<PCクエストノベル(2人)>
クラビスカの声響く 〜ルクエンドの地下水脈〜
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■冒険者一覧■
□1125 / リース・エルーシア / 女 / 17 / 言霊師
□1112 / フィーリ・メンフィス / 男 / 18 / 魔導剣士
■助力探検者■
□なし
■その他の登場人物■
□みるく / 羽ウサギ(ちいさな友人)
□ジーク/ 子ドラゴン(好奇心旺盛)
□ネフシカ / アイテム屋「魔と謎」の店主
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ルクエンドの地下には無数に走る水脈がある。その奥には異界に通じる道があるという。が、誰もそれをみたことがない。異界を見つけた者もいたのかもしれない。しかし、発見した途端にその道を歩かざるを得なくなるらしく、二度とは戻って来れない。そのため、地下水脈についての多くの情報は伝えられていない。
それでも人は不可思議な場所に惹かれる。冒険心を持ち続ける者達が住むユニコーン地方。数多くの冒険者がルクエンドを目指す。そこが唯一の場所ではないのだけれど。
白い翼を持ち、同じくらい真っ白な好奇心を持つ少女リースはちいさな友人の後悔を心配していた。それはルクエンドの真の闇に近づくことなく終わってしまった冒険が起因していた。
ジーク:「フィーリ…怒ってるかも」
リース:「そんなことないよ。あたしが悪かったんだもの……ね、元気だしてジーク」
リースの傍を羽ウサギのみるくが飛んでいたが、彼女の肩に乗っているジークの尻尾にそっと寄り添った。リースはいつもならみるくと楽しそうに遊んでいるはずのジークが、しんみりしている姿をみていられなかった。
先日、同じ幻翼人の幼馴染でジークの相棒であるフィーリ・メンフィスと地下水脈に行った。穴の開いた天井から森の緑が見え、危険な場所にきているという気持ちが希薄になり、フィーリの心配を無駄にしてしまったのはリース自身。崩れた壁から闇の虚空に放り投げられたのだ。
覚えている。
忘れるはずがない。あの、フィーリの心配する声と支えてくれた腕のぬくもりを。
だから、彼の持っていた鉱石「永遠の炎」が底の見えない暗闇に落してしまったのも、本当は自分のせいなのだ。ジークが責任を感じて落ち込む必要などない。
リースはもう一度地下水脈に行くことを思い立った。今度は失敗しない。異界探索は後日に改めて挑戦することにして、まずは大切な「永遠の炎」を取りに行こうと思ったのだった。
リース :「まずは情報を集めなくちゃね。うーんと、やっぱりネフシカのところかな?
この間から随分時間も経っているし、何か新しい情報が入っているかも
しれない」
ジーク :「フィーリに言わなくていいの?」
リース :「いいの! だって、私の責任だもの。またフィーリに迷惑をかけるわけ
にはいかないよ」
みるく :「きゅ〜?」
リース :「みるく心配してくれてありがと。でも、大丈夫だから。
フィーリには内緒……」
「魔と謎」の店主ネフシカは蝙蝠族。リースの言葉を聞いて、ぶら下がっていた天井から落下した。
ネフシカ:「お前! また行くつもりなのか? ひとりじゃないだろうな……」
リース :「ネフシカまで……。それより、新しい情報は入った?」
ネフシカ:「最近行った奴がいる。――本当にひとりじゃないんだな。
うむ…お前さんが落ち込んだ広間は、クラビスカと呼ばれる
巨大空間だ。下から激しく風が吹き上げているが、時間が
決まっている。長針の刻みで10の5と20の7」
リース :「その間だけは下まで行けるんだね」
ネフシカ:「いいか。時間を守れ。上の方は風は吹き上がっているが、下に行くと
急激に風向きが変化して、底に開いた異界の入り口に吸い込まれる
って話だ」
リース :「……ん。き、気をつける」
リースがネフシカの真剣な眼差しに本物の危険を感じ息を飲んだ。その時、店のドアが勢いよく開いた。立っていたのは長い黒髪に赤い瞳。無表情に近い顔が僅かに歪んでいた。
それはリースが密かに想いを寄せる幼馴染の姿だった。
フィーリ :「何度心配をかけたら気が済むんだ!」
リース :「フィーリ…どうして……?」
フィーリ :「ジークが教えてくれた。自分のためにリースが無茶しようとしてるって」
リース :「だって、あたしが悪いんだもの。フィーリにはもう迷惑かけちゃいけないって――」
フィーリ :「バカ! なんでそうなるんだ。……意味が分かってない」
フィーリの本当の気持ち。リースは知りたかった。
特別。
そう感じるのは間違いだろうか……。
感情を持って生まれなかった同族の忌み子フィーリ。その彼が自分に対してだけは、やけにお節介焼きになっている気がするのは。
リースは頬が熱くなるのを手で隠し、ネフシカとフィーリに告げた。
リース :「あたし、行くね。永遠の炎を取り戻すの」
フィーリ :「俺も行く。落したのは俺がリースの落下に気づくのが遅れたからだ」
ネフシカ:「タンマ! これ以上、話しを混ぜっ返すな。ふたりで行って来い。
時間を守れば、大丈夫だ」
自分の子供のように心配してくれるネフシカに手を振り、リースはフィーリ並んで飛んでいた。白い羽毛の翼と黒い蝙蝠の羽。同族でありながら、反比例する姿。それでも、志と想いは同じ。それがリースの胸を勇気づけた。結果的にフィーリに助けてもらうことになったが、本当はそれを望んでいたのかもしれない。あの時の頼もしい姿が残像となって心を占めているから。
+
壁の穴は開いたままだった。以前来た道。危ない場所は記憶している。なんなく到着したのは、断念せざるを得なかったクラビスカの巨大空間。
何故、クラビスカと名前がついたのだろう。フィーリは知っているのだろうか?
