<PCクエストノベル(1人)>
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【冒険者一覧】
【 1755 / ヴィーア・グレア / 秘書、「お気楽亭」アルバイト 】
【助力探求者】
【なし】
【その他登場人物】
【エルフ族】
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▼0.
エルフ族―――それは、存在は確かだと云われているのに、実際に会った者は少ないという、不思議な一族だ。
彼らは幾重にも重ねられた自然のトラップの中、一族だけでひっそりと暮らしている。また彼らは伝説の存在、ユニコーンと心を通い合わせることが出来る存在の一人とも云われている。そんな噂話から、エルフ族自体が貴重なのはもちろん、そのユニコーンの情報を求めてエルフ族の集落を訪れる冒険者も数多い。
しかし、大抵は仕掛けられたトラップに屈してしまい、たどり着ける者は極僅かである。その辿り着いた者と云うのが、単に試練を乗り越えられた屈強な者たちなのか、それとも彼らエルフ族に認められ迎え入れられたのか、―――それは彼らエルフ族自身にしか判らない。
▼1.
穏やかな微笑みを浮かべた青年、ヴィーア・グレアは、そんなエルフ族についての情報を繰り返し唱えながら森の中を歩いていた。とは云え、実際会った者がそもそも少ないのだから、たいした情報量はない。同じようなことを、云い方を変えただけの情報だ。
エルフ族に関しての情報は皆首を捻るばかりで、少ししか得ることが出来なかった。だが、エルフ族の集落に辿り着くまでのトラップに関しては、それはそれは膨大な量の情報を得られた。どうやら、ソーンの冒険者たちが皆一度は訪れる場所らしい。ほとんどがいつまで経っても変わり映えのない景色に痺れを切らせて諦めたらしいが、冒険としてはまず行ってみようと考える場所なのであろう。
しかし、それだけ多くの者が挑戦したトラップも、誰一つとして同じ内容を話さないのだから恐ろしい。落とし穴などのオーソドックスなものから、木の槍が飛んできただの、茂みの中で蔦が絡まって身動き取れなくなっただの、何度も印をつけた場所に戻ってきてしまうだの。
ただ一つ統一されているのが、諦めて元の道を戻ろうとすると、すぐに戻ることができるということだった。例え、どんなに時間をかけて奥深くへ突き進んだつもりであっても、だ。
そんな情報から、トラップはエルフ族が会うに値する人間かどうか見極めるための試練なのだろうとヴィーアは踏んでいた。
きっと、エルフは存在が貴重とされているのだから外の者に対してとても敏感で、厳しいのだろう。
―――そんな彼らに、自分は認められることが出来るだろうか。
ヴィーアは不安半分、期待半分といった面持ちで眼前に広がる森を見つめた。
▼2.
トラップがあるとのことだから、鬱蒼と茂ったような森を期待していたがそうでもない。自然の力とは思えないほど綺麗に整理されたような森だ。何処からか鳥の囀りも聞こえてきて、木々の合間からは光が差し込んでいるために割と先の方まで見通すことが出来る。
これももしかしたらエルフ族の力なんだろうか。
そんなことを考えながら、とにかくその見えなくなっている先を見つめる。
ヴィーア:「こんな場所で笛を吹いたら、きっと気持ちが良いだろうに―――」
でも、きっともうすぐそんな余裕もなくなるのだろうけれど。
そんなことをひとりごちながら、ヴィーアは意を決して森の中へと足を踏み入れた。トラップのためにあまり意味がないかも知れないが、ヴィーアは用意した赤いリボン状の布を取り出して、一本目の木の枝に結んでおいた。これはもしものときのために用意したものだ。他には食料と水筒、そしてパンフルートを用意してある。パンフルートは、エルフ族にもしも出会えたときに警戒を解くために持ってきた。活躍するときが来れば良いのだけれど、と思いながら歩いていると、早速鋭い勢いで木の葉が舞い飛んできた。その襲撃に咄嗟に顔面に腕を構えたけれど、一陣の風が吹いただけで、すぐに辺りは静かになってしまう。
