<PCクエストノベル(3人)>


双子の歌声、歯車の紡ぎ出すもの 〜ウィンショーの双塔〜

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【冒険者一覧】
■1805/スラッシュ/探索士
■0402/日和佐 幸也/医学生
■1829/チェリー/デュエリスト

【助力探求者】
■キャビィ・エグゼイン/盗賊

【その他登場人物】
■子供/旅人宿の子供
■旅の商人/商人

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【序】

スラッシュ:「これが……塔の仕掛けを書いたものだ」

 聖獣界ソーン。三十六の聖獣が守護する、夢と現実のはざまに立つ大地。
 旅人達の憩いの宿、平原の一軒家の食堂に、数人の冒険者が顔をつき合わせ、なにやら話をしていた。
 彼らを集めた本人、スラッシュが、簡単な図解とメモの書き込まれた紙を差し出し、目の前にいた盗賊、キャビィ・エグゼインに渡す。

キャビィ:「オッケ、なっかなかキビシイダンジョンね!久々に腕が鳴るわ〜」
チェリー:「なになに!ボクにも見せて〜」

 一瞥して罠の仕組みを理解したキャビィの横から、まだあどけない表情を残した少女、チェリーが顔を出した。反対側から同じく紙を覗き込んだ日和佐 幸也は、頷いて興味深げに呟く。

幸也:「オルゴールに、無限階段か。古代の知恵っていうのは、面白いですね」
スラッシュ:「俺が行った限りの情報だが…ある程度信頼は、できると思う」

 スラッシュは、過去に二度、この図解にある塔――ウィンショーの双塔に足を運び、その入り組んだ罠と仕掛けを、あと一歩のところまで解き明かしていた。そして辿り着いた、「伝説の宝」への最後の突破方法は、二つの塔の仕掛けを同時に動かすことで、最上階への道が開くというものだ。そこで彼はいったん出直し、自分と同じ技量を備えた仲間を募り、塔の最寄り宿であるここに集結させたのだった。

キャビィ:「わかった、かたっぽの塔はまっかせて!で、あたしは誰と行けばいいの?」
スラッシュ:「そうだな――バランスを考えて」

 胸を叩くキャビィから視線を移動させ、その横にいるチェリーを見る。彼女は戦闘に秀でた能力を持っており、スラッシュに比べると比較的非力なキャビィのサポートに回れそうだ。
 その視線から意味を汲み取ったのか、チェリーは元気に手を挙げた。

チェリー:「りょーかいっ、ボク、キャビィさんと行くっ」
幸也:「となると、俺がスラッシュさんと組むことになりますか」
スラッシュ:「……妥当な所だろう。じゃあ」

 幸也も頷き、承知する。編成も決まったところで、次は仕掛けを発動させるタイミングを相談しようと、スラッシュが懐中時計を取り出したとき、その背中に聞き覚えのある声がかかった。

旅の商人:「あっ!旦那!」
スラッシュ:「――あんたは」

 この近くで、一度会ったことがある。
 スラッシュがウィンショーの双塔に初めて行ったとき、彼に道順を教え、探索に失敗した際に助けられた商人だ。彼は集まっている冒険者達を見渡し、それからスラッシュに言った。

旅の商人:「そのカッコは、またあの塔に行く…って算段ですかね?いや、ウワサは聞いとりやすぜ、よくアノ塔の謎をお解きンなって」
スラッシュ:「……そうか。あんたも、ウィンショーの双塔に行ったことが」

 はじめに会ったとき、そう言っていたな。商人は曖昧に頷き、それからおもむろに背負子を降ろして、何やら対になった貝を取り出した。

旅の商人:「と、ココでそんな旦那がたにオススメの商品をご紹介!コイツがあれば、離れたトコでもお互い話が出来る、双子貝の貝殻!」
スラッシュ:「…!」

 スラッシュはその姿にいったん目をとめたが、しかし首を降り、購入は断ろうとする。

スラッシュ:「……悪いが、無駄な買い物は」
チェリー:「わー!面白そうっ、ねえスラッシュさん、これ、きっと便利だよ〜」

 好奇心旺盛なチェリーは、出されたものにすぐ飛びついた。一つの貝に話しかけると、同じ言葉がもう一つの貝からも出てくる仕組みらしい。手にとってそれに話しかけたり、耳にあてたりしながら、少女はスラッシュのほうを見た。

