<PCクエストノベル(2人)>


『宿敵』と書いて『天敵』と読む〜封印の塔〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1528 / 刀伯・塵(とうはく・じん) / 剣匠】
【1353 / 葉子・S・ミルノルソルン(いぇず・すぺーど・みるのるそるん / 悪魔業+紅茶屋バイト】

【NPC】
【ケルノエイス・エーヴォ(愛称:ケルノ) / 封印の塔の住人】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 摩訶不思議なアドベンチャーが日々繰り返され、魑魅魍魎が日常を跋扈する。冒険者達にとって、それは己の力量を発揮するまたとない世界。
 勿論、普通に真っ当な道を生きる‥‥もしくは生きようとする者達にとっては、そんなものは迷惑極まりなかった。そのあたり、持ちつ持たれつの関係が成り立ってると言っても過言ではないだろう。

 もっとも。
 一概にもその恩恵を受け切れていない、不幸な星の元に生まれる者も‥‥稀に、いた。

塵:「ええい、そこになおれ! 叩っ斬ってやる!」
葉子:「塵ちゃんたら、そーんな怒んなって。ちょっとした悪戯じゃん♪」
塵:「何がちょっとした、だっ! この落書き、落ちないじゃねえか!」
葉子:「そりゃま、俺は仮にも悪魔だしぃ、そんじゃそこらのペンとはワケが違う‥‥」
塵:「――斬る!」

 怒髪、天を突く。
 言葉の意味をそのまま体現する男――額に『肉』と書かれた顔を真っ赤にして怒鳴り散らす塵の攻撃を、ケラケラと笑いながら宙に浮かんでひらひらとかわすお気楽悪魔の葉子。
 思いきり確信犯的な笑みを浮かべる下級悪魔に、塵はすっかり調子を狂わされっぱなしだ。
 心底――心の、底から――めいっぱい力の限り、平穏な生活を望む塵にとって、もはやその存在は百害あって一利なし。葬り去ることになんの躊躇いもない!
 ‥‥ていうか、おじさん。目が据わってるよ。

塵:「やかましいっ!」

 あーあ、もう何を言っても聞く耳持たないね、こりゃ。
 すっかり精神崩壊寸前の塵は、ちょろちょろと逃げる葉子を追い回すのをピタリと辞め、「ふっふっふ‥‥そうか、そうだな‥‥」などとぶつぶつ呟き始めた。
 すっかり危ないおじさん状態。そんなんじゃ、お子さんも寄りつかなくなるよ?
 なんて注意も右から左。
 ふと上げた顔は――にこにこと笑顔となっていた。それはもう気味の悪いくらいの似非風味に。見てる周囲が思わす背筋に寒気を感じる程。
 が、そこは脳天お気楽な葉子のこと、まるで気にせず再び塵のまわりをふらふらと。

葉子:「ん? どーした塵ちゃん?」
塵:「葉子‥‥ちょっくら出かけねえか?」
葉子:「へ?」
塵:「この前、ちょっと面白そうなトコを見つけてな。なんだったらお前も一緒に、と思ったんだが」
葉子:「おー行く行く!」

 すっかり凶悪な笑みになっている塵に気付かず(?)、単純に喜ぶ葉子。
 はてさて、この先彼に待ち受ける運命とは? すっかり執念と怨念の塊となった塵は、はたして目的を達する事が出来るのか?
 全ては聖獣様の思し召し。こうご期待!

 『聖獣様は見てる』
 それではみなさま、ごきげんよう〜――――バキッ!

塵:「終わるんじゃんねえ! とっとと始めやがれっ!」

 ‥‥はい。


●第一章〜再び、封印の塔〜
 ――キー、バタン
 重々しい扉がゆっくりと開かれ‥‥そして、固く閉ざされた。
 目の前に広がる螺旋の階段。その途中にある一室が目指すべき塔守であるケルノの自室。塵は足で、葉子は背中の翼で進んでいく。
 さすがに初めて訪れる場所ということで珍しいのか、葉子はキョロキョロと辺りを見回している。

葉子:「なぁ、ここってすっげえ広ぇな。ホラ見ろよ、天井なんか先っぽが見えねえぞ」
塵:「あ、ああ‥‥そうだな」
葉子:「塵ちゃん、なーに暗い声だしてんだよ。なんだ、楽しくねえのか?」
塵:「い、いや。そんなことないぞ!」

 心の中の疚しさ故か、ついつい語尾が動揺してしまう塵。
 不審に思いつつも、はしゃぐ葉子にはさほど気にもならなかったようだ。相変わらず「お、すげえ」とか「でっけぇ〜」などと感嘆の声を上げる。