ヴィーア:「なんだったんでしょう……」
トラップにしては呆気ないが、まさかその一つだけではないだろうしまだ序の口だと風の吹いてきた方向を見遣る。
すると、その先にはちょこんと小さな生物が鼻をひくひくさせてこちらを見ていた。
ヴィーア:「……うさぎ?」
白いそのうさぎは、ヴィーアの呼びかけともとれないその呟きに返事をしたかのように立ち上がった。相変わらずこちらを見上げるばかりのその小さな生き物は、ヴィーアが目が合ったと感じるや否やまたとたっと前足を下ろした。ヴィーアがそのうさぎに呼ばれたと感じたことが、ただの勘ではなかったのかどうか、うさぎはくるっと降り返って森の奥へと進み始めた。
ヴィーア:「―――付いて来いって?」
ヴィーアはクス、と笑って、妙にゆっくりと進むうさぎの後を付いて行った。本当にそんな気がしただけだったが、どちらにせよエルフ族の集落までのはっきりとした方向が判るわけでもないので、ここはこのうさぎに任せることにした。
▼3.
ヴィーア:「……え……」
うさぎの後へと付いていくこと、早10分。一向に走り出そうともしないうさぎと、その間襲ってこないトラップにヴィーアも確信を深めていたが、二本の木がアーチのように曲がって寄り添って立っている下を潜った瞬間、思い描いていた通りの集落が現れたときは流石に驚いて呆然とした。
???:「ようこそ、我等がエルフ族の集落へ」
美しい出で立ちに尖った耳。
想像していたよりもずっと輝いて見えるその姿にやはり気を遠くに飛ばしていたヴィーアだったが、声を掛けてきた、青年のようなエルフ族が困ったように笑うと、はっと我を取り戻した。
ヴィーア:「あ、あのっ! こ、こんにちはっ……」
まず何を云おうとかは考えていなかったことが悔やまれる。友好的に見える態度に、まずは挨拶を、と。そう思って、しどろもどろになりながらも何とかそれだけを口に出してお辞儀をする。
エルフ族の青年:「こんにちは。この場所に訪れてきた外の方は、本当に久しぶりだ」
ヴィーア:「あの、うさぎの後を付いてきたんです」
エルフ族の青年:「よく気付かれましたね。確かに、あのうさぎ―――と云うより、この森に住む動物たちが案内人なんです」
ヴィーア:「そうなんですか……」
とは云っても。
何だか未だに夢見心地で、本当に此処は集落なのだろうかとヴィーアははっきりしない頭を抱えて視線を動かした。
エルフ族の青年:「? どうかしましたか?」
ヴィーア:「いえ、あの……本当に僕は辿り着いたのかと思いまして。何と云うか、あっさりしすぎていて……」
そう、大したトラップも受けていないのにたどり着いたことが不安なのだ。
ヴィーアが素直にそう告げると、エルフ族の青年は楽しそうに微笑んだ。
エルフ族の青年:「実はこれもトラップでした、なんてことはないのでご心配なく」
ヴィーア:「いえ、そんな……」
エルフ族の青年:「貴方は一撃目のトラップで、しっかりと目的を持った方だと判りましたから」
ヴィーア:「一撃目……って、あの、木の葉ですか?」
エルフ族の青年:「ええ、そうです。別に木の葉とは限らないのですが、大体は一撃目でここへ来られるかどうかということが決まってしまうのですよ」
ヴィーア:「見極めているのですね。でも、何故僕は合格だったんですか?」
エルフ族の青年:「“合格”とは、面白い云い方をなさいますね。でも、見極めていると見抜いたのは流石だ。その通りですから」
ヴィーア:「どうやって決めているのですか?」
