<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


灼熱



■ オープニング

 聖都エルザードからひたすら南へ行くと、そこには火山地帯が広がっている。洞穴が無数に存在するその一帯にどうやら秘宝が眠っているらしい。
 火、水、風、地――四つの秘宝が存在する中、この灼熱の洞窟に眠っている秘宝は『火の源』と呼ばれている。つまり火の秘宝である。
「数ヶ月前に、王宮の地下深くで発見された書物に記されていたらしいわ。これは、王、直々の依頼よ」
 エスメラルダが依頼書を眺めながら説明を続ける。
「まずは洞窟を見つけないことには話にならないわね。何でも、灼熱の洞窟は、その一帯の洞窟の中では最も大きくて深いとされているらしいわ。洞窟内は複雑で、しかも魔物が多く出現するとか……」
 すでに幾人かの冒険者たちが挑んでいるらしいが、無事に帰ってきた者は少ないらしい。もちろん、秘宝を見つけた者はいない。
「さて、どうかしら? 危険な依頼だけど報酬はすごいわよ」
 微笑みながらエスメラルダは依頼書を手で揺らした。




■ 情報収集

 そこへ辿り着くまでに徒歩で半日ほどの時間を要した。南へ向かうに従い、温度は上昇していき、それに比例するように植物の数が減少していった。地面はゴツゴツしており、岩がたくさん転がっていた。それら岩の存在に意味がないわけではなく、人間大の大きな岩は日陰を作り、休憩に役立った。
 灼熱の洞窟があるとされている地帯――その付近に村があった。依頼を引き受けた三人は村に到着するとさっそく情報を仕入れることにした。
「すでに洞窟に挑んだ冒険者から話を聞くのがいいと思うんだけど? どうかな?」
 湖泉・遼介(こいずみ・りょうすけ)は額から流れる汗を拭いながら二人に提案した。
「手分けしませんか? 僕は伝承について詳しく調べてみようと思います」
 燦燦と照りつける太陽を手のひらで遮りアイラス・サーリアス(あいらす・さーりあす)は言った。「なるほど」と頷く遼介。
「洞窟についても場所を特定する必要があるだろう」
 最後の一人、習志野茉莉(ならしの・まり)がそう言うと、それぞれ分かれて情報を集めることになった。



■ 酒場にて

 遼介は街の酒場を訪れていた。やけに雰囲気が暗い。店内の客は冒険者ばかりだったが、皆一様に表情が冴えない。
「なあ、ちょっと訊きたいんだけど……」
 カウンターに座っていたヒゲ面の剣士に話しかけた。
「あんたも洞窟を探しに来たクチかい? だったら、やめときな――あそこは、並の冒険者がいくところじゃない」
「勝手に並扱いしないでくれよ。で、おっさん諦めたのか?」
「面白いガキだな。いいだろう、酒をおごってくれるのなら話してやってもいい」
 しばし思案したが報酬を考えるとそう悪い話でもない。
「いいぜ。話してくれよ」
 遼介は店主に酒を注文し、ついでに冷たい水を頼んだ。
「魔物は火の属性が多い。とにかく暑苦しい敵ばっかりだ。洞窟を見つけたのはまぐれのようなもんだが、入り口がやたらでかかったな」
「それが本物の灼熱の洞窟だって証拠はあるのか?」
「……灼熱の洞窟だけにしか存在しない魔物がいてな――火鳥といって、洞穴内を飛び回っているけったいな奴だ。あいつには特に気をつけたほうがいい」
 その後、酒がまわって気をよくした剣士は訊いてもいない昔話などを語り出した。解放されたのは深夜を回った頃であった。



■ 伝承について

 小さい村だが史書が保管されている場所が存在した。そこを管理している老人に許可をもらうとアイラスは蔵書を片っ端からチェックし始めた。エルザードでも同様に調べたのだが曖昧な記述が多く、真相は分かりにくいものであった。
「この本は……」
「ああ、それは最近、聖都から送られてきた本ですよ。何でもどこかの学者が城の地下で発見された書物の解読を行なったとかで……。私も読みましたが、伝承についてかなり詳しいところまで書いてありましたねえ」
 老人がそう教えてくれた。アイラスはさっそく本を開いてみた。
「火の源とは……古代人の比喩でありおそらく鉱物の類……」
 アイラスは本をそのまま読みながら考える。赤色の宝石と言えば、ルビー・サード二クス・ガーネットなどがある。では、火の源もそういった種類の宝石なのだろうか?
「すみません、この辺りは宝石が出たりするんですか?」
 老人に訊いてみると、
「昔は出たようですが、この一帯は火山活動が数百年周期で活発になるようで、最近ではさっぱりのようですなあ」
「そうですか――」
 その後、アイラスは日が暮れるまで本を読み続けた。



