<PCクエストノベル(3人)>


地底湖に住みし聖獣 〜一角獣の窟〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/      名前     / クラス 】
【1893/キャプテン・  ユーリ  / 海賊船長】
【1125/ リース ・ エルーシア / 言霊師 】
【1854/ シノン ・ルースティーン/神官見習い】

【助力探求者】
 なし

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●伝説
 エルフ族の集落より南東に、まだ人の手が及ばぬ深い森が広がっている。
 森の住民であるエルフ達にもその全貌は明かにされておらず、未だ謎多き森は精霊達の力で満ちていた。そのおかげか、この辺りは農作物の成長も良く、人間達は森にこそ入らないものの、その周辺で田畑を耕してその恩恵を受け取っていた。
 
 何時の頃からだろうか。南東に広がる森ーユニコーン地帯にある洞窟で守護獣の姿を見たという噂が流れはじめていた。この地域の守護獣、すなわち聖なる獣ユニコーンの姿だ。
 森にはいってすぐに噂の出所である自然窟がぽっかりと穴を開けている。噂の真実を確かめようと何人もの冒険者達が挑んでいったが、無事に帰って来たものが極わずかだった。戻ってこられたものも五体満足の者は少ない。
 彼らの話では、洞窟の奥に湖が存在し……そこで聖獣の御技(みわざ)を見たのだと言う。それが真実なのか疑う者もいたが、判断するべき材料があまりにも少ないため、彼らの体験談は噂として流れ、そして伝説へと変わっていった。
 
●冒険へ出よう
リース「『一角獣の窟(やぐら)』……あたしも噂は聞いたことがあるよ。何でも洞窟の最深部に湖があって、そこでユニコーンに会えるらしいね」

 興味しんしんといった様子でリース・エルーシアは告げる。
 先日、街に現れた旅商人から買い取った一枚の地図が彼女と、その話しの提供者であるシノン・ルースティーンと顔なじみの1人、キャプテン・ユーリの前に広げられている。丸いテーブルに置かれた古ぼけた地図には、古代の言葉が落書きの様に記されていた。それがどういった内容なのか、彼らには分からない。ただ、その地図はいにしえの場所への道しるべとなることだけは理解していた。

シノン「伝説の聖獣か……うん、面白そうだよね!」
ユーリ「確かに魅力的とは思うけど、ちょっとうさん臭げじゃないかい?」
シノン「そんなの、行ってみれば分かるよっ。百聞は一見になんとかって言うじゃない♪」
リース「なに? その言葉」
シノン「んーと…孤児院の子が言ってたんだけど…異国のことわざで『何事も経験するのが一番』っていう意味だとか言ってたよ」
ユーリ「へぇ……まさに、キミらしい言葉じゃないか」

 少し強めのキールをあおりつつ、リースは微笑みを浮かべる。
 何にでも前向きに好奇心を持つのはシノンの良い所でもあり、このソーンにおいて生きるべく必要な性格だ。そのせいで時折周りの者が迷惑を被るときもあるが、結果として良い方向にいつもおさまっているのだろう。そうでなければ、素直に孤児院の子供達が心を開いてくれるはずがない。
 
リース「ユニコーンって何か願いごとを聞いてくれるのかな。なにをお願いするか考えておかないとね」
シノン「私はやっぱり……孤児院の皆の幸せかな。それと、リースとユーリとずっと仲良しでいられたらなっていうことかな♪」

 満面の笑顔をみせてシノンは2人に言った。
 
ユーリ「そう思ってくれるのは有り難いけど……シノン、まずはキミ自身の幸せをお願いするべきだよ。キミがいつでも笑顔で元気を振りまいてくれれば、僕やリースも君とずっと仲良しでいられるからさ」
シノン「そうなの?」
リース「シノンの暗い顔なんて見たくないもの。シノンの笑顔に元気をもらってるんだから」
ユーリ「でもまあ、その前にまずはユニコーン探しだろうね。見つけなければ意味がなくなってしまうからね」

 3人はそのまま、新たなる冒険への準備の会議へと話を進めていった。
 目的地までの道乗り、手段、用意する道具……それら一式を全てそろえるために、3人は一度それぞれ家に戻り、準備を整えることにした。
 
