<PCクエストノベル(1人)>
音楽の夕べにきらめく華 〜クレモナーラ村〜
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【冒険者一覧】
■1926/レピア・浮桜/傾国の踊り子
【助力探求者】
■斑咲/忍者
【その他の登場人物】
■エルファリア/王女
■バイオリン弾き/旅の音楽家
■隻腕の剣士/剣士
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【序】
月の下、青く沈んだ聖都・エルザード。
その外れ、『純白の姫』と呼びなされる王女、エルファリアの別荘に、しずしずと動く、ふたつの影があった。
斑咲:「純白の館で、宵にまぎれた依頼――か。いかにも、そぐわぬ」
ひとりは、東洋風のいでたちの女。その半身には、いたるところに縫合の跡がある。
彼女、斑咲を、もうひとりの女は振り返った。優しい微笑をたたえたその顔は、この別荘のあるじ、エルファリアである。
エルファリア:「そうでしょうか?夜の庭も、ほら、あんなに美しい」
斑咲:「姫。おん自ら、手引きをなさるということ、依頼主は只者ではない」
エルファリア:「ふふ、そうかもしれませんね」
そして彼女はゆっくりと、玄関ホールの扉を開ける。
エルファリア:「レピア!お連れしましたよ」
レピア:「……っと、待って」
くるり、しなやかに、その女は床に足をつけた。
青い髪が身体にふわり、と絡みついて、払いがてら、彼女は顔を上げた。
斑咲:「………踊り子――?」
レピア:「あたしはレピア。斑咲、だね?」
誰もいない深夜に、ひとり舞っていたのは、レピア・浮桜だった。
その美貌と、暇つぶしに踊っていたらしい彼女の雰囲気に、斑咲は訝しげな顔をし、思わず問い返す。
斑咲:「レピア――そなたが、依頼主だというのか」
エルファリア:「ええ、そのとおりです」
答えたのは、エルファリアだった。にっこりと手を差し伸べ、さあ、というように、レピアと斑咲を引き合わせる。斑咲はそれに導かれ、仕事の顔に戻った。
斑咲:「…して、助力の依頼とは」
レピア:「ちょっとばかし手伝いをね。あたし、ワケありでさ」
そこでレピアは、彼女の身の上を語った。
自分は数百年以上生きている人間であること。濡れ衣をきせられて不死の呪いをかけられ、昼間は石像にされていること。そんな、普通の表情では話せないようなことを、レピアは終始あっけらかんと、ごく普通の話でもするように、説明した。
エルファリア:「…レピアはその呪いを解くため、手掛りを探しているんです」
レピア:「そう、それで斑咲なら、何か知ってると思ってね」
エルファリアが合いの手をいれると、レピアは頷き、斑咲のほうを見る。斑咲は合点がいったらしく、大きく頷き、顎に手をやった。
斑咲:「そうだな…そういえば、今、クレモナーラ村は音楽祭の季節だな。人も多く集まるし、そこならば――あるいは情報も、見つかるやも」
エルファリア:「まあ、音楽祭」
エルファリアが言い、レピアの顔つきを見る。
案の定彼女は、心底嬉しそうな顔で、身を乗り出していた。
レピア:「音楽祭……踊りが披露できるね!よし決めた、そこに行こうか!斑咲には、昼間のうちにあたしを運んでもらって、夜は調べの手伝いをして貰いたいね。受けてくれる?」
斑咲:「……承知した。では…明朝にも、出発しよう。こちらは、夜の明けぬうちに支度をしておくゆえ――」
宵闇にまぎれ、女たちは密かに頷きあった。
【1】凍てついた美――クレモナーラ村・夕方
春の光、緩やかな風が吹く、小さな村。
咲き誇る路傍の花たちの、それはまるで喜びの声のように、クレモナーラ村はにぎやかな音楽に包まれていた。
バイオリン弾き:「おう、ネエさん!そんな重そうな荷物で、どうしたい」
斑咲:「ふ……気になされるな。ただの観光だよ」
夕暮れ、橙に染まった家並みにも、人通りは衰えることなく、ほうぼうに流しの音楽家が立ち、まわりの者を相手にその腕をふるっている。そのうちの一人が、荷馬車に人の背丈ほどもある布包みを運ばせる斑咲に声をかけた。
斑咲は動ずることなく、す、と笑い、若いバイオリン弾きの前をすり抜ける。そして旅人向けの宿に入り、宿泊の手続きを請った。
宿の主人:「いらっしゃいませ!お一人様で?」
斑咲:「いや…あとで、連れが来る。二人部屋を」
宿の主人:「かしこまりました。それでは二名様、ご宿泊を」
斑咲:「――頼む。では、これを部屋へ…ああ、私が運ぼう。気遣い、かたじけない」
親切な宿の下男が、大きな布包みを運ぼうとしたのを遮り、斑咲はそれを持ち上げ、部屋へ運んでいった。
陽が、沈む。
眩しい橙色の光が消え、吸い込まれるような夕暮れの透明が空を覆い、それから、少し肌寒い風とともに、闇がやってきた。
