<PCクエストノベル(1人)>


塔守りの秘密
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1679/ サリエル / 魔道士 兼 男娼】

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 封印の塔を訪れるのは、塔の性質上、腕に自信のある戦士たちが多い。
 その中で、今日、ひとりで塔を訪れたサリエルは、場違いといってもいいほどだった。
 旅をするのに必要な筋肉はついているのだろうが、それでもその身は細く、華奢な印象がぬぐえない。
 それで呪われたアイテムを破壊することなどできるのだろうかと思えるが、サリエルが塔へとやってきたのはアイテムの破壊が目的ではなく、塔守りであるケルノイエス・エーヴォに会うためだった。

サリエル:今日は、いるのかな……。

 塔を見上げながら、サリエルはつぶやく。
 封印の塔を訪れる冒険者たちはあとをたたないため、必ずしもケルノに出会えるとは限らないのだ。
 サリエルは塔の中へ入ると、ケルノの住む部屋の戸を叩いた。

ケルノ:はい、どなた……。

 出てきたケルノは、サリエルの顔を見ると一瞬おどろいたような顔をする。けれどもすぐに笑顔になると、サリエルに向かって手を差し出した。

サリエル:やあ、久しぶり。元気にしてた?

 サリエルが訊ねると、ケルノは肩をすくめた。
 サリエルは首を傾げて、ケルノをながめる。具合が割るそうには見えないのだが……。

ケルノ:あまり、外からは見えないと思うんですけどね。冒険者の手伝いをしていたら、すこし、けがをしてしまって。
サリエル:そうなんだ? 大丈夫?
ケルノ:ええ。たいしたことはありませんよ。

 サリエルが訊ねると、ケルノは笑顔でうなずいた。

サリエル:でも……なんだか、大変そうだなあ。別に、ここに来るのは冒険者の自由なんだから、ケルノが手伝ってやる必要なんてないじゃないか。
ケルノ:そうは言いましてもね。さすがに、放置するわけにもいかないでしょう? そんなことをしていたら、この塔はあっというまに死体でうまってしまいます。
サリエル:そういうものかな?

 今度はサリエルは肩をすくめた。
 みずから進んで来ているのだから、本人たちに任せておけばいいのに。とサリエルは思うのだ。
 もしもそれで死ぬことがあったとしても、それは自分たちの力を見極めることのできなかった冒険者たちの責任で、ケルノが手伝ってやるほどのことはないと思う。
 ケルノの役目は塔を守ることであって、冒険者たちを助けることではないのだから。

サリエル:そういえば……ひとつ、聞いてもいい?

 ふと思いついて、サリエルは訊ねてみる。

ケルノ:なんですか?

 ケルノはうなずく。

サリエル:ケルノは、どうして、ここの塔守りになったの?

 サリエルにはそれが不思議だった。
 だって、塔守りなんてつまらない。そうサリエルは思っている。
 この塔から外に出ることはできず、ひとりきりで、永遠に生きつづけなければならないなんて、想像しただけでぞっとする。

ケルノ:それは……。

 ケルノはうつむいて口ごもった。サリエルはそっとケルノに近づいていくと、優しく言う。

サリエル:別に、むりに教えろなんて言う気はないよ。ただ……ちょっと、気になっただけなんだ。ほら、僕たち、ともだちじゃないか。

 ともだち、という部分に微妙なアクセントを置いて口にすると、ケルノはやわらかく微笑んだ。

ケルノ:昔、友人がいたんです。
サリエル:僕みたいな?
ケルノ:サリエルさん? いえ……、もっと、がさつで、無骨な男でしたよ。
サリエル:へえ。どういうともだちだったの?
ケルノ:どういうもなにも……ただの、友人でしたよ。

 友人だったと過去形で口にするとき、ケルノは一瞬、つらそうな顔をする。
ケルノ:昔――彼は冒険者でしてね。
サリエル:へえ。戦士かなにか?
ケルノ:ええ、そうです。なかなかに腕自慢の男で。
サリエル:それで、その人は今、どうしてるの?
ケルノ:……もう、いないんです。
サリエル:え?
ケルノ:呪われたアイテムを手に入れてしまったんです。でも、あいつはがさつで……ちょっとしたことじゃ、気にもとめなくて。だから、気づきませんでした。それが、呪われたアイテムだってことを。
サリエル:それで……呪いのせいで?
ケルノ:ええ。死にました。

 ケルノはきっぱりと口にすると、顔を手で覆った。
 サリエルはケルノを抱きよせると、その頬に、そっとくちびるを寄せる。
 ケルノは驚いたような顔でサリエルを見たが、けれども、すぐにサリエルに身を任せた。

サリエル:だから、呪われたアイテムを壊せる塔の塔守りに?
ケルノ:ええ……。
サリエル:そう、だから……。

 サリエルはケルノの髪を、ゆっくりと手で梳いてやる。

サリエル:ねえ、それじゃあ、今日も遊ぼうか? 僕が忘れさせてあげる。いやなことなんて、全部、ね……。
ケルノ:……サリエルさん。
サリエル:いいかい、ケルノ。僕たちはともだちだろう? ともだちにさんづけはいらないよ。

 サリエルの言葉にケルノはうなずき、サリエルの頬にみずからの頬を寄せた。

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【ライター通信】
 こんにちは、5度目の発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、浅葉里樹です。
 前回の続きのような感じのノベルということで……今回はやや描写も多めで! と心がけてみたのですが、いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 ところでこれは非常にどうでもいいことではあるのですが、このノベルは、ちょうどOMCでの50作品目にあたります。なんとなく、ここまで来たのかあ……としみじみすると同時に、その間にサリエルさんとは何度もお会いしてるんだよな、と思ったりもします。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お気軽にお寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。