<PCクエストノベル(1人)>


最も価値ある宝〜遠見の塔〜

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【1893/キャプテン・ユーリ/海賊船長】
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1.塔へ

男:「オイ何でも知っている兄弟がいるっていう噂、聞いたかよ?」
 白羊亭の一角。まだ昼間なので、酒は店には出ていない。よって素面の客が身を寄せ合ってカウンターでジュースを飲み干している。その一人の話に緑髪、青い瞳の青年がスッと目を細める。キャプテン・ユーリ。端正な顔と細身の体格で、羽織った船長服に左腕を隠している。彼は親しげな笑顔で話の男に近寄る。
ユーリ:「その話、詳しく聞かせてくれないかい?」
 男は、それにやや驚きつつも、すぐに微笑んだ。
男:「“遠見の塔”って知ってるか?」
ユーリ「遠見の塔?……いんや、知らないけど、そこにその兄弟が住んでいるのかい?」
男:「そうだよ。兄さん、頭の回転速いねえ。まあ、ちなみにその遠見の塔は、このエルザードから少し南に行ったところにあるんだけどね」
ユーリ「ここから遠いのかい?」
男:「いんや、そんなに遠くはないさ。急げば一日もかからない距離だろう」
ユーリ:「そうかい。有益な情報、どうもありがとう。あ、そうそう、名乗り遅れてしまった。すまないね。僕ぁ、キャプテン・ユーリ。こいつは相棒のたまきちだ」
 ユーリの肩に乗った赤いドラゴンが人懐こく尻尾を揺らす。男はそれに微笑む。
男:「そいつはどうも。丁寧な挨拶ありがとうよ。オレはセイリ。たまにここで飲んでいる。気が向いたらまた声でもかけてくれ」
ユーリ:「セイリね。了解。今はちょっと急ぐからあまり話が出来なくて残念だけど、今度会った時はゆっくりと話をしよう。それでは」
 ユーリは、微笑みながら背を向けた。ルディアの手の甲に軽いキスをした後、勘定を済ませ店の扉から出ていった。

ユーリ:「と、いうわけで出てきたはいいけど……道が二つに分かれているなんて言っていたっけ?」
 ユーリは早速、エルザードから南方へと向かったのだが、二つに分かれた道の前でうーんと唸っていた。道幅的には真っ直ぐに進む道の方がやや広い。だが、もう片方の道もただのわき道と思うには、整備されており、アクアーネ村へという看板も立っている。ユーリは腕を組む。首を傾げたその時。
ユーリ:「おや、天の助け」
 前方、真っ直ぐの道より歩いてくる人影が見えた。ユーリはゆっくりと微笑む。大きく手を振った。
ヴァルス:「……何だ?」
 人影はがっしりとした男だった。ヴァルス・ライオンハート。黒髪黒瞳の剣闘士で、エルザードのコロシアムで最強と呼ばれている男だ。ユーリは微笑みながら歩み寄り、その肩を叩いた。
ユーリ:「やあやあこんにちは。お会いするのは初めてだねぇ。僕ぁ、キャプテン・ユーリ。キミは確か、ヴァルスっていうんだよね。コロシアムでよくその顔を見るから知っているよ。相棒のたまきちともどもヨロシクね」
ヴァルス:「……よろしく。それで、何の用なんだ?」
ユーリ:「あ、そうそう。キミ、“遠見の塔”って知らないかな?エルザードから南らしいんだけど、ここは二つに分かれているだろ?だから迷ってしまって。知っているなら是非教えて欲しいんだけど」
ヴァルス:「……ああ。知っているが」
ユーリ:「本当かい?」
ヴァルス:「ああ。だが、少し道がややこしい。良ければ、道案内をするが」
ユーリ:「そいつはぁ願ってもいない話だよ。お願いできるかな?」
ヴァルス:「了解した」
 ヴァルスは微笑み、先頭を切って歩き出した。

ヴァルス:「ところで、キミは“遠見の塔”についてどれ位知っているんだ?」
 道の両端に果てなく広がる草原にユーリは目を細めながら、答えた。
ユーリ:「そうだねぇ。“遠見の塔”には物知りな兄弟がいるってことくらいかな」
ヴァルス:「その兄弟だが……相当気難しいらしい。こちらに会う意思がなければ絶対に会えないと聞く」
ユーリ:「へえ〜そうなんだ。それは、ちょっと厄介かもね」
 ユーリは微笑んだ。高く聳える塔が見えてきていた。

