<東京怪談ノベル(シングル)>
『エイプリルフール注意報』
なんだ、これは?
夢を見ている?
そうだ、俺はまだ眠っているんだ。
そうだ、そうに決まっている。
「起きろぉーーーー、俺ぇーーーーー!!!!」
「こら、やめろ、湖泉」
黒板にがんがん頭をぶつけていた俺を後ろから羽交い絞めにする教師。黒板にぶつけた額は割れてじんじん痛いし、俺を後ろから羽交い絞めにする熱血体育教師の体温もすごくリアルで・・・そう、リアルで、これが夢とは思えない。
――――リアルじゃないのは・・・・・・目の前の現実だけ。
「せ、先生、俺、耳・・・」
「耳?」
先生は眉根を寄せる。
そして口を開こうとして、
だけど俺は・・・
「ダメダァーーーー」
俺は恥ずかしさに絶えられなくって、教室を飛び出した。
「湖泉ぃーーーーー」
◇◆◇◆◇
一体俺の身に何が起こっているのだろうか?
校舎の屋上に逃げてきた俺は額に右手をあてる。
「っ痛う」
走った痛み。
そう、痛み。今が夢じゃないという証拠。
それじゃあ、俺が見た教室にいる皆のあの光景も・・・・・・
「やっぱり夢じゃない?」
俺は顔を覆ってため息を吐いた。
まさか、あれが本当だったなんて・・・。
あれ・・・
・・・そう、あれだ。
今朝、俺と同室のあいつは俺に言った。
『なあなあ、湖泉はん、知ってやはる? ここソーンにはしきたりがあるんどすえ。そのしきたりと言うんはな、4月1日にここソーンに住む全員が、聖獣はんへの感謝の意を込めて獣耳バンドを着けるどす』、と。
・・・その時の会話が脳裏に蘇る。
『嘘をつけ、嘘を』
『やらしいなー。うちが湖泉はんに嘘つくわけあらへんがなー』
『あはははは。おまえは前に俺をオモチャとかって言ってなかったか?』
『人違いじゃありまへん』
『っつぅーか、じゃあ、おまえはどうして獣耳着けねーんだよ?』
『ちっちっちっち。甘い。甘すぎや、湖泉はん。うちは着けとる。もう着けとります。ネズミ耳を』
『・・・あほらし』
確かにいつの間にかネズミ耳をつけていたそいつの相手をする自分があまりにもばかくさく思えて、鷲掴んでいたそいつの胸元を放すと、俺は机の上に置いてあった鞄を手に取った。
そう、俺は確かにそれは嘘だと想っていた。だけど・・・
『あ・・・』
部屋から一歩外に出た瞬間に見たのは・・・
ライオンの耳
ゾウの耳
リスの耳
牛の耳
犬の耳
猫の耳
耳、みみ、ミミ・・・
俺は思わず口を大きく開けて唖然としてしまった。
フリーズしていた思考は、早鐘のように脈打つ心臓の音でワルツを踊るように目まぐるしく活動する。だけど考えるのは・・・
どうして、皆、耳をつけているんだ?
