<PCクエストノベル(1人)>


大蜘蛛の糸
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1953/ オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

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 クーガ湿地帯に大蜘蛛が生息している、ということは有名だ。
 冒険者たちは高値で取引される糸を求めてそこへ向かうし、旅人は安全のために大きく迂回してゆく。
 そんなクーガ湿地帯へ向かう、小さな影があった。
 旅人――にしては珍しい。
 一応旅装はととのえてあるものの、いかにも旅慣れていなさそうな若い女性だ。
 ぬかるみに足を取られつつ、ゆっくりと歩みを進めている。
 旅の途中にそれを目にしたオーマ・シュヴァルツは、不思議に思って女性を見つめた。
 旅人にもいろいろあるが、それにしても、こんな場所で、旅慣れていないであろう女性を見かけるのは珍しい。
 オーマが眺めているうちに、女性は泥に足をとられて転ぶ。
 オーマはあわてて駆けよった。

オーマ:おい、大丈夫か?
女性:ああ……ごめんなさい、ありがとうございます。
オーマ:いやま、それはいいけどよ。こんなところでなにしてんだ? 女のひとり旅で歩くような場所じゃないだろうに。
女性:……どうしても、大蜘蛛の糸を手に入れなければならないんです。

 オーマが訊ねると、女性はなにか決意を秘めた表情で答えた。
 どうやら、なにか果たさなければならないことがあるらしい。

オーマ:だが、大蜘蛛は凶暴だって話じゃあねえか。それを、いったいどうやって……。
女性:……夫が、戦地におもむくことになったのです。ですからせめて、大蜘蛛の糸を織り込んだ衣服を着せようと……。
オーマ:……ああ。

 オーマはうなずいた。
 それなら、こんな無茶をするのもうなずける。オーマも妻子ある身だ。家族のことを案じる気持ちは理解できた。

オーマ:よし、わかった。だったら俺が行ってきてやる。糸が手に入ればいいんだな?
女性:え……でも、そんな。
オーマ:いいって、いいって。近くの村で休んでな。すぐに行って帰ってくるからよ。

 オーマは女性に向かってにぃっと笑った。
 困った相手がいるなら放っておけないし、なにより、自分には大蜘蛛の糸を取ってくるだけの能力もある。
 そんなわけで、オーマは大蜘蛛のもとへと向かうことになった。

 そしてしばらくして、オーマは大蜘蛛のすみかへとたどりついていた。
 大蜘蛛のすみかは洞窟のようになっていて、入り口は広いというのに中はずいぶんと薄暗い。
 光の加減でなにやらきらきらと光るものが見えたから、多分、中には縦横に巣が張ってあるのだろう。

オーマ:さて、と。どうすっかな……。

 オーマには、動植物や魔物と会話ができる能力がある。
 だが、相手がどこにいるのかもわからないような状況では、声をかけたところで届くかどうかもわからない。
 そもそも、凶暴だという大蜘蛛に、説得が通じるかどうかもわからないのだ。
 とりあえず考えた末に、オーマは足下の小石を拾った。
 それを、洞窟の中へと投げつける。
 小石はなにかにひっかかって止まった。
 どうやら、大蜘蛛の巣は、石をぶつけた程度では壊れないらしい。ずいぶんと丈夫なようだ。
 しばらくして、かさかさと音が聞こえてきた。
 見ていると、洞窟の入り口いっぱいはあろうかという、巨大な蜘蛛が出てくる。
 黒と黄色のしま模様のある体はびっしりと毛に覆われていて、真っ赤な目はぎらぎらとしている。オーマでも思わず無気味さに眉を寄せるほどだ。

オーマ:驚かせちまって悪かったな。実はちょいと、その糸をわけてほしくってね。
大蜘蛛:糸をわけろ、だと!? ふざけるな!

 大蜘蛛はきちきちと声を上げる。
 オーマは肩をすくめた。
 会話はできないわけでもなさそうだが、少なくとも、相手は説得に応じるつもりはないようだ。
 退治してしまうのが一番簡単だといえば簡単なのだが、オーマは特に大蜘蛛に恨みがあるわけではない。
 恨みのあるわけでもない大蜘蛛を殺してしまうのは、さすがにためらわれた。
 大蜘蛛は特に巣から降りてくるつもりはないらしく、洞窟の入り口付近から、オーマのことをうかがっている。
 さて、どうしたものだろうか。
 オーマは腕組みして考え込む。

オーマ:……ま、考えててもしょうがねえ、か。

 オーマは肩をすくめると、銃を具現化させた。
 オーマは己の精神力を具現化させて、身の丈を越すほどの巨大な銃をつくりだすことができるのだ。

オーマ:ヘタに動くとかえってアブねえから、気をつけろよ!

 叫びながら、オーマは銃をかまえる。
 やはりここは、実力行使が一番いい。
 当てさえしなければ、特に問題も起こらない。
 オーマはよく狙いを定めて、引鉄をひいた。

 そうやって蜘蛛の糸を入手したオーマは、湿地帯で会った女性を待たせている村へと戻ってきた。
 どれくらい持ち帰ればいいのかわからなかったので、とりあえず、取れるだけ持ってきた。一抱えはあるだろう。

女性:あ……それは!
オーマ:こんくらいでよかったか?
女性:ええ、それだけあれば……。ありがとうございます! あの、お礼を……。

 そう言われて、オーマは首を横に振った。
 別に、そんなもののためにしたことではない。ただ放って置けなかっただけだ。
 そしてオーマは、なにひとつ受け取らずにその村をあとにした。

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【ライター通信】
 はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
 今回は大蜘蛛の糸をとりに――ということでしたので、このような形にさせていただきました。
 狭い所での戦闘ですので、なかなかに相手を傷つけずに、というのは難しいのかなとも思ったのですが、多分、大丈夫だろう! ということでこのような感じに仕上がりました。お楽しみいただけましたら幸いです。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。