ユーリ:「おおーこれはなかなか立派な塔だね」
 ユーリの目の前には高い白亜の塔が聳え立っている。しかも窓があるのは最上階とその下のみ。それ以外は細長い円筒形の壁が延々と続いている。
ヴァルス:「どうする?何か兄弟を呼ぶようなものは持っているのか?」
 ヴァルスが聞く。ユーリは笑む。
ユーリ:「そんなものはないよ。でも面白そうだからね。僕は行くよ」
ヴァルス:「ちょ……ちょっと待て」
 ヴァルスの静止より前にユーリはさっさと中に入ってしまった。ヴァルスは苦笑しつつ、それに続く。その気配に気付いたユーリが振り向く。
ユーリ:「おや、どうしたんだい?」
ヴァルス:「乗りかかった船だ。同行させてもらう」
ユーリ:「それはとてもありがたいよ。ありがとう」
 ユーリはにっこり笑った。前方を見やる。
 ユーリの足元から天井までは延々と先の見えない螺旋階段が続いていた。窓がないので、少し薄暗い。ユーリはその塔内部中央に設置された階段に迷わず一歩を踏み出した。

2.兄弟

 3時間後。
 ヴァルスは少しやつれた様子でユーリを見やった。ユーリは「ん?」と軽く微笑み、首を傾げ、ヴァルスを見返した。汗もかいていない。ヴァルスとユーリはあれからずっと階段を歩き続けている。
ヴァルス:「なあ……ユ……」
 ヴァルスが何か告げようとした時、
「何の用か」
という声が聞こえた。ヴァルスは剣に手をやり、周囲に目を走らせ、手に持っている松明を左右に振った。白亜の壁と底の抜けた空間。人の形はない。ユーリは笑む。
ユーリ:「聞きたいことがある」
 見えない気配は微かに笑った。周囲の景色が変わる。全面吹き抜けの窓にバルコニー、数千とも数百とも分からない膨大な本棚が部屋の左半分に現れた。右側は客間らしく、白い起毛のソファが四つと透明なテーブル、白い陶器に花をあしらったティーセットが置かれている。客間の四隅に配置されている熱帯樹の葉が揺れた。リン、と微かな鈴の音が鳴る。男が二人、ユーリたちの前に現れていた。

