<PCクエストノベル(4人)>
エルファリア王女杯ゴンドラレース
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 0812 / シグルマ / 戦士】
【 1217 / ケイシス・パール / 退魔師見習い】
【 1649 / アイラス・サーリアス / 軽戦士】
【 1780 / エルダーシャ / 旅人&魔法使い】
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アクアーネ村は水の村として有名で、観光地として賑わっていた。
だが、ここしばらくの賑わいは、いつも以上になっている。なにしろ、名物であるゴンドラレースが開催されるのだ。
しかも主催者はエルファリア王女。
優勝者には王女から杯と祝福のキスが与えられるということで、その熱狂はものすごいものとなっていた。
長い金の髪をした優しげな容貌の王女からの口づけとなれば、男たちが盛り上がらないはずもない。
王女の口づけをどこのウマの骨ともわからぬものたちに渡してなるものかと、そば仕えのものたちが別な意味で盛り上がってもいた。
解説者:さて、今年もはじまりましたゴンドラレース! 予選を勝ち残ったの4人をこれからご紹介いたしましょうッ!
解説の人間の、陽気な声があたりに響く。
そして解説者がぱちんと指を鳴らすと、上空からぱっと光がさして、緑色の髪をしたおっとりとした雰囲気の女性を照らした。
解説者:ゼッケン1番はなんと、まだうら若き女性だぁ! グリーン号に乗るのはエルダーシャさん、年齢はヒミツ、スリーサイズもヒミツ、とにかくヒミツづくしのミステリアスな美女! エルダーシャさ〜ん、なにかひとことどうぞ〜!
エルダーシャ:え、え〜と〜、あの〜。がんばります〜。
突然解説者から話をふられて、エルダーシャはとまどったような様子を見せる。
解説者:はいっ、ありがとうございましたー! エルダーシャさんは見た目同様におっとりした女性でした! さて次、ゼッケン2番! こちらも若いぞ、でも残念、男性だ! トゥリスムス号に乗るのはアイラス・サーリアスさん19歳、これまで堅実に勝ち上がってまいりました! アイラスさん、なにかひとことどうぞー!
アイラス:ひとこと……そうですねえ……。がんばりますのでよろしくお願いしますね。
アイラスもやや困った様子だったが、ふたりめということもあり、落ち着いた様子で答えていた。
解説者:お次はヴィットリア号のケイシス・パールさん、頭にツノのナイスガイ! 肩の狐はどうやら本物? ケイシスさ〜ん、ひとことどうぞー!
ケイシス:……ひとこと、って言われてもな。参ったな……。
ケイシスは困ったように眉を寄せる。
解説者:どうやらケイシスさんはシャイな方の模様です! さて次、これで最後となりました! マナガルム号に乗っているのは、なんと腕が4本もある、多腕族のシグルマさんです! 見るからにいさましそうだぞッ! さてそんなわけでシグルマさん、コメントを!
シグルマ:おう! 優勝してやるから覚悟してろよ!
シグルマは、手にした酒瓶をふりまわす。
解説者:え〜……どうやら、シグルマさん、すっかりできあがっている模様です。水の中に落ちると危ないので気をつけてくださいねー。
シグルマ:俺を誰だと思ってんだ! そんなことあるわけねえだろうが!
解説者:はっ、はいっ……すみません! って、解説者、思わず謝ってしまいました! すごい迫力です……さてそんなわけで、そろそろ戦いの火蓋が切って落とされようとしています! ちなみにあちらにひかえた王女のそばづかえの方々の妨害も、ゴンドラレースの華! みなさんがんばってくださいねー!
解説者が気楽に言ったそのとき、パァン! とレース開始の合図が鳴った。
4人はそれぞれ、いっせいにゴンドラをこぎはじめる。
解説者:おおっと! ヴィットリア号とマナガルム号、前に出た! 出ましたッ!
解説者の言う通り、ケイシスとシグルマが、あとのふたりよりやや先に行っている。
エルダーシャは特にレースに勝とうという気がないのかおっとりとこいでいるし、アイラスは自分のペースでこいでいる。
解説者:おおっと、ここで妨害だぁ!
