<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


青き夢

<オープニング>

「どこかに優秀な騎士様はいないかねえ」
 夜珍しく、聖都エルザードでもかなり有名な肝っ玉母さんが酒をちびちび零しながら言った。
 マスターは心配そうに聞く。
「どうしたんだい?」
「いやねえ、ウチの子が、もうすぐエルザード王立魔法学校に入れる年になるんだけどねえ。どうしても、騎士にはなりたくないなんて駄々をこね始めてるんだ」
「それはまあ……。だが、それはその坊主の勝手なんじゃないかい?」
「まあねえ、アタシだってそうは思うよ。でも、今のウチの子は、……逃げてるだけな気がするよ」
「……逃げてる?」
「ああ、「西」に来た、アセシナート軍に……友達がやれちまってねえ」
「……ああ」
「あの子は、その前は、ホントに騎士になりたがっていたんだ」
 中年の女は、一言だけそう呟いた。マスターは、痛ましげにその目を歪ませて、紙片を一つその女に渡した。
「……これは?」
「ここら辺で一番簡単なダンジョンだよ。ここに誰か優秀な冒険者を探して一緒に行かせてみればいい。……それでわかるだろうよ」
「ありがとうよ」

 翌日、その女が経営する店先に
『優秀な冒険者募集っ!!』
という張り紙が出された。


1.集まりし者たち

「よう、おばさん。約束どおり、アイラスとケイシスを連れて来たぜ。ついでにニコラスと茉莉も同行してくれるそうだ」
 チャリンチャリンという店の扉の鈴を鳴らして、大男が入ってきた。腕が四本あり、それぞれに剣、斧、鉄球、金槌を装備しており、白虎模様の鎧を着用している。この店のお客の中でもかなり古参の部類の入るシグルマだ。背後には冒険者らしい四人がいる。その店の店長である中年の女は笑った。
「ありがとよ、シグラマ。あんたはやっぱり顔が広いねえ。すぐにこんな優秀な冒険者を見つけてきてくれるんだからね」
「あ、いやーつーか、俺は優秀っつーわけじゃねえし、騎士でもねぇけど、困ってる奴は放っておけねえから手伝うぜってだけで。まあ、優秀じゃなくてもいねーよりましだろ?」
 それに対し、四人のうち一人が困ったように笑った。ケイシス・パール。外見はほぼ人間と同じだが、爪と牙を持っていて角が生えている。肩には九尾の狐を乗せている。
「そうですねえ、僕も特に優秀というわけでもなく、冒険者というわけもないのですが、お力になれるようなら嬉しく思い参加させてもらいました」
 薄い青い髪と濃い青色の瞳を持ち、髪は首の後ろで束ねている青年も笑った。時折、大き目のメガネを掛け直している。アイラス・サーリアスだ。
「俺は友を亡くし消沈している少年がいると聞いたのでな。同行させてもらう」
「私も同じだ」
 その横に控えている青年と女性も言った。青年の名は、ニコラス・ジーニアン。外見年齢は二十代後半で、日本刀を携えている黒髪の剣士だ。イタリア系の顔立ちで、ハッキリとした目鼻立ちだが、目にかかる長い前髪のせいで少々分かりづらい。そして、女性の方の名は、習志野茉莉。外見年齢は三十歳程度で、白い着物に緑の帯が特徴的な、こちらも日本刀を二本携える侍だ。中年の女は四人の面を順に見て笑った。
「ありがとう。うれしいよ」
「うむ。しかし、あのダンジョンか。懐かしいな。俺も二十年位前はあそこに通っていたぞ。修行として最奥部に日付と名前を書いた札を置きに何度もな。感慨深いな」
「へえ〜。凄いですねえ。さすが年期が違いますねえ」
 シグルマの言葉にアイラスが感心する。茉莉とニコラスも頷いた。ケイシスがシグルマにちょこちょこと近づく。
「じゃあさ、じゃあさ、ダンジョンの効率良い行き方、教えてくれよ」
 シグルマはその頭をポンと撫でる。
「そりゃあ、自分で掴まんと面白くないだろ」
「んーそれはそっか」

