<PCクエストノベル(4人)>


呪われた宝石

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1892 / ラピス・リンディア / 魔女 】
【 0401/ フェイルーン・フラスカティ / 魔法戦士】
【 1728/ 不安田 / 暗殺拳士 】
【 1805/ スラッシュ / 探索士】
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フェイルーン:へえ、これが封印の塔なんだ! 大きいな〜。

 大きな剣を背負った金髪の少女が、封印の塔を見上げながら明るく声を上げる。彼女の名はフェイルーン・フラスカティ。大きな青い瞳の愛らしい少女だが、見た目に騙されると痛い目にあう。こう見えて、彼女は腕っ節の強い魔法戦士なのだ。

ラピス:ええ、そうですね。まさかこんなに大きいなんて……。やはり、魔物と戦うためにはこれくらいの大きさが必要なのかもしれませんね。心してかからないと。

 背の高い、長い金髪をゆるく結った女性――ラピス・リンディアが、真剣な面持ちでそれに答える。紫色のローブに身を包んだ穏やかそうな容貌の彼女は、強い力のある魔女だった。厳しい眼差しで封印の塔を見上げている。
 封印の塔とは、呪われたアイテムを封印するためにある塔だ。
 呪われたアイテムの中には、壊そうとしても壊すことのできないアイテムが存在する。
 それを封印するためにあるのが、この封印の塔だ。
 この塔で、呪われたアイテムは魔物へと変わる。その魔物を倒すことができれば、アイテムを封印することができるのだ。

不安田:でも、のぼりたくないですね……こんな高い塔。

 ふわぁ、とあくびをしながら、やる気のなさそうな様子で不安田が言う。
 だが、だらりとした風情ではあるものの、この黒髪の青年は見た目に似合わず暗殺拳士だったりするのだ。もちろん、仕事のときはこのふにゃっとした様子はなりをひそめるのだったが、今のこの気の抜けた様子を見て彼が暗殺拳士であると見抜けるものはほとんどいないだろう。そういう意味では、彼は暗殺拳士としては非常にふさわしいともいえる。

ラピス:……。アイテムを無事に封印できたら、お気楽亭でなにか1品ご馳走させていただきます。
フェイルーン:わ、ラピスちゃんってば太っ腹! えっとね〜、ハルフ村の温泉水で作る美容に効果のあるジュ−スとか、永遠の炎で焼いたステーキ定食とかがオススメだよ! もちろん、お気楽亭の料理は全部オススメだけどね〜。

 仕方なくラピスが提案すると、フェイルーンが明るく声を上げる。
 彼女は、4人が封印の塔へくるきっかけとなった、お気楽亭の店主なのだ。
スラッシュ:まったく……。しょうのないヤツだな……。

 その言葉が、誰に対して発せられたものなのかはよくわからない。
 スラッシュの眼差しは、封印の塔へと向けられていた。
 乱暴に切りそろえられた銀髪の、鋭い銀色の瞳を持つ青年は、どこか憂いのある面持ちをしていた。それが常のものであるせいか、心情をおしはかることは難しい。

不安田:ああ、いいですね〜。1品だけですか?
ラピス:……飲み物もおつけいたします。
不安田:わかりました、じゃあ早く行きましょう!

 ラピスの言葉に俄然やる気が出たらしく、すたすたと塔の方へ歩いて行く。
ラピス:あ、待ってください、ひとりで行ったら危ないですよ!
フェイルーン:あはは、でも、早く行こうよ〜なんかドキドキしちゃうもん!

 言いながら、ラピスとフェイルーンは不安田を追いかける。

スラッシュ:本当に現金だな……。

 スラッシュはぽそりとぼやきつつ、ゆっくりと3人のあとを追いかけた。
 そうして4人は、封印の塔へと足を踏み入れた。
 塔の中は思ったよりも広い。
 大きなホールのようになっていて、壁や床には茶色に変色したしみがついている。

フェイルーン:うわ〜、ねえ、ラピスちゃん、あのしみってなんだろうね?
ラピス:きっと、血のしみではないでしょうか……。壮絶な戦いが行われているのでしょうね。……この宝石からは、大した魔物は出てこなければいいのだけれど……。

 ラピスは懐からまるで血のような色をした宝石を取り出し、ほう、とため息をついた。
 その宝石は一見ただの宝石のようにも見えたが、実はただの宝石などではなかった。
 3つの願いを叶えてくれるものの、その代償に所有者の血液をすべて吸い尽くす。それがこの宝石に秘められた力だった。
 ラピスはひょんなことからそれを手に入れ、封印するためにこの塔へとやってきたのだ。

不安田:でも、どうやると魔物が出てくるんでしょうね。

 不安田が不思議そうに口にする。

ラピス:言われてみれば……。

 具体的にどうするべきかまでは聞いていなかった。
 塔守のところにでも行って、聞いてくるべきかもしれない。

スラッシュ:……あそこに置くんじゃないか?

 と、ラピスが塔守のところへ行こうと提案しかけたそのとき、スラッシュが遠くを指差した。
 遠すぎてよくは見えないが、どうやら、台座のようなものがあるらしい。その近くには、なにか石板のようなものがかかげられている。

フェイルーン:じゃあ、行ってみよ〜!

