<PCクエストノベル(1人)>


第一回世界番人ツアー結果報告
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【冒険者一覧】
【 1753 / ヴァリカ / 占い師 】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【ケルノイエス・エーヴォ】

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▼1.
 封印の塔は、人が中に住んでいる割に、随分と寂れた外貌をしている。
 流石は呪いのアイテムをその名の通り封印する場所だ。その邪悪な力とやらが、塔の見かけにも影響するのだろうか。
 そんなことを思いながら、聖獣の占い師・ヴァリカは扉を開けた。
 塔守の青年・ケルノイエス・エーヴォは、確かに噂通り美貌ではあるが、ずっと塔から出ていないから顔は青白く、社交的な性格の割に何処か危なっかしくて頼りないというアンバランスな面を持つ青年だった。そして塔守のくせにヴァリカという侵入者を簡単に迎え入れてしまう辺り、かなり無防備である。
 はじめはヴァリカでさえも本当にこのまま入って良いのだろうかと狼狽したほどだ。
 しかし、心配して尋ねたヴァリカにケルノは云った。

ケルノ:「此処は呪いのアイテムを封印する場所―――心配しなくても、彼らが教えてくれる」

 ケルノは、己の守るべきアイテムのことをいつも彼らと呼んでいた。ケルノ曰く、彼らはとてもデリケートで、そして其処に在るというそれだけで、彼らが今まで辿ってきた記憶をケルノに伝えてくれるのだそうだ。
 呪いというものは凄い、それとも、ケルノ自身が塔守なだけあってそういう能力に長けているのだろうかと感心したヴァリカに、ケルノははにかんでそんな気がするだけだと断った。
 僕はずっとこの場所に一人きりで生きていて、話相手も何も彼らしかいないから。

ケルノ:「だけど、ヴァリカ。彼らは封印されても尚、力を持っているからこんな場所に保管されているのであって、今にでも解放されたいと望んでいるんだ。だから、判るんだよ。危険な彼らを求める者が近寄れば、共鳴する。それで判るんだ。僕はそれを感じ取って、奪われないように守れば良い」

 では俺みたいなのは別に良いのかとヴァリカが訪ねると、ケルノは一瞬きょとんとして、すぐにあっけらかんと微笑った。

ケルノ:「だって来るひと皆追い出しちゃってたら僕がつまんないじゃない。外の世界の話が、聞きたいんだ」

 けらけらと笑いながら話すケルノを見て、外の話が聞きたいのは勿論本当だろうが、他人と話すこと自体が楽しいのだろうとヴァリカは思う。だからヴァリカは少しでも楽しませてやろうと思って世界番人ツアーを決行したのだ。
 まずはその第一弾を終えたヴァリカは、話を聞くケルノの顔を想像しながら、大抵ケルノが居る塔の奥の部屋のドアを開けた。



▼2.
 ドアの向こうには、既に気配を悟っていたらしいケルノがお茶の用意をして待っていた。ちなみに、お茶は訪ねてきたひとから貰ったらしい。塔守というのはどのくらい暇なんだろうかと思うほど、ケルノが振舞ってくれるものはいつも手が込んでいて美味かった。
 軽く挨拶をしてケルノへと視線を向けると、薄暗い室内でもはっきりと見て取れるほど彼の瞳が光り輝いているのに気付いて、ヴァリカは苦笑した。

ケルノ:「いらっしゃい、ヴァリカ。君は寡黙な割にたくさん外のことを教えてくれるから、いつも楽しみにしているんだ」
ヴァリカ:「そうか。少しの間来れなくて悪かった」
ケルノ:「良いよ、別に。また来てくれただけで嬉しいんだ」

 さあ座って、と嬉々として席を勧めるケルノを見て、ヴァリカはやっぱり世界番人ツアーを始めて良かったと思った。まだ何も報告はしていないが、もう数分後のケルノの表情がありありと想像できる。

ケルノ:「最近は忙しかったの? ヴァリカは占い師だったよね。どんな仕事?」
ヴァリカ:「いや、仕事じゃない。どちらかと云うと冒険だ」
ケルノ:「冒険? ヴァリカが?」

 目を真ん丸に見開いて驚いているらしいケルノに、ヴァリカは失礼なとふんぞり返った。

ヴァリカ:「コーサ・コーサの遺跡に行ってきたんだ」
ケルノ:「え……コーサ・コーサの遺跡って、あのワーウルフが居る?」
ヴァリカ:「ああ、そうだ。おまえの他にも番人があちこちに居るって知ってな。他の奴らはどう思ってそこで生きているんだろうと思って、まずはコーサの落とし子に会いに行ってきた」
ケルノ:「え、ホ、ホントに?」
ヴァリカ:「何ならこれが証拠だ」