2.子ども連れ出し大作戦

「それで、ウチの……肝心のセトルなんだけど。あれ以来、ふさぎ込んじまって部屋から一歩も出てこないんだよ。せっかく来てもらって悪いんだけど……どうすればいいかねええ?」
 中年の女、ネイシャは眉間を顰め、首を傾げた。シグルマは、そのネイシャの肩をグッと掴む。
「で、その坊主の部屋は?」
「二階だけど……ってちょっとあんたっ!?」
 ネイシャの言葉を半分も聞かないうちに、シグルマは二階の階段を昇り始めていた。後ろに、ニコラス、ケイシス、茉莉、アイラスも続く。アイラスは笑う。
「大丈夫ですよ。シグルマさん、面倒見いいですから」
「まあ、それはそうだけどって……って、あっ!!」
 カウンターの奥から伸びる階段の頂上にて、一瞬消えた影が戻っていた。シグルマだ。腕に何かバタバタと動くものを捕らえている。
「はなせ、おっさん、はなせっ!!」
「あーニコラス、悪いけど、コイツちょっと押さえつけておいてくれねーか」
「わかった」
 ニコラスは、シグルマからそのバタバタと動く少年を受け取り、腕と足を絡めて固定した。
「何だよ、おまえらっ!?いきなり来て何してんだよっ!?」
「あーうるせー。ちょっと黙ってろ」
「悪いようにはしませんよ。大丈夫です」
 ケイシスとアイラスが少年の言葉に応える。茉莉は腕を組み、廊下に背を預け、怜悧に目を細めていた。シグルマは持っていた袋から布製の防具を取り出す。上下に動く少年の腕から器用にそれを通し、着用した。最後に布の帽子を少年の頭に乗せ、ポンと軽く叩く。手には子供用のパチンコが握らされていた。少年は呟く。
「……っだよ」
「少し遠出をするだけだ」
 茉莉が背を壁から離した。スッと階下のネイシャに視線を傾け、少年を改めて見下ろす。
「ネイシャ殿にはもう許可を取ってある。部屋の中にずっと居るようには体が鈍るであろう。あまり母上に心配を掛けさせるな」
「う……」
「そーそーピクニックだぜー?楽しいぜ」
「そうですよ」
 ケイシスとアイラスも同意する。ニコラスもセトルをゆっくりと床に降ろし、見上げる彼にゆっくりと頷いた。シグルマも、その肩をポンと叩き、ニカッと笑う。
「頑張って来い。俺は、白山羊亭で飲んでるから後で報告に来いよ」
 そのまま階段を下り、店の外に出てしまった。アイラスは微笑む。
「じゃあ、行きますか」
 セトルはおずおずと頷いた。

3.塔へ

 セトルは一度連れ出してしまうと嘘のようにはしゃぎ出した。元々面倒見の良い性格らしいケイシスにくっついて剣や槍の使い方を教わっている。ニコラス、アイラス、茉莉は、彼らがあまり離れないように気を配りながら、ダンジョンへの道を急いだ。

 ダンジョンはそう遠くなく昼前には着いた。朝からだから、二刻いっていない位だ。高くなった陽に明らかに怪しい一階建ての塔が森の中に立っている。茉莉は目を細め、用心深くその造形を観察する。アイラスは目をキラキラさせ、ニコラスはさりげなく少年に視線をやっている。ケイシスは、すっかり懐かれてしまったらしく、セトルに片腕をしっかり掴まれていた。
「やはり、この赤いボタンだな」
「そうみたいですねえ。他に特に仕掛けらしきものは見当たりませんし」
 茉莉の呟きにアイラスが頷く。茉莉の指先には、塔の入り口の扉、すぐ隣にある赤いボタンがあった。反対側には同種のボタンがある。
「同時に押すのか?」
「片方、罠って可能性もあるんじゃねーのか?」
 ニコラスの疑問にセトルに肩をよじ登られ、角を引っ張られているケイシスが答える。セトルがパッとその肩先から降りた。
「押してみたらわかるよっ」
「あっ」
 四人の叫び。それと同時にセトルの人差し指は右の赤いボタンを押した。扉は静かに開く。
「はは……ビ……ビックリした」
 ケイシスがへなへなと座り込んだ。茉莉もフウとため息をつく。アイラスも疲れたように肩を落としたが、セトルと目が合うと不器用に微笑んだ。セトルは首を傾げる。あとの一人、ニコラスを見上げる。彼は穏やかに微笑んでていた。
「気にするな。大丈夫だ」
「あ、お兄ちゃん……えーとさっきみんなに名前おしえてもらったよね。うーとたしか、ニコラスさん」
「呼び捨てで構わない」
「そっか。ニコラス、笑うとやさしそうに見える」
「え」
「わー照れてる」
 ドカッとニコラスの肩に復活したケイシスが乗った。
「そうですよねえ。ニコラスさん、あまり笑わないですからねえ」
 アイラスもにこにこと参戦した。
「うっそれは……」
「――取り合えず、先を急がないか?」
 茉莉が提言し、扉の先を指し示した。