 男のうち、一人は黒髪に眼鏡の穏やかな笑顔を称えた秀麗な青年だった。もう一人は、明るい金髪に青い瞳を持っている少年だ。少年の方がツカツカとユーリに近づき、バンバンとその肩を叩く。
少年:「よおッス。根負けしたぜ。お前にはよっ!!骨あるじゃんッ!!」
 ユーリは笑む。
ユーリ:「お褒め頂き大変光栄。僕ぁ、キャプテン・ユーリというのだけれど、良ければ、君たちの名前も教えてくれないかな?」
ルシアン:「俺は、ルシアン・ファルディナス」
カラヤン:「私は、カラヤン・ファルディナスです」
 少年と青年も笑んで応えた。ユーリも微笑む。
ユーリ:「ルシアンにカラヤンだね。ありがとう。覚えたよ。……それにしてもなんとも不思議な空間だね。少し拝見させてもらっても構わないかい?」
ルシアン:「構わねえよ。どうせ、入れちまったんだし、別にホントは隠してる必要もねえもんばかりだし」
カラヤン:「そうですね。地上よりほんの少し広い図書館といったところでしょうか」
 ルシアンが軽く手を振ると、カラヤンがソファについたヴァルスに湯気の立った紅茶を静かに注ぐ。
 ユーリは左の書庫の方に足を伸ばす。
ユーリ:「いやいやいや……すごいよ、ここは。僕は、いろいろな国を旅してきたけれど、こんなに凄く資料が集まってるところはそんなになかったんじゃないかなあ?……あれ?でもこれは……『スリーピング・ドラゴン号、キャプテン・ユーリの冒険』……うむ。これはもしかして僕のことを記した本かな?」
 ルシアンはソファにドカッと腰を落とし、豪快に笑う。
ルシアン:「さっすがだなあ。早々に見つけちまったか。そうソイツはお前の本さ。お前の冒険は興味深いモノが多いからな。記してある」
ユーリ:「そうか〜。それは、ちょっとこれからも油断できないねぇ」
 そう言いつつ、ユーリは笑みながら本に目を通す。そこには、ユーリが船を難破させる前のことまで詳細に書かれている。それをすべてパラパラと捲ってユーリはその本を閉じた。ヴァルスたちがいる客間の方へと戻ってくる。そしてふと、途中で足を止めた。ちょうど書庫と客間の境目、部屋の中央に台に置かれた丸い巨大な玉がある。
ユーリ:「ん〜そう言えばさっきからずっと気になっていたんだけど、これはなんだい?何か絶えず景色が変わっているようだけど。……ん?これは聖都エルザートだね。皆は元気かな?」
 パッと玉の中の景色が変わった。ユーリの知人の女性の一人が映る。
ユーリ:「うわわ。……なるほど。望む景色を映し出す玉か。こちらもかなり貴重なものだね」
カラヤン:「ご名答です。ユーリさんはやはり察しがよろしいですね」
 カラヤンは微笑む。
カラヤン:「それでは、本題ですが。先ほど、私たちに聞きたいことがあるとユーリさんはおっしゃいましたよね。その内容を、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
 玉に様々な景色を映し出していたユーリは、振り返る。陽気にポンと手を打った。
ユーリ:「いやあ、うん。そうだったね。あまりに素敵なお宝が転がっていたので、うっかり忘れてしまうところだった。危ない。危ない。……多分、キミたちなら知っていると思ってきたのだけど」
カラヤン:「はい」
ルシアン:「あ?」
 カラヤンは微笑み、ルシアンは怪訝そうな瞳で振り返った。
ユーリ:「ソーンで最も価値のあるお宝は何か知っているかい?」
ルシアン:「……何でそんなことを聞くんだ」
ユーリ:「海賊がお宝を求めるのに理由がいるかい?」
カラヤン:「……そうですね。あなたはそういう方でした」
 カラヤンは微笑む。ルシアンが手を翳す。掌が淡く光り、部屋全体が星空になる。
ルシアン:「……正直、最も価値のあるっていう定義は難しい。こんな風にキレイな星を見れるのが幸せっていうヤツもいるだろうし、価値はそれぞれひとによって違うからだ。……ただ、一般的に貴重とされるものなら少しは知っている――たとえば俺が知っている魔法では、麗しの瞳、揺らぎの風とかな」
カラヤン:「私の知っているアイテムでは封魔剣ヴァングラム、永遠の炎、虹の雫がこれに当たります」
ルシアン&カラヤン:「そして、一番価値あると言われるものは……」
 ルシアンが再び手を翳す。暗闇になる。「……」何か小声で囁かれる。次の瞬間、部屋は元通りになっていた。
ユーリ:「……なるほどねぇ。そいつは確かに“宝”だ」
ルシアン:「詳しい場所や入手方法も知りてえか?」
ユーリ:「いや。それでは、探す楽しみがなくなるからねぇ。ご遠慮するよ」
カラヤン:「あなたなら、そう言うと思ってました」
 カラヤンはゆっくりと微笑み何かを差し出す。ユーリは、受け取り、首を傾げる。
ユーリ:「これは?」
ルシアン:「この部屋に来るための“鍵”、“遠見の鈴”だ。限られた客人にだけ与えられるアイテムさ。お前は、気に入った」
ユーリ:「それは、光栄」
カラヤン:「今度こちらに来たいと思った時は、塔の内部でそれを鳴らすといいです。すぐにこの部屋に辿り着けます」
ユーリ:「なるほどね。では、大事にさせてもらうよ」
 ユーリは微笑み、道具袋にそれを入れた。
ルシアン:「じゃあ、お前のこれから、楽しみにしているぜ」
カラヤン:「また面白い冒険を私たちに見せてください」
 ヴァルスが傍に来る。ルシアンがユーリに手を翳す。一瞬の後、ユーリは、塔の前の草原にいた。ユーリは首を軽く振る。そして不敵に笑む。
ユーリ:「価値ある宝……そして“遠見の鈴”ね」
 ユーリは、ヴァルスに向かって礼を言い、先ほど貰ったばかりの鈴を掌で転がした。



キャプテン・ユーリさま
はじめてのご発注、ありがとうございます(^^)
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
私個人としては大変楽しんで書かせていただきました!
最も価値ある宝……色々考えたのですが本文中でもあるとおり、
それぞれ価値が違うということで敢えて書きませんでした。
ユーリさんの方で色々と想像していただければ嬉しいです。
クエストノベルなのにあまり戦闘もダンジョンの攻略も出来ず申し訳ありませんでしたm(__)m
こんなノベルですが、
ご感想等、ありましたら寄せていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、またのご発注をお待ちしております