シノン「それじゃ、シトゥラの橋の上で」
リース「また、ね」

●探検
 その日は朝から雨だった。
 音もない静かな霧雨が森の中に湿った風を産み出させ、じんわりと肌にまとわせている。
 年中心地よい気候のはずのこの辺りも、雨のおかげか息が少ししづらい。皮膚からにじみ出る汗と雨が混じった水の不快感を癒すため、シノンは近くの崖の横穴に避難すると、しっとりと濡れたフードを脱ぎ捨てた。

シノン「ふう………っ。ねー、ちょっと休憩していこうよ」
ユーリ「まだ目的地まで遠いし、もう少し先で休んだほうがいいよ」
リース「……ま、でも。体力温存も必要ね、ユーリも休んでいきましょうよ」

 何時の間にかちゃっかりとシノンの隣に座り、リースは早々に野営の準備を始めていた。といっても、こんな雨では木に火は付かない。出来るとしたら、濡れていないタオルで身体を拭くのが精一杯だろう。風邪をひかないよう、上着を脱いで身体を
 
ユーリ「水の精霊の貴重な仕事を、僕達の都合でやめてもらうわけにはいかないけど……こんな天気になるなら制御する道具でも持ってくれば良かったね」
シノン「そうだね、そうすれば濡れずにすんだのかなぁ。はい、これ今朝淹れてきたチャイ。ミルクと砂糖を多めにして煮立てたから、疲れた身体に丁度いいと思うよ」
リース「……あれ、これ暖かい……」
シノン「孤児院に寄付してくれた方が『どうぞ使って下さい』と持って来た魔法の瓶に詰めてきたの。これに入れておけば暖かいまま飲み物を持ち運べるんだって♪」
リース「世の中には便利なものがあるものね……」

 感心しながらも、リースは用意されたお菓子とお茶をつまんでいく。
 しばしのティータイムを楽しみ、一服していた時の事だ。気配を感じ、ユーリは腰の剣に手をかけながら立ち上がった。

シノン「ユーリ、どうしたの?」
ユーリ「静かに……誰か来る」

 雨音だけが静かに響く森を緊張した面持ちでユーリは見渡した。
 カサリ……とわずかに茂みが揺れ、そこから額に小さなこぶを持った白い子馬が飛び出して来た。子馬はそのまま飛び跳ねるような軽い足取りで、森の奥へと駆けていく。

リース「……今のもしかして……!」
ユーリ「追いかけよう!」
シノン「あっ、ま、まって!」

 手早く荷物をまとめて、3人は急いで子馬の後を追っていった。
 緩やかな丘を下り、深い茂みを掻き分けていくと、ぽっかりと開いた大きな穴へたどり着いた。
 
シノン「あれっ、これってもしかして『一角獣の窟』!?」
リース「となると……さっきの子馬はもしかして一角獣の子供?」
ユーリ「噂にすぎないはずの伝説が……本当だったとは……」
シノン「よーっし! そうと決まればばっちり見付けて願いを叶えてもらおうよ!」
リース「追いかけるの?」
シノン「もっちろん♪」

 雨でぬかるんだ地面に注意しながら、3人は奥へと進んでいった。

●洞窟の中へ
 入り口付近は雨で濡れていたものの、奥に進むにしたがい、しっかりとした石畳の廊下へと変わっていた。
 昔、何かの儀式に使われていたのだろうか? ところどころ使い古された灯籠(とうろう)の欠片が壁や床に残っている。壁がろうそくの炎なのですすだらけになっていることからしても、随分と長い間使われていたのだろう。
 
シノン「なんだかカビ臭いねー……」
リース「ここまでくると新鮮な空気があまりこないんじゃないかな? でも……奥からほんのちょっとだけど、水の香りがしてくるよ」
シノン「このまま外にでちゃうっていうこと?」
リース「それとは違うんじゃないかな。外の空気より……もっと清らかな感じ」

 階段をいくつか下るに従い、道は徐々に細くなっていき、最初は横に並んで歩いていた道幅が、3つ目の階段を下りる頃には人1人通るのがやっとの幅に狭まってしまっていた。
 最初は整備されていた道も徐々にただの穴ぐらの道へと戻っていき、時々壁が崩れ落ちているなど悲惨な状況になっている場所もある。
 何度目かの行き止まりにたどり付き、違う道筋を探していた時のことだ。
 ふと、壁にすっかりかすれた文字が落書きの様に記されているのに気付いた。どこかで見慣れた形に気付き、シノンはふと歩みを止める。

