<PCクエストノベル(1人)>


一攫千金!〜底無しのヴォー沼〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1856 / 湖泉・遼介(こいずみ・き「り」ょうすけ) / ヴィジョン使い・武道家】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 数多の世界から様々な人達が集う世界。それぞれの世界からもたらされた多種多様な文化技術が幾つも入り混じり、ある種独特な世界観を形成している。
 そして、この世界を特徴として上げられるのが、36の聖獣によって守護された世界であるという事。
 幾多の偶然が重なり、この世界へと訪れた少年は、強さを求めて様々な地へと赴いていく。降り掛かる危険を顧みず――否、そのスリルすら楽しんでいるふしがあった。
 そして今。
 少年――湖泉・遼介は、新たなスリルを求めてその地へとやってきて……放った第一声が、

遼介:「なんだこりゃあ?!」

 あまりにも場違いな、その光景に彼は目を丸くした。


●第一章〜露店、立ち並ぶ〜
 危険な底無し沼。
 そう噂に聞いていたその場所には、煌々とした提灯が幾つも軒を連ねていた。その下に幾つもの露店が立ち並ぶ風景は、なんともはやのんびりしたものである。
 思わず茫然と立ち尽くす少年。
 意気揚々とやって来たはいいが、こうも観光地化されてるとあっては、それ程期待出来ないのではないか、という一抹の不安が胸を過ぎる。

遼介:「なんだよこれ。こんなんじゃ、財宝見つけても有名になんてなれないんじゃ?」

 口に出してしまった声が思ったより大きかったのだろう。
 近くに居た露店の男が、ひょいっと顔を出して声をかけてきた。

露店の男:「なんだボウズ、有名になりてぇのか?」
遼介:「え? あ、いやぁまあ……その、財宝見つけたら有名になれるし、俺の剣だって新しい武器に買い換えられるし、なあ」
露店の男:「はっ! そんなボウズみてえな若造がナマ言っちゃあいけねえな。ここにはそんな連中がごまんといるんだぜ」
遼介:「わ、若造ってのはなんだよ!」
露店の男:「周りをよおく見てみなよ。どいつもこいつも屈強な連中が何年かかっても見つけられねえんだ。ぽっと出のボウズじゃあ、まず無理だな」

 男に若造と呼ばれ、思わず頭に血が上りかけた遼介。
 だが、確かに周囲をよく見れば、並ぶ露店に混じって、冒険者らしき連中の姿がチラホラと見かける。その誰もが熟練の強者である事が見て取れる。
 屈強な肉体に、刻まれた猛者の風格。
 落ち着き、または粗野な立ち振る舞い。
 そして、どの男達も、一攫千金を夢見て己の命を懸ける瞳を持っていた。

遼介:「…………あー」

 そんな連中を前に、さすがに興味半分で来たとは口に出来ない。
 ましてや、ただスリルを味わいたかった、なんて事を言えば、今居る冒険者達をなんとなく馬鹿にしているような気がするのだ。
 ボリボリと頭を掻いてから、彼は少し困った顔を浮かべる。
 本当なら周囲の冒険者に、沼がいったいどういう状況なのかを聞きたかったのだが、この様子では少し難しいかもしれない。誰だって、自分の情報を他人に譲って手柄を――この場合は財宝だ――を取られたくないだろう。
 その時。
 ふとした予感が遼介に閃いた。

遼介:「あ、あのさぁおっちゃん」
露店の男:「なんだ?」
遼介:「もしかしてあんた、実は元・冒険者じゃないのか?」

 そう尋ねたのには訳がある。
 さっきまで見ていた冒険者の風体と、男のそれがあまりにも酷似していたから。ひょっとしたら冒険者から露店の方に転職したのではないか、と思ったから。
 聞かれた男は、一瞬目を見開いた後。
 徐に「ガッハッハッハ」と笑い出した。

