<PCクエストノベル(1人)>


鉢植えを届けに
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【 1780 / エルダーシャ / 旅人&魔法使い】

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 遠見の塔に住む賢者の兄弟から預かった鉢植えを持って、エルダーシャはフェンリ・ロウのもとを訪ねていた。
 その鉢植えはずいぶんと古くなっているため、『レン』という病にかかっている可能性があるのだ。
 その病を治療できるのはリレン師と呼ばれる特殊な職業の人間のみで、今のところ、数名しか存在しない。
 そのうちのひとり、最も有名なリレン師がフェンリー・ロウだった。

エルダーシャ:ええっとぉ……たしか、こっちでよかったのかしら〜。

 エルダーシャはフェンリー・ロウの住居を目指して、のんびりゆっくりと歩いていた。
 預かった鉢植えには、もしも『レン』にかかっていたとしてもそれ以上病が進行してしまわないように、特別な魔法がかけてある。
 かつて、神殺しをしてしまったときに受け継いだ魔法を使えば、そんなことも可能になる。
 そのため急ぐ必要も特になく、エルダーシャはいつも通りマイペースに旅を続けているのだった。

エルダーシャ:う〜ん……でも、このあたりは緑がたくさんあっていいわね〜。……あら?

 ふと、エルダーシャは足をとめてあたりを見まわす。
 なにか、悲鳴が聞こえたような気がしたのだ。

エルダーシャ:気のせいかしら〜?

 エルダーシャは首をひねりながら、また歩きだす。
 するとふたたび、悲鳴が聞こえた。

エルダーシャ:やっぱり悲鳴だわ〜……なにかしら?

 エルダーシャは走りだした。
 悲鳴の聞こえた方へと走っていくと、大木ほどもあろうかという大きなむかでが、大事そうに鉢植えをかかえた女の子を襲っている。
 女の子は、自分の身体で鉢植えをかばっているようだ。そのためか、身体中傷だらけになっている。

エルダーシャ:えいっ!

 エルダーシャは足下に落ちていた枝をひろって、大むかでに投げつけた。
 するとむかではきしゃあっと鳴いて、しげみの中へと消えていく。

エルダーシャ:大丈夫だった?

 エルダーシャが駆け寄ると、女の子は小さくうなずく。

エルダーシャ:よかったわ〜。ああ、ちょっといいかしら〜。大丈夫よ〜、ケガの治りを早くする魔法をかけるだけだから〜。

 エルダーシャは傷だらけになった女の子の腕を取って、治癒の魔法をかける。
 エルダーシャの魔法ではキズをきれいに治してしまうことはできないが、それでも、なにもしないよりはいい。

エルダーシャ:ねえ、もしかして、フェンリー・ロウさんのところに行こうとしていたのかしら〜? だったら、私も今からそこに行くところなのよ〜。
女の子:そう……なの?
エルダーシャ:だから、もう大丈夫よ〜。さっきみたいなのが出てきても追いはらっちゃえるわ〜。じゃあ、行きましょうか〜?
女の子:うん!

 女の子は大きくうなずくと、エルダーシャを先導して歩きはじめる。
 女の子はフェンリー・ロウの住まいを知っていたらしく、すぐにふたりはフェンリー・ロウの家へとたどりついた。

エルダーシャ:思ったより近かったのね〜。

 エルダーシャが隣の女の子に微笑みかける。
 だが、女の子からの返事はない。
 不思議に思ってエルダーシャが隣を見ると、女の子はぐったりと倒れている。

エルダーシャ:え!? ど、どうしたの〜!?

 エルダーシャが揺さぶっても、女の子は苦しげにうめくのみだ。
 そうしてエルダーシャがあわてているうちに、目の前のドアが開く。中から顔を出したのは、可愛らしい容貌の、黒髪の少女だ。

黒髪の少女:どうされたんですか?
エルダーシャ:あ、あの〜、急に、この子が倒れて〜……。

 黒髪の少女は女の子に駆け寄ると、キズの状態などを確認しはじめる。そしてしばらくして顔を上げた。

黒髪の少女:あの、もしかして、この子、大むかでに噛まれませんでしたか?
エルダーシャ:そういえば、そんなこともあったような気もするわ〜。さっき、そこで襲われてて……。
黒髪の少女:大変……。
エルダーシャ:この子、どうしたんですか?
黒髪の少女:この子、大むかでの毒にやられちゃったみたいなんです。でも、薬はハルフ村まで行かないと手に入らなくて……。薬は、噛まれてから1日以内でないときかないんです。
エルダーシャ:……あの、だったら、この子の時間をちょっとだけ止めたりしたら、大丈夫なんじゃないかと思うの〜。どうかしら?
黒髪の少女:え? そんなことができれば、それはもちろん、大丈夫ですけど……。
エルダーシャ:だったら、大丈夫よ〜。私、そういう魔法は得意なの〜。

 言いながら、エルダーシャは自分自身にほどこしてある封印をほどいていく。
 普段はむやみに発動してしまわないように封印してあるが、エルダーシャは音を発するだけで神の力を行使することができるのだ。
 そうして時を止める魔法を女の子にかけてから、エルダーシャは黒髪の少女に向き直った。

エルダーシャ:これで、もう、大丈夫だと思います〜。
黒髪の少女:そう……なんですか? ありがとうございます。

 目をぱちくりさせながら、黒髪の少女は微笑む。

エルダーシャ:いえいえ〜。あ、あの、実は私、フェンリー・ロウさんに会いにきたのですけど〜。フェンリー・ロウさんはどちらに〜?
黒髪の少女:……あ、私です。私が、フェンリー・ロウです。
エルダーシャ:あなたが? なんだか、思ったよりもお若いんですね〜。

 エルダーシャは驚いて、フェンリー・ロウを見つめた。
 フェンリー・ロウは、思っていたよりもずっと若い。

フェンリー・ロウ:よく言われます。……あ、ええっと、それじゃあ、まず、この子を中まで運びましょうか。お話はそれから聞きますね。

 フェンリー・ロウはにっこりと答える。
 エルダーシャはうなずいて、女の子の肩に手をかけた。
 まだ小さいとはいえ、女の子はずいぶんと重い。フェンリー・ロウが足の方を持って、ふたりがかりで女のこを家の中へと運び込む。

フェンリー・ロウ:ありがとうございます。助かりました。……それで、私を訪ねてきてくださったってことは、レンのことで……ですよね?

 女の子をベッドに寝かせたあとで、フェンリー・ロウがエルダーシャに向かって言った。

エルダーシャ:ああ、はい、そうなんです〜。ちょっとおつかいなんですけど〜……この鉢植えです〜。
フェンリー・ロウ:……ああ、これは、ずいぶん古い木ですね。ちょっと、診るのに時間がかかりそうです。あの、申し訳ないんですけど、ちょっとハルフ村まで薬を取りにいっていただけませんか? その間に、診ておきますから……。
エルダーシャ:ああ、はい〜。大丈夫です。わかりました〜。

 エルダーシャはふたつ返事で引き受けた。困っている人がいるのならば助けたい。
 そんなエルダーシャに、フェンリー・ロウは優しい笑みを向けた。

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【ライター通信】
 こんにちは、5度目の発注ありがとうございます。浅葉里樹です。
 前回からの続きのクエスト――ということで。今回もさらに続く! という感じのクエストなのですが、いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。ありがとうございました。