<PCクエストノベル(2人)>


流れ流離い

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1528 / 刀伯・塵 / 剣匠 】
【 1720 / 葵 / 暗躍者(水使い) 】

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 ルクエンドの地下水脈……様々な噂と共に、その存在を知られた自然が生み出した洞窟。その中を、確固たる足取りで歩く二つの影が存在して居た。

塵:「此処を過ぎたら、もう直ぐだな」
葵:「うん、何か分かると良いなぁ」

 塵の言葉に、葵が頷きながら呟く。
 大柄な体躯に和装、右肩から掛けた朱房の数珠と腰にある愛刀『霊虎伯』、顔にも体にも大小無数の傷を持つ男、塵。
 その隣を歩くのは、塵と同程度の背丈、均整の取れた体躯、黒のジャケットにスラックスを纏った緑髪の男、葵。
 二人で此処へ訪れるのは、二度目と成る。塵はそれ以前に、別の者と訪れているのだから、これで三度目と言う事に成ろうか?
 何故、この洞窟に此処まで固執するのか?訳がある。
 異界への門――塵が躍起になって切望する故郷へ帰る為の唯一の手立て……それが此処にある、噂ではそう聞いていた。
 そう、確かに噂は正しかった。――が、同時にそれは長いジレンマとの戦いを余儀なくするものでも有った。
 そんな現実を確かに受け止め、更に確認する為に塵は今日此処に居る。そして、塵が此処に居るもう一つの理由は、隣に居る葵に他ならなかった……



塵:「なぁ葵。この前、何か少し分ったって言ってたじゃねぇか?あれって何だったんだ?」

 数日前の昼下がり、塵が暮らすあばら家を改装した庵に葵が訪れて居た。辺鄙な場所にあるにも拘らず、何故か来客の多いこの庵は、葵にとっても我が家の様な落ち着きを与えてくれる場所だ。
 この家に、以前から住んで居たペンギンを膝に抱き、葵は口を開く。

葵:「うん……あのギオンって虫の人居たでしょ?あの人の喋り、何か変じゃ無かった?」
塵:「あぁ、そう言われて見れば、何か変わった喋り方だったな……」
葵:「良く分らないんだけど、あの喋り方何処かで聞いた事があるんだ……」
塵:「それってぇのは、お前がこの前言ってた『日本』って奴に関係してんのか?」
葵:「分らない……ただ聞き覚えがあるだけなんだ……」

 伏目がちにペンギンを撫でる葵。
 つい先日の食卓で、葵は自分が『日本人』であるらしいと言う事を思い出した。その思い出し方も唐突で、塵が焦った物だが、未だに記憶がはっきりしない所為かその言葉には自信が無い。
 そもそも、日本とは何なのか?それすらも、今の葵には分からないのだ。ただ、漠然と分かっているのはそこが自分の故郷かもしれないと言う、当てもない思いだけ……

塵:「行って見るか?確かめによ?」

 不意に発せられた、何気ない一言……だが、この一言がこの男、塵と言う男を顕している。
 黙って見詰める塵に、葵は視線を上げ……小さく頷いた。

葵:「うん、行って見る……」

 強い意志を宿した瞳が、晴れ渡った空を見詰めた……



塵:「おーい!!爺さん〜ギオンの爺さん〜居るかぁ!?」
葵:「ギオンさん〜居るぅぅ〜?」

 二人の声が、洞窟の彼方此方で反響し響き渡る。本来なら余り賢いと言える手では無いが、相手の住家の場所が分からない以上、こうして呼び掛けるしか手が無いのも事実……
 幾度か声を張り上げて見た物の、ギオンは一向に姿を現す気配が無い。

塵:「ったく、昼寝でもしてんのかねぇ」
葵:「あんまり邪魔しちゃうのも悪いね」
ギオン:「全くじゃ、騒々しいがよ、おんしらは」

 不意な声に、二人は思わずその場を飛び退き振り返る。
 ちょっと光沢の落ちた、黒光りボディに足が六本。内一本の足は杖を掴み、内一本は腰(?)と思える部分にあてがわれている。だらりと垂れた触角二本も、何となく寄る年波を髣髴とさせた。
 ゴ○○リにそっくりな生物の長、ギオンがそこに居た。

塵:「脅かすなよ爺さん。折角来てやったのによ」
ギオン:「おんしらが五月蝿いきに、折角の昼寝が台無しがぜよ。わしの楽しみを奪っちゅうて、来てやったがは無いじゃお?」
葵:「あっごめん、ギオンさん。悪気は無いんだ……ただ、どうしても聞きたい事が有ったから……」

