<PCクエストノベル(1人)>
花散る水面 〜アクアーネ村〜
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■冒険者一覧■
□1711 / 高遠・聖(たかとう・ひじり) / 男 / 16 / 高校生+神父
■助力探検者■
□なし
■その他の登場人物■
□フレニア(花売りの娘)
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全ての世界は、すべてに通じる。
36の聖獣が司る大地ソーン。その中心地であるユニコーン地方は、今まさに花咲き乱れ風は涼しい。4つある四季の中で、一番穏やかな時期である盛葉期を迎えようとしていた。
水は澄み、流れを繰り返しまた天へと戻っていく。そんな自然の理をも超越し、最も美しい水を湛え続けると名高いのは「アクアーネ村」。人は癒されたことへの感謝を込めて、村を『水の都』と呼んだ。
そう彼もまた、名に惹かれて来た観光客の1人だった。
聖 :「なんて気持ちのいい場所なのでしょうか……」
一人旅。答える者などいない。けれど、清らかな水の流れる音に包まれていると自然に、彼の口から感嘆の言葉を零させるのだ。
幾重にも石作りの小さな橋が掛かり、その両端には水を滝としてまた運河へと戻している竜の彫刻。村の隅々まで行き渡る水楼。広場では高く噴水が湧き上がり、人々の歓声を呼んでいた。
騒がしい表通りから裏通りへと抜ける。
村の南端にあたるその場所は、観光客とは無縁の村人の憩いの場という雰囲気を持っていた。屋根のある小さな休憩所。石作りの椅子が並び、水路は格子状に細かく分かれ、その一部には美しい魚なども放されていた。街角に人がいないのは、シエスタ(昼寝)の最中なのだろう。
静かな時間。水音と自分の鼓動だけが彼の耳に届く。
聖 :「来てよかった……。水には心を癒す力があるような気が
していたけれど、本当なんですね」
そっと跪き、浸した右手。
指の間を透明な水が通り過ぎていく。陽射しが当って、水面が眩しいほど輝いた。浅い水路の底には丸く削られた小石。長い年月を経て、角が取れ、そして溜まっていったもの。彼の心にも水のように留めることの出来ぬ想いがある。そっと呟き言葉にすれば、この水の流れに乗って、遠く運ばれどこかで誰かの喉や心を潤すかもしれない。彼は思い出す過去の出来事を。
そう言葉にして、まるで確認するかのように。
聖 :「僕は記憶を取り戻すべき……なのでしょう…か」
フレニア:「きゃっ、誰か! 誰かつかまえて下さいまし」
聖 :「どうかしましたか?」
フレニア:「は、花が……花が流されてしまったんです」
聖が見上げると、花売りらしい籠を持った少女が彼の後ろを指差した。淡いオレンジ色の花が水路を下っていくのが見える。慌てて聖は追ったが、思いの他流れが早く、あと少しのところで手が届かなかった。
聖 :「すみません……。間に合わなくて」
フレニア:「いえ、いいんです。花に水をやろうとして手を滑らせた
私が悪いんですもの」
聖 :「そんな、せっかくの花が。それでは仕事にならないので
はないですか?
――そうだ。せめて神の言葉を差し上げます。
どうぞ受けとって下さい」
フレニア:「まあ、神父さまでしたの。母が喜びます」
聖 :「天上に咲く花は地上のそれと同じ。すべての人の心を
癒し慈しむ。雨を喜び水の流るるを喜ぶ」
フレニア:「素敵……どういう意味があるのですか?」
聖 :「どんな場所に生きようとも、雨が降ることだけで幸せを
感じることができるなら、それが本当の幸せとなる
――という意味なのですよ」
深々と頭を下げ、去っていく少女の姿を見送る。遠ざかっていく足元を水が創り出す光の輪が跳ねた。
腰を下ろし、手を水の中へと差し入れる。冷たい液体は心を再び思考を過去へと飛ばす。
聖 :シスターは僕に幼い頃の記憶がないことを知っていても、
何も言わず微笑んで傍にいてくれる。
けれど、目を閉じるとぼんやりとした風景が浮かぶことがある。
忘れられない風景。
遠く過去に失った父様と母様の姿。
そして――すべてを包み込む緋色の記憶。
彼は恐ろしくていつもそれ以上思い出すことが出来なかった。でも、知っている。このままではいけないということを。
すべてを受け入れるために。
少女に送った神の言葉が耳に残る。あれは自分のために言った言葉ではなかったか?
聖 :「雨が降るだけで幸せ……。僕も、そうなりたい。
すべてを知って一歩前を歩きたい」
街はシエスタを終えて賑わい始める。夕陽が水面の色を変えていく。
穏やかな水に手を浸しながら、彼は見つめた。あの流れていった花のような幸せを。
もう彼は知っている。これから自分が何をすべきなのかを。緋色が重なる光景が持つ本当の意味を知る時が来たのだと。
水の都アクアーネ。
この美しい場所は、訪れる人の心までも解きほぐし、その穏やかなる流れにすべてを託す。
不偏の調べ。何者にも変えがたい、永久なる都。
□END□
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納品が遅れてしまい申し訳ありませんでした。ライターの杜野天音です。
フレニアの花を出すことで、聖くんの心が描けたらと思っております。
辛い過去を思い出すことは胸が痛い。けれど、知らないフリをして歩んで
いくことは、失ったかもしれないご両親を忘れたままでいることと同じなの
かもしれません。
如何でしたでしょうか? 気に入って下さると幸いです。
ありがとうございましたvv
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