■ 洞窟と魔物

「洞穴は無数に存在したよ。見つけるのだけでも一苦労だってのに……あの洞窟、底が見えねえからな」
 若い冒険者は渋い顔をしながら話してくれた。
「洞窟にはどういう魔物が?」
 茉莉が尋ねる。
「奥へ進むに従って強力な魔物が姿を現すようになる。これは俺も聞いた話なんで信憑性は薄いんだが、どうやら灼熱の洞窟ってのは他の洞窟と比べると相当な空間の広がりがあるらしい。環境が特殊だってことだ」
「なるほど……それでは魔物の種類が」
「ご名答。あの洞窟だけにしか存在し得ない魔物がいるってわけだ。環境のせいだろうな。内部は太陽の光は差し込まないが溶岩の所為で一日中、明るい。魔物の形もかなり奇妙だって聞いたぜ」
「参考になった。礼を言う」
 茉莉は冒険者に頭を下げると再び聞き込みに戻った。一通り聞き込みが終わる頃にはすっかり陽が暮れてしまっていたが、かなり有力な情報を仕入れることが出来た。策士である彼女は得られた情報から最善の策を練る。二人の情報が加わればかなり勝算は見えるだろうと茉莉は考えた。



■ 探索T

 村を出発してから数時間ほどで最初の洞窟が見えてきた。
「ふう……。っと、まさか、これじゃないよな?」
 遼介が水を口に含みながら言った。
「さすがにそれはないでしょう。でも、中に入ってだいたいの大きさを把握しておきましょう。灼熱の洞窟は入り口が一番大きいらしいですから」
「特定の魔物が出るという話を聞いたんだが……」
 茉莉がそう言いかけると、
「火鳥っていうらしいぜ? 酒場にいた剣士がそう言ってた」
 と、遼介が付け加えた。
「――火鳥というのか。では、洞窟を調べると同時に火鳥がいないかどうかを調べてみることにしよう。もしかしたら、場所が特定できるかもしれない」
 茉莉がそう提案すると遼介とアイラスが頷いて応えた。
 しばらく歩くと、硫黄の臭いが立ち込めてきた。火山活動は比較的落ち着いているらしいが、煙を吹いている山はたくさんある。
 歩き、休み、歩き、休み、歩く――。そんな機械的な動作を繰り返し、たまに洞窟を見つけては内部を簡単にチェックする。だが、灼熱の洞窟らしきものはまだ見つからない。
「あー、あれ!」
 遼介が突然叫んだ。
 驚いた二人は――だが、すぐに遼介が指差す方向に視線を投げた。
「赤い…鳥?」
 アイラスが眼鏡のズレを直し、空を見上げた。
「間違いない、火鳥だ」
 三人は駆け出した。燃えるように輝く火鳥は一定の速度で飛んでいく。比較的ゆっくりとしたスピードだ。数分後――飛行速度をさらに遅め、急降下し始めた。高度を落としているようだ。
「ど、どこだ?」
「はぁはぁ……どうやら、あの洞窟に入ったようです」
 アイラスが息を切らしながら言う。
「よし、じゃあ中に」
「ちょっと、待ってくれ」
 遼介の進路を茉莉が阻む。
「どうしたんだ?」
「体力的にも限界に近い。水や食料のことを考えるとこれ以上の探索は危険だろう」
「そう言われてみると、水が……」
 水筒の中には水滴が残っているだけだった。
 三人は現在地を確認し、印をつけながら村に引き返した。