 些かむくれ気味(表情は分からない)のギオンに、葵が謝罪を述べる中、塵が徐にその背にあった風呂敷から、笹の葉に包まれた物を取り出す。

塵:「悪かったな。ちょいとあんたに用事があってよ。手ぶらって訳じゃねぇんだ。どうよ?一緒に茶でも飲まねぇか?」

 取り出した笹を開けば、中には程好く練り込まれた餡子の塊が六つある。そして、もう片方の手には急須と茶葉。

ギオン:「ほぅ〜珍しいのぉ〜わしに手土産持って会いに来るなぞ誰も居らんかったぜよ」

 そう言うと、ギオンはペタリと腰を下ろす。ちょっと不恰好だが座っているのだろう……塵と葵はそれぞれ笑みを見せ座ると、茶の用意を始めた。

 ズズズズズズズズズズズズズ……ハァ〜……
 茶を啜る音が、辺りに響き渡る。

塵:「やっぱお茶はほうじ茶だな……美味い!」
葵:「美味しいね〜このおはぎ?だっけ?これも美味しい」
ギオン:「おおぅ、こりゃ美味いが!もし良かったらまた持って来て貰えんが?」

 暗い洞窟の中、仄かな蛍の明りに照らされて、二人と一匹がお茶を啜り座談会。

塵:「まっ来る機会があったらな。んでよ、ちょっと聞きたい事があるんだけどよ……」
ギオン:「ん?何じゃお?」
葵:「ギオンさん、その言葉教わったと言ってたけど、一体誰に教わったの?」

 葵の問いに、一瞬考え込むギオン。

ギオン:「此処に来た奴じゃきに」
葵:「いや……それは分ってるんだけど、名前とか何処に居るとか分かる?」

 再び考え込むギオン。

ギオン:「名前は、確か田山 省三とか言うたがよ。何処に居るかは分からんきに。何せ、150年前の話しじゃき」
塵:「150年前!?爺さん、あんた歳幾つだ!?」
ギオン:「わし?今年で202歳じゃき」
葵:「そんなに前じゃ、もう生きてないだろうなぁ……」

 葵の言葉に塵もギオンも口を閉ざす。
 記憶の手掛かりがあると想って来たのだが、ギオンの話しを信じるならば既に居ないだろう事は予想出来た。

ギオン:「まぁ、もう帰ったのかも知れんがよ。あ奴は、日本とか言う所から来た言うちょったきにな」

 茶を啜るギオン、顔を見合わせる塵と葵。

塵&葵:「日本!?」
塵:「おい!爺さんそこの所もっと詳しく教えろ!」
葵:「日本って何処にあるの!?どんな所か聞いてない!?」
ギオン:「なっ何じゃお!?」

 二人の剣幕に押されて、焦り捲くるギオンだったが事情を察したのか、直ぐに何時も通りに口を開く。

ギオン:「おんしらも、日本から来たがか?まぁ、そがい言うてもわしは、どんな場所とか何処にあるかとか聞いちゃおらんぜよ。あ奴から聞いたがは、あ奴が日本ちゅう所から来たっちゅうだけじゃき」

 その言葉に、がっくりうなだれる塵と葵。
 だが、それも一瞬の事か、塵は徐に立ち上がる。

塵:「まああれだ、取り合えず日本ってのは場所だってはっきりした。こうなりゃ、あの天使嬢ちゃんにも聞いた方が良いな」

 そんな塵を見詰め、葵もまた立ち上がる。

葵:「うん、そうだね。ギオンさん、有難う。また機会があったら来るよ」
ギオン:「うむ、何の力にも成らんで、すまんがよ」

 すまなそうにするギオンに、塵と葵は微笑み颯爽と歩き出す。

ギオン:「頑張れよぉ〜」

 ギオンの声を背中に受けて、二人はかつて像があった場所へと向かって歩いて行く。

ギオン:「でのぉ〜像は今度はあっちぜよ」

 ピタリと二人の動きが止まる背後で、ギオンが別の道を指し示していた……



 辿り着いた先、見慣れた像の姿がそこにある。黄金の盃を掲げる天使の姿が神々しい。

塵:「おい!リィア。ちょっと話があるから、元に戻ってくんねぇか?」

 徐に像に呼び掛ける塵。その言葉に反応して、像の姿が肉感を持ち始める。
 艶やかに流れる金髪、広がる真っ白な羽、体を覆う白い衣装……仄かな光を放つ天使・リィアの姿がそこにある。