スラッシュ:「………。仕方ない、幾らだ?」
旅の商人:「――いや」

 商人はここで、周りの者に聞こえぬよう、小声で何事かを告げた。

スラッシュ:「代は要らない、だと……?」
旅の商人:「そのかわりって言っちゃあ何ですがね、旦那、必ず…アノ宝を、見つけて下せえ。旦那なら……出来るでしょう?」
スラッシュ:「………」

 相手の目に、何かの事情を察し、スラッシュは無償で、その貝殻を受け取った。
 そして改めて、他の三人のほうに向き直る。

キャビィ:「なに?話は終わったの?」
スラッシュ:「ああ、出発するか……」
幸也:「……?」
チェリー:「わー!出発出発〜」

 三人のうち、幸也は先刻の会話を訝っているようだったが、ともかくも一行は宿をあとにする。最後尾で歩くスラッシュは、宿の玄関口を抜け、そこから見える双塔を仰いで、呟いた。

スラッシュ:「……どんなものが待っているか、楽しみじゃないか」

 そして、彼は、ウィンショーの双塔への最後の探求に出発した。


【1】ウィンショーの双塔・右塔:藹々

 双子の塔はあいも変わらず灰色にそびえ立ち、ふもとの人間達など歯牙にもかけない様子である。
 スラッシュは彼がずっと探索してきた右の塔へキャビィたちを、そして左の塔に自分たちが行くことを指示した。この双塔は二つがまったく同じ構造をしているという。しかし何かの間違いや仕掛けが、ないとは限らない。そこで自分の持つ限りのデータをキャビィに与え、自分は未知のところである左の塔へ行くことを選択したのだ。

キャビィ:「じゃっ、あたし達はこっちね!」
スラッシュ:「ああ……任せた」
チェリー:「そっちもがんばってね!」

 女性二人は、足取りも軽く右の塔へ入っていった。
 情報をもとに、キャビィは罠を上手く避け、チェリーを誘導する。しかし、一階の終わり、二階へ続く階段の近くまで来たとき、チェリーは突然走り出した。

チェリー:「わー、お宝の匂いがする!」
キャビィ:「お・た・か・ら!?」
チェリー:「これかな?」

 宝、という言葉に、キャビィも反応する。だがチェリーが触れようとしたものを見るなり、彼女は叫び、警告した。

キャビィ:「危ない!それはっ……」
チェリー:「…!」

 罠だ。階段へ通じる扉に仕込まれた、ガーゴイルを模した人形が、敵意を持って矢を飛ばす。しかしチェリーはそれを的確に避け、次の瞬間二本の剣を同時に抜く。

チェリー:「エイ!」

 掛け声一閃、彼女の剣さばきに、機械仕掛けの人形はあえなく地に落ちた。それと同時に、音をたてて扉が開く。
 チェリーは壊れた人形を拾い上げ、嬉しそうに道具袋にしまった。がらくたを集める、蒐集癖があるらしい。

チェリー:「えへへ、ひーろった!」
キャビィ:「ふーう…まったくもうっ」

 にこにこと部品を拾い集める少女に、キャビィは苦笑して肩をすくめた。

チェリー:「……これが、オルゴールかな?」

 順調に先へ進み、彼女達ははじめの目的地、二階のオルゴールへと到着する。これとあと一つ、七階のオルゴールを、すべて同時に発動させれば、道が開けるということだった。キャビィは頷き、商人からもらった貝に向かって話しかける。

キャビィ:「そうみたいね。やほー、こちらキャビィ。オルゴール回すよっ、いい?」
スラッシュ:『ああ……頼む』

 隣の塔にいるスラッシュの声が届くと、チェリーはオルゴールのぜんまいを、あたうる限り長く演奏が続くよう、何度も何度も巻いた。手を離すと、美しい音楽が響き始める。ついで降りてきた梯子を登り、二人は三階に向かった。

