<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
ダンジョン攻略
「また、近くで遺跡が発掘されたそうだな」
その一言に店内がにわかにざわめいた。各々皆、他人の言動には興味がない振りをしているが、その実、一挙一投足すら互いに監視し合っていた。
男は気づいていないのか、続ける。
「だが、ゴーレムがザカザカ出てくるかなり危険な地域だというしな」
『ゴーレム』。エルザードに敵対するアセシナート軍が頂点に掲げる程のモンスター。
その単語に皆、一様に押し黙る。
「それに……アセシナートも目をつけているという噂もあるしな」
だが、その中で気にせず立ち上がる者たちがいた。冒険者たちは、周りの視線も気にせず、主人からその遺跡の詳しい場所を聞き出し、酒場を後にした。
「まずは、基礎知識を文献・伝承等でよく調べてから行きませんか?」
アイラスが言った。薄い青色の髪と濃い青色の瞳を持ち、髪は後ろで束ね、大き目のメガネをかけている。軽戦士の青年だ。
「ふむ。用心深い事だな。‥だが、俺もゴーレムには興味がある。付き合おう」
対すのは、外見年齢こそ二十代後半の人間だが、実は神に仕える聖獣であり、200の歳月を生きる男だ。二重のタレ気味の目で、優しげにも見える顔だが表情は不機嫌そうで高い身長とその表情のために見下しているようにも見える。
「そうですね。じゃあ俺も付き合います」
黒いショートの髪の青年も同意した。紫の手袋をし、服も紫の色を着ている。表情はどこかおどけていて猫を思わせた。
「あ、不安田さん。お久しぶりですね。その節はお世話になりました」
「いえいえ。こちらこそ。アイラスも一緒で嬉しいです」
「‥知り合いなのか?」
アイラスと不安田の会話に聖獣の青年が首を傾げる。二人ともににっこりと笑った。
「ええ。あっ!!そうです。あなたのお名前もお聞きしていいですか?僕はアイラスと言います」
「俺はヴァリカだ」
「俺は不安田です。よろしくお願いしますね」
不安田もふにゃっと笑った。
三人はそうしてエルザードの知識の宝庫、“賢者の館”に向かった。
賢者の館は、巨大な図書館だ。見る限り書架が所狭しと並んでいる。エルザードは開放的な国なので、特に身分証明書等の提示は必要なく、異国からの旅人も顔パスで中に入ることが出来た。ヴァリカは、その量に目を細め、言った。
「手分けして探すか」
「ええ」
「そうしましょう」
アイラスと不安田も了承した。
一刻後。
「なかなか見つからないですね」
窓の外は陽がもう高くなっている。種類ごとに分けられている棚、二つ分ほどを制覇した時点で、アイラスが言った。今は伝承の棚53番目だ。全部で400以上はある。アイラスは、メガネを掛け直した。不安田がふにゃっと笑う。
「そうですね……っとあっ!!」
「何だ?」
背向かいの棚を見ていたヴァリカが振り向く。
黒い羊皮紙に紅い字で魔方陣らしきものが書かれている。
不安田がその本をパラパラと捲った。
「……錬金術の本、ですね。しかも相当詳しい……」
アイラスが興味深そうにその身を乗り出した。ヴァリカもその後ろでじっと見つめる。
「あ、ありました〜っ!『ゴーレム』の章〜っ!」
「‥ふむ」
「なるほど……」
三人は、数十ページを熟読すると、静かに書架にその本を返した。
「こんなモノが一般の人が簡単に見れる書庫にあるなんて、危ないですねぇ」
不安田はふにゃっと笑う。アイラスも目が合うとにっこりと笑った。
「では、行きましょうか」
不安田も頷く。
「ええ」
ヴァリカが先頭に立って賢者の館の扉を開けた。
遺跡は、奇妙な形の、人より二倍ほど大きい石が四方を囲んでいる神殿だった。周りは荒野ばかりで茶色い砂が時々視界を妨げている。陽も大分傾いてきていて影が長く西に伸びていた。ヴァリカはその柱の一つに手を伸ばす。ここら辺の建造物では少し見ないような黒ずんだ石だ。ヴァリカは、一瞬目を閉じる。アイラスは瞳をキラキラとさせながら、それに触れている。不安田は後ろでふにゃっと笑った。その時、一瞬微かな物音がした。三人は咄嗟に飛び退いた。
その物音は、巨大な泥人形のものだった。神殿の天井位はある背で、茶色い泥を絶えず地面に落としている。
アイラスは剣を抜いた。その泥人形――ゴーレムは、的確に自分たちがいた位置へと右手を振り下ろしていた。そしてまた左腕をアイラスたちへと突き出す。
「“大気の壁”」
その左腕が何か見えないものに阻まれて砕け散った。ヴァリカだ。目をらんらんと輝かせ、片手を攻撃者に翳している。
「“グラビティキャノン”」
それから今度はその片手から重力波のようなものを巻き起こした。ゴーレムは避ける。その影から一人の男が現れた。彼が掌を開くと、重力波はそこに飲み込まれた。
ヴァリカの片眉が上がる。アイラスは剣を構え直した。不安田は変わらず無手だ。
男は黒いフードと黒いローブで顔を隠していた。
ヴァリカは笑う。