解説者の声とほぼ同時に、トマトが投げつけられはじめる。
エルダーシャ:あらあら〜トマトがもったいないわ〜。
エルダーシャはそんなことを言いながら、水の中に落ちたトマトを拾っている。
トマトはよく熟れていておいしそうな赤色をしている。
アイラス:わ、でも、すぐにつぶれますね……もったいない。
アイラスはエルダーシャほどはのんきではないようだが、それでもゴンドラや自分にぶつかってはじけるトマトがもったいないと思っているようだ。
自分の身体にあたってはじけたトマトの実を、指先ですくって口に運ぶ。
シグルマ:はっはっは、甘いぜぇ!
だが一方シグルマは、笑い声を上げながら、手にした武器でばっさばっさとトマトを切り捨てている。
が、トマトなので、切り捨ててもあたりに汁が飛び散っていて、あまり意味はなさそうだ。
ケイシス:……焔、おまえってトマトは食うんだっけか?
ケイシスは基本的には気にせず進んでいるようだったが、それでもやはり、多少は気になるらしい。肩に乗っている九尾の狐へと声をかける。
狐はこん、と小さく鳴いた。
どうやら九尾の狐はトマトを食べないらしい。
だがやがて、トマトは止まった。
あまり、いやがらせ以上の効果がないのを悟ったらしい。
どこのウマの骨とも知れない冒険者たちに王女の口づけを与えないためには、全員を棄権させるほかないのだ。
だが、だからといってあまり危険な方法をとるわけにもいかないのが、そばづかえのものたちのつらいところだった。
エルダーシャ:こんなにたくさんトマトをもらっちゃっていいのかしら〜。
エルダーシャはのんびりと、嬉しそうにトマトをゴンドラの中に積み上げている。
トマトをたくさん拾えたらしく、エルダーシャは満面の笑みだ。
解説者:トマト攻撃にもビクともしない! さすが百戦錬磨の冒険者たちだ! 現在の順位は、ヴィットリア号とマナガルム号がともにトップを並走中、その少しあとにトゥリスムス号、そして一番最後にのんびりとグリーン号が走っています! おおっと、だが、そこの障害物が出現だ!
解説者が言った瞬間、シグルマとケイシスの前に壁のようなものが出現した。なんらかの魔法で作られたらしい壁は、どっしりと水路をふさいでいる。
シグルマ:望むところだぜ!
シグルマは手にしたカナヅチを振り上げ、壁へと打ちつける。
すると壁はほろりと崩れた。
シグルマ:なっ……!?
壁はどうやらもろい素材でできていたらしく、ぼろぼろと崩れて、その瓦礫がシグルマへと降り注ぐ!
シグルマは武器をふるって瓦礫を砕くが、それでも限界があるようだ。いくつかはシグルマに当たっている。
一方ケイシスはといえば、それにすっかり巻き込まれてしまっていた。
焔のしっぽが瓦礫をいくつかはじきとばしてはいるものの、それくらいでは焼け石に水。ほとんどがケイシスに当たってしまっている。
アイラス:……あれはなかなか危ないトラップのようですね。どうしましょうか……。
あとからゆっくりとあとを追うアイラスは、あごに手を当てて考え込む。
よけるにはあの壁は大きすぎるし、かといって壊そうとすれば崩れてきて大変なことになる。
アイラス:ああ……でも、僕が行く頃には、きっとシグルマさんが全部壊してくれますよね。
だがふとその可能性に思い当たり、アイラスはうなずく。
優勝できるに越したことはないが、そもそもアイラスは楽しむために参加しているのだ。
ムリをするよりは、少しでも負担は軽い方がいい。
シグルマ:うおりゃああああ!
シグルマはムキになっているのか、がすがすと壁を破壊しまくる。
ケイシス:危ないだろ!? って、おい、聞いてるのかよ!
それにすっかり巻き込まれてしまって、ケイシスはあたふたとする。
焔と協力して瓦礫を破壊してはいるものの、それでもなかなかおいつかない。
だがシグルマはケイシスの言葉など、耳に入っていないようだ。ひたすらに壁を破壊しつづける。
解説者:おお〜っと、シグルマさん、どうやら壁の破壊が楽しくなってきた模様! 魔法でつくられた壁だから、いくらでも出現するぞ!
そこで解説が入る。
どうやら、壊しても堂々めぐりになるだけらしい。
ケイシス:まずはシグルマをとめないことには、こっちも前に進めない――ってことか。
舌打ちをして、ケイシスはシグルマの方へとゴンドラをこいでいく。
シグルマ:お? なんだ?
