<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
戦舞を踊る人形
エルザード騎士団から、冒険者にある代物の回収を願いたい。
とある遺跡に、《自動人形》(オートマター)と呼ばれる古代の戦闘兵器が幾つか眠っている事が判明した。
異世界からの技術によって造られたかは定かではないが、強力な兵器である事は疑いようのない事実だ。
この遺跡はアセシナート公国に比較的近くに存在している為、彼等に使用されてしまう可能性がある。
そうなる前に回収、それが不可能ならば破壊してもらいたい。
宜しく頼む。
●墓場の守護者
ユニコーン地域に存在する、ひとつの遺跡。
そこは昔、自動人形(オートマター)と呼ばれる人型自立戦闘兵器が造られていた生産工場だったらしい。
先日、この遺跡で今も活動停止していない自動人形が確認されたとして、エルザード騎士団は異世界からの来訪者にそれを回収、または破壊の依頼を斡旋した。
『アセシナート公国に、このような兵器を渡す訳にはいかない。回収できればこちらで封印する。回収が不可能とあれば、二度と起動しないように破壊して貰いたい』
依頼を斡旋した騎士団からのコメントが、こうだ。
「騎士団の戦闘兵器として利用されない事を信じましょうか」
今回の依頼を受け、遺跡へと赴いたアイラス・サーリアスが言った。
「そうですね。この世界の自動人形様にも、個人的に興味がありますし」
彼の横には、同じく依頼を受けた少女、鬼灯(ほおづき)の姿がある。実は彼女も、異世界の「日本」という国で作られた自動人形だ。
ふたりは闇に包まれた遺跡の内部に松明を持って足を踏み入れると、松明の光に床が照らされ、そこには自動人形を構成する部品だと思われる代物が多数散乱している。
そのフロアを抜けようとしたとき、前方から音が響く。
鉄が響かせる、硬い足音だ。
それを聞いたふたりは歩みを止め、松明をそちらへと向けた。その光に誘われてか、足音はふたりへと近づいてくる。そして、その足音を作る主が闇から現れた。
――自動人形だ。
一糸纏わずに色白の肌を露出するそれは、女性型の自動人形だ。関節の接続部分から見える機械と配線がなければ、彼女を人間だと思ってしまうだろう。何せ、その姿は人間と見紛うばかりの美貌なのだから。
ブロンドの髪を長く伸ばした自動人形は、作られた赤い双眸を真っ直ぐアイラスと鬼灯に向け、言った。
『生体反応一。男性は人間、女性は自動人形と判断します。当工場の製造者リスト、及び製造記録からスキャン開始』
自らの瞳に内蔵されたセンサーを使い、彼女は工場に残されていると思われるデータからふたりを検索し始める。それは、数秒で済んだ。
『該当データ、共に無し。前方二名を侵入者と判断、排除を開始します』
機械的で冷たい口調で淡々と声を発すると、人形は右腕を前方に翳す。すると唐突に肘の関節から腕が音を立てて外れ、そこから機関銃の銃口が姿を現した。
次の瞬間、闇の空間に明滅する光が放たれ、銃の咆哮が轟く。
次々と吐き出される銃弾はアイラスと鬼灯に牙を剥くが、アイラスは横にある天井を支える巨大な柱に跳び、鬼灯は自らに大地の鎧を纏わせる《鬼鎧》――クレイアーマーを発動してそれから身を守る。鎧に多くの弾痕が穿たれるが、貫通する気配は全く無い。
「問答無用ですか‥‥。致し方ありませんね」
鬼灯は残念そうに呟くと、左腕を巨大な砲身・《鬼砲(おにづつ)》へと変形させた。そして砲口に魔力である黒い光が収束されていく。
収束が終わると、それを一気に解き放った。《グラビティ・キャノン》だ。膨大な魔力は重力波に変換され、飛来する弾丸を飲み込んで二体へと迫る。
「強力な魔力を感知。アンチ・マジック・フィールドを形成します」
迫り来る重力の波を冷静に見つめながら人形がそう呟くと、薄い緑色の膜が出現し、彼女たちを覆うように展開する。彼女たちを完全に包んだ直後に重力波が襲うが、それは膜に当たると黒い粒子となって四方へと霧散していく。
それを見たアイラスは勿論、放った本人である鬼灯も驚きを隠せなかった。
「あれほどの魔力すら無効化ですか‥‥。ならば、物理的攻撃で破壊するしかないでしょう」
