<PCクエストノベル(1人)>


欠片の行方〜封印の塔〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1054 / 刀伯・塵(とうはく・じん) / 剣匠】

【NPC】
【ケルノエイス・エーヴォ(愛称:ケルノ) / 封印の塔の住人】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 摩訶不思議アドベンチャーが常時盛んに発生する、冒険者を志す者にとってはまたとない世界。
 いや、普段真っ当に生きてる者も大勢いるのだが、そこはそれ。やはり、物語は波瀾万丈でないと読んでる人に面白くないしね♪<誰に言ってるのか。

 そして。

 今、ここに。
 平穏をこよなく愛し、隠居願望がやたら強いくせに、ありとあらゆる厄介事を背負う宿命――運命は変えられるが、宿命とは持って生まれた性(さが)である故、決して逃れる事は出来ないと言われる(笑)――の男が一人。
 今日も今日とて、盛大な溜息をついていた。

塵:「……まさかこいつまで持ってきちまうとはな」

 かつて。
 中つ国と呼ばれた世界でサムライとして生きていた頃。
 あの頃は真面目に、そしてシリアスに戦いに身を投じていたのだが(塵:「おい、今だって真面目だ!」<はい、そこうるさい)、その代償として手元に残されていく『殲鬼のかけら』と呼ばれるものがあった。
 日々戦いに明け暮れ、やがて全てが終わった直後。
 この世界に飛ばされてきたのだが、よもやその『かけら』も一緒に来ているとは、庵を整理するまで気付かなかった塵の敗因。
 それにしても――。

塵:「つか、こいつはすでに欠片って規模じゃねえだろ?」

 思わず伝う汗。
 眼前には、もはや『かけら』と呼べないような馬鹿でかい塊が、デンと鎮座しているのだ。『かけら』を通り越してもはや『岩』だ。
 ボリボリと後ろ頭を掻いた後、塵は困ったような顔を浮かべる。
 さて、どうするか。
 害はない、と思いつつも、ここは中つ国ではない。何が起きるか解らない異世界ソーンだ。

塵:「危険はないと思うんだがなあ」

 あまい、甘すぎる。なんといっても所有者は君だよ、君! あの魑魅魍魎跋扈する居住区を見たまえ。君の住む周囲は、妙に磁場が不安定でおかしい。あっちでもこっちでも摩訶不思議空間と化した、そんなところに置きっぱなしにしてみろ。どんな不足な事態が襲ってくるか想像すら――。

塵:「やかましい! さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いやがって!」

 ふむ。
 だが、君だって不安に思っているんだろ?

塵:「う……そ、それは」

 ふふん。だからこそ封印したいんだろ。
 その為の話だってもう考えているんじゃないのかい?

塵:「あーもう。わかったよ。んなもん、さっさと封印してくらあ!」

 はいはい、行ってらっしゃーい。
 よっこらせっと塵は立ち上がり、ドカドカと足音を踏み鳴らしながら、『かけら』を担いでその場を後にした。
 ……しっかし塵よ。お前は誰と口喧嘩していたんだ?

ベップ:「クエッ!」

 残されたベップという名のペンギンが、さっきまでぶつぶつ呟いていた男に向かって一声、啼いた。


●第一章〜封印するモノは?〜
 目の前に聳える建造物。
 巷では『封印の塔』と呼ばれるそれは、いわゆる『呪いのアイテム』と呼ばれる物を封印する為に建てられたらしい。その由来はかなり古いらしいのだが、ハッキリとは記されていない。
 そして、この塔に住むただ一人の住人こそ、封印を施す張本人だという。
 名を、ケルノエイス・エーヴォと言う。
 すでにかなりの年月を生きていると言われているが、その外見は決して年老いることなく、若々しい青年の姿である。

塵:「すんげえ塔だな。奇妙な気をびんびん感じるぜ」

 『かけら』の塊を肩に担ぎながら、塵は目の前の塔を眺めた。さすが『封印の塔』というだけのことはある。
 納得しつつ、塔への扉をゆっくりと開けていく。

塵:「さって。塔守への話はなんにするか……」

 外の情報に疎いその青年は、どんな話でも聞きたがる。いわゆるそれが、封印の代償になるようだ。歩きながらうんうん唸り、乏しい知識と経験を頭の中で総動員させる。
 その結果――思いついた事柄に、思わず顔を顰めた。

塵:「あー……ま、いいか」

 苦笑を零しながら、塵はケルノ氏の待つ部屋の扉を開いた。

ケルノ:「やあ、いらっしゃい」

 まるで、塵が来るのを待っていたかのように、部屋の主――ケルノエイスがにこやかな微笑みと共に招き入れた。
 その笑みに一瞬狼狽したものの、塵は意を決して部屋へと踏み入れる。
 ドサッと塊を床に置き、勧められた椅子に腰掛けると、少し困った顔を浮かべたまま目の前の青年に話しかけた。

