範疇だ。
 そしてその不条理な現実にまで適応し始めた哀れなおっさんはまたひとつ新たなる歴史を刻むべく、不条理と遭遇する、一歩手前であった。

「……いい天気だなあ」
 手を逃れていそいそとお茶を入れてきてくれた温泉ペンギンの頭を撫でてやった塵は、そのお茶を啜りつつ、はあと天を見上げた。
 もとい、天井を見上げた。今日も元気にふわふわ浮いている半透明の物体の数をなんとなく数えようとするが、途中で飽きた。
「……平和だなあ」
 一般的に半透明の物体が浮いている郊外廃屋どよーんを平和な地とは呼ばないが、そこは呟いている人物の主観によるものなので問題ない。
 ふよん。
「ああいくつめだったかな……」
 どこか遠い目で天井を見上げていた塵はそう呟いた後に、ひきっと凍りついた。
「うひゃひゃひゃひゃ」
 漂っている。それは間違いない。
 だから今までに住み着いていたものだろうと認識しかけた塵を、はっと覚醒させたのは、それが漂っていながら半透明ではなかった為だった。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
「…………」
 しっかり色が付いている上に、どうやら映像の類いにも見えない。
 それはふよんと天井に浮かび、腕を枕にして眠りこけているようだった。うひゃひゃというのは恐らくも何も寝言だろう。一体どんな幸せな夢を見ているのかは謎である。
 そして塵にはそれ以上に存在そのものが謎だった。
 枯れてしなびていて、まあ色々不条理ではあっても中つ国を思い出せる空気を力技で持たせた安らぐ我が家に、実に相応しくないふよふよである。
 そしてそれとはまた別の、こちらは塵も住人と認識している半透明のふよふよの一つがその色つきふよふよへと近寄っていく。
「@★%¥X*+? $$$$! ####! ♂〇∞♪∬∇!!!」
「お、ひっさっしぶりい!」
 意味不明の問いかけの後に、その色つきふよふよはぱちっと目を開けた。そして空中でしたっと手を上げて、周囲に集まり出した半透明と仲良く談笑を始めている。
「えーってったってさー、キミらじゃほら、俺と熱い夜も過ごせない訳だしね?」
「∬♀≒!!」
「あーほらほら怒んない怒んない。大丈夫だって俺結構何でイケるし?」
 しかも微妙に会話が不穏である。
 かぱっと口を開けて暫くその色つきふよふよを眺めていた塵は、そこいらで漸く我に帰った。
「……おい」
「それじゃもう少し色々集めちゃう? そうだよねやっぱ賑やかにやったほうがいいよねー」
「…………おい」
「だーいじょうぶだって! 即OKっポイ綺麗どころも知り合いにはいるしさぁ」
「…………」
 くいくいと塵の着物の裾を温泉ペンギンが引く。そのつぶらな瞳に何を見たか、塵はこっくりと大きく頷き、すっくと立ち上がった。
 そして、そして大きく振り被ると迷わず投擲した。
 手にしたままだった湯呑みを。
 すこーんととてもいい音がする。くきっと首を傾けた色つきふよふよは、しかしそれでダメージを受けた風もなく、漸く気付いたとばかりにふよんと塵の前へと漂ってくる。
「やっほー?」
「やっほーじゃない!」
「えーとぼんじゅーるまどもあぜる?」
「誰が挨拶の仕方が気に入らんと言ったかああぁああぁ!!!」
「えーじゃあなによ? あんたさっきからおいしか言ってないでしょー?」
「ああ、そう言えばそうだったなすまん」
「わかりゃいいんだよ」
「…………」
 空中でふんぞり返ってうんうん頷く色つきふよふよを塵が見つめる事三秒。
「って聞こえとったんかお前は!?」
「あ、俺葉子・S・ミルノルソルン(いぇず・すぺーど・みるのるそるん)。まあようこちゃんとでも呼んで〜♪」
「聞いてない!」
「ああ因みにスリーザイズはねー」
「もっときいとらん!」
「やだなもっときわどいトコまで聞きたい? 古風な見かけに寄らず大胆だねー」
「…………」
 ダメだこれは。
 塵がそう判断するまではさして時間を要さなかった。
 言葉は通じているのだろうが、その意味は全くと言っていいほど通じてはいない。というより故意に無視しているのだこの葉子と名乗ったふよふよは。
「ふ、ふふふふふふふ」
「へ? ひゃははははははは!」
「ふ、ふふふふふふ、ふはははははははははは!」
「ひゃはははははははははははははははははははははは!」
「………………………」
「あれ? もうお終い、大笑い大会?」
 誰がそんなものを主催したというのか。いやもうそんなことはかなりどうでもいいとして。
 温泉ペンギンが運んできてくれた愛刀をずらりと抜き放った。
「死ねー!!!!!!!!!」
 刀伯・塵。噴火。
 凄まじい轟音が、廃屋もどきに響き渡った。

 その後数時間。凄まじい激闘が繰り広げられた。なんか一方的に。

「やーなんか知らないけどやるねー」
「…………」
「ここ気に入っちゃったなー」
「………………」
「じゃ、そういうことでまたくるねー!」
 ふよんと葉子は上機嫌で飛び去る。
 後に残された塵は、ズタボロの身体を引きずりつつ、温泉ペンギンが拾ってきてくれた木切れで、地面に写経を始めた。
 本日は法華経であった。