チェリー:「!!」
キャビィ:「チェリー!?」

 三階の仕掛けは、「見えない壁」だ。それを注意しようとした矢先、広い外見に走り出したチェリーが、頭を押さえて尻餅をついた。キャビィは慌てて駆け寄り、少女の様子をみる。

チェリー:「いっ…たあ」

 彼女は少しふらふらして、立つのがおぼつかないようだ。
 騒ぎを察したのか、貝殻からスラッシュが尋ねてきた。

スラッシュ:『どうした?何かあったのか』
キャビィ:「あ!なんか今、チェリーが壁にぶつかってっ……」
幸也:『軽い脳震盪…ではないでしょうか。何か冷やすものを持っていたら、頭を冷やしてみてください』

 キャビィの説明に、医術の心得があるという幸也からの返事が返ってくる。キャビィは言われたとおり、水筒の水で手拭いを濡らし、チェリーの額に押し当てた。少々コブができているようだったが、やがてチェリーは立ち上がった。

チェリー:「はう…もう大丈夫だよ…」
キャビィ:「サンキュ、幸也!」

 貝越しに礼を言い、二人はさらに上のフロアを目指す。
 罠や仕掛けを越え、時々わき道にそれて何かを拾ったりもしつつ、彼女達は七階まで到達した。

チェリー:「へへー、こんなにお宝、たーくさん!」
キャビィ:「はいはい…まったく、あたしの目にかなうような宝は、やっぱ最上階だけなのかしら」

 古代人が置き離しにしたらしい用途不明の道具類や、罠のパーツなどを集め、満面の笑顔で見せびらかすチェリー。いっぽうキャビィは、盗賊であるがゆえに、もっと金目の宝を探していたのだが、ここまではそれらしきものは見当たらなかった。

キャビィ:「ああ…アレが、七階のオルゴールね」
チェリー:「スラッシュさーん、着いたよ〜!」

 右の塔チーム、七階オルゴールに到着。
 チェリーはそれを、貝を通じて左の塔の二人へ告げた。


【2】ウィンショーの双塔・左塔:眈々

 いっぽう、下で他二人と別れ、スラッシュとともに左の塔に入った幸也は、塔内部の設計と、それを作った技術にしばし、感嘆し立ち尽くした。

幸也:「このタイル……!幾何学的に計算されつくされて……」
スラッシュ:「……無闇に踏むと…罠にかかる。俺のあとを……ついてきてくれ」

 スラッシュは罠の危険を告げ、自分で罠を解除しながら、幸也を導く。そして扉を突破し、二階へ通じる無限階段に来ると、立ち止まった。

スラッシュ:「この階段は……少し、厄介だが」
幸也:「これがあの『無限階段』ですか?ちょっと試させてくださいっ」

 知識欲に溢れる幸也はそう言って、普通に上がっては絶対に終わらない階段を、何歩も何歩も駆け上がる。

幸也:「本当に終わらない…これは凄い、なんて技術なんだ」
スラッシュ「………気は……済んだか?」

 無限階段を上がるものは、はたから見ると同じ段をずっと踏んでいるように見える。スラッシュは少し笑い、それからここの突破法――後ろ向きに階段を上がる、ことを教えた。
 無事に階段を上りきり、二階オルゴールのところまで着いた丁度そのとき、持っていた貝殻からキャビィの声が響く。