塵:「あ、あのさー実は」
ケルノ:「ええ、わかってます。それの封印ですよね」

 チラリと塊に視線をやった後、ケルノはトントンと机の上にあった本を整えた。
 さっそく封印か、と思った塵だったが、どうやら違ったようだ。椅子に座り直してから塵の方に向き直ると、なにやら聞く体勢になっている。

ケルノ:「その前に…少しだけ外の話を聞かせていただけますか。なにしろずっとこの塔にいるものですから、外の情報に少々疎くなっていまして」
塵:「……大した話じゃなくても、構わないかい?」
ケルノ:「はい。大きな事件ならある程度、伝わってきますけど。本当に些細な事でもいいんです」
塵:「そんならまあ……いっか。今、俺が住んでるトコの話なんだけどな。ちょっと厄介な居候がわんさか居るんだよ」
ケルノ:「へえ。それは面白そうですね」

 そうして塵は語った。
 こっちの世界に流れる前、中つ国で住んでいた住居の事。
 そして、こっちの世界に流れて来てから、住んでいる場所の事。
 どちらの世界でも同じような環境で。住む本人にとっては環境という点ではありがたいことなのだが、如何せん無駄に増えていく居候達はいかがなものか。
 言葉を交わせる連中は、まだいい。意志の疎通が取れるから(塵:「いや、そっちもある意味困った連中ばかりなんだが…(汗)」)。
 問題は意志の疎通が出来ない、むしろ無駄に増殖していく怪奇生物の方が問題だった。

塵:「だいたい、なんだって俺の周りばっか、こう同じ事が起きるんだか……」

 本人、これでも真面目に余生(ぇ)を送りたいと思っているのだが、周囲の環境がそれを許してくれない。あっちでもこっちでも、どんどん不可思議な領域に侵されていくというのは――不本意極まりない。
 大きく溜息。
 そこへ、ケルノがそのものズバリの言葉を放つ。

ケルノ:「それはきっと……塵さんの星の巡り合わせでしょう。もういい加減、諦めたらどうですか?」
塵:「何っ!?」

 ニッコリ笑って呟いた一言は、鋭い刃になって思いっきり塵の胸を抉った。
 グッと胸を押さえる、いい年した男が一人。床に思いっきりのの字を描いてるがどこかうっとおしい。
 その様子をあっさり無視して、ケルノがスッと立ち上がった。

ケルノ:「興味深い話、ありがとうございました。それじゃあ、そろそろ始めましょうか」
塵:「…………ああ」

 幾分、落ち込んだ調子で返事する塵。顔を上げれば、ケルノがテキパキと封印するための儀式の準備を始めていた。
 仕方なく塵も立ち上がると、彼の手伝いを始める。

塵:「で? 俺はいったい何をすりゃあいい?」
ケルノ:「そうですね。とりあえず塊の前に立っていてください。具現化した物質をすぐ退治出来るように」
塵:「了解した」
ケルノ:「まあ、そう身構える事もないですよ。確かに量は多いですが、邪気はそれほど感じませんから」

 そうは言っても、欠片の元である存在を知ってる塵。気を抜く事なく、帯刀していた剣でゆっくりと身構える。
 その姿を確認してから、ケルノは静かに儀式を開始した。


●第二章〜封印された、筈?〜
 床に描かれた魔法陣。静かに大気を満たす言霊。
 僅かな気の放出が徐々に高まり、塊――『殲鬼のかけら』の中で邪気とも言える力が凝縮していくのが、外から眺める塵にも解った。
 そうして、ケルノが最後の言葉を締めた時。
 強烈な光が塊の中央に集まっていく。

塵:「……くるか?」
ケルノ:「――あ」
塵:「ん、どうした?」
ケルノ:「い、いえ……ちょっとなにか……」

 言い淀むケルノ。
 思わず冷や汗が吹き出す塵。

塵:「お、おい。なんか様子がおかしくないか?」

 集まる光。
 そして、徐々にだが輪郭を崩していく塊。どうも聞いていた話と展開が少し違う。
 慌てる塵に、ケルノはきっぱりと言った。

ケルノ:「えっとですね……どうやら、手違いが発生しちゃったみたいです」
塵:「は?」
ケルノ:「ですから。本来ならエネルギーだけを実体化して、それを依頼される方々に倒して頂くのですけど」
塵:「……けど?」
ケルノ:「……………どうやら、塊ごとエネルギーと融合しちゃったようです」