と、いうものすごく現実味の無い思考。そしてだからかもしれない。ああ、そうか、寮の全員で俺を騙そうとしているんだ、などとひどく現実味のあるドライな答えをはじき出したのは。
そしてだから俺は、走った。教室に。教室に行って、逆に寮の奴らの馬鹿さ加減を皆で笑ってやれって。だけど・・・
『へ?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、俺が見たのは、教室にいる皆も獣耳を着けている光景だ。
じろじろと皆を見る俺を、皆はとても変なものを見るかのように眉根を寄せて見てくる。その時、俺は想ったものだ。ひょっとして、俺がダウトなのか? と。
『い、いや、まだだ。これは・・・そう、これはいじめだ。悪質ないじめで、皆でグルになって・・・』
それが俺の思考が弾き出した答えだった。
いや、素直に告白しよう。
教室に来る前にも今、俺に向けられているような訝しむような目線を向けられた。寮の廊下にいる皆に。
その時に想ってしまった事も素直に告白する。そう、俺はその視線を受けながら皆を恥ずかしい奴と想うのではなく、逆に恥ずかしいのは俺なんじゃないのか? と想ってしまった。
そう、だから俺はダッシュで教室に向かったのだ。だけど教室にいる皆も・・・
俺は1分の望みを持っていた。だけどその望みは・・・
『湖泉、おまえは何をやっている?』
そう言ったのは熱血体育教師。
その耳には確かにゾウの・・・耳。
・・・・・・・・・・・・・・・1分の望みは見事に砕け散った。
頬を一滴の涙が流れるのがわかった。
そしてそれから先は先ほどの事に繋がる訳で・・・
「何なんだ、これは・・・やっぱり、俺は夢を・・・」
そう想いながら頬を抓る。だけど・・・
「痛い・・・」
そう、痛いんだ。皆がじゃなく、俺の額と頬が・・・。
って言うか、なんだか気持ち悪くなってきた・・・。
額をぶつけすぎたせいだろうか?
とにかく保健室に行こう・・・。
俺は保健室に向かった。
しかし・・・
「あら、湖泉君。どうしたの、その額。とにかく中に入りなさい。すぐに手当てを・・・どうしたの? 痛いの、湖泉君?」
開いた保健室の扉・・・その奥から出てきたのは・・・・・うさ耳をつけた白衣の先生。
「うわぁーーーーー」
俺はもうなんだか子どもに自分が服を着ていない理由を訊かれた時の裸の王様のように恥ずかしくって、この世界から消えてしまいたくって、とにかくそこから逃げだした。
◇◆◇◆◇
あいつは言っていた。
いつでもいいから獣耳を着けたくなったら、自分のところに来いと。
もう獣耳を着けるのが恥ずかしい・・・いや、この場合は着けないのが恥ずかしい訳で・・・ダメだ。考えるのはよそう。頭がおかしくなる。
そして俺はそいつの前に立った。
ネズミ耳をつけてにやにやと笑うそいつの顔を見ているとむかついてくる。だけど俺は・・・持っていない。
「あ、あのよ」
「ん?」
「その・・・俺にもバンドを・・・・・何でもいいから・・・・・・・・・」
と、言いかけてそこで、俺は目を瞬かせる。なぜなら・・・
「おまえ、耳・・・・」
にやりと悪びれなく舌を出すそいつ。
そしてそいつは俺に白状した。すべてが魔法薬のせいだと。その魔法薬は幻覚作用を持つ薬で、つまり俺が見ていたのは・・・
「そうなんよ。全部う〜そぉ。ま、軽い冗談や。せやって湖泉君の故郷の地球にはエイプリルフールってあるやろ。それにちなんでや」
・・・。
俺は唖然とした。
そう、夢ではなかったのだ。
ベッドに眠る俺の口に何かを流し、にやりと笑うこいつの顔を見たと想ったのは・・・。
――――俺は拳を握り締めて、そいつを睨んだ。そいつは頬に汗を流す。
「な、なんやの、そんなイイ笑顔をして。軽いじょうだ・・・んってぎゃぁーーーーー」
俺は額と頬の痛みの分をきっちりと倍にしてそいつに叩き込んでやった。やれやれ。
**ライターより**
こんにちは、湖泉・遼介さま。はじめまして。
ライターの草摩一護です。
ご依頼ありがとうございました。
そして本当にびっくりしました。
まさかソーンの依頼が来るなんて。^^
ソーンの依頼は初めてだったので、びっくりしましたし、また本当に嬉しかったですね。
今でこそ東京怪談で色々と書かせていただかせていますが、本当に登録させていただいた時には自分はソーンで活動していくものだとばかり想っていましたので。^^
ですから初めてのソーンのノベル、PLさまのイメージ通りで、お気に召していただけていましたら本当に嬉しい限りです。^^
それでは本当にありがとうございました。
失礼します。
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