4.塔内部

 扉の先は雑魚モンスターが大量発生していた。次から次へと低級モンスターが襲ってくる。戦闘は、まずニコラスがまず先鋒を切り、次にケイシス、茉莉がそのサポートをした。そしてアイラスは、主にセトルの周囲の敵を無力化することに集中する。そんな調子が地下9階まで続いた。

「な、なんだよっ!!ピクニックじゃなかったのかよっ!!」
 ようやく、モンスターを全滅したところでセトルが叫んだ。地下十階への狭い階段。後ろにアイラス、前に茉莉に囲まれていた。ニコラスがやはり先頭で次にケイシスが続く。石造りの段差は妙に湿っていて滑りやすい。その上照明が、四人が予め用意していた松明しかなかったから、足元が危うかった。セトルは、壁のツッパリにしがみつきながら、頬を膨らませていた。
「あ、いえ……でも、ピクニックでしょう?ちょっとスリリング溢れる」
 アイラスはにっこりと笑う。
「そーそーピクニックピクニック」
 ケイシスも楽しそうに言う。
「違―うっ!!」
「そろそろ次の階に出るようだぞ」
 バタバタするセトルに先頭のニコラスが告げた。
「うむ」
 茉莉が頷く。次の階への入り口は踊り場のように少し広くなっていた。光が前方から差し込んでいる。四人は一列に並び、ニコラスがその扉を開けた。

「うっぎゃあああっ!!」
 その扉を開け、部屋に入った途端、槍の雨が天井から降ってきた。アイラスはセトルを抱き上げ、走る。ニコラス、茉莉、ケイシスは刃を握り、避けられぬものは跳ね飛ばしていくが、数が多い。あられのように降り注ぐ槍に一行は、真っ直ぐに前方へと疾走した。
「何か、罠発動のボタンとか、押しちゃったんですかね?」
「いや……そんなモノは無かった筈だが」
「アイラスもニコラスもそんな落ち着いた会話してる場合じゃねーだろっ?」
「ああ、ケイラス。もうすぐ出口だぞ」
 茉莉が真っ直ぐ前を差す。赤いボタンが横についている石の扉が見えていた。一行のスピードが上がる。茉莉が最初に辿り着いた。迷わずボタンを押す。扉が開き、四人は滑り込むように外に出た。七色の光が目を惹いた。

「ここは……浮遊石の結晶が集まって出来たところのようですね」
 アイラスがその景色を一望して言った。この隣の部屋では、七色に輝く石が、底の見えない深淵の上で点々と作っていた。しかも石は、地につくことなく浮いている。試しにアイラスがこちら側の岸に一番近い石を押してみたが、下に下りる様子もないことから、この場所自体に特殊な重力が働いているようだった。
「ちょっと珍しくてワクワクしてしまいますねっ」
 アイラスはとても嬉しそうだ。瞳がまたキラキラしている。それが移ったようで、アイラスに抱かれ、ビクビクと怯えていたセトルも彼の手からひょいっと軽く飛び降り、目を輝かせた。茉莉はスッと目を細める。
「うむ。だが、とてもよく磨かれているものである分、滑りやすそうだ。気をつけねばな」
「ああ。そーだな。……って、あ、また……っ!!」
 ケイシスが頷くと同時に、またセトルがアイラスの傍を離れて、石に移っていた。石は、ちょうど大人一人分の足場、ギリギリで二人は無理だ。ケイシスは青ざめた。
「あ、あぶねーって今言ってたろっ!?早く、戻って来いっ!!」
「よせ、ケイシス君。逆効果だ……っ」
 茉莉がケイシスを制す。セトルは笑った。そして、片足を上げた。アイラスも真っ青になる。
「セトル君っ!!」
「大丈夫だってっ!!ホラッと……あ」
 ズルッとセトルの上半身がズレた。石に打たれた腰が滑り、右足が闇に突っ込まれる。セトルは両目を見開いたまま、落ちていく。
「セトルっ!!」
「セトル君っ!!」
 ケイシス、茉莉、アイラスの声が木霊する。その横を黒い影が通りすがった。ニコラスだ。彼は迷わず闇の中へ落ちていった。
「ニコラス君っ!!」
 茉莉の声が追いかける。それが反響せぬままに、本人が深淵より姿を現した。その背には黒い翼が生えている。
「ニコラス君……そうか君は、“魔族”だったな」
 茉莉は微笑んだ。ニコラスの腕の中の少年がビクッと震える。茉莉はそれをスッと観察した。セトルは、ニコラスの腕から無事、四人がいる元へと降り、座り込んだ。アイラスとケイシスが駆け寄る。
「良かったっ良かったです〜っ!!」
「もうあんなバカな真似すんじゃねえぞっ!!もう俺らから離れんなっバカっ!!」
「……アイラス兄ちゃん。ケイシス兄ちゃん。……うん」
「……大丈夫か?怪我はなかったか?」
 ニコラスも膝を折り曲げ、腰をかがめて、セトルに目を合わせた。セトルは怯えたように後ずさる。ニコラスは首を傾げる。セトルは首を何回も横に振る。歯をカチカチと鳴らせていた。
「ま、魔族……っ!!イヤだお願い殺さないで……助けて……っ!!」
「……!!」
「クルースぅ。……ゴメンね。オレが“きし”さまに話しかけようなんてしなければ……っ!!だって大丈夫だと思ったんだ。……イキナリこうげきしてくるなんて思わなかったんだよ……っ!!……だけど、クルースぅ。オレは、にげて……おまえはあの黒いはねのあくまにころされた……でもオレ、まだ死にたくないよ……!!」
「……」
「ニコラス、行くぞ。アイラスかケイシス、セトルをおぶってやれ」
 茉莉が言った。アイラスはセトルの顔を覗き見た。ニコラスは黙って破けた背中を見せて、向こう岸に一人飛んでいった。アイラスはゆっくりと笑む。ケイシスも何も言わずその頭を撫でた。セトルはおずおずとその手を差し出した。震えているその手をアイラスとケイシスが力強く握った。セトルは自分の足で立った。ケイシスは言う。
「ここはやべーから、黙って俺らに頼っとけ、おぶされ」
「……うん」
 寄りかかったケイシスの背でまた、セトルは少しだけ泣いた。浮遊石の小道を渡りきると、もう既に他のニコラス、アイラス、茉莉は到着していた。次の扉が岸辺の前方に見えていた。