シノン「これってもしかして……」

 鞄の中から革袋を取り出し、中に入れておいた紙切れを丁寧にとりだした。
 それはこの旅のきっかけとなった一枚の地図だった。確かに文字の形が良くにている。読み方は相変わらず分からなかったが、地図の場所と記されている文字を比較して、聖都エルザードについて書かれているとだけ分かった。
 
ユーリ「古代の文字、昔の調度品、そして古い地図……これらの共通点にあるのが、聖都エルザードに何かしらの関わりがあるかもしれないということだね……」
リース「聖獣のことなのかもしれないよ。その昔、聖都は聖獣達が治めていたという伝説もあるぐらいだもん」
シノン「まあまあ、奥に行けば分かるよ! それに、今回の目的はユニコーンに会いに、だよ。目的がずれちゃったら肝心のお宝を見逃しちゃうんだから!」
ユーリ「そうだね、シノンの言う通りだ。奥へ急ぐとしよう」

 道を進んでいき、ずいぶんと小さな出入り口を抜けたところで……
 全員はその場にたちすくんだ。
 
●地底湖を守るもの
 入り口をくぐりぬけると大きな広間に出た。自然に出来あがった鍾乳洞のようだ。幹のような太い石柱が何本も立っている。気の遠くなるようなが長い年月を越えて出来上がった芸術はまさに圧巻だった。
 鍾乳洞の柱の奥がぼんやりと輝いている。怪訝に思い、慎重に歩みを進ませつつ近付くと床……いや、水面が淡い輝きを放っているのが分かった。壁の側面から湧き出てくる水脈が鍾乳洞の窪みにたまり、地下水湖となっていたのだ。光の正体は、この水に含まれる成分が反応しているのだろう。青白い輝きは美しいというより無気味にさえ感じられる。
 
シノン「ねえ、ここで行き止まりなんだよね。さっきの子馬、どこにいったんだろう?」
リース「まさか途中で追いこした、なんてことはない?」
ユーリ「いや、それはないだろうね。伝説によればユニコーンは地下深くにある湖にいるらしいよ。きっとここのどこかにいるんじゃないかな」
シノン「うーん、暗くてよくわかんないや……」

 仕方ない、とシノンは精霊を召還し、淡く輝く光玉を作り上げた。ふわふわと儚げな光が天井へ昇っていき、辺りをぼんやりと照らしはじめる。
 
リース「シノン! あそこ……!」

 リースの指差す方向に黒い影が揺らめいていた。光を受けて赤く輝く瞳がじろりと3人を睨みつけている。
 殺気を感じ、ユーリはさりげなく女性陣の前に歩み出た。
 
ユーリ「……僕が合図をしたら、入り口に向かって走って……振り向かずに一目散にね」
シノン「でもそれじゃ、ユーリが……!」
ユーリ「……きたっ! 走れ!」

 うなり声をあげて、影が飛びかかってきた。ユーリに言われた通り、シノンとリースは一斉に入り口へと駆けていった。
 
ユーリ「キミの相手は僕だよ!」

 腰に下げていたレイピアをすばやく抜き、ユーリは軽快な動作で突き上げた。
 キィンと金属音が響き、ユーリは後方に弾き飛ばされる。
 身体を地面に強く打ち付け、痛みをこらえながら起き上がるユーリ。眼前に立ちはだかる鎧戦士の姿をみて、ユーリを息を飲んだ。
 
ユーリ「まさか……守護兵器!?」

 激しい金属音に駆けていた2人もその足を止めた。振り向き、敵の正体を知るとシノンは目を見開いた。
 
シノン「うそ……あれってまさか守護兵器……?」
リース「兵器?」
シノン「うん……ずっと昔、上流階級の人達が愛用していた警備兵なんだって……精霊の力が込められてるから、ずっと何年も動き続けるカラクリ道具だって聞いたことがあるよ」
リース「それじゃあ、あの鎧みたいなの……ずっとここで動いていたのかな」
シノン「かも……となると……やっぱりユーリだけじゃ危ないよ!」