レピア:「う――」
やわらかなベッドの上、横倒しに置かれた石像が、ゆっくりと動き出す。
それはやがて、ぬくもりを持った、人間に戻った。
レピア:「ああ…そうだ」
夜になり、元に戻ったレピアは伸びをし、起き上がる。そして、窓の外に華々しく飾り立てられた祭の照明を見やって、呟いた。
レピア:「ここが、クレモナーラ村……綺麗なところだね」
そこへ、先に情報収集にまわっていたらしい斑咲が入ってくる。身を起こし、人の膚を取り戻したレピアを認めると、彼女は声をあげた。
斑咲:「レピア!目が覚めたか」
レピア:「ああ、おはよう。村の様子は?」
斑咲:「…どこもかしこも、お祭騒ぎだ。なかでも、情報を持っていそうな旅人は…そうだな、たいていは酒場に集まっている」
斑咲の言葉どおり、村の盛り場である酒場には、旅装束の冒険者らしき人物が集い、あふれる音楽を肴に酒を酌み交わしたり、踊りの輪に混じったりと、思い思いに音楽の宴を楽しんでいた。
そこへ現れた二人の美女に、真っ先に声をかけたのは、夕方斑咲に声をかけたバイオリン弾きであった。
バイオリン弾き:「おっ!あんた、さっきの!友達も連れてたのか?」
レピア:「あたしはレピア。踊り子だよ」
バイオリン弾き:「へぇ…じゃ、俺の演奏に合わせて踊ってくれよ!ちょうどいま踊ってる連中が疲れてきたところでさ」
レピア:「もちろん!」
場に満ちた楽しげな音楽に、身体がうずうずしていたレピアは、彼の申し出をふたつ返事で引き受ける。斑咲はその様子に、そっと耳打ちをした。
斑咲:「レピア…情報は」
レピア:「ああ、そんなの後あと!それより斑咲、あんたも歌くらい歌えるだろ?ちょっと手伝って頂戴よ」
逆に謡を頼まれてしまい、斑咲はやれやれ、と苦笑しながらも、忍者として身につけた曲芸歌を披露するため、バイオリン弾きの隣に座った。
歌と、バイオリン、そしてレピアの踊りがはじまった。
【2】躍動する艶――クレモナーラ村・夜
バイオリン弾き:「すっげえ!あんたら綺麗なだけじゃなくって、踊りも歌も最高だな!」
宴もたけなわ、その酒場の視線は、ただ一点に釘付けになっていた。
艶やかに踊るレピアと、あでやかに響く斑咲の歌。美しい女たちの競演に、それまで歌い、踊っていたほかの冒険者は、次々にその手を止め、見入っていた。
レピア:「さあ、次はどんな曲?できるんならもうちょっと激しいの、頼むよ」
斑咲:「……ふう……」
バイオリン弾き:「よし、じゃあ次は…『引き継がれし紅の瞳』、行くぜ!」
テンポの早い民族音楽に、レピアは即興で舞った。
扇情的な熱い肢体のくねりに、観客からは男女問わず、溜息すら上がる。ときに速く、ときに緩やかに、曲に合わせたその動きが止まったとき、酒場に居合わせた人々からはいっせいに拍手が湧き起こった。
隻腕の剣士:「ほう……見事なものだ。まさに傾城、傾国の美」
レピア:「……!?」
客の一人、片腕のない男が、ぱちぱちと手を叩いた。
その言葉に、レピアは思わず振り向く。
隻腕の剣士:「失礼、気分を害したかな?他意があったわけではない」
レピア:「――いや…気に、しないで」
レピアが言うと、男は改めて感銘した、というように、彼女の姿をまじまじと見る。
隻腕の剣士:「しかし、貴女の踊りは本当に、ひとを惹きつけてやまない……まるで伝説の一ページ、うらやむ王妃によって動かぬものとされた踊り子のように」
レピア:「………」
斑咲:「……ほう。貴公はまた、随分と博学であられる」
黙っているレピアの横から、斑咲が助け舟を出した。すると男は笑い、肩をすくめる。
隻腕の剣士:「なに、狭く深く――といった程度のものだ。石だとか、呪いだとか、そういったものに興味がある――いな、興味を持たざるをえなくてな」
斑咲:「…成る程」
バイオリン弾き:「おいおい、片腕の兄さん!いくら綺麗だからって、二人を独占してもらっちゃ困るぜ!こっちにゃもう、ネエさん方の歌と踊りを見たいって連中でいっぱいなんだ」
この男なら、なにか情報を持っているかもしれない。
そう思ったところへ、バイオリン弾きの快活な声がかかった。レピアはすぐさまそちらに向き直り、自分の踊りを期待する人々の視線を浴びる。
レピア:「っと、そう言われちゃ、じっとしてるわけにゃいかないね。斑咲、さあ早くっ」
ステップも軽やかに、ふたたび踊り始めるレピア。その踊りは、皆が十分に満足し、疲れ果てるまで続いた。
【3】仄めく真――クレモナーラ村・早朝
深夜、いや、すでに早朝に近い時刻、酒場に集っていた人々は、ようやく三々五々、帰るなり、眠り込むなりで、その数を減らし、店内の音楽は、わずかに弦をはじく程度の、静かなものになっていた。
そんな中、酒を手に休憩するレピアたちの隣に、先刻声をかけた隻腕の剣士が座る。
