<PCクエストノベル(1人)>
究極のボルシチ
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 0849/ 鷲塚 ミレーヌ /派遣会社経営】
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海人の村フェデラ。
比較的浅い海の底にあるその村は、海人と呼ばれる水中生活人種の村だ。
普通の人間は通常では立ち入ることができないのだが、海人たちの間に伝わる「水中呼吸薬」と「ふやけ防止の塗り薬」を使用すれば1日くらいは滞在することができる。
海人は身体のどこかにウロコを持ち、旅人を歓待するのが好きなため、物珍しさも手伝って観光に訪れる人間も多いようだ。
そんなフェデラに、ひとり訪れた美女がいた。
胸まで届く縦ロールの金髪のうつくしい、青い目をした美女だ。どういうわけかおたまを手にしているところが奇妙といえば奇妙だが、美女であるのでその程度のことは気にならない。
彼女の名は、鷲塚ミレーヌ。派遣会社「ヴィーナスガーデン」の社長にして、愛のボルシチ伝道師である。
フェデラは海の底にある村ということで、火を使った料理があまり普及していないようなのだ。
もちろん、ボルシチも広まってはいない。
そんな地に、ボルシチを広めずにいられようか。
いや、ボルシチ伝道師としては広めなければならない。広めるべきなのだ。
ミレーヌ:わたくしが広めないで、誰がボルシチを広めるというのか……。そう、ボルシチ、それは愛。フェデラの方々にもそれを教えて差し上げなくては。
そんなわけで、ミレーヌはひとりフェデラの入り口で決意をかためるのだった。
ミレーヌ:さて、ボルシチを広めようと来てはみたものの……どうしましょう。
ふと我に返り、ミレーヌは辺りを見回した。
海の底にあるというだけあって、フェデラは地上の村とは違ったつくりになっている。
地上にある村が木や石などで作られた家の集まってできたものであるのに比べ、フェデラは少々地味だった。
家らしい家は見あたらない。地面にあるドアのようなものが、彼らの住居の入り口だ。
海は潮の満ち干などがあるため、地面に家を建てるよりは砂の中に穴を掘った方がまだマシなのだ。
かといって人の姿が見えないかといえばそうではなく、海藻畑の世話をするものや、遊びまわる子供たちの姿も見える。
ミレーヌ:やはり、ここはまず、フェデラの料理を知ることからはじめなければなりませんね……。
ミレーヌは辺りを見回した。
ちょうどいいことに、近くの地面に食堂らしきドアがある。ミレーヌはその中へ入った。
ミレーヌ:フェデラの名物料理を知りたいのですが……あら?
下へと続く階段をおりて、食堂の中に入ったミレーヌは声をあげた。
なにやら異様な雰囲気がただよっていたのだ。
食堂の内装は地上とさほど変わらないのだが、真ん中にでんと陣取った態度の悪い男のせいで、食堂内がぴりぴりとしているようなのだ。
男:こんなモンが食えるか? あぁん!?
男はテーブルの上の料理にいちゃもんをつけているらしい。
ミレーヌのセンサーが反応した。
食堂で料理にいちゃもんをつけている! それは悪!
愛のボルシチ伝道師としては見逃すわけにはいかない。
ミレーヌはつかつかと男に歩みよった。
ミレーヌ:では、わたくしが究極のボルシチをご馳走させていただきましょう!
男:あ? ボルシチだぁ?
ミレーヌ:そう、ボルシチ! それは愛! 今すぐにつくってごらんに入れましょう!
ミレーヌは大仰に手を振ると、どこからともなく鍋と風呂敷包みを出した。
男:ど、どこから出したんだ? それは。
ミレーヌ:偉大なるボルシチ神さまのお力です。
まったく答えになっていないようなことを言いながら、ミレーヌは風呂敷包みをあける。
そこには、ボルシチ(4人前)の材料――牛肉、にんじん、玉ねぎ、セロリ、じゃがいも、キャベツ、しめじ、トマト、にんにく、バター、コショウ、コンソメ、りんごジュース、ビート、パセリ、サワークリーム――がそろっていた。
ミレーヌ:まずはニンニクをみじん切りにし、肉と野菜をざっくりと切ります。
ミレーヌは近くのテーブルの上にこれまたどこからともなくだしてきたまな板を置くと、口にしたとおりに材料を包丁で刻んでいく。
ミレーヌ:それから、鍋にバターをとかして、ニンニクと肉をいためます。
ミレーヌは能力である“大気の壁”を使って水の浸入してこない部分を作ると、そこに火を起こしてナベをかける。
ミレーヌ:肉の表面に火が通ったあたりで、トマト以外の野菜を入れます。
そして、無造作に野菜たちを放り込む。
ミレーヌ:そこにお湯を3カップ、コンソメとローリエ、りんごジュース、トマトを入れて煮込みます。最後に塩・コショウで味をととのえればできあがりです。
どうやら、あとは煮込めば完成らしい。
ミレーヌは男の方を見て、おたまをかまえてニヤリと笑った。
ミレーヌ:あとは、皿に盛ったあとでサワークリームを添えてパセリを散らしてください。さあ、これぞボルシチです。究極の料理です! と、いうわけで、あと30分ほど煮込んでください。
言って、ミレーヌは男を手招きする。
事情がわからないようではあったが、男はふらふらと近づいてきてミレーヌからおたまを受け取る。
ミレーヌ:なべとおたまもサービスです。さあ、あなたもこれを食べてボルシチ神さまに帰依なさい。
ふ……とミレーヌは決めポーズを取った。
そしてニヒルな笑みを浮かべると、そのまま食堂をあとにする。
ミレーヌ:ああ……これでまたひとつ、ボルシチを世に広めることに成功したわね。
そしてなんとなく満足しながら、ミレーヌはフェデラをあとにしたのだった。
だが!
世の中には、まだまだボルシチを知らない人間がいる!
世のため人のため、ミレーヌは愛のボルシチ伝道師としてボルシチを広めつづけるのだ!
ミレーヌの旅は――まだ、はじまったばかりだ。
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【ライター通信】
はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
愛のボルシチ伝道師さんということで、このような話になりました。いかがでしたでしょうか。
最初はボルシチで戦う! などのことも考えたのですが、やはりボルシチ伝道師というからにはボルシチを粗末にしてはならないのではないだろうか――ということで、暴れている男にボルシチをご馳走する、というあたりで落ち着きました。
ボルシチにもいろいろとレシピに違いがあるようなので、材料はこれでよかったのだろうか? など色々と思ってみたりもするのですが、お楽しみいただけていれば大変嬉しく思います。
もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。
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