「おまえが、アセシナートから来たという者か」
「それならどうする?」
「ふん。どうもしない。ただ、かかってくるなら叩き潰すまでだ」
「あ、ちょ……ちょっと待ってください」
アイラスがヴァリカの前に立った。
「あの、見た所、確かに珍しい形状の遺跡のようですが、それほどまでにして守る理由は分かりません。何か、あるのでしょうか?」
「危ないっ!!」という不安田の叫びが響いた。ゴーレムがアイラスを横殴りにしようとしていた。アイラスは、間一髪回避する。
男は笑う。
「世の中、知らない方がいいことの方が多いんですよ」
不安田はふにゃっと笑った。ヴァリカも笑う。
「では、ムリヤリ引き出すというのはどうだ?」
「ヴァリカさん。……そう、ですね」
アイラスも下げた剣を構え直した。
男は更に笑う。
「やれないさ。お前たちには」
ゴーレムがまた襲い掛かってきた。ヴァリカが壊した左腕も修復している。
ヴァリカは大気の壁でゴーレムの攻撃を食い止め、グラビディキャノンを喰らわす。
仰向けに倒れたゴーレムにアイラスも剣を振る。ゴーレムは倒れた状態からすぐ反射的に腕を突き出した。アイラスが吹っ飛ぶ。男は笑む。そのまま、ヴァリカと不安田もゴーレムに吹き飛ばされた。
「はははっ。どーだ?素晴らしいだろう?我が秘術の『ゴーレム』はっ!!」
男が笑う。ムチャクチャにゴーレムが三人を殴る。土煙で姿が見えなくなる。
「ははははははは……」
そして数十回の攻撃の後、ゴーレムは静止した。土煙が晴れていく。そこで男の笑いは途切れた。あるのは、巻き添えを喰らった遺跡の断片だけだった。
「……!?いないっ!?どこへ……?」
「残念でした」
不安田の声。
猫のような笑み。
ゴーレムの首が砕かれていた。
不安田の右の掌にeの赤文字が写されている。
「あ……それは」
「emeth“真理、神の真実”eを取ると……」
「“meth”死。……ゴーレムは瓦解する」
アイラスとヴァリカもいつの間にか男の後ろに立っていた。
男は目を不自然にきょろきょろとさせる。一歩後ろに退いた。
「お、お前たち、どうして……さっきやられたハズじゃあ……」
アイラスがパチンと指を弾いた。
目の前の砂煙に埋もれた遺跡の破片は消え、以前と同じ荒野が広がる。
「“ミラーイメージ”。簡単な魔法ですよ」
「く……っ!!」
「では、話してくださいますか?ここの秘密を」
「……。アイラス」
ヴァリカが言う。
「何か、来る」
その時、黒ローブの男が淡く光った。
巨大な魔方陣が浮かび上がり、彼の背から聖獣が現れた。
「ふん。“ベヒモス”か」
「ああ、守護聖獣……ですよね」
「……面倒くさいですねぇ」
ヴァリカ、アイラス、不安田が言った。
ヴァリカは背を向ける。
「ふん」
「そうですよねぇ。そこまでして知りたい秘密じゃないですしねぇ」
「確かに気にはなりますけどね」
不安田、アイラスも後ろに続く。
「オ……オイオイ」
「じゃあ、またどこかでお会いしましょう」
不安田は男にふにゃっと笑った。
●後日談
「あ、ヴァリカさん。いらしてたんですか」
黒山羊亭にてアイラスがヴァリカを見つけ声をかけた。
「ああ」
ヴァリカは面白そうに手の中のものを転がしている。
「それは?」
続けて、ヴァリカの隣に不安田が座る。
「“虹の雫”だ。貴石の谷の深部でしか採取できないはずのものだが、あの遺跡で拾った」
「へえ……」
「もしかしたら、あそこは何か特殊な魔法の磁場が働いているのかもしれないな」
「詳しいんですねぇ」
アイラスも感心する。
「俺は、占い師だからな」
ヴァリカは笑った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1728/不安田/男性/28歳/暗殺拳士】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/軽戦士】
【1753/ヴァリカ/男性/200歳/占い師】
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■ ライター通信 ■
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ヴァリカさま
はじめてのご発注、ありがとうございます(^^)
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
私個人としては大変楽しんで書かせていただきました!
戦闘の打ち切りが突然になってしまって申し訳ありませんでしたm(__)m
こんな題名に偽りありのノベルですが、
ご感想等、ありましたら寄せていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、またのご発注をお待ちしております
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