<PCクエストノベル(2人)>


探索行

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1528 / 刀伯・塵 / 剣匠 】
【 1720 / 葵 / 暗躍者(水使い) 】

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 ビョウビョウと激しい風鳴りを伴う風が吹き付ける地、此処はユニコーン地方の北東にある山岳地帯。そこに、今二人の人影が風に煽られながらも、足場の悪い険しい道程をしっかりと踏み締めて登っていた。刀伯・塵(とうはく・じん)と葵(あおい)の二人である。

塵:「葵!!大丈夫か!?」
葵:「うん!!大丈夫!!全然、平気!!」

 風鳴りの所為で、怒鳴るように喋らなければお互いの声さえ届かないこの地に何故二人が居るのかと言えば、目下捜索中の歪を見付ける為である。
 以前、遠見の塔で賢者の兄弟と出会った二人は、この山岳地帯に強い歪を起こす場所が有ると聞いて、此処の調査に乗り出したのである。何せ、山岳地帯と一言で言ってしまえば簡単な話だが、その土地は広大にして荒涼……一筋縄で行かない事は簡単に予想出来た。

塵:「ベップを連れて来なくて正解だったぜ!これじゃ、幾らあいつでもきついからな!」

 その言葉に、葵は少しだけ後ろを振り返る。その瞳が、物悲しさを湛えていた。

葵:「うん……そうだよね……此処じゃ、ベップさんも大変だもんね……」

 呟き辺りを見回す葵の頭を、塵の手がポンと叩いた。

塵:「帰りゃ会えるんだ。そんな顔すんな。ほれ、行くぞ」
葵:「うん!」

 微笑を見せる塵に、葵もまた微笑むと背中の荷物を改めて背負い直し、塵の後を追い再び歩き始めた。


 その遺跡に入ったのは、程無くしての事だった。その遺跡の名は、チルカカ遺跡と呼ばれ、古くからこのユニコーン地方に存在を認められた遺跡の一つである。
 半ば山肌に埋もれた形のその内部は、瓦解はしている物の、当時の壮大さを物語るかの様に凛とした雰囲気を醸し出していた。

葵:「ルクエンドも凄かったけど、此処も凄いね……」
塵:「ああ……一体何の為にこんなのが作られたんだろうな……」

 遺跡の内部に足を踏み入れた二人は、天井を見上げながら感嘆の声を漏らす。見詰められた先には、天井一面に広がる絵画が見事に描かれている。聖獣をモチーフとした、創世の話であろうか?幾つ物、獣の姿が見て取れる。その荘厳な様はまるで、時の中に埋もれた繁栄を誇示するかの様に……

塵:「此処になら、歪自体じゃなくても、何か有りそうだな」
葵:「うん、そうだね!」
塵:「よっしゃ!じゃあ、行くか!」
葵:「オッケー!塵さん!」

 二人は、たいまつの明かりを頼りに遺跡の奥へと、進みだした。
 

 暗くひっそりとした内部に、時折水滴の音が聞こえてくる。山肌に埋まる形で存在していた為、水が浸食して来ているのだろう、湿度もかなり高いように思える。

塵:「じめじめしてやがんな、もっとこうすきっとしねぇもんかねぇ〜なぁ、葵?」

 そう言って、後ろを付いて来ている筈の葵に視線を向けた塵だが、その先に葵の姿が無い。

塵:「おい!?葵!?」

 慌てて周囲を見回した塵の視界に、見慣れた緑色の髪の毛が見て取れる。何やら、瓦礫をどかしその下を探っているようなのだが……
 塵は、静かに葵の元へ。

葵:「記憶……僕の記憶落ちてないかなぁ……お〜い、僕の記憶〜居たら出て来て〜」

 瓦礫の下に、小声で呼び掛ける葵の姿に塵は何も言えずただ立ち尽くす……そして、我に返った塵は、葵の肩をポムっと叩く。

葵:「塵さん?」
塵:「……」

 見詰め返す葵に、塵は目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。それを見て、葵はしょんぼりと瓦礫を元の場所に戻し始めた。

塵:「……戻さなくて良いから、行くぞ?」
葵:「……うん」

 塵の言葉に、持っていた瓦礫をその場に置いて、とてもとても残念そうに、葵は立ち上がるとトボトボと歩き出す。その背中を見詰めながら、塵は何とも言えない表情で頭をガリガリと掻くのだった……


塵:「うっし、此処はこれで良いな」
葵:「うん、大丈夫そうだね」

 今、二人の目の前には壁に刻まれた文字がある。そして、塵の手には写し取られた紙が握られていた。

塵:「えーと、これで4枚目だっけか?」
葵:「うん、そうだね。僕の方も丁度4枚目が終わったところだし」

 そう言って、宙に浮かんだ塵に手に握った紙を見せる葵の傍に、塵は降り立つ。

塵:「しっかし、まだ8枚か……気が遠くなりそうだな」
葵:「ほんとだよね……まさかこんなに大きいなんて……」

 二人の目の前にある壁の文字は、縦は天井近くから横は廊下の端まで、小さな文字でびっしりと刻まれていた。取り敢えず、写し取ろうと言う事で、塵が念浮遊を使い天井近くを、葵は下から作業をしているのだが、どう見たって10分の1にも達しては居ない。