■ 探索U

 二回目はスムーズに洞窟の前に辿り着いた。水も食料も十分な量を確保している。
「よし、いこうぜ!」
 遼介が先陣を切って中に入っていく。残りの二人も遼介に続いた。
 内部は燃え滾る溶岩の恩恵で外と変わらぬ明るさを保っていた。
「どうやら、分かれ道のようですね……。どうしますか?」
 アイラスが立ち止まり二人に問いかけた。
「ちょっと、待ってて」
 遼介がバッグからスプレーを出し手に握った。
「目印か」
 茉莉が訊くと遼介は「そうそう」と言って、壁にスプレーを付着させた。矢印の方向が出口を向いている。
 洞窟内部は気温が高いようだが、耐えられないほどでもなかった。
 ――ギャァァァ!!
 狭い通路を抜けたと思ったら今度は広い空間――そこに魔物が溜まっていた。
「――きたな!」
 遼介が真っ先に走り出す。そのスピードは魔物を翻弄するほどの俊足ぶりだ。そして、敵の背後に回りこみ、剣を一閃。アイラスと茉莉は後ろから遼介を援護する。皆、攻守ともに優れていたためバランスの良い戦闘が展開できた。
 遼介が前衛を、茉莉は自ら攻撃をすることもあるが主に二人へ指示を送っていた。的確な指示に二人も迷うことなく攻撃に集中することが出来た。
 と、その時……。
 ――バサ、バサ!
 突如出現した飛翔する鳥に三人は目を奪われた。
「危ない!」
 アイラスが叫ぶ。
 火鳥が遼介に襲い掛かる。
「――チッ! 仕方ない」
 ――グォォォォ!!
 遼介は竜人型ヴィジョンを召喚した。火鳥は怯まずヴィジョンに向っていく。激しい攻防が繰り返されるが火鳥は次第に押されていった。
「よし、トドメだ!」
 遼介は壁を使い高くジャンプする。天井スレスレのところで急降下――。
 そして、剣を振り下ろす。
 火鳥は悲痛な悲鳴を上げ消滅した。
「……ふう、何とか切り抜けましたね」
「まだまだ気は抜けない。今が、どのあたりなのかも分からないのだからな」
 茉莉が大きく息を吐く。
「一体、どこまで続いてるんだろうな……」
 洞窟の奥を覗き込む遼介。
 休憩を挟み、再び出発することになった一行。三十分ほど進むと暑さは気にならなくなってきた。どうやら溶岩が硬化しているようで、熱源があまりないようなのだ。
「だいぶ、楽になってきたな」
 遼介が言うと、
「一応、防寒着を用意してきました。火山地帯だからと言っても、深く潜ると場所によっては逆に凍り付いていたりするらしいですから」
 と、アイラスが説明した。
「いや、その必要はないみたいだよ」
 茉莉が急に立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「あ……」
 アイラスも気づいたようだ。
 溶岩が固まっているため薄暗い洞窟。しかし、赤く光る物体が一つ。
 三人は無言で歩き出した。
 細長い通路を抜ける。
 そこは、球体空間。
 まるで人工的に穴を掘ったのではないかと思えるほど壁は精巧な形をしていた。
「……これね」
 赤く眩い光を放つ巨大な宝石。壁の中から浮き出るように――その存在を誇示しているかのように――。 
「火山活動は数百年周期で繰り返されるのだと村の人が言っていました。もともと、宝石などが発掘される地帯だと言う話です。おそらく、採掘不可能な数百年の間に、これほど巨大な原石が生まれたのでしょう」
「うーん、なるほど……。で、これが火の源なのか?」
「間違いないだろう。他の通路は全て行き止まりだったわけだし……」
 茉莉が壁に寄りかかり言う。
「火の源という比喩が示すものはこの巨大な宝石しかありえませんよ」
 アイラスが自信ありげに胸を張って見せた。



■ 帰還

「おめでとう。王宮の学者たちが調べた結果、『火の源』に間違いないそうよ」
 エスメラルダが微笑みながら三人に結果を告げた。周囲にいた冒険者たちがざわめく。
「へへ、これで少しは俺の名も有名になるかもな」
 遼介の顔は緩みきっていた。
「ところで、あの宝石は一体、何だったんですか?」
 アイラスがエスメラルダに尋ねる。
「伝承では、火山、湖、山脈、砂丘――この四つの地域にそれぞれの源があるとされているの。今回の火の源があったのは火山地帯にある灼熱の洞窟。数百年周期に起きる火山活動と、あの特殊な地形がもたらした宝石が火の源ってわけ」
「つまり、普通ではありえない環境が生み出した超自然の産物というわけか……」
 茉莉がそう付け加えるとエスメラルダが頷いてみせた。
「とにかく、お疲れ様。あ、そうそう。これが約束の報酬ね」
 カウンターの上に金貨の詰まった袋が三つ。
 その日、黒山羊亭の灯が消えることはなかった。



<終>



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【1856/湖泉・遼介/男/15歳/ヴィジョン使い・武道家】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/軽戦士】
【1771/習志野茉莉/女/37歳/侍】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

この度は黒山羊亭冒険記「灼熱」にご参加いただきありがとうございます。遅くなって申し訳ございません。
今回は『火の源』ということでしたが、残りの三つについても四月に水、五月に風、六月に地、という具合にやってみようかと考えています。つまり、シリーズ物ですね。
■ 酒場にて ■ 伝承について ■ 洞窟と魔物 の三つに関してはそれぞれ個別ですが、結局全体としては皆さん、同じものになっています。その後の話で関連性があるのでこのような形にしてみました。
それでは、失礼させていただきます。またのご参加をお待ちしております。

 担当ライター 周防ツカサ