<PCクエストノベル(1人)>
愚行 〜機獣遺跡〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1771 / 習志野茉莉 / 侍】
その他登場人物
【 名前 / クラス】
【ナレバ・ルシナ/王立魔法学院学者】
【機獣A/機獣】
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<序章>
ナレバ「……気をつけてくださいね」
情報を聞き終えて、茉莉は王立魔法学院にある研究室から外へ出ようとして、足を止めた。
埃臭い研究室は狭い上に薄暗く、窓から指し込む日光だけがやけに眩しい。
茉莉は首を僅かに動かして、顔だけ女性に向ける。
緩やかな金髪を背に流した女性――ナレバは眉を歪めて、表情を陰らせていた。
茉莉:「それはどういうことだ?」
ナレバ:「簡単なことですよ。最近、機獣遺跡に探索に出かけた方がまだ戻られていないだけです」
茉莉:「忠告は受け取っておこう。感謝する」
ナレバ:「……日本人の方だったようですから」
茉莉は少しだけ眉根を寄せた。
空気が軋んだ気がした。緊張したぎこちない雰囲気が辺りを支配する。
ナレバ:「気にしすぎかもしれません。ですが、どうか」
ナレバの声音が重く響いた。
<1・オヤジ>
機獣遺跡――千年もの昔に失われたとされる機械文明の遺産だ。
ソーン世界とは相容れぬ外観をしており、全体は金属的外装に覆われている。丸みとは無縁の建築構成は、ただ侵入者を完全に拒絶しているようにも感じられた。
入り口にある中央部で、茉莉は手厚い歓迎を受けていた。
茉莉:「こちらとしては遠慮したいの……だがなッ」
飛びかかってきた機獣を、茉莉は木刀で床に叩きつける。
相手は八足歩行型の機獣だ。人間の手の平程度の大きさだが、複数で群れているのは少々厄介だと、茉莉は思考を巡らした。
辺りを見渡せば、入ってきたときよりも随分数は減っている。茉莉の狙い通り、足の関節部が弱点らしく、そこを叩けばあっさりと機獣は機能を停止した。足をやられても攻撃の意思を止めない機獣が中にはいたが、その場で無様に足掻くだけで、茉莉の敵ではなかった。
最後の機獣を同じ方法で打ちのめした後、茉莉は軽く息をついて、額に浮かぶ汗を拭った。
茉莉:「ふむ。この程度なら何とかなりそうだ。先に進んでも問題はないな」
茉莉は調査のために機獣遺跡に侵入したのだった。
それに、八足歩行型機獣に関する情報は、既に学者は入手済みのようだ。もっと新しい調査対象を探した方が良いだろうと、茉莉は考える。
と。
静寂を機械音が打ち破る。
茉莉は目を細めて音のした方へと体を素早く向けた。木刀を前に押し出し、身構える。
出てきたのは四足歩行型の機獣だ。大きさの異なる四角い金属を、無理に動物に似せて繋ぎ合わせたような形状をしている。全体的に破損が酷く、おそらく頭だと思われる個所には小さな割れ目が覗いていた。
機獣は、警戒しているのか静かな足取りで茉莉に近づく。
そこで、茉莉は違和感に気付く。今までの機獣と違い、目前にいる機獣は動きが滑らかだ。それだけなら性能が上なのだろうと判断できる。
が。
機獣は、そろそろと足を進めたかと思えば止まり、うな垂れて微かに頭を振る。足を一歩出そうとして踏みとどまる。
――あまりにも、動きに無駄が多い。
まるで、人間でいう『躊躇い』を見せているかのようだと、茉莉は思う。
油断は出来ない。茉莉は機獣から目を離さないでいると――
機獣A:「オヤジ」
抑揚のない機械音声で、機獣はそう一言発した。
<2・腐臭>
茉莉:「私はオヤジではない」
機獣A:「オヤジ」
茉莉:「私は女だ」
機獣A:「オヤジ」
茉莉:「何度も言わせるな。私はオヤジではない」
機獣A「ナカマ」
茉莉:「だから、私は女だと……ナカマ?」
茉莉が反芻すると、機獣は頭を縦に動かした。相変わらずの機械音声で言葉を発する。
機獣A「ナカマ、オヤジ、ナカマ」
中央部から放射状に通路が広がっている。その中にある一通路に、機獣は走り寄る。そうして、くるりと体を向けて茉莉を見た。頭を通路へと向けては戻す動作を何度も繰り返す。顎をしゃくる人間の動作によく似ていた。
機獣A「スクウ、オヤジ、ナカマ、スクウ」
罠か――?