エルフ族の青年:「私たちは争いを好みません。それに、出来る限り外界との接触を絶っていますから、好戦的だったり、私利私欲のためにここを目指す方へは門を開かないんです。私利私欲と云っても、野望的なことですけれどね。その点、貴方は綺麗な心を持っていたのですよ」
ヴィーア:「綺麗って……」
エルフ族の青年:「ここへ辿り着いたということはそういうことなのですよ。あの木の葉は、相手の汚い心を切り裂きますから。貴方は怪我をしなかったし、何か決意をなさった目をしていたので」
ヴィーア:「そうなんですか……」
何だかくすぐったい言葉を云われているが、悪い気はしない。あっさりしすぎていて少し拍子抜けしてしまったが、選ばれたと、認められたということなら喜んでも良いだろう。
エルフ族の青年:「それに、優しい方でなければ案内役の動物に付いて行こうとは思わないですからね」
ヴィーア:「なるほど」
にこっと笑ってそう告げる青年に、ヴィーアも思わず納得する。
エルフ族の青年:「さて、それで早速なのですが」
ヴィーア:「はい」
エルフ族の青年:「貴方は冒険をしようとここへ来たのでしょうか?」
ヴィーア:「あ、それもありますけれど……実は僕は、ユニコーンについてのお話を聞きに来たんです」
エルフ族の青年:「―――ユニコーンについて聞いて、どうしようと?」
ヴィーア:「それはですね。以前、僕は一角獣の窟に冒険に行って、其処でユニコーンの姿を見たんです」
エルフ族の青年:「……ほぉ」
ヴィーア:「その時は僕は笛を吹いていて、その音につられて姿を現してくれたみたいなのですが、出来ることならまた会ってみたいと……エルフ族の方なら、心の通わせ方を知っているのではないかと思いまして」
エルフ族の青年:「そうでしたか。ユニコーンについて聞く方の殆どがただ興味本位でしたので、安心しました」
ヴィーアが離している間、青年が少し張り詰めたような雰囲気になったことが気になって緊張したヴィーアだったが、そういうことなのかと安心して息を吐いた。
エルフ族の青年:「でも折角来ていただいて申し訳ないのですが、実のところ、私たちも何故私たちがユニコーンと交流できるのか良く判らないのです。きっと、私たちがエルフ族だから、ただそれだけなのだと思います」
ヴィーア:「そうなんですか……」
エルフ族の青年:「あ、でも!」
がっくり肩を落としたヴィーアに、青年が慌てたように話を続けようとする。それに、ヴィーアは「え?」と顔を上げた。
エルフ族の青年:「何しろ、ユニコーンは伝説の存在とされていて……私たちより他に、姿を現すことなどないと思っていたんです。だから貴方の話を聞いて驚きました。きっと、貴方の笛の音を気に入ったのでしょうね。笛を通じて、心を通わせることはきっとすぐに出来ると思いますよ」
ヴィーア:「笛を通じて……」
エルフ族の青年:「私も少し笛を吹くので判るのですが、笛を吹くときに想いを込めるんです。ユニコーンは本当に相手の感情の動きに敏感ですから……きっと、その想いに応えてくれるでしょう」
ヴィーア:「そうでしょうか……」
エルフ族の青年:「ずっと穏やかな気持ちでいることが重要です。そして、ユニコーンと心を通わせたい、と。私たちの試練を乗り越えた貴方ですから、きっと、ユニコーンも認めてくれますよ」
ヴィーア:「……有難うございます」
エルフ族の青年:「何もアドバイスらしいことが出来なくて申し訳ないのですが」
ヴィーア:「いいえ、何だか自信がつきました」
エルフ族の青年:「それは良かった」
ヴィーア:「頑張ってみますね。とりあえず、またあの窟の中へ行ってみないと」
エルフ族の青年:「頑張って下さいね。ところで、あの……」
ヴィーア:「はい、何か?」
エルフ族の青年:「……実は、ユニコーンが心を開いたというその笛を聞いてみたいのですが……折角此処までいらしたのですし、エルフの者は楽器も多少は扱えます。宜しければ、皆で演奏しませんか? 私たちはユニコーン共々貴方を歓迎します」