塵:「取り敢えず、そこの柱付近まで何とかやってみるか……」
葵:「全部一遍には無理だもんね……」

 持って来ていた紙の枚数を考えると、それくらいが限界なのだろう。再び塵は念浮遊を使用し、先程まで写し取っていた場所の下辺りに着くと、作業を開始する。葵もまた、それに習い黙々と作業をこなし始めた。
 それから、4時間後……丁度紙がなくなると同時に、目指していた柱の辺りまで写し終える事が出来たが、二人は激しい目の痛みと腕の痛みに襲われたのだった……


葵:「あっちは、もう行ったよね?」

 葵が指差す先を、手元にある手製の地図で塵が確認する。

塵:「ああ、あっちは行ったし、こっちから来たからな……どうやら、全部見ちまったかな?」

 地図に書かれた道や部屋を思い出し言う塵に、葵が頷いた。

葵:「そうだね。でも、像みたいなのは無かったね」
塵:「ああ、そうだな……」

 嘗て、ルクエンドの地下水脈を探索した折発見した像、それこそが歪を抑える役割を担ったリィアと呼ばれる天使だった事は、二人の記憶にしっかり残っている。だからこそ、此処チルカカ遺跡でも、何かしらの像を見付ければ、それが歪を抑える役目をしているのではないかと思っていたのだが……

塵:「有っても、壊れてるんじゃそう言う役目があったとは思えねぇよな……」

 その言葉に、葵が頷く。
 この遺跡に、像が無かったと言えば嘘になる。だが、その全てが尽く風化か何かかで崩れていたのだ。仮にも、歪を抑えるべき物が崩れると言う事は考え難い。

葵:「もう此処には、他に何もなさそうだし、そろそろあっちに行こうか?」
塵:「そうだな。そうすっか」

 葵の言葉に頷くと、塵は地図を見ながら歩き出す。目指す目的地へと……


塵:「てりゃぁぁ!!」
葵:「はぁぁぁ!!」

 塵が袈裟懸けに霊琥珀を振り下ろし、葵が追撃を掛ける様に蹴りを見舞う!

?:「ギゥ!?」

 どす黒い色の体液を撒き散らしながら、塵と葵の攻撃を受けたそいつは壁へと叩きつけられた。

塵:「何だ!この数の多さは!?」

 塵が怒鳴りながら横薙ぎの一閃にてまた一体を切り伏せる。

葵:「これはちょっと予想してなかったね!」

 突き出された一体の腕を絡め取り、葵はその顎に掌打を叩き込む。間髪入れず、絡めた腕を手前に引き倒しそのまま関節を叩き折ると、痛みにもがくそいつの頚骨に肘を叩き込む。その一撃で、そいつの体は動かなくなった。
 立ち上がった葵の背中に、塵の背中が合わさる。

塵:「埒あかねぇな」
葵:「どうする?塵さん」

 塵はその顔に、苦渋の色を表した……


 チルカカ遺跡の深部には、一つの洞窟が広がっている。名をチルカカの洞窟と言う。人工的に作られた洞窟ではあるが、何の目的で作られたものかは定かではない。ただ、この洞窟の深部を探索に出た者は、誰一人帰って来ていないと、専らの噂である。
 その洞窟に、二人が侵入し幾らかも過ぎない内に、醜悪な異形の襲撃を受けた。容姿で言うなら、顔は豚にそっくり、体つきは小柄だが戦う為の肉付きであった。思い思いの武器や防具を身につけたそいつらの体臭はかなりの物で、塵と葵は顔を顰めた。

塵:「たまんねぇな。いきなりこれかよ」
葵:「凄い数……」

 確かに、ちょっとした広場ではある。しかし、そこに集まって来た数、優に50は超えている。
 徐に一体が、塵目掛けて突っ込んで来る!

塵:「しゃらくせぇ!!」

 吼えながら、塵は居合いの体勢!接触まで後僅かと思えた瞬間、塵が動いた!
 ……チン……
 刀を納める音だけが、確かに聞こえた。剣閃は、僅かも確認出来ない。だが、そいつの体は幾つも切り刻まれ、その場に肉塊と化す。

塵:「武神力、カスミ斬り。剣閃は見えなかったろ?」

 ニヤリと笑った塵に、葵がにっこりと頷いた。
 それが、戦いの合図となった……


塵:「しゃーねぇ!囲まれる前に逃げっぞ葵!」
葵:「分かった!」

 眼前に来た異形をそれぞれ、屠りながら二人は一気に元来た道へと後退する。その後を、小柄な体を生かして追撃する異形達。

塵:「葵、先に行け!!」
葵:「塵さんは!?」
塵:「心配すんな、直ぐ追い付く!」

 葵はその言葉を信じて、更に速度を上げて駆け出した。
 塵はその場に留まると、背後に迫った一体を振り向き様に切り捨てる。

塵:「わりぃな!これ以上相手してらんねぇんだ!」

 そう言った瞬間、塵の体から霧が立ち込め始める。一瞬にして広場を包み込んだ霧に、異形達の動揺する声が聞こえてくる。
 それを確認すると、塵は足に力を集中させ、葵が駆けて行った道へとその身を翻した……


 二日後、聖都エルザードの雑貨を主に扱う店内に二人の姿があった。

葵:「これも要るかな?」
塵:「ん〜どうだろうな、一応持っていってみるか?」

 今回の教訓を生かし色々装備を見繕っているらしい。真剣に悩んでいる葵をその場に残し、塵は店員が居る方へと、歩を進めた。

店員:「何かお探しですか?」

 微笑んで聞いてくる店員に、塵は耳まで真っ赤にしながら答えた。

塵:「……乳児用のおむつ有るか……?」

 と――