葉子:「でさぁ〜、こんなトコになにがあるんだ?」
塵:「‥‥‥‥色々と封印された代物があるんだ。封印したいモンを持ってくりゃあ、ここの塔守が封印してくれるって寸法だ」
葉子:「封印?」
塵:「ああ。ほら、この前うちに来た赤ん坊がいたろう。あれもその副産物ってトコだ」
葉子:「へえ〜。じゃあ、今日は何を封印するんだ?」

 いきなり確信を突く科白。
 ハタ、と歩いていた塵の動きが止まる。

葉子:「塵ちゃん?」

 いきなり押し黙る塵。
 不思議に思い、ひょいっと彼の顔を覗き込もうとする葉子。
 が、すぐに顔を逸らされてしまい、表情を読むことが出来ない。

葉子:「なあなあ、なーに隠し事してんだぁ? 俺と塵ちゃんとの仲だろ?」

 どういう仲だ、と思わず叫び出しそうになるのをグッと堪え、ぐるりと葉子の方に向き直ると、宙を飛ぶ彼の肩をがっしりと掴んだ。
 かなりの力の籠もった腕に押さえられ、葉子の身体が地面に着く。じぃっと見つめる塵の視線が何故か熱い。
 ふと、彼の手にはいつの間にか一本の縄が。

葉子:「あのー塵ちゃん? 俺、悪ぃけどそっちの趣味は‥‥」

 勘違いする葉子をあっさり無視し、塵はにんまりと笑った。
 それはそれは不気味な凄味をもって。

塵:「ああ、そうだな。俺とお前の仲だ。だから、付き合ってくれるよな?」
葉子:「いや、だから、俺様そっちの気は」
塵:「なあに簡単だ。こいつを首に引っかけて大人しくしてりゃあいい。後は、ケルノがお前の事をきっちりしっかり封印してくれるさ」
葉子:「‥‥‥‥は?」

 封印?
 封印ってのはなんだ?
 ああ、ここって封印の塔って言うのか。へえ、そりゃあすごいな。どんなもんでも封印すんな。
 で、なんで塵ちゃんは凄い顔で笑ってんだ? 首に輪を付ける趣味なんて俺にはねぇぞ。
 いや、だから‥‥。

塵:「ま、お前とは短い付き合いだったがな。それなりに楽しかったぜ」
葉子:「へえ、そりゃあよかった。んじゃ、これからもよろしくな」
塵:「だからま、これからは大人しく封印されとけ、な」
葉子:「またまた塵ちゃんたら、冗談ばっかし」

 噛み合わない会話。
 そのまま二人は「はは」「ふふ」と笑い合い、訪れる一瞬の沈黙。
 そして。

 カ――ン!

 どこかで戦いのゴングが鳴った。


●第二章〜バトル・スタート〜
 静寂に満ちた螺旋階段の踊り場は、一転して騒乱のバトルステージと化した。

塵:「ええい、大人しくしやがれ!」
葉子:「やっだねぇー」

 手刀から塵得意の『ハエ叩き連撃』を繰り出しつつ、捕縛専用の武神力――サムライとしての彼が持つ能力――を使って、懸命に葉子を捕まえようとした。
 最初は気楽に避けていたものの、さすがに彼の本気を徐々に感じて、だんだんと口元の笑みが消えていった。口数の方も次第に少なくなっていく。

葉子:「塵ちゃーん、いい加減にしろよなー」
塵:「それはこっちの科白だ! いい加減、大人しく捕まって封印されろ!」
葉子:「そんなの嫌に決まってんだろ」
塵:「俺の‥‥この俺の平穏の為だ!」
葉子:「おいおい、俺がなにやったってんだよ」
塵:「何もやってないとでも言うのか――ッ」

 すっかり情緒不安定な三十路のおっさん相手に、葉子はつい苦笑する。
 絶叫と共に振り下ろされた愛刀『霊虎伯』。ぶわっと冷気が大地を走り、氷縛する力が葉子を襲う。
 それをひょいっと‥‥かわしきれずに足が捕まる。

葉子:「げっ!?」
塵:「もらった――――っ!」

 すかさず伸びた腕が、思いっきり葉子の頭を張っ倒す。今まで蓄積してきた鬱憤を晴らすかのような渾身の一撃だ。
 ベチャン、と音を立てて、彼は顔から地面にダイブした。
 ‥‥すっかり気を失った葉子の首に縄を括り付け、その身体を塵は肩に担ぐ。

塵:「‥‥ふう。なんとか今のうちに‥‥」

 何故かキョロキョロと周囲を窺う塵。
 おいおい、おっさん。ここは塔の中だから誰もいるわけないじゃん。
 相変わらず心配性なトコは、たとえ思い詰めてても変わらないようで。少し安心したりもするのだが、やってる事はかなり非道な事じゃないのか?