 シノンは革袋から粉の入った瓶を取り出すと、辺りに振り撒きながら力ある言葉を言い放った。

シノン「吹き飛ばして!」

 シノンの眼前の空気が圧縮し、一気に力が前方へ解き放たれた。振りまかれた粉を巻き込んだ、見えない刃が鎧戦士を襲いかかる。刃で裂かれた場所からじわり……と鎧が錆び始めた。
 動きが鈍ったのに気付き、ユーリは素早く身を起こすと兜に埋め込まれていた宝石を思いきり突きたてた。
 パキン、と乾いた音を立てて宝石はあっさりと砕け散る。途端、鎧はその動きを止めて派手な音を立てながら床に転がっていった。
 
リース「…倒したの?」
シノン「一時的な原動力となる宝石を砕いたみたい。再生するまでは……多分、大丈夫」
リース「そ、そう……」

 その時、蹄の足音が広間に響き渡った。透けるような透明の翼をひろげた白馬が、ゆっくりとした動作で宙を駆け降りてくる。
 
シノン「……ユニコーン……」

 聖なる獣である象徴の銀色の角を額にはやし、流れる毛並みが水面の光を受けて輝きを放つ。水面に降りると背に生えていた翼は宙に溶けるかのごとく掻ききえていった。
 毛と同じ銀の瞳でユニコーンはじっと一同を見つめている。
 全てを見透かすかのような視線に釘付けにされ、動こうと意識しても足が震えて一歩も踏み出せない。
 やがてユニコーンはふっと首をあげ、再び宙へ駆け上がっていった。
 
シノン「まって!」

 はっと意識を取り戻し、あわてて駆け寄るシノン。だが、その声は空しく鍾乳洞に響き渡るだけだった。水面に小さな波紋を残し、駆け上がる動作とともに消えていくユニコーンの姿を、シノンはぼんやりと眺めながらその場に座り込んだ。
 
ユーリ「見られただけでも幸い、といったところかな」
リース「うーん、やっぱり聖獣に声をかけるのって難しいみたいね」

 残念そうに肩をすくめるリース。
 ユーリは呆然とするシノンの隣に腰を降ろし、穏やかな笑顔で話しかけた。
 
ユーリ「歩けるかい?」
シノン「…………うん……」

 そっとシノンの手をとり、身体を支えるように立ち上がらせた。シノンはそのままふわりとした足取りで湖の岸に寄り、小さな皮袋に湖の水を汲み取りはじめた。
 
リース「その水どうするの?」
シノン「孤児院の皆にお土産にしようと思うの」
ユーリ「でも、この水……飲めるかな」
シノン「たとえ飲めなくても……ほら、こんなに綺麗なんだもん。きっと喜んでくれるよ」

 湖の光を受け、革袋はぼんやりと光を帯びていた。辺りが暗くなったのを感じ、それぞれ天井を見上げる。先程放っていた光玉がうっすらと消えはじめていた。そろそろ効力の限界のようだ。
 
ユーリ「また変なものが現れないうちに退散するとしようか」
リース「あ、私も水をお土産にしようっと。ちょっと待っててね」
シノン「リース、この袋使う? 予備のだから小さいかもしれないけど」
リース「あ、有難う。今度孤児院にいく時に返すね」

 再びピクニック気分で家路に帰ろうとする3人。ふと、気配を感じシノンは振り返った。
 何時の間にかユニコーンが舞い戻ってきており、優しい瞳で彼らを見つめていた。
 
シノン「……また遊びに来るね」

 にこりとほほ笑み返し、シノンは小さくそう告げた。
 
 おわり
 
文章執筆:谷口舞

ーーー<このお話にでてきた特殊アイテム>ーーーーー
■いにしえの地図
 今は使われてない古い言葉がつづられた地図。図表から聖都エルザード周辺だと判断できるが、その詳細は分からない。
■魔法の鉄瓶
 一定の温度を保ったまま飲料水を運べる筒型をした携帯瓶。異界の貴重な品との噂
■守護兵器
 その昔、上流階級の人々が愛用していた護衛用の魔法アイテム。一般的には全真鎧の姿をしている。魔力で動いているため、動力となるものが壊れない限りほぼ永久に任務を果たすため、財宝の護衛として使われていたらしい。