隻腕の剣士:「あれだけ踊りに踊って……まだ起きておられるとは。いやはや、感服する」
レピア:「だって――あたしは踊っていられれば、幸せだもの」
それは、心からの言葉。ほんの少し、憂いを帯びた眉を上げて、レピアは呟いた。
剣士はそれを聞き、納得するように大きく頷く。
隻腕の剣士:「成る程。生粋の踊り子だ」
斑咲:「貴公……先刻、石や呪いに詳しいと…そう仰ったな」
斑咲はここで、ようやく今回の目的、情報収集の話をもちかけた。
隻腕の剣士:「ああ。……貴女がたのような麗しい乙女には、似合わない話であるかな」
レピア:「いや、そんなことないよ――でも、どうしてそんなに詳しいの」
微笑しながら杯を傾ける男に、レピアが聞く。彼は片腕でグラスを置き、それからゆっくりと、無い自分の腕のほうを見やった。
隻腕の剣士:「石化の呪い……拙者のこの腕と、我が妻を奪った、古代の呪いを解く。その方法を探していてな」
レピア:「古代の…!」
隻腕の剣士:「思えば、若気の至りではあった…触れてはならぬ古代遺跡に入り込み、すすんで呪いを受けたのだからな」
レピア:「………」
その呪いが、自分のものと同じとは限らない。いや、そうでない確率のほうが高いだろう。この男は深夜であっても、腕がないままなのだから。
しかしレピアは、その中に手掛りを求め、さらに男の話を聞いた。
斑咲:「して――解く方法は?」
隻腕の剣士:「御覧のとおり、いまだ見つかってはいない」
レピア:「……そう」
落胆したように、レピアは言った。男は話を続ける。
隻腕の剣士:「だが、手掛りがないわけではない。この世には、その一振りに斬られればどんな石化の呪いをも解くという、伝説の武器があるともいう。またそれは武器ではなく、一つの呪文だとも、または一本の針だとも」
斑咲:「――とどのつまり、さしたる確証はない、と」
隻腕の剣士:「しかし、これらはまったく別の地域に伝わる、別々の話だ。それなのに、面白い共通点がある」
レピア:「共通点……?」
男は残っている腕の人差し指を立て、虚空を見ながら、話を続けた。
隻腕の剣士:「石化の呪いを解くためには、呪いをかけられ石となった者を心より想う、そんな人間が、その武器なり、呪文なりを使うべし。どの伝承にも、そう謳われている」
レピア:「あた…いや、その石化した人を…心から想う人」
レピアはその言葉を、噛みしめるように繰り返す。
剣士もまた、その伝承を頼りに、腕と妻を取り戻すための方法を探しているようだった。
隻腕の剣士:「しょせんは伝説、だがな。しかし、嘘や虚構を重ねてゆけば、隙間に真実が見えることもある。拙者はそれを探し、こうして旅をしているのだ」
レピア:「………」
時計が、鳴った。
もうこんな時間か、と、剣士は立ち上がって勘定を払い、二人に一礼をして酒場を去っていった。その背中を、レピアは夢でもみるような瞳で、見送っていた。
【跋】
斑咲:「収穫は、ある程度あった――と、いえるだろうか」
レピア:「……うん」
宿の部屋に戻り、白み始めた外の様子を見ながら、斑咲は言った。レピアはその問いに、小さく頷く。
斑咲:「……そうか」
レピア:「たくさん踊れたし、ね。ありがとう、斑咲」
斑咲:「依頼されたことをしたまで。礼には及ば――…?」
同じく、窓から外を眺めているレピアの様子が変わり始めていることに気づき、斑咲は眉根を寄せる。ほどなく、それは朝日の前に石へと変わる、哀しい呪いがまた発動しようとしているのだと気づいた。
レピア:「ああ…時間みたい……ねえ、斑咲」
斑咲:「……何だ」
レピアは斑咲のほうを向き、搾り出すように言う。
レピア:「あたし――次に、目が、覚め、たら――、…う…ひとの…」
彼女が言い終わる前に、陽は無情に顔を出した。
曙光とともに、レピアは石化し、もの言わぬ石像となる。
斑咲:「………」
斑咲はその姿を、しばし見つめていたが、やがてカムフラージュのために持参していた布をそっと、レピアの身体にかけてやる。
斑咲:「おやすみ、レピア……次に目覚めたときはきっと」
眩しく白い光の差し込む朝、彼女は眠りへの、小さな挨拶をした。
―了―
【ライターより】
はじめまして、ライターのSABASTYです。発注ありがとうございました。
設定のしっかりしたキャラさんでしたので、他ライター様の作品とも照らし合わせつつ、あまり核心には迫りすぎぬよう、上っ面をなでる程度の情報にしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
レピアさんのような艶っぽいPCさんは初めてでしたが、書いていてとても楽しかったです。
それでは、またの冒険をお待ちしております。
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