フィーリ :「クラビスカはユニコーン地方で有名だった吟遊詩人の名だ」
リース :「それがどうして、こんな地下水脈の名に?」
フィーリ :「実際に聞いたことはないけど、風の音がまるで歌声のように
聞こえるらしい」
闇がもたらす歌声。聞いてみたいと思った。けれど、まずは本来の目的を達しなければ。
リースが落下した穴から覗くと、かなり下の方に明りが見えた。「永遠の炎」がふたりが来るのを待ち侘びるように、ずっと闇を照らしていたのだ。まず、フィーリが降りることにした。守るべきは時間。ネフシカから教わった通り、時刻を合わせる。
リース :「10の5、20の7……」
フィーリ :「難しいな。間隔が短い。下までの掛かる時間が予想も
つかないし……」
リース :「うーん。永遠の炎って半径どのくらいを照らしていたかな?
そうだ! 石を投げてみよう。羽がある分抵抗を受けるから、
短めの換算で」
リースの提案にフィーリは頷き、小石を投げ入れた。音は微かに鳴り、長針は10の3を示した。それは下まで降りるのに、吹き上げギリギリまで掛かってしまうことを意味した。
上空に巻き上げられたならまだいいが、もしもフィーリひとり異界へ迷い込んでしまったら――。リースの心は疼いた。
傍にいたい。
その想いが立ち切られる。そんな後悔はしたくなかった。
リース :「ふたりなら……ふたりならどうかな!?」
フィーリ :「危険だ。またリースが怪我をしたらどうするつもりなんだ」
リース :「……助けて、くれるよね。信じてるもん」
フィーリ :「便利屋じゃないのに。ま、リースは幸福の子だから、
天は味方してくれるだろうしね」
フィーリは知っていた。リースの軽口は怯えているからだと。緊張と不安を打ち消すのには、冗談で返すのが一番だと。
手を握り合う。伝わってくる体温。
――フィーリは無表情だからって心まで冷えているわけじゃない。
皆は誤解してる。あたしだけは分かってるいたい。
言い出したのはあたしなのに、こうして力をくれる。
幸せになっていいのは、フィーリの方だよ。
時を刻む。風が止んだ。勢いよく虚空へと飛び出した。この間の落下とは違う。コントロールする速度。
急速に近づく「永遠の炎」。フィーリが手を伸ばし、握り締めた。
瞬時に蹴り上げるつま先。下方と上方――風の境目はどこ。ふたりは抱き合うように舞い上がる。間に合うのか。
リース :「3、4……す、すぐに、20の7だよ!」
フィーリ :「分かってる! 掴まってろ!!」
逞しく唸る黒い翼。
その時、リースは歌を聞いた。巨大空間に響くクラビスカの歌声を。
――歌……?
それとも?
リースの耳に届いたのは本当に風の音だったのだろうか。いや、フィーリの翼が織り成す命の旋律だったのかもしれない。
「永遠の炎」はふたりの手に戻った。
ルクエンドの地下水脈。そこは願いを込めた異界の入り口。奏でられるのは祝福か。
リースにとって、クラビスカの巨大空間は胸を柔らかく締め付ける想い出の地となった。もしかしたら、フィーリにとってもそうであったかもしれない。
魔導剣士の次なる冒険地図のなかに、知らず知らず屈託のないリースの笑顔が刻まれていたのだから。
□END□
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すっかり遅くなってしまってすみません。杜野天音です。
今回は「永遠の炎」を取りに行くという物語でしたが、またしても前置きが長かったです……。フィーリが次第にリースが特別になっていく感じにしたかったのですが、よかったでしょうか?
ジークとみるくはネフシカに預けてます。また責任を感じて落ち込んだら可哀相なので(*^-^*)
冒険を通じて、ふたりの仲がどんな風に変化するのか楽しみです♪
それでは素敵な物語を書かせて頂いてありがとうござました!
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