<PCクエストノベル(2人)>


その後の幼稚園顛末記〜ルナザームの村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1054 / 刀伯・塵(とうはく・じん) / 剣匠】
【1820 / 戎焔(かいえん) / 食い詰め浪人】
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●序章(もしくは前回のあらすじ)
 聖獣界ソーン。
 その広大な世界の片隅で起きた小さな事件。世界の命運を左右するわけでもなく、国家を揺るがす革命となりうるわけでもない、小さな小さな出来事。
 もっとも当事者達にとっては、まさに生活を賭けた死活問題であったのだが。

 ――春うらら。
 陽光射す縁側でのんびりとくつろぐ男は、先に起きた事件のことをぼんやりと思い返していた。

塵:「そういや……あれからどうなったかな」

 新しく開園された幼稚園。そこに子供達を集める為、次々と子供達を誘拐していたという事件に出くわした塵は、その事実にあんぐりと呆れてしまった。
 仕方なくチラし配り等をして園児集めに協力したりもしたのだが。
 あれから三ヶ月。
 春も近付いたこの季節。新入園児も入ってきっと賑わっていることだろう。
 いや、まてよ。

塵:「よもや、また園児誘拐なんて事になってねえだろうなぁ」

 呟いてみて。
 思いっきり不安が押し寄せてくるのは、相変わらずの面倒見の良さが災いしたか。
 とはいえ、一度気になり出したら放っておけないのが塵の性分。パン、と膝を打って立ち上がる、と。

戎焔:「そうだ! ルナザームに行こう!」
塵:「だぁっ!? な、なんだいきなり!」
戎焔:「え? だっておっさん、ルナザームに行くんでしょ? だったら戎焔も行く〜♪ そこってお魚が美味しいって聞いたし。あー早く食べたいなあー♪」
塵:「て、勝手に心読んでんじゃねえ! つか、魚なんか後だ、後」

 パンパン(手を叩く音)。
 はいはい、それじゃあ二人連れ立って行きましょうか。

戎焔:「はーい♪」
塵:「どこ向いて返事してやがる!」


 元気よく返事する図体のでかいお子様相手に、塵はどっと疲れた溜息を吐いた。
 かくして二人は、ルナザームの村へと向かう。


●第一章〜日常、そして非日常〜
 ルナザーム村。
 人口はそれほどでもないが、漁業が盛んで新鮮な魚料理が食べれる村として賑わっている。そんな村の一角で営まれる幼稚園は、当初こそ人が誰もいなくて寂しい場所だったが、今では大勢の子供達が、園内のあちこちでキャッキャッと騒いでいる様子が窺えた。
 どうやら賑わっているようだ、とホッとする反面。

戎焔:「へーすごく賑やかだね〜♪」
塵:「ああ、そうだな」

 口の中で飴玉を転がせながら、感心したように戎焔が呟く。
 その横で、塵は視線をどこか遠くへ彷徨わせている。目の前を行き交う子供達の姿形に……冷や汗が流れるのを止められない。
 赤い髪や青い髪、同じような目を持つ子供達。
 そこまでいい。
 猫のような、犬のような形状の耳。そして尻尾を持つ子供。
 これもまた有り、だろう。なにせここは異世界ソーン。獣人という種族だって珍しくない。
 更に蛇のような顔や、熊のような腕を持つ子供の存在。
 …………大丈夫。人(?)を外見で判断しちゃあならない。きっと心は他の子供達となんら変わらない筈だ、多分。
 そして。

戎焔:「おっさん、見て見て。ほら、あそこの子供。なんか向こうが透けてるよー」
塵:「……あ、ああ…そうだな……」

 思わず目を逸らした塵。
 戎焔が指差した先では、向こうが透けてるお子様が、他の子供達と一緒になって砂遊びをしている風景があった。砂が舞うたびに、あり得ない場所に砂が付着して、子供の姿を形成していく。
 周囲の子供達は、別段不思議に思わずすっかり仲良さそうに騒いでいるのだが……。

塵:「園長、あれはいったい……」
園長:「ああ。なんでもこの世界に来る前に、どこかの国での実験の結果らしいですよ。すっかり色素が抜け落ちてしまったみたいなんです」
塵:「いや。じゃなくって」
園長:「最近では色々子供達が増えてきて、本当に嬉しい限りです。あなた方のおかげですよ、ありがとうございます」

 大きく頭を下げられて、塵はそれ以上何も言えなくなってしまった。まあ、彼らが納得してるなら部外者があれこれ口を挟む必要はなかろう。
 ふと横を見れば、戎焔の姿がない。