アイラスはそう言って、松明を壁に立てかけ、両手に十手のような武器・釵を手にし、鉄の床を蹴り砕くかの勢いで人形へと一気に疾った。人形は左の掌からブレードを抜き放ち、応戦する。その隙を狙うように、鬼灯も轟器を使って人形に砲弾を放つ。
釵の切っ先が人形の頭部へと伸びるが、ブレードの薙ぎによって弾かれ、アイラスは飛び退く。しかし、鬼灯が放った砲弾までは防げずに直撃を受け、彼女の身体は大きく吹き飛ばされてその身を壁に打ち付けた。衝撃によって人形の右腕は粉々に吹き飛び、そこから流れる電気が火花を放つ。
「右腕破損、パージします」
自らの身体に起きた事態を冷静に判断し、人形は半ばから破壊された右腕を切り離した。
そして人形は、大地を蹴る。
人工筋肉から生み出される爆発力は人間のそれを超えており、瞬時にアイラスとの間合いを消失させて左腕のブレードを横に薙いだ。首筋へと流れる銀の刃を半歩ほど飛び退いて避け、釵の切っ先を再び打ち込む。鋭利な切っ先は真っ直ぐ彼女の頭部へと進んで貫こうとするが、人形は急に倒れこむようにして上体を後ろに倒してそれを回避すると、今度はブレードを下方から繰り出した。
刃は松明の淡い光に照らされて鈍い光沢を放ちながらアイラスに迫り――音を立てて砕かれる。
横から鬼灯が狙って放った轟器の砲弾が見事命中し、腕ごと吹き飛ばしたのだ。それに激昂したのか、人形は視線を鬼灯へと向け、それを死線と変えて放つ。彼女の瞳から放たれたふたつの赤い光を身を屈めて回避すると、彼女の背後にあった鉄の壁を易々と貫く。
「アイラス様、今です」
鬼灯のその言葉に導かれるように、アイラスは三度切っ先を向ける。狙いは勿論、頭だ。人形は逃れようと彼にも光線を放とうとするが、彼の釵が届くほうが早かった。鋼鉄の切っ先は薄い鉄の皮膚を貫き、そこに収まっている機械をぐしゃぐしゃに破壊しながら突き進み、彼女を統括するそれを砕いた。
「頭部‥‥破損‥‥。き能、てイ‥シ‥‥しま‥‥」
明滅する瞳で自らに起こっている状況を冷静に紡いでいき、彼女は遂にその瞳から光を失って崩れ落ち、虚ろな瞳を開けたままその活動を停止した。
それを尻目に、ふたりは遺跡の奥へと進んでいく。内部はベルトコンベアが多数置かれ、その上には造りかけの自動人形の姿が何体も確認できる。まるで死体安置所のようなその光景は、非常に不気味だ。
鬼灯はそこに横たわる一体の人形の頬を撫でるが、それは全く動く気配が無い。当然だ。彼等は生きてもいない、死んでもいない、生まれてもいない存在なのだから。
「そうか‥‥」
帰還したアイラスと鬼灯の言を聞いて、エルザード騎士団員は言った。
「アセシナート公国から守る意味を含めて、遺跡を封印する必要がある。彼等の墓所に、我々が無断で足を踏み入れる権利など無いからな」
「ひとつ、お聞きしても宜しいでしょうか?」
机に置かれた資料を束ねる団員に、鬼灯が訊ねる。
「私で答えられる事ならば」
「もし、自動人形様をお連れしていた場合、どう扱われたのですか?」
「彼等の意思を尊重し、然るべき措置を行う。何も自動人形は彼等だけでなく、異世界からの旅人にも少なからず存在している。旅人だけを優遇するように区分化するなど、許されない事だからね」
その言葉を聞いた鬼灯は、その美しい顔を彩るように微笑む。彼女の傍らに居るアイラスも同様だ。
「では、これで失礼するよ。今回の依頼を受けてもらった事、心から感謝する」
団員はそう言い残し、踵を返して部屋を後にした。
そして、数日後。件の遺跡は後にエルザード騎士団の手によって、完全に封印された。眠れる機械たちの安息を願って‥‥。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1649 / アイラス・サーリアス / 男性 / 19歳 / 軽戦士】
【1091 / 鬼灯 / 女性 / 6歳 / 護鬼】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、しんやといいます。
今回の依頼は、OMCライターとして初めての仕事でした。拙いお話に付き合って頂き、ありがとうございます。
滅茶苦茶な展開でツッコミ所満載でしょうが、勘弁してやってください。(^^;
まだまだ未熟者ですが、これからも宜しくお願いします。m(_ _)m
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