 ヴァリカは用意してきた証拠兼手土産を、ドン、とテーブルの上に置いた。遺跡に生えていた蔦を一枝と、名前は知らないがピンクの草花を土ごと麻袋に入れたものだ。

ケルノ:「うわぁ……」
ヴァリカ:「その辺に呪いの壺が転がってるだろう。それにでも植えとけ」
ケルノ:「う、うん! ありがとうヴァリカ!」

 普段は暗い表情をしがちなケルノの顔に笑みが零れる。塔から出ない身であっては、目に見える草花でさえも手に取ることが出来ないのだ、よほど嬉しかったのだろう。

ヴァリカ:「これで信用したか?」
ケルノ:「うんうん。コーサ・コーサの遺跡って以前何かの文献で見たことがあるけど、其処にしか生えてない草花に溢れてるんだ。これもきっとそうだよ」
ヴァリカ:「そうだったのか」
ケルノ:「遺跡はどんな感じだった? 聖水は? それに、肝心のワーウルフには会えたの?」
ヴァリカ:「待て、一気に訊きすぎだ。順番に話そう」
ケルノ:「うん。遺跡はどうなの?」
ヴァリカ:「まず遺跡は、今は蔦が絡まってて荒れているまさに遺跡という感じだったが、前はきっと綺麗だったんだろうと感じた。手入れの跡がある」
ケルノ:「へぇ……見てみたいなぁ。聖水は?」
ヴァリカ:「ああ、噂通り、確かにあった。俺はさして興味がないから触れなかったが」
ケルノ:「ええー? 勿体ない。折角行ったのに」
ヴァリカ:「ワーウルフにも触れて行ったらどうだというようなことを云われたが、別にそれを目的に行ったんじゃないからな」
ケルノ:「あ、やっぱり会えたんだ! 話したの?」

 ヴァリカは矢継ぎ早に質問してくるケルノに少々たじろぎながらも、律儀に一つ一つ答えていった。
 流石、今まで話してきたときとは食いつきが違う。やはり同じような立場に立つ者のことは気になるんだろう。
 やはり行って良かった。そして、やはり他の番人にも会ってこよう。普段、明るく振舞っているときも何処か暗い表情をしているケルノが今はとても生き生きとしているのを見て、ヴァリカはそう強く再認識した。

ヴァリカ:「コーサの落とし子は良い奴だったぞ。俺に聖水を狙う気がないのを見て取ると、話を聞いてくれた。手合いの相手にもなってくれたしな」
ケルノ:「うわ。良いな、良いなぁ!」
ヴァリカ:「ケルノの話もした」
ケルノ:「え、ワーウルフは何だって?」
ヴァリカ:「奴はあまり外の世界には興味がないようだったが、ケルノの境遇には興味を示していた」
ケルノ:「ホント?」
ヴァリカ:「ああ。使命があるから、あまり外の世界に出たいとも思わないそうだ。だがケルノのことを云ったら、伝言を頼まれた」
ケルノ:「……何て?」
ヴァリカ:「『迷いながら生きるよりは、自分の居場所を見つけられた俺たちは、それこそ幸福なのかも知れない』、と」
ケルノ:「…………」
ヴァリカ:「俺もそれには同感だ。ケルノはケルノで外の世界が気になって仕方ないんだろうが、俺からすれば話したいときに此処に来ればケルノが居てくれて、いつでも会えるからな」
ケルノ:「う、わぁ……」
ヴァリカ:「ケルノ?」
ケルノ:「恥ずかしいこと云ってくれるねぇ……」
ヴァリカ:「そうか?」

 事実だろう、と腕を組むヴァリカに、ケルノは照れているのか感動しているのか上を見上げて、その上に手を組んで目を隠した。

ケルノ:「そっかぁ……。流石はコーサの落とし子だね。考え方が違う。自分でそうやって考えられるって、僕からすれば凄いことだよ」
ヴァリカ:「あっちの方が色んな奴らを見てきてるんだろう。富と名誉の水を得るために、絶えず野望を持った奴が訪れるんだ」
ケルノ:「ああ、なるほど……でも凄いなぁ。そう云われちゃうと、別に此処に居ることが嫌なわけじゃないんだけど、外の世界に目を向けてばっかりの自分が恥ずかしくもなるなぁ」
ヴァリカ:「別に、悪いことじゃないと思うが」
ケルノ:「そっかな。でも、僕の使命も自信が盛り返してきたよ。此処が僕の居場所かぁ」
ヴァリカ:「昔から良く云うな。自分の居場所がある奴は強い、と」
ケルノ:「ヴァリカは?」
ヴァリカ:「そうだな……此処もその一つだ」

 何それ、いっぱいあるの? と笑うケルノは、流石に屈託ないとまではいかないまでも憑き物が落ちたような顔をしていた。

ヴァリカ:「まあ、お前がコーサの落とし子と正反対だったように、他の番人はきっとまた違うんだろう。色んなところに行ってみるつもりだ」
ケルノ:「本当に? すごいなぁ、それ。良いね」
ヴァリカ:「だろう? 世界番人ツアーだ。ちゃんと会えたら、また今日のように此処に来て報告してやろう」
ケルノ:「うわ、すごい! 是非とも頑張ってねヴァリカ!」
ヴァリカ:「ああ」
ケルノ:「はー。番人が居るような場所が、他にもあるんだ。ヴァリカがその橋渡しになったら面白いね」
ヴァリカ:「……それは大変そうだが、コーサの落とし子のところにはまた気が向いたら行ってみるつもりだ。もし伝言やら手紙やらがあるなら引き受けよう」
ケルノ:「ホントに!? あ、じゃあちょっと待って。考える!」

 くるっと背を向けて壁に寄せられた机に向かうケルノに、ヴァリカはもしかすると知り合いになる番人が増えるにつれて大変になるかもな、と思いながら冷めてしまったお茶を飲んだ。
 伝説を辿る世界番人ツアーも、友人のこんな表情が見られるならお安い御用だ。
 心なしか背中越しでも楽しそうに見えるケルノに、ヴァリカはほっと一息吐いた。



END.