キャビィ:『やほー!こちらキャビィ、オルゴール回すよ、いい?』
スラッシュ:「ああ……頼む」
幸也:「こっちも、巻きました」

 スラッシュが返事をする間に、幸也がぜんまいを巻き、手を離す。ゆっくりと回るシリンダーが音楽を奏で、上へと続く梯子が下りてきた。

チェリー:『いっ…たあ』
幸也:「!?」
スラッシュ:「どうした、何かあったのか」
キャビィ:『あ!なんか今、チェリーが壁にぶつかってっ……』

 二人が梯子を登りきったとき、貝から小さな悲鳴が聞こえる。キャビィの答えに、医術の心得がある幸也はつと考えをめぐらせ、それから応急処置の指示をした。

幸也:「軽い脳震盪…ではないでしょうか。何か冷やすものを持っていたら、頭を冷やしてみてください」
スラッシュ:「……さすがだな。助かるよ」

 彼の指示で、チェリーは無事立ち上がったらしい。それを確認すると、左塔の二人も先を急いだ。
 三階、四階を難なく攻略し、二人は五階、この塔にまつわる碑文が置いてあるらしいフロアに到着する。と、幸也は、フロア内にある石碑に刻んである文字に目を留め、それに小走りで寄っていった。

幸也:「これは――ラテン語?」
スラッシュ:「……読めるのか」

 知っている言葉なのか、と問うスラッシュに、幸也は頷く。

幸也:「ああ…こっちの世界で何て言うかは知りませんが、俺のいた世界でも、学術に使われてる言葉です。医学用語に多いから、うちの学部は必修…といっても、解らないか…とにかく、拾い読みなら」
スラッシュ:「…何と書いてある」
幸也:「はい…ええーと、『歯車の奏でる音は、双子の塔のうたう声。なんじは歌に導かれ、天へ昇る』……」
スラッシュ:「あっちの塔と同じ…か」

 右の塔では、前に来た冒険者による書き込みがあったが、当然ながらこちらにはない。だがこの塔の法則にのっとって、碑文までもが同じに作られているようだった。

幸也:「…!!」

 五階を通り抜け、六階を攻略する二人の歩く通路、その片隅にまとめられた白骨を目にして、幸也は一瞬息を呑んだ。スラッシュは首を振り、自分が隅にやっておいたのだ、と言う。彼が前に来たとき、罠に刺さったままだった冒険者の屍骸。それを前回の帰り道に、彼は片隅にまとめておいてやったのだった。

スラッシュ:「……前に来た…冒険者らしい」
幸也:「し…死後、十数年は経過していますね……」
スラッシュ:「十年、か……」

 白骨の状態を確かめ、幸也は言った。スラッシュはその年月に、ふ、と何かを思うような目をしたが、すぐに元に戻り、七階への梯子を案内する。それを上りきり、通路を抜け、二人は七階のオルゴールに到着した。

スラッシュ:「さあ…これが七階のオルゴールだ。あっちは――どうだ」
チェリー:『スラッシュさーん、着いたよ〜!』
幸也:「……いいようですね」

 貝の声から、準備が整ったことを確かめると、スラッシュはおもむろにオルゴールに手をかける。あちらにも同じことをするように指示し、そして両方の塔のオルゴールが鳴り出した。
 ごうん、ゴゴゴ、と、仕掛けの動く音がしたかと思うと、突如真上の天井が四角く口を開け、壁がひとつずつせり出して階段になる。

スラッシュ:「……よし」

 スラッシュ、幸也、そして右の塔のキャビィ、チェリーの四人は、そろって階段を登り、そこに切り取られた青い空に向かった。


【3】ウィンショーの双塔・最上階:実々

 吹きすさぶ風のなか、屋上ともいえる天井のない八階。横を見やれば、登ってきたお互いの姿が見える。そして、ふたつの塔の間には、幅の狭い連結橋と、真ん中の小さな部屋。
 それぞれの塔の二階と七階、計四つのメロディは見事に調和して、青い空の下に美しい音楽空間を作り出していた。

スラッシュ:「……ッッ!!」

 そして、塔の頂上にそびえるは、巨大な人形。右の塔と左の塔、まったく同じ形をしたものが、天をつく高さで立っている。
 ぎちぎち、ぎち、と、不穏な音を立て、やがてそれぞれの人形はゆっくりと動き出した。