塵:「あいつ、どこに行ったんだ?」

 キョロキョロと探してゆけば。

戎焔:「ほーら水芸だー♪」

 突如、水柱が上がり、キャッキャッとはしゃぐ子供達に混じって同じように騒ぐ戎焔の姿。まさに図体のでかい子供だ。
 あいつは……とげんなりなる塵をよそに、次々と力を使う戎焔。その周りに子供達が集まって騒ぐ光景を、園長が微笑ましげに見つめていた。
 その様子に……ま、いいか、とばかりに塵は頭を掻いた。のんびりと園児達が楽しければ、それで構わないさ。

 どこかほんわかした雰囲気の幼稚園。
 だが、その直後。
 その空気を引き裂くような出来事が発生した。


●第二章〜幼稚園は今日も平穏(?)〜
?:「てめえら、大人しくしろ!」

 突如。
 平穏な空気を破った威勢のいい怒号。その乱入者は、黒光りする『銃』という武器を手にして、いきなり幼稚園に押し入ってきた。

 ――が。

戎焔:「よーし誰が一番か競争だー」

 闖入者などどこ吹く風。そんなものをすっかり無視して子供達と戯れる戎焔と、同じように別段気にしない子供達。
 緊迫した空気はただ一瞬だけで、すぐにまたのほほーんとした雰囲気に立ち戻る。バッと身構えてしまった塵の方が、何故か気恥ずかしくなる一方だ。
 だが、無視されてもっとも腹を立てたのは、当然の如く乱入した男(当たり前だ)。

男:「てめえら、大人しくしろってのが聞こえないのか! この銃が目に入らねえか!」

 振りかざした銃を子供達の方へ向ける男。
 塵達は知らない事だったが、男は数々の強盗を働いた罪で、聖都エルザートに指名手配されている凶悪犯だった。ほとぼりがさめるまで地方の村に潜伏していたところ、憲兵に見つかってしまい慌てて逃げ出したという訳だ。
 そして、運悪く目を付けられたこの幼稚園に、逃亡の際の人質を確保する為に押し入って立て籠もろうとしたのだが――はたして男の命運は、そこで分かたれたようだ。
 銃を向けたところで、ようやく子供達が静かになる。
 うっかり手を出せば、子供達が危険だと感じた塵は、ぐっとその場に立ち尽くす。戎焔にもなんとか手を出させないよう目配せしてみるが……。

塵:「お、おい戎焔…」

 小さな声で話しかけるものの、当の本人はなにやら子供達とひそひそ話の真っ最中。なにやら嫌な予感が塵の背中に冷たい汗を流させる。
 慌てて手を伸ばそうとしたが、それよりも先に子供達の方が早かった。

男:「なんだてめえは?」

 とことこと自分に向かって歩いてくる子供に、男は少し鼻白む。思わず銃を持つ手が揺れる。
 それに構うことなく子供達は男の前に立ち、そして。

子供:「えへ」

 蛇顔の子供がはにかんだ笑みを浮かべて、口を大きく開ける。
 直後、吐き出されたのは――真っ赤な炎。

男:「ギャァ――ッ!」
戎焔:「よし、いまだみんなー♪」

 慌てふためく男に、戎焔の合図で子供達が一気に詰め寄る。
 わあああああああ。
 元気のいい声が、男に集中する。透ける子供があっさりと銃を奪い、大熊の子供がその腕で思いっきりドツキ回す。虎や狼の獣人の子達は、その牙で思いっきり噛みついた。
 みんな、きゃあきゃあと歓声を上げながら、まったく怖いモノ知らずに男へと突っかかる。
 その様は、まるで遊びの延長のようで。
 さすがの塵もあんぐりと口を開けて、ただ眺めるばかり。どうやらこの幼稚園には、『普通』のお子様はあまりいなかったようだ。手を出す必要もないかな、と呆れ混じりに剣を収める。
 その時、ふと力の気配を感じ取り、振り向いた先に塵が見たものは。

塵:「ゲッ!?」
戎焔:「よーし、最後は戎焔がトドメを刺すからな。みんな〜どいてろよ〜♪」
塵:「やめんか!」

 思いっきりなにやら怪しげな力を集中させていた戎焔に、塵が容赦なく突っ込む。ハエ叩き連撃を力いっぱい後頭部に叩き込めば、「きゅぅ〜」と呻き声を上げて戎焔は地面にめり込んだ。
 ふぅ、と息をつく塵は、改めて男の方を見れば……すっかり子供達に弄ばれ――もとい、ズタボロにされた男が、息を切らしながら逃げ出している姿があった。その行き先は……。