遼介:「おっちゃん?」
露店の男:「よく気付いたな。そうさ、俺も昔はあの沼に挑んでたのさ。……まあ、俺の場合、結局途中で挫折しちまったけどな」

 苦笑する男を見て、悪いことを聞いたかと顔を顰める遼介。
 が、彼は別段気にした風もなく。

露店の男:「で? ボウズ、何が聞きたいんだ?」
遼介:「え?」
露店の男:「大方沼について、色々聞きたいんだろうが」
遼介:「い、いいのか?」
露店の男:「どうせもう潜らねえんだしな、俺が知ってる事なら教えてやるぜ」
遼介:「サンキューおっちゃん!」

 かくして。
 遼介は沼に関する情報を手に入れる事が出来たのだった。


●第二章〜気分はマーメイド♪(マテ)〜
遼介:「おいっちにーさんしー……」

 沼の淵。
 軽く準備体操をする遼介がいた。シャツとズボンは脱ぎ捨てて、海パン一丁の姿である。

遼介:「よし。準備運動はこの辺いいだろ。後は聖獣カードをっと……」

 上着から取り出したカードをリストバンドに挟み、更にその上から包帯を巻いて固定していく。水中に潜る以上、錆の事を心配して剣は置いていくつもりだったので、その分の戦力を補うつもりで。
 元・冒険者の男の話によると、沼の中にはそれほど危険な魔物はいないらしい。
 問題は、その視界の無さだという事だ。沼の中は酷く濁ってて、一メートル先も見えない状況なのだそうな。その為、途中にある岩肌や、沈んだ物の残骸、時折襲ってくる魔物がうまく見えず、なかなか先へ進めないのだという。
 それに。

遼介:「そりゃあ確かにここは底無し沼って名前だけどなあ……」

 思わずぼやく遼介。
 頭を軽く掻きながら、苦笑を零す。
 男から聞き出した情報の中で一番驚いたのが、この底無し沼の本当の底に辿り着いた者が誰一人いないということだ。つまり、この沼はどこまでもどこまでも深く沈んでいくわけで。

遼介:「ま、それぐらいの方が潜りがいがあるってもんさ。んじゃ、行くぜ」

 口に含んだ『アクアシード』と呼ばれる魔法アイテム。軽く言葉を唱える事で、水中でも息が出来るという優れものだ。
 ひょんなことから手に入れた物だったが、思わぬところで役に立った。
 そうして彼は、勢いよく沼へと飛び込んだ。


 ――見えない視界がどこまでも続く。
 ゆらゆらと灯した明かりが遼介の周囲を穏やかに漂う。そのおかげで少しは見通す事も出来るが、確かに水の濁り具合はかなり酷い。
 深く深く潜っていきながら、時々木の破片にぶつかりそうになる。

遼介:(「っと、危ないなー」)

 ぐらっと水圧で揺さぶられた。
 ハッと振り向いた先に、ギロリと眼が光る魚と思わず視線が重なる。
 次の瞬間、そいつは大きく口を開けた。自分の体長の何倍もの、白い牙が幾つも光るぽっかり空いた穴。

遼介:「げっ!?」

 思わず後退るものの、水中では思いように動けない。自分が動くよりも早く、その魚(と思しきもの)は遼介を飲み込もうと近付いてきた。
 ヤバイと思った次の瞬間。
 彼は本能的にリストバンドから一枚のカードを引き抜いていた。
 聖獣カード――ヴィジョンと呼ばれる存在を召喚して使役する彼を、人はヴィジョン使いと呼ぶ。そうして遼介と魚との間に喚び出されたのは、海水の象徴とされる竜人ティアマット。
 それは、迫り来る牙に臆することなく突っ込んでいった。怪魚の口に侵入すると同時に、ティアマットの拳が一気に突き破る。怪魚は、いとも容易くその命を失った。