茉莉は考えて、ふと王立魔法学院にいる学者の言葉を思い出した。一人、機獣遺跡に探索しに行った日本人が未だ調査報告をしていないのだという。
茉莉は機獣を観察した。人間臭く、人語を話す機獣など前例がないのではないかと茉莉は判断する。調査対象としては適しているのではないだろうか。
目の前にいる機獣は、敵意はないようだ。――今のところは。
茉莉は顎に手を添えて目を一瞬閉じる。罠だとしても打ち砕くまで。機獣について行くことを決意した。
小部屋に入った途端、辺りに漂う腐臭に茉莉は顔をしかめた。
部屋は金属状の薄い壁で半分に仕切られていた。壁を見れば、無理やり削ってあけたような荒々しい小さな穴が幾つもある。腐臭はどうやらその穴から漏れているようだった。
おおかた、侵入者を閉じ込めて窒息死させるタイプの罠にはまってしまったのだろうと、茉莉は考える。穴は窒息死を防ぐために自力であけたのだろうか。
機獣A:「オヤジ」
茉莉:「私はオヤジではなく、茉莉だ」
機獣A:「オヤジ」
茉莉:「茉莉だ」
機獣A:「オヤジ、スクウ、ナカマ」
そう言うと、機獣は壁に頭を向けて足を踏ん張った。鋭く機械音が鳴り響いたのを合図に、頭の先端に光が集まり始める。
瞬間。
集まった円状の光は、細い一筋の光となって壁を貫いた。
茉莉:「これが、機獣の力か」
茉莉は壁にあいた小さな穴を見て、感嘆の息を洩らした。
機獣は新たにあけた穴に駆け寄ると、片足を器用に動かして穴を広げようと試みている。
茉莉:「それよりも、今の力を何度も使った方が効率が良いと思うがな」
茉莉が呟くと、機獣は足の動きを止めて、ゆっくりと首を曲げた。
機獣A:「ビーム、オワル、タマル、アシタ」
茉莉:「もう使えないのか? そういうことなんだな」
機獣A:「スクウ、オヤジ、ナカマ」
茉莉:「私は茉莉だと、何度も。……それに」
茉莉は両腕を組む。部屋に充満する腐臭は残酷に一つの事実を告げていた。
――助けようにも、おそらく、もう……
罠にはまってしまった日本人は、結局、そのまま出ること叶わず、飢え死にしてしまったのだろう。
茉莉が吐き気を堪えながらも、溜息を吐く。
瞬間、機獣が俊敏な動作で茉莉に向かって飛びかかった。
<3・愚行>
やはり、罠だったかと茉莉は木刀の柄を力強く握る。
だが。
機獣は茉莉の横を過ると、肩を飛び越えた。
バチ、と空間が軋む。一瞬、視界を遮った眩い光に、茉莉は眉をひそめる。
振り向けば喋る機獣が、焦げたように黒じみた――脆い姿で立っていた。関節部からは煙が僅かに出ている。
遠く離れた通路の先へ目を向ければ、キャタピラー走行型機獣が二体。
毛虫によく似た形体だ。鋭く尖ったトゲで上部を覆っている。複数の車輪をベルトで巻き、回転させて走行する仕組みになっているようだった。
キャタピラー式走行型機獣は、幾筋もの細い光線を放つ。
茉莉はぎりぎりのところで避けて攻撃をかわした。頬の真横を、熱を含んだ風が撫でる。
喋る四足歩行型機獣は、攻めへ転じようと地を強く蹴り、前へ駆け出した。茉莉も後を追う。
茉莉:「護ってくれたのか、もしや、私を」
機獣A:「マモル、オヤジ、ナカマ、フタリ、スクウ」
茉莉:「……ならば場所を変えた方が良い。この通路は私たちにとって不利だ」
機獣A:「ウシロ、マモル、オヤジ、マモル」
茉莉:「わかっていないのか? 君の言うオヤジはもう死んで――ッ」
機獣A:「マモル」
喋る機獣はキャタピラー走行型機獣に勢いよく体当たりした。ニ体もつれ合う形となって後ろに吹き飛ぶ。
茉莉;「オヤジはもう死んでいる、それでも護るというのか?」
茉莉はもう一体の機獣の相手をしながら、四足歩行型機獣に問いかける。
機獣A:「マモル」
茉莉:「意味のないことだ。それでも護るのか?」
機獣A:「マモル」
茉莉は沈黙した。キャタピラー走行型機獣の車輪部分を集中的に木刀で殴りつけながら、荒い息と共に言う。
茉莉:「――私の力は必要か?」
機獣A:「ヒツヨウ」
茉莉:「ならば手を貸そう。こういうのも、悪くはない」
言って、茉莉は微笑した。
車輪の動きが鈍くなった機獣を、茉莉は掬い上げるようにして壁に向かって叩きつけた。壁に打ちつけられた衝撃が効いたのか、その機獣は機能を停止させる。
喋る機獣の方も片付いたようだった。ぼろぼろになった姿で、しかし勝利を噛み締めるかのように、力強く足を伸ばしていた。
<終章>
小部屋へと引き返した茉莉は、壁にあいた小さな穴を覗き込んだ。
壁により縋る形で男が倒れているのが見える。髪は黒く、一般的な日本人の肌をしていた。男の倒れた辺りの床にはどす黒い染みが広がっている。わき腹には小さな円状の傷口があった。
茉莉:「……この男を殺したのは……」
足元に擦り寄る喋る機獣を、茉莉は一瞥した。
悪気はなかったのだろう。助けようとビームを乱射して、たまたまそれが中にいた男を貫いてしまっただけだと、容易に予想がつく。
男と喋る機獣の間にどんなやり取りがあったか想像もつかないが。
茉莉:「オヤジを助けるのは無理だ。だから、君だけでも私と一緒に来ないか?」
無意識に、茉莉はそう声をかけていた。
機獣は静かに首を横に振る。
機獣A:「オヤジ、キット、ヒトリ、サビシイ」
茉莉:「……そうか」
ならば、これで調査は終わりだと、茉莉は出口に向かって歩き出す。
これ以上の探索は危険だろう。ゆっくりと部屋を出てゆく茉莉の背に。
機獣A:「マリ、カンシャ」
機獣が茉莉の名を呼んだ。
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【ライター通信】
こんにちは、初めまして、酉月夜と申します。
このたびは、発注どうもありがとうございました。
習志野茉莉さんに関しては、武士道を貫いているような、とても凛々しい女性のイメージが強かったので、それを前面に押し出してみました。
如何でしたでしょうか? 少しでも気に入ってくだされば幸いです。
ご意見ご感想リクエストなどは気軽に受けつけておりますので、もし宜しければ。
それでは、またの冒険でお会いしましょう。
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