 次の扉の前にはパイプオルガンが置かれていた。岸辺からここまでの道はずっと石の暗い洞窟のようなもので、手元の明かりだけでは鍵盤の位置を正確に知ることは出来ない。茉莉は松明を傾け、横の壁を照らし、五線譜を確認してからアイラスを窺った。
「あっなるほどー。今回は、楽器入力で扉解除ですか。簡単と言われているダンジョンですけど、結構凝ってますね」
「確か、アイラス君は、楽器が得意であったろう」
「え、ええ、一応……それなりには」
「へえ。凄―なあっ!!」
 ケイシスは素直に驚く。片手はセトルに繋がられたままだ。ニコラスは、黙している。
「それでは、この仕掛けは、簡単だな。頼む」
「わかりました」
 茉莉ににっこりと笑ってアイラスはパイプオルガンに手を滑らせた。
『運命』第9章。
一通り、弾き終わると、扉が開いた。何か巨大なものがアイラスの頬を掠った。ハッとアイラスは振り向く。巨大なモンスターの腕だ。その先にはセトルがいる。その前を黒い影が遮った。
「……ニコラスさんっ!!」
アイラスの叫び。茉莉とケイシスはすぐさまそのモンスターに刃を抜いた。モンスターの背は天井に届くくらいあり、優に人間の二、三倍はあった。その太い指先がニコラスの肩に突き刺さり、抜かれた。血が流れ出る。一滴がセトルの頬にかかり、ニコラスは彼の膝上で倒れた。腰を落としたセトルの服が血に濡れていく。アイラスが駆け寄る。
「血……っ!!止血……っ!!」
 アイラスは腰の皮袋からテキパキと薬草を出し、ニコラスの肩に巻き付ける。清潔そうな布も同じところから取り、上に被せ結ぶ。ニコラスは笑った。
「大丈夫か?怪我は、無いか?」
 セトルの髪先に指を絡め、目を細めた。セトルは、その指先を握った。震える。ニコラスは微笑んだ。
「……すまなかったな。俺とは何の関係もない同族とはいえ……セトルの友を奪ったのは事実だ。憎んでくれて構わない」
「ニコラスさんっ!!あまり喋らないで下さい。安静にしていて」
 アイラスが叫ぶ。
巨大モンスター、トロールは、黒い棍棒を振り回し、ケイシス、茉莉に振り下ろしている。二人は巧みに避け、一太刀を浴びせ、また遠くに跳ぶ。トロールは無数の血筋が流れる腕を振り上げ、地面へと落とした。ズシーンという振音が、アイラスとニコラス、セトルも揺らした。ケイシスが叫ぶ。
「セトル、お前、誰を庇ってニコラスが怪我したのかわかってんのかっ?」
 ケイシスは、腰に下げている小刀をトロールの腕に突き刺す。トロールは「うおーっ」と叫び、ますます怒り狂いながら、ケイシスを追う。そのバックを茉莉が取る。右足を深く斬り、トロールは片膝をついた。茉莉は言う。
「今、君が闘わねばならぬのは、己自身の過去かっ!?よく目を見開き考えてみよ。君が守りたいもの、失くしたくないものを考えてみよ。……それが君の目指した“道”ではなかったのかっ!?」
「……!!」
「セトル君っ!?」
 アイラスが慌てる。セトルは立ち上がっていた。
「……オレ、ニコラス、好きだよ。ケイシス、茉莉、アイラス、皆、好きだよ。……失くしたくないよ。……守りたいんだっ!!」
「……うん」
 アイラスは微笑む。パチンコを構えたセトルの両手を掴んだ。ニコラスも肩を押さえながら起き上がる。茉莉、ケイシスに目配せをする。
「俺が、合図をする。そうしたら、トロールの目にそのパチンコの球を当ててやれ」
 ケイシスがトロールの頬をギリギリ掠るように小刀を投げた。トロールが一瞬右のケイシスの動きに気を取られる。左に回りこんでいた茉莉が、素早く肩先に上り、その肌に深く刺した。思わず、トロールが肩を押さえてうずくまる。
「今だ……っ!!」
 アイラスに支えられたセトルの弾がトロールの目に命中し、爆発した。次の瞬間、トロールは目から大量の血を流し倒れていた。