 フェイルーンが警戒することもなくすたすたと近づいていく。

ラピス:あ、危ないですよ!

 ラピスがとめようとしたが、既に遅かった。フェイルーンはすでに石板の前までたどりついている。

フェイルーン:えーっと、やっぱり、ここに置けばいいみたいだよ〜!

 フェイルーンが振り返り、ぶんぶんと手を振った。
 3人はそれぞれにフェイルーンへと駆け寄る。
 すると、たしかに、石板にはアイテムをここに置くように、と書いてあった。

スラッシュ:ここに置けばいい、か……。どんな魔物が出てくるかは書いていないな。
不安田:試してからのお楽しみ、ってやつですかね〜。
ラピス:……あまり楽しくありませんけどね。

 くすくすと笑いながらラピスがツッコミを入れる。

ラピス:まあ、とにかく、やってみましょう。いいですか?
フェイルーン:大丈夫だよ〜!
不安田:大丈夫です。
スラッシュ:……ああ、大丈夫だ。

 ラピスの問いかけに、3人はそれぞれに答えてきた。
 ラピスはうなずいて、手にしていた宝石を台座に置いた。
 すると、宝石が妖しく輝きはじめる。
 ラピスは後方へ退いた。その代わりに、フェイルーンとスラッシュ、不安田が前へ出る。
 その瞬間、宝石から影のようなものがたちのぼった。
 それはすぐにかたまって、竜の尾をもった、三つ首の黒犬の姿となる。
 毛並みは闇のように黒く、歯や舌までも同じ色をしている。目はぎらぎらと赤く輝いて、低く唸り声を上げている。
 ケルベロスは吠えると、前衛の3人に向かって炎を吐きかける。

ラピス:雪の精霊よ……氷の盾を!

 ラピスの命に応じて、雪の精霊たちが前衛の3人の前に氷のバリアーをはりめぐらせる。

フェイルーン:ありがとうラピスちゃん! 助かったよ〜。

 フェイルーンが、気楽に手を振ってくる。ラピスは手を振り返した。

スラッシュ:だが……ケルベロスとなると厄介だな。炎を吐く以外はただの犬のようなものだが……。
不安田:うかつに近づいたら燃えちゃいますよね〜。

 たしかにその通りだった。
 炎を防がれたことに動揺したのか、ケルベロスは姿勢を低くしてこちらをうかがっている。
 だが、それもいつまで続くかわからない。今にも飛び掛ってきそうだった。
フェイルーン:考えてても仕方ないし〜、突撃あるのみ! って感じだよ!
スラッシュ:そうは言ってもな……。

 スラッシュがケルベロスから視線をはずさぬままにつぶやく。

ラピス:雪の精霊を使えば、ある程度は炎を防げると思います。
不安田:な〜るほど。じゃあ、やってみましょうか〜。

 不安田はあっさりと納得すると、地面を蹴ってケルベロスへと飛び掛っていく。
 1つめの首がかぱっと口を開け、不安田に向かって炎を吐きかける。

ラピス:不安田さん!

 ラピスは叫びながら、雪の精霊に命じた。
 すると氷の盾が不安田と炎の間に出現する。炎をそれではばみ、そのあとで不安田はケルベロスのあごを思い切りなぐりつけた。

フェイルーン:私も行っちゃうよー!

 フェイルーンが剣を振りかぶり、先ほど不安田が殴りつけたのとは違う首へと攻撃を仕掛ける。

スラッシュ:……行くか。

 そして最後にスラッシュが、銀製のダガーをかまえて駆け出す。
 もともとスラッシュはあまり戦闘に向くタイプではないが、今回の場合、魔よけの効果がある銀製の武器は、効果的に違いないからだ。
 3人は、それぞれの首を相手に牙と炎を避けながら戦った。ラピスは後方から、魔法を使って援護する。
 やがて、まずフェイルーンが1つの首を切り落とし、不安田がもう1つの首を折り、最後にスラッシュがダガーでとどめを刺す。
 その瞬間、ケルベロスの姿は煙のように消えてしまう。

フェイルーン:あれれ? なんか消えちゃったね。
ラピス:これで封印できた……のでしょうか。
スラッシュ:……そのようだ。

 スラッシュが台座を指す。
 見ると、台座の上にあった宝石には、先ほどまでなかった魔法陣が刻まれている。

ラピス:成功、したみたいですね。
フェイルーン:よかったね〜! これでもう、安心だね!

 フェイルーンがぴょこぴょこと跳ねながらラピスに抱きつく。
 ラピスは一瞬、目を白黒させたが、すぐにフェイルーンを抱きしめ返した。

不安田:さ〜て、それじゃあ、帰りませんか? お腹すいちゃったなあ。

 不安田がほにゃっとした口調で言う。
 ラピスとフェイルーンは目をぱちくりさせ、それからふたりあわせて吹き出した。

スラッシュ:……まったく……。

 スラッシュがくす、と笑みをもらす。
 封印の塔の中に、女性ふたりの平和な笑い声がいつまでも響いていた。


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