 あはは、と乾いた笑みをケルノが浮かべる。
 塵は、なにがなにやらといった感じでケルノを見る。

塵:「どういうことだ?」
ケルノ:「……すいません! 何が出てくるかさっぱりわかりません!」

 開き直ったように。すっぱりきっぱり言い切るケルノ。おそらく過去の経験からいっても初めての出来事なのだろう。
 さすがあらゆる意味で厄介事の星を背負った塵が持ってきた『殲鬼のかけら』。ハプニングはお手の物だ。

塵:「――じゃねえだろ!」

 怒鳴られてしまった。
 まあ、ごもっとも。

塵:「つか、どうなるんだよ、これから?」
ケルノ:「さ、さあ。まあ、出来るだけ自分も協力しますから、多分大丈夫ですよ」

 多分、ともう一度口の中で呟いて、ケルノは一歩下がった。
 塊が完全に光と同化し、徐々にその範囲を狭めていく。凝縮していく光を直視できず、二人は腕を翳してその力を遮る。
 そして――直後。
 一気に縮まった光が、部屋中に満ちるようにスパークした!!!

 ――――ようやく閃光が収まり。
 目を開けようとした塵の耳に、とある第一声が届いた。

?:「おぎゃあぁ!!」
塵:「…………おぎゃあ?」


●第三章〜そうして、パパの苦労は絶えない〜
 茫然と。
 塔を後にする塵の背中は、妙に哀愁を漂わせていた。頭の中では、ケルノの言葉が何度でも反芻される。

ケルノ:『――――まあ、こうなってしまってはしょうがないでしょう。
     おそらくこれが今回の具現化みたいなものです。多分、これからしっかりと塵さんが面倒を見れば、多分大丈夫なんじゃないでしょうか?
     さすがにこの件に関して、過去の文献にも載っていないんですよ。やはり、一度塵さんの周囲の磁場を調べて見た方がいいかもしれませんね――――』

 勝手な事を、と思いっきり詰め寄った塵に対する返答がそれだった。
 いったいどうすればいいというのか。そもそもこんなもの、庵に持って帰ったりしたら、確実にからかわれるに決まってる。
 いや、からかわれるだけならまだしも、養子にした義理の娘などはひょっとしたら泣いてしまうかもしれない。息子の方は……きっとからかうだろう。「まだまだ元気じゃん」とか言って。

塵:「はあ……どうすりゃいいんだよ……」

 大きく溜息。
 もはやすっかり慣れてしまった。
 待ち受ける修羅場を想像してしまい、帰宅までの一歩が進みにくい。重い足取りがますます重く感じるのだ。
 そうして目を落とした腕の中には。
 キャッキャッと声を上げてはしゃぐ赤子が一匹…じゃなくって一人。赤い瞳に赤い髪。ちょっとだけ頭部の一部が尖っているのは、明らかに角だろう。
 最初にその子供を見た瞬間、まさかと身構えたものだったが、ケルノの科白でようやく警戒を解いたのだった。
 すなわち。

ケルノ:『大丈夫です。邪気は全く感じられませんよ。きっと、きちんと育てる事が出来れば、封印は完了というわけですね』
塵:『ちょっと待て――――ッ!!』

 思いっきり叫んでみても、現状は何も変わらず。
 仕方なく子供を引き取っては来たのだが。

塵:「……はあ、お前は気楽そうでいいな」

 これから待ち受ける騒動を想像し、思わず身震いする塵。
 すると。

赤子:「………ぱぁー、ぱ……」

 ずきん!
 その言葉に、塵は思わず赤子を抱き締めずにはいられなかった。どうやら父性本能を思いっきり刺激されたらしい。

塵:「……ったく、しょうがねえ。覚悟を決めて連れ帰るか。お前もそれでいいか?」
赤子:「だあぁ!」

 嬉しそうに笑う赤子を見ながら、塵は苦笑を浮かべつつ、我が家への帰路へ着いた。
 そして。


塵:「――――だから! 俺の隠し子じゃねえって言ってんだろ!!」

 案の定、直下型台風が巻き起こったのは言うまでもないが、それはまた別の物語である。
 ――――塵の未来に、合掌。


●マスターより
 葉月です。
 度々発注して下さりまして、本当にありがとうございました。
 今回、思いっきり暴走してしまいましたが……如何だったでしょうか? 新しく増えた住人も(苦笑)、是非とも可愛がってやって下さいませ。名前はお好きに付けて頂いて構いませんから(ぇ)。
 それにしても……蟹、ですか……そうですか…(何)。

 それでは、またご縁ありましたら、どうぞよろしく。