塵:「こいつは悪魔だろうが!」

 いや、まあそりゃあ正論なんだけどね‥‥。
 これ以上何を言ってもヌカに釘状態の塵を、しょうがないから我々は暖かく見守るのであった←て、誰だよ我々って(汗)。


●第三章〜ホワイトタイガー様も見てる〜
 幾分、呆れた表情で塵を見返すケルノ。

ケルノ:「‥‥‥‥‥‥本気ですか?」
塵:「ああ」

 はぁ、と大きく溜息をつく。
 塵の据わった双眸は、とても逆らえない雰囲気を醸し出している。もっともケルノにすれば、そんなコトは大した問題ではなかった。むしろ、彼がそこまで思い詰めている、その理由にちょっとだけ好奇心が疼いている。

塵:「だってさぁ、聞いてくれよぉ。あいつと初めて会った時にさぁ‥‥」

 まるで飲み屋の酔っ払いのような口振りで話し始める塵。赤提灯とお猪口があれば、立派に酔っ払いだ。もっとも彼自身、超下戸なので酒気に近寄らないようにしていた。
 まあ、そんなコトは今は置いといて。
 ぐだぐだと、封印するための対価の土産話というよりは、明らかにそれは愚痴だった。「あの時俺が」とか「失敗だったよなー」などと口にする会話の合間に、「へーそうですか」「そうですねぇ」等と合いの手を挟むだけ。こちらもどこか気の抜けたような返事だ。

塵:「それでさー」
葉子:「ふんふん、塵ちゃんも大変だねぇ〜」
ケルノ:「ああ、気付きましたか?」
葉子:「まあなー俺だって悪魔だしな。結構頑丈なんだぜ?」
塵:「‥‥んで、その頑丈なヤツがな、俺にこうつきまとって‥‥」

 意識を取り戻した葉子が、横から茶々を入れつつも、塵はあっさりそれを無視した。ブーブー文句を言う声なんか聞く耳持たない。
 ケルノと二人、とっとと話を進めようとする。

塵:「‥‥ま、そういうワケだ。んじゃ、そろそろお願い出来るか?」
ケルノ:「それは構いませんが‥‥本当にいいんですか?」
葉子:「ちょ、ちょっと塵ちゃん!」
塵:「ああ。やってくれ」
葉子:「ちょいマテ――ッ!?」

 ピタリと掌を葉子の額に付けるケルノ。そこには、彼が気絶している間に書かれた封印の魔法陣があった。
 逃げようにも、その直前に発動された『力』の領域に囚われてしまい、身動きが出来なくなっていた。
 光が徐々に強まり、そして――。

ケルノ:「さて、どうなりますか‥‥」

 ポツリと呟いたケルノの隣で、塵はじぃっと光に包まれていく葉子を見ていた。そこにはさっきまでのテンパっていた表情はなく、ただ呆然と眺める眼差しは、どこか正気を取り戻したようで。

塵:「お、おい‥‥」
ケルノ:「あ、ダメです。近寄ったら――」
塵:「え?」

 止める間もなく、塵の腕が葉子の肩を掴む。
 途端。

 ――光が弾けた。


 ‥‥‥‥気が付けばもうもうと煙が立ちこめる中、茫然と立ち尽くす塵。

ケルノ:「あーあ、だから言ったじゃないですか。元々、生き物を封じるのは規格外なのに、近寄ったりしたから‥‥」
葉子:「おー、これ結構すげえじゃん」

 何故か上機嫌な声を上げる葉子。
 普段は完全に収納している翼。それがいまや普段の二倍の大きさで背中に具現し、彼の意志を持ってしても元に戻らずバタバタしている。
 更に付け加えるならば、頭部に付いた捻れた角。悪魔の種族に相応しい格好に、どうやら本人はご満悦だ。
 が。

ケルノ:「ま、元が悪魔ですからね。具現化する悪意が、彼自身に具現化したといったところでしょうね」

 多分、一週間ぐらいで元に戻るよ、というケルノの説明も右から左に筒抜けて、依頼した張本人はただただ茫然とするだけ。
 小悪魔が‥‥己の平穏を脅かしていた小悪魔が、今度は本当の悪魔となって、更に騒々しい日々を巻き起こそうというのか。
 もはや笑い話にもならない思考がぐーるぐる頭を駆け巡る。
 そして彼は、力の限り叫ぶのだった。

塵:「なんでなんだぁぁぁ――――ッッッ!!」

 ‥‥いや、それがキミの星だから(合掌)。



【END】


●ライター通信
 ライターの葉月です。
 毎度、発注ありがとうございました。そして、またしても遅くなってしまい申し訳ありません。
 今回の塵さん、かなり危ない人になっていましたが‥‥結局はこうなってしまった、と。はたして受け入れてもらえるかどうは謎ですが‥‥(汗)

 それではまた、ご縁がありましたらよろしくお願いします。