キャビィ:「ちょっと、何コレ、聞いてないわよ」
チェリー:「バトル?ねえバトルっ!?」

 チェリーが真っ先に剣を抜き、二刀流に構える。次いでスラッシュも、武器を抜いた。明らかに…敵意のある人形だ。それも、これまで設置してあった罠のなかでも、最高のプレッシャーを感じる。
 その中で幸也は、戦闘態勢に入りつつも、その巨大な人形を動かす技術に目を奪われていた。

幸也:「ロボット……機械人形、ですか。成る程、双子のロボット」
スラッシュ:「危ない!」

 スラッシュは叫び、とっさに幸也の肩を押す。倒れるようによろめいた幸也に代わって、スラッシュの頬にぴっ、と赤い筋が走る。人形の目から、鉄製の矢が発射されたのだ。

幸也:「!!」
キャビィ:「ちょっと!コレ倒していいのね!チェリーがもう、うずうずしてるわ!」
スラッシュ:「ああ、頼む!こっちもッ…」

 キャビィの声に、スラッシュは応対し、自らも短剣を構えて人形と対峙する。その間に素早い身のこなしで右の塔、チェリーは、剣を振るって躍りかかった。

チェリー:「ええーい!!これでも、くらえっ!!」

 彼女の斬撃に、人形の頭部分の装甲が剥がれた。ほとんどを歯車で構成されたその仕組みを見やり、スラッシュは自分の相手、左塔の守護人形の弱点を分析する。

スラッシュ:「動力は……頭か。ならば、首をとるまで」

 彼は呟き、相手の攻撃を上手くかわしながら、機をみて持っていた短剣を投げた。それはちょうど頭と胴体の繋ぎ目に刺さり、その連結部を破壊する。身動きが取れなくなり、首を回して目の矢を発射するばかりの人形に、彼は駆け寄り、もう一つの武器、ダガーを抜いた。

キャビィ:「あとすこしっ…」
チェリー:「ト・ド・メ!」

 右の塔でも、チェリーの振るう剣に、人形は両腕と片足を失い、動きを失っていた。そこへチェリーは、両の剣をいちどきに振り下ろし、動力の頭を完全に破壊する。

スラッシュ:「………っ!」

 時を同じくしてスラッシュも、人形の頭部、要となる場所に、的確なダガーの一撃を浴びせた。どう、と倒れ、動きを失った人形から、スラッシュは先刻投げた短剣を抜き取り、ダガーとともに鞘に収める。

幸也:「スラッシュさん、怪我は?ちょっと見せてください、応急処置をしますから」

 スラッシュは頬から、真っ赤に血を流していた。しかし受けた傷そのものは、そう深いものではないらしい。幸也は荷物から薬を取り出すと、傷口を拭って薬を塗った。

スラッシュ:「……たいしたことはないさ。もう大丈夫だ」 
キャビィ:「ね…ねーえ!ちょっと!」

 向こうの塔から、キャビィが大声を出す。地響きがして、なにかの仕掛けが動く音がした。鈍い音と、石と石とが擦れ合う音がする。

スラッシュ:「……!?」
チェリー:「うわああー、橋が広くなったよ!」

 確かに、それまで人間一人がやっと歩ける程度だった橋が、大幅に広くなっている。その様子はまるで、ここまで辿り着いた冒険者を歓迎し、宝にいざなうかのようだった。

幸也:「いよいよ…伝説の宝か」
スラッシュ:「………」

 スラッシュは頷き、それから武者震いにひとつ、肩を震わせると、おもむろに連結橋を渡り初めた。


【4】ウィンショーの双塔・連結橋:朗々

幸也:「これが…!……石をこんなに正確に加工できるなんて……道具は……」
キャビィ:「ちょっとちょっと、これぽっちってことはないでしょ?ほら、この像、なんか仕掛けはないの」

 連結橋の真ん中にある、小さな部屋…祠、とも呼べるかもしれないそこに、四人は再び集結した。その祠は、がらんどうの石の部屋に、ガーゴイル――塔内で見かけた罠と同じ姿をした、ただし大きさは人間の子供くらいある像が、入り口に背を向けて座っているというただそれだけだ。まさか、この像が宝ということもあるまい。
 スラッシュは落ち着いて、今まで得た塔に関する情報を思い起こした。