遼介:「サンキュー。助かったぜ」

 ニッと笑って答えてやると、ティアマットは一度底の方を見た後、何故か怪訝な表情を浮かべた。その様子が気になって問い掛けるものの、どうもその態度がハッキリしない。
 いったいこの先に何があるというのか。

遼介:「ま、そんなもんな出たとこ勝負さ」

 あっけらかんと言い放つ。
 相変わらずだ、と言うように溜息を吐くと、聖獣は遼介を守るように先導していった。その後を追って遼介も底を目指して泳ぎ出す。
 その先に待つのは果たして――。


●第三章〜無間回廊〜
 果たしてどれだけ潜り続けただろうか。
 行けども行けども視界に映るのは、濁った水とごつごつした岩肌。その先は果てしなく、本当に底がないような気がする。

遼介:(「――マジかよ……」)

 内心の呟き。
 辟易しつつも、彼はどこまでも潜る。
 もはやここまで来てしまえば、帰ることなど考えられない。というか、ここまで潜ってしまい、はたして帰れるのだろうか。そんな怖れを心のどこかが考え始めていた。
 先行する聖獣の背を見失わないように追い掛け、見えない底へ向かう。

 そして、どれだけ時が過ぎただろうか。
 遼介は、ふとあることに気付く。

遼介:「まてよ? そういえば……水圧って、どうなってんだ?」

 いくらアクアシードの効力があるとはいえ、こんなに深く潜ってしまえば水圧だってかなりのものだ。実際、体感的にはすでに百メートル以上は進んでいる筈だ。

遼介:「……まさか?」

 ハッと彼は立ち止まる。
 その動きに聖獣も動きを止め、こちらを振り向いた。キョロキョロと首を振り、辺りを確認している。そして、何かに気付いたらしく、その内に込めた気を徐々に高めていった。
 併せるように遼介も自分の気を体内に集中させる。
 静かに。緩やかに。
 二人の気がやがてシンクロを始める。それが最高潮まで高まった時、互いの体がぼんやりとした光に包まれる。
 そして。

遼介:「――――砕けろッ!」

 閃光が、水中を支配する。
 遠くでガシャンとなにかガラスが砕ける音が聞こえた気がした。


 ――ようやく視界が元に戻った頃。
 眼前に見えたのは、先程絶命させた怪魚の残骸。
 と。

遼介:「なるほど。これが原因か」

 水中に漂う砕けた水晶の欠片。暗い泥水の中、何故かキラキラと光っている。
 一目見てすぐに解った。おそらく結界石の類だろう。この水晶があったおかげで、遼介はどこまでも続く無限回廊にハマって抜け出せなくなっていたのだ。
 ちらりと底の方を見る。さっきまでと違って、どこまでも続いているという印象はない。

遼介:「ちぇっ、やられたなー」

 さすがにこれ以上水中にいては、体力が続かない。聖獣もそれがわかっていたから、早く上がろうという意思表示をしてみせた。
 しょうがない、と呟いてから、遼介は目の前に漂う水晶の欠片を手に取った。欠片とはいえ、十分に魔力を秘めているのが解る。売れば多少なりともお金になる筈だ。
 まあ、新しい武器を購入するには、些か……どころか全然足りない気もするのだが。

遼介:「今回の収穫はこれだけか。ま、仕方ないな」

 まんまと沼の罠にハマってしまった遼介。
 だが、次こそはと拳を握りしめ、新たな決意を胸に秘める。そうして遼介は、水面の方へ向けてゆっくりと泳ぎ始めたのだった。


●ライター通信
 お待たせいたしました。葉月十一です。
 この度は、ご発注していただき、ありがとうございました。
 ライトな感じを目指していたのですが、どこか内容は微妙にシリアスっぽく……なってしまったのはどうしようもないサガだと思ってください(ぇぇ)。個人的にはすごく楽しんで書けた気がしますが。なにぜやんちゃボウズは好物ですから(ぉい)。

 何か意見等ありましたら、テラコンの方でお願い致します。