葵:「お久し振り、リィア」
塵:「よ、わりぃな」
リィア:「……またあんた達?こっちから連絡するって言ったでしょ?」

 些か呆れ顔のリィア。それもその筈、リィアと彼等二人が出会ってまだ一月も経っては居ないのだ。
 以前出会った時、リィアの存在が異界への門を護る番人である事が分かった塵と葵だが、任意の場所へ行ける門が開くまで五年と言う歳月を要すると聞かされ、連絡手段を貰い連絡を待つという形でその場を後にしたのだ。

塵:「まあ、そう言うなよ。その事もなんだけど、もう一個用事が有ってよ。茶でも飲みながら話そうや」

 再び背中の風呂敷から、急須と茶葉と笹に包まれたおはぎを出し腰を落ち着ける塵。葵もそれに習い塵の隣に腰を落ち着け微笑む。二人に習い、リィアも溜息混じりに塵と葵の前に腰を下ろし、再び座談会が始まった。

塵:「この前から、ちったぁ分かった事とかねぇか?」

 急須に茶葉を入れながら、リィアに問う。

リィア:「五年はやっぱり掛かるってさ。元々が、不安定なのよ?それが固定される訳だから、時間は掛かるわよ」

 葵が空気中の水分を操り適温にしながら、急須に注ぐ。

葵:「他に、何処かに門とか無いの?」

 塵に注いで貰った湯呑みを受け取り、静かに一口。

リィア:「あるわよ?」

 塵と葵が顔を見合わせる。

リィア:「当然でしょ?此処だけでこれだけ歪みがあるのよ?あっちこっちにあるわよ。ただ、100%任意の所に行けるってのは私は知らないわ」

 おはぎを一つ手に取り、小さな口に運ぶ。その表情が美味である事を物語っていたが、今の塵にはそれ所ではない。

塵:「他にもあるのか!?何処にあるんだ!?」
リィア:「一杯よ。何処とかそう言うんじゃなくて、本当に彼方此方。まあ、もう一箇所だけ歪みが酷い所が有るって話しだけど……場所までは分からないわ」
葵:「そう言う話って、聞けない物なの?」
リィア:「本来、歪って言うのは歓迎されるべき物じゃないの。興味本位で聞いて良い訳ないでしょ?」

 上機嫌な表情から一転、リィアの目が険しくなる。
 その視線に、流石に塵と葵が申し訳なさそうに身を竦めた。

リィア:「此処の歪みなんかより、ずっと酷い歪みって話しよ?滅多やたらに聞けるもんですか」

 フンと鼻を鳴らすと、再びおはぎを食べ始めるリィアにおずおずと葵が問い掛けた。

葵:「じゃ、じゃぁさ、日本って言う所知ってる?」

 お茶を啜りながら、眉根を寄せるリィア。

リィア:「日本?確か、異界の島国って話でしょ?時々、歪に引っ掛かってその国の人が来たりしたみたいだけど、どうなったかまでは知らないわ」
葵:「島国……他には!?他には何か知らない!?」
リィア:「ごめん、これ以上は分からないわ。別の世界の事なんて、知り様が無いのよ……」

 申し訳なさそうな表情に、葵もまた黙ったまま俯いてしまう。
 そんな葵の肩を、塵が叩いた。

塵:「しょげんな、葵。ちっとでも分った事も有るんだ。これからは、それを目標に探せば良いじゃないか?お前の記憶をよ」

 その言葉に、葵は微かに微笑み頷く。

葵:「うん……そうだね。早く思い出したい所だけど、焦ってもしょうがないしね。リィア、塵さん、有難う」
リィア:「私は別に何もして無いわよ」
塵:「止せよ。けつが痒くなるぜ」

 リィアと塵、二人は恥かしそうにそっぽを向いてお茶を啜る。そんな二人の姿が面白くて、葵は静かに笑みを浮かべていた……



 帰路、夕暮れの朱色に染められた景色を見ながら、塵は思う。

塵:『他に有る歪みか……何処に有るんだろうな……だけど、可能性は有るんだ……』

 帰路、夕暮れに染まった世界の中で、葵は思う。

葵:『日本……異界の島国……僕が居たかもしれない場所……何時か、帰れるのかな……』

 そして、気せずして二人の想いは重なっていた。

塵&葵:『絶対、見付けてやる』

 二つの瞳は意思の光を……強い決意を湛えながら、その歩を進めていた……