塵:「やべえ、そっちは」

 男は、すっかり逆上していた。いい人質になるとおもって突入した場所は、異形の連中が集う化け物屋敷(塵:「おいこら、差別するんじゃねえ!」)。銃すら怖れず、逆に返り討ちに遭う始末。
 ここまで凶悪犯としてのプライド(?)が傷つけられた男にとって、もはやどんなことをするにもなんの躊躇いもない。

男:「くそ! こうなったらあの建物に火を付けて――」
塵:「……おっと、そうはさせん」

 ハッと男が気付くより早く、その行く手を遮るように塵が立つ。
 そして、目にも止まらぬ早さで手刀を男に打ち付けた。

男:「ガッ!?」
塵:「……ま、ここに来たのが不運と思うんだな」

 塵の呟きが届くことなく、男はあっさりと気を失った。
 その様を横目で眺めながら、塵は男の不運に少なからず同情した。勿論、子供達に手を出そうとした輩だ。それ相応の制裁を加えるのに、やぶさかではない。
 軽く指を鳴らしながら、フッと笑みを浮かべるのだった。


●第三章〜市場での買い出し:ゲテモノ編〜
 その後。
 すっかり子供達に懐かれた戎焔は、自身の精神年齢も相まって、日が暮れるまで遊び倒したのだった。その様子を、塵は園長と茶を飲みながら、のんびりと眺めていた。
 どうやらすっかり彼と茶飲み友達になったようだ。

 そして。

戎焔:「なーなー、おっさん。これなんかどうだ?」
塵:「却下だ、却下!」
戎焔:「えーなんでだよ〜」
塵:「そんなもん、食えるか!」

 帰り道。
 市場へと魚の買い出しに向かった二人だったが、次から次へと食材を持ってくる戎焔に、塵は何度となく止めに入った。
 本人、食えれば何でも構わないという性格なので、目に付く珍しい魚にすぐ目を奪われるのだ。
 明らかに人並み以上もある巨大蛸。
 足が二十本以上はあるイカの山。
 目のない海蛇。
 口のサイズが自分の体以上もある魚。

塵:(「……つかそれ、誰が捕まえてきたんだよ……(汗)」)

 ある意味、ゲテモノ見本市と化している市場の一角に入り込んだ戎焔を、塵は連れ出すのに精一杯だった。

戎焔:「なあなあ、これなんかどうだ? ツルツルに滑ってて向こうが透けてるんだぜ?」
塵:「そりゃあクラゲだ! つうか、誰がそんなもん食べるんだッ!」

 もはや散々の抗議に疲れる始末。
 グッタリとなる塵の肩を、なにかがちょいちょいとと叩く。

塵:「ったく、今度はなんだ?」

 そうして振り向いた先。
 彼の目に飛び込んできたのは――――

戎焔:「おっさん、これなんか庵の連中全員で食えるぜ♪」

 ほ乳類:ナガスクジラ科
 英名:Blue Whale
 学名:Balaenoptera musculus
 体長:二十五メートル 体重:百二十トン

 とある異界で、地上最大の動物と謳われる存在が、戎焔の手によって易々と持ち上げられていた。ウキウキとする戎焔と対照的に、塵の我慢が限界へと達する。
 そして。

 ブチリ。
 塵の中で何かが切れる音がした。

塵:「――――んなもんを持って帰れるかぁああああぁぁっっっ!!」

 絶叫が、市場の空にむなしく響いた。


 そうして、ソーンの一日は何事もなく終わ――


塵:「ちょっとマテ! つか、誰があんなもん獲ってきたんだよ!」

 いやん、塵ちゃん。
 そんなトコに突っ込んじゃ、ダ・メ♪

塵:「だぁー! シナ作るのはやめい」
戎焔:「おっさーん、こいつ連れて帰っていいかー?」
塵:「お前も深海魚なんか選ぶなー!!」

 あ、大きな口が塵ちゃんを噛んだ(マテ)。

塵:「んんん――ッ! むぐむぐ――」
戎焔:「あ、おっさん。もうそんなに懐かれてんのかー、いいなぁ〜♪」
塵:(「ちが――う!?」)


 ――そんなこんなで。
 ソーンの一日は幕を下ろすのであった。


●ライター通信
 葉月です。再びの発注、ありがとうございました。
 すっかりお待たせ致しましたが、いかがだったでしょうか? ルナザーム村のその後、をお送りしたのですが……すっかりギャグが染みついてしまったようです(苦笑)。
 塵さんの物語を色々と研究した結果、あのような形になってしまいました。振り回されるのが似合う性格の人っていますよね。彼はまさにそんな理想が服着て歩いてるようなものだと認識したのですが(えぇ)。

 ともあれ、何かありましたらテラコン等でご意見ねがいます。
 それではまた機会がありましたらどこかで。