それに気がついたシグルマは、とりあえず身構える。
そこに、焔が飛び掛った。
シグルマ:なんだ、やる気か!?
ケイシス:おまえが大人しくしないと前に行けないんだよッ!
そうしてケイシスも飛び掛って、そこでつかみあいの乱闘がはじまる。
お互い武器を使うほどには頭に血がのぼってはいないようだが、それでも、ケイシスがシグルマのゴンドラに乗り移っての乱闘だ。激しいことになっている。
解説者:おおっと、シグルマさんとケイシスさんが乱闘をはじめてしまいました〜っ! そこで追い上げてくるのがアイラスさんです!
シグルマとケイシスの乱闘を横目に、アイラスはゆっくりと先へ行こうとする。
するとそこに、今度はオレンジが投げつけられはじめる。
アイラス:わ、痛いですってば! めがねが割れます……!
アイラスは思わず身を伏せる。
エルダーシャ:あらあら〜今度はオレンジなのね〜。あれも拾っていこうかしら〜。
風景を見物しながらゴンドラをこいでいたエルダーシャは、少しスピードアップして、オレンジを拾いに行く。
エルダーシャにはオレンジが身体にあたったところで、さほど気にはならないようだ。
そうして、乱闘中のシグルマとケイシスや、オレンジ攻撃に伏せてしまったアイラスを置いて、先へ先へと進んでいく。
解説者:おおっと、エルダーシャさん、マイペースに進んでいく! 進んでいきます! ゴール間近だ! エルダーシャさん、ゴーーーーーール!
エルダーシャ:あらあら〜。もうゴールなんですか〜? ちょっと残念だわ〜。
エルダーシャはオレンジとトマトをいっぱいに抱えて、のん気な声で言う。
その後ろでは、エルダーシャのゴールにも気づかずに、シグルマとケイシスが乱闘をつづけていた……。
そして、しばらくして。
やっとふたりの乱闘もおさまり(お互いボロボロになってはいたが、なぜかふたりとも晴れ晴れとした表情だ)、表彰式がはじまった。
エルファリア:エルダーシャさん、優勝おめでとうございます。
エルファリアは椅子から立ち上がると、杯を抱えて、しずしずとエルダーシャの方へ近づいてくる。
エルダーシャ:ありがとうございます〜。
エルダーシャは笑顔で杯を受け取る。
近衛騎士:王女! 優勝者は女性なのですから、祝福のキスは無効ではないかと思われます!
エルファリアがエルダーシャに祝福のキスを与えようとする前に、近衛騎士がそう主張する。
エルファリアは目をしばたたかせながら、エルダーシャを見た。
エルダーシャ:ええと〜私はそれでもかまいません〜。
女性同士でもあることだし、エルダーシャはそう答える。
するとエルファリアはやわらかく笑んだ。
エルファリア:ではせめて、抱擁を。
言いながら、エルダーシャを抱きしめる。そしてすぐに身を離すと、また椅子へかけた。
近衛騎士はやや不満げな表情ではあったが、それでも、口づけに比べればマシだと判断したらしい。特になにかを言う気配はない。
エルファリア:本日はみなさま、ご苦労さまでした。この後、出場者の方々にはささやかな宴席を設けてあります。どうぞお楽しみください。
王女の言葉に、出場者たちが完成を上げる。
その宴席にはエルファリアも参加するため、一介の市民や冒険者たちが王女に近づくチャンスなのだ。
シグルマ:しょうがねえ、今日は飲むぞ!
シグルマがケイシスの首をぐいとつかんで言う。
ケイシスは苦笑してうなずいた。
エルダーシャ:宴席ですって〜。やっぱり、おいしいものとか出るのかしら〜。
アイラス:出るんじゃないでしょうか。王女も出席されるようですし……。
エルダーシャ:そうよね〜。楽しみだわ〜。
エルダーシャは優勝したことよりも、そちらの方が気になっているらしい。既に心はご馳走へと飛んでいるようだ。
アイラスはくすりと笑い声をもらした。
――その後、宴会では普段の倍以上の酒樽が空になったらしいが――大半を飲んだのが誰であるのかは、言うまでもない。
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