――光を抱いたガーゴイル
――重いまぶたをきょろりとあけた

 彼はふと思い立ち、像の目を見る。その瞼は、固く閉じられていた。

スラッシュ:「……目を、覚まさなきゃいけないんだ。でも、もう歌声はある……」
チェリー:「ねえねえっ、光を抱くってどういうこと?」

 この近辺に伝わる、塔に関する歌。その歌詞には、二つの塔のオルゴールが同時に鳴ったとき、宝が手に入る――というような意味のことが歌われている。しかし、この薄暗い部屋の中で、ガーゴイルは「光を抱いて」いるとは思えなかった。

幸也:「…む?そういえばこの像、どうして入り口に背中を向けているんでしょうね」
スラッシュ:「そうか…!これで、どうだ」

 力を入れ、幸也にも手伝うように頼んで、スラッシュは石の像を回転させた。ずず、ずずと重い音で、ガーゴイルの顔が、入り口のほうを向く。そこからは外の光が差し込んで、膝を抱えて座っているそれはちょうど、光を抱くという形容詞にそぐう形になった。

キャビィ:「……!」

 石の像、動かぬはずのその像に、変化が起きる。

幸也:「…目が、開いた……!」
スラッシュ:「音が――!」

 一瞬、あたりは、静寂に包まれた。塔から響いていたオルゴールの音が消えたのだ。
 しかしその静寂を破り、これまでとは全く質の違う、新たな音楽が聞こえ始めた。
 それは、まるで、天から響くようで。


子供:「うわあ!おじさん、双子の塔が、歌いだしたよ!!」
旅の商人:「―――旦那」

 冒険者達が去ったあとの宿、そのドアを開けて、子供が駆け出してきた。
 ここから少し距離のある塔から、確かに音楽が聞こえている。子供に続いて、ゆっくりと外に出た商人は、目の上に手をかざして、はるかに双塔を見やった。


チェリー:「すっごい……キレイ……」

 音楽は、弦楽器の音、管楽器の音、そして打楽器までも含めた、さながらオーケストラ演奏のような、荘厳なものだった。部屋の外に出た四人は、その音楽が、確かに両側の塔から出ていることを知る。塔の灰色の壁が、丁度塔の外周にそって、回転していた。その姿はスケールこそ違うものの、塔の内部にあったオルゴールと酷似している。

幸也:「塔…塔の、壁そのものが、オルゴールのシリンダーになっているのか?こんな…こんな巨大なものを動かし、かつ、音楽にしてしまうなんて」
スラッシュ:「そうか――伝説の、宝」
キャビィ:「この……音楽が、宝だったの…ね」

 彼らは、その演奏が終わるまで、じっと目を閉じ、耳を澄ませていた。
 ただ、スラッシュだけは、まわりに聞こえぬよう、そっと呟く。

スラッシュ:「綺麗な――声だ。双子の歌い手」

 その、妙なる調べは、彼の挑戦をねぎらい、讃えるように、空中に浮かぶ連結橋をとりまいていた。


【5】帰途:閑々

 やがて、演奏が終わり、また橋に変化が起こった。
 小部屋の下、じゃらじゃらと鎖の落ちる音がし、次いでがくん、と部屋そのものが揺れる。彼らが慌てて中を確認すると、ゆっくりと鎖の巻かれる音とともに、部屋が降下を始めた。

スラッシュ:「……!?」
幸也:「エレベーター……凄い」

 動く部屋の入り口から、外を覗き込んだ幸也は、改めて感服した。二つの塔から伸びる連結橋、その内部に格納されていたらしい鎖、左右計二本が、小部屋そのものを釣り下ろしているのだ。
 ふわり、と、ゆるやかに、部屋は着地した。