5.後日談

 後日、白羊亭にて。
「それにしても、よかったな。あの坊主、無事にエルザード王立魔法学校にも受かったそうじゃねーか。戻ってきた時も嬉しそうだったし。俺の「本当に騎士になりたいのか」という問いかけにもキッチリ答えていたしな」
 シグルマはいつもどおり酒を開けていた。アイラスは笑う。
「ええ、ハッキリと“騎士”になりたいと。何かを守れる者になりたいと言ってましたからね」
 ケイシスもその隣にドカッと座った。
「あーそれに関しちゃ、茉莉のお手柄だったよなー」
 茉莉は、ルディアに酒のお代わりを頼みつつ、微笑む。
「いやそれは……あの者が自分から望み、変えたいと思ったから、私はそれを少しだけ後押しをしただけだ。それに……最後の化け物、あれが“ミラーイメージ”だと教えてくれたのはシグルマ殿だったしな」
「えーでもさ、それを利用して、一芝居打とうなんて、考えつく茉莉は凄―ってっ!!」
 ケイシスはカラカラとグラスを揺らし、豪快に笑う。ニコラスも頷く。
「ああ。俺もそれに異論は無い」
「というか、ニコラスさんっ!!怪我は大丈夫なんですかっ!?」
 アイラスが叫ぶ。ニコラスは軽く怪我した肩を回してみせた。
「もう、大丈夫だ。元々急所ははずしていたからな」
「んーでもなんで、怪我しちまったんだ?だってアレ、幻影だろ?」
 ケイシスは首を傾げる。茉莉はお代わりをカウンターから貰って喉をすすぎ言った。
「幻影と言えども、こちらが現実と思えば現実になる。そういうものだ。その上、あの時は入り口の罠が発動して見えにくかったが槍が1本飛んで来ていたからな」
「へー……そうだったのか」
「お二人とも流石ですねえ」
 ケイシスとアイラスは感心する。
「ま、なかなか楽しい冒険になったようで良かったじゃねーか」
 シグルマが笑った。
「つーかさ、あのダンジョンの宝、ほとんど根こそぎやられていたのって、シグルマが行ってたせいじゃ……」
「同じく……あの札の量は……シグルマさんの名前以外、見つかりませんでしたしねえ……最奥の部屋から溢れてましたしね」
 ケイシスとアイラスが呟く。
「年期の違いだな」
「ああ」
 茉莉とニコラスは静かにグラスを交わした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1754/ニコラス・ジーニアン/男性/220歳/剣士】
【1771/習志野茉莉/女性/37歳/侍】
【1217/ケイシス・パール/男性/18歳/退魔師見習い】
【0812/シグルマ/男性/35歳/戦士】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/軽戦士】

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■         ライター通信          ■
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アイラス・サーリアスさま
二度目のご発注、ありがとうございます(^^)
お届けが大変遅くなり申し訳ありませんでしたm(__)m
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
私個人としては今回も大変楽しんで書かせていただきました!
アイラスさんはもっと丁寧な物腰で毒の無い癒し系の方だと
私は思っているのですが
今回のノベルでもどうにもポロリと毒が流れていて申し訳ありませんm(__)m
あと、先日はファンレターもありがとうございました。
ありがたく拝読させていただきました。

ご感想等、ありましたらまた寄せていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、またのご発注もお待ちしております