ヴィーア:「え、良いんですか!?」
エルフ族の青年:「もちろん、私も是非聞いてみたいです。何の笛を使うのですか?」
ヴィーア:「笛は色々な種類を持っているのですが……今日は、警戒されたときのためにパンフルートという笛を用意してきたんです。皆さんの警戒を解そうと思いまして」
エルフ族の青年:「それは良い! 警戒はしてませんが、是非聞かせてください。ええと……」
ヴィーア:「ああ、そう云えば自己紹介がまだでしたね。僕はヴィーア・グレアと云います」
エルフ族の青年:「ヴィーアさんですか、失礼しました。どうぞこちらへいらしてください。すぐに宴の用意をしましょう」
ヴィーア:「宴だなんて、そんなことまでして頂かなくても」
エルフ族の青年:「始めにも云いましたが、本当にお客様は久しぶりなんです。祝わせてください」
エルフ族の青年は、始終穏やかだった笑顔を更に楽しそうにさせて建物の中へ促す仕草をしている。ここまで云われてしまっては、仕方がない。エルフの一族と一緒に演奏するだなんて滅多にないことだろうし、ヴィーアは素直に厚意に甘えることにした。
別に急がなくてもユニコーンは逃げないし、何より難しいと思っていたエルフ族の集落に着いてしまったのだ。
ユニコーンとの心の通わせ方は、簡単なようでいて難しい。エルフ族に聞いても本当にユニコーンと心を通わせることが出来るかどうかは判らなかったが、手に持ったパンフルートからその気持ちを励ますような空気が溢れてきた気がした。
足元には、いつの間にか連れて来てくれたうさぎがちょこんと立ってヴィーアを見上げている。
ヴィーアはにこ、と笑い返して、青年の後に続いた。
▼4.
始めから決めていた通り、軽快で明るい音楽を選んで吹いたヴィーアだったが、エルフ族の皆はとても喜んで、楽しげに思い思いの楽器で参加してきてくれた。
とても気さくなひとたちで、ヴィーアは思いがけず楽しい時間を過ごせた。
だが、楽しい時間は本当に夢のように早く過ぎ去り。
最後に、エルフ族に伝わる曲というものを教わって、ヴィーアは集落を後にした。
何より驚いたのが挨拶をして集落を出て、どの方向から来たのかと少し迷いながら歩いたらすぐに目印にした木に辿り着いてしまったことだ。
ヴィーアは見覚えのある赤い布に手をかけて、始まりも終わりも本当に呆気ないと残念に思って溜息を吐いた。きっと、そうでもしないとエルフ族はエルフ族として成り立たないのだろうけれど、まだ木々のざわめきの向こうに先ほどの音楽が流れてくるような気がして、ヴィーアは目を閉じて耳を澄ませた。
変わらずに流れつづけるのはやはり自然のつくり出す音に違いなかったが、何故かそのリズムが先ほど教わったエルフ族の音楽のように聞こえてきて。ヴィーアはそこでやっと納得が行って、今度は感嘆の溜息を吐いた。
エルフ族がユニコーンと心を通わせることが出来るのは他でもない彼らがエルフ族であるからだ。そして彼らは、音楽などを通してユニコーンを交流を持っていると云っていた。
ならば、先ほど教わった曲―――自然の音と同化してしまいそうで、けれどどこか幻想的に響くその曲で、ユニコーンは再び姿を現してくれるのではないだろうか。その後は、全て自分次第―――ヴィーアの心が通じるかどうかの話だ。
判らないと云いつつ、結局方法を教えてくれた彼ら―――それが笛のお礼なのか友好の証なのかは判らなかったが、ヴィーアはお礼を云わずにはいられなかった。
ヴィーア:「……有難う―――」
森の奥に向けて放ったその言葉に、木々のざわめきがいっそう激しくなって、まるで応えてくれているようだとヴィーアは思った。
END.
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