チェリー:「到着〜、ラクしたね!」
キャビィ:「はぁ…最後までとんでもない仕掛けねえ…」

 全員が部屋から出ると、部屋は再び、高い空へと帰ってゆく。それを見送り、スラッシュは三人の仲間に、言った。

スラッシュ:「……今日は、本当に…三人とも、ありがとう」

 頭を下げる彼の肩を叩いて、キャビィは腰に手をあてた。

キャビィ:「いーのいーの、気にしないで!」
幸也:「面白い塔でしたね。宝も素晴らしかった」
チェリー:「ボクも、いっぱいお宝、手に入れたしー!」

 幸也、チェリーも続いて笑う。つられてスラッシュも、少し微笑んだ。
 その空気の中、キャビィは意気揚々と提案する。

キャビィ:「さっ、じゃあみんな、今夜は打ち上げ、飲みよ、飲み!」
スラッシュ:「あ…ああ、ちょっと…皆、先に行っておいてくれないか」

 行きがけに寄った宿ではなく、少し先にある大きめの町を目指して歩き出したキャビィに、スラッシュは声をかけた。そして後で合流する、と言い、自分は踵を返す。

幸也:「……スラッシュさん、どこへ?」
スラッシュ:「……ちょっと、最後の用事が…な」

 そう言って彼は、ポケットの中にあるものを確認し、旅人宿のほうへと歩いていった。


【跋】『もうひとつの、調べ』

旅の商人:「あ、旦那!聴きましたぜ、……アレが」

 宿の外、塔のほうを眺めていた商人は、そこから歩いてきたスラッシュに声をかけた。
 スラッシュは頷き、相手に近づいて、ポケットの中から古びた手帳を取り出す。

スラッシュ:「……これ…行く前に、渡しそびれていた……」
旅の商人:「……!」

 べったりと血糊で固まったそれを見るなり、商人は驚いて言葉を失う。
 その手帳は、スラッシュが前の挑戦のとき、塔で発見した屍骸――幸也によれば、十数年前に死んだ冒険者――が残したものだった。謎解きの参考のため、一応保存しておいたのだ。彼は手帳を手渡し、低い声で言った。

スラッシュ:「右の塔で――力尽きた、あの冒険者は……あんたの」
旅の商人:「………さすが、旦那――どうしておわかりに」
スラッシュ:「……あんたに宛てたメモ…だった。それに、若い時分…なら」

 冒険の前、貝を取り出そうとしたとき降ろした背負子に刻まれた商人自身の名前を、スラッシュは見ていたのだ。

旅の商人「もう、十年以上も昔のこと……ですがね」
スラッシュ:「………」

 商人は遠くを見るような目をしたが、それ以上は語らなかった。
 スラッシュも事情を聞くようなことはせず、仲間に合流するため、その場を辞する。彼の背中が少し離れてから、商人は声をあげた。

旅の商人:「旦那!」

 外套を翻し、スラッシュは振り向く。

旅の商人:「感謝いたしやすぜ……あの、厄介な塔の野郎を、攻略してくれたこと」
スラッシュ:「……いいさ」

 軽く手を振り、彼は仲間が向かった町を目指した。
 途中、ウィンショーの双塔を通り過ぎる時、彼は足を止める。

スラッシュ:「本当に――色んなものを抱えてたな。……おまえたち」

 沈みかけた陽、白く澄んだ空。双子の塔はシルエットだけになって、相変わらず天を目指してそびえ立っている。
 塔の周りを吹きぬける風、彼の銀髪は揺れて、スラッシュはひととき目を閉じ、それからゆっくりと、塔の先へと歩き出した。


―了―


【ライターより】
こんにちは、SABASTYです。三度にわたる双塔への挑戦、誠にありがとうございました。
四名での攻略、ということで、それぞれの性格や技能を生かせれば…というところに重点を置きつつ、書かせていただきました。NPC含め、キャラさんそれぞれに個性的で、やりとりを考えるのが楽しかったです。
「伝説の宝」はかたちのないものでしたが、いかがでしたでしょうか。
これをもってこの双塔のおはなしは終了となりますので、スラッシュさんがお持ちの特別情報は消えることになります。この場でご報告をしておきますね。
それでは、またの冒険をお待ちしております。