<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


キミとの出会い。〜想い出は心の中に〜



あれは二年前の出来事。
現実にあった、本当の物語。

ある少女が劇団で初デビューを果たした。
歌姫の名はティアラ・リリス。
劇場で歌や踊りを見て育ち、いつしか舞台に立つほどまでに成長していた。
彼女の歌声は心が洗われるように癒されると評判で、彼女の名はあっと言う間に広まり、『癒しの歌姫』と話題になり、世間から注目を浴びていた。

そして、いつものように劇場が始まる。
今日は素晴らしいほどの快晴。
なにかいい事がありそうな予感がする。

「ティアラ、お前の番だ。お前の歌声を聴かせて観客を驚かせてやりなっ」
ティアラの歌声を求めて遠出から訪れる者も多い。
ティアラが舞台に立つだけで、周囲の視線が一気にティアラへと向けられ、期待されているのが見て取れるほどに分かる。
それが、決してプレッシャーになる事はない。
歌声が響き渡ると、人々は目を瞑り、ティアラの歌声だけに集中して、ひと時の安らぎを得る。
歌い終わると、観客の誰もが彼女の歌声に癒され、満足げな顔をする。
いつも通り、ティアラは舞台の袖に戻り、他の団員の演技を見つめる。
真剣に見つめるあまり、背後に誰かが忍び寄っている事に気づかず、気づいた時には目の前が真っ暗になっていた。

「「「我らはアルメージャ盗賊団!!!」」」

なにが起きたのかは分からないが、仲間の歌声が途中で止まり、誰かの声が聞こえたかと思うと、観客のどよめく声が頭の中に響いた後は意識を失っていた。



「んんっ・・・」
目が覚めると見知らぬ場所にいた。意識がはっきりせず、しばらく天井を見つめ、どうにか目を覚まそうとする。
「じゃー、アズリィはこいつを見張っていろ。大切な人質だから絶対に逃がすなよ」
「はいっ!」
近くに誰かがいるのは分かる。
二人の人物の飛び交う声が聞こえてくるが、未だに意識ははっきりせず、うまく動く事ができない。
正確には動けない感じがする。
やがて、意識がはっきりすると自分が縄で縛られている事に気づいた。
「なっ・・なにこれっ!!」
「目覚めたみたいだな・・あんたも、不幸だね。人質にされて・・」
冷たい目で睨みつけるように、アズリィは上からティアラを見下ろす。
ティアラの方はなんとか縄を解こうともがくが、縄が解ける気配すらなく、やがて動きを止めておとなしくする。

「これ・・はずして?」
「駄目に決まってるだろ?」
「じゃー、緩めて??縄が食い込んで痛いよ・・」
一瞬考えてから、アズリィは面倒くさそうにティアラの縄を外れない程度に緩める。
ティアラの言葉に耳を貸さなければいいことだが、アズリィは何だかんだで、しっかりティアラの話を聴いている様だ。
「ねぇ、貴方の名前、なんて言うの?」
「どうでもいいだろ?どうせ、人質なんだから・・」
「人質・・?」
自分の置かれている立場を初めて知り、少しだけ驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
それは同い年くらいのアズリィにティアラは親近感を覚えている為だろう。
「そう、あんたは人質!あんたを攫って劇団に身代金を要求している最中さ!!」
「うーん・・・なら、尚更名前教えて欲しいな?」
「何でそうなるんだよ・・」
「だって、今から少しの間、貴方と過ごすんだから・・ねっ?」
フレンドリーに話しかけてくるティアラの思考が分からず、アズリィはため息をつき、ティアラのペースに持っていかれないように注意を払う。
「・・・・・アズリィ・アルメージュ・・・」
くるりと背を向けて小声だが、確実にティアラに聞こえるように告げる。
「私はティアラ。よろしくね、アズリィさん」
軽くウェイブのかかった髪が動いた拍子に揺れ、軽く微笑む姿はティアラにとてもよく似合っている。
「アズリィさんは何故、アルメージュ盗賊団にいるの?」
「アルメージュの仲間は、皆良い奴ばかりさ。・・揃いも揃って馬鹿ばっかりだけどね」
苦笑しながら答えるアズリィだが、その顔は幸せな笑顔に満ちていた。
アズリィはドラコニオンの住む集落で平和に暮らしていたことから、ある日集落が襲撃により壊滅し、路頭に迷っていた幼いアズリィを『アルメージュ盗賊団』が拾ってくれた事までの事を話す。
初めのうちはティアラの行動に唖然として、脱力していたアズリィだが、話すうちにティアラのペースに巻き込まれ、いつしか和やかムードになっていた。
「あんた少しは人を疑うってことを知ったらどうなの?ったく、危なっかしくて見てらんないよ」
「そうかな?そんな事はないと思うんだけど・・」
ティアラの人を疑わない性格は自分自身、自覚をもってはいなかった。
「所で、あんたの種族聴いてなかったよな?」
「ティアラはマーメイドだよ・・」
何気ない質問の答えに、先ほどまで和やかな雰囲気だったアズリィの笑顔が一気に冷め、冷たい態度に戻る。
「何で・・・」
「えっ?アズリィさん・・聞こえないよ??」
「何でなぜ人間なんかのところで歌っているんだよ!」
一段と厳しい態度で、怒りを露にしながらきょとんと見つめるティアラを睨みつける。
突然の出来事にティアラも戸惑いを隠す事が出来ない。
「突然・・どうしたの?」
「あたしの仲間は人間の手で殺されたんだ!!人間のせいで・・あたしは・・」
実は集落を襲ったのは人間であり、幼いアズリィを両親は自分達を犠牲にしてでもなんとか生き延びさせた。
しかしその後、故郷の凄惨な成れの果てを目にしたアズリィはいつしか人間に深い憎悪を抱くようになり、人間嫌いに陥っていた。
「ティアラは両親の為に!!」
「両親?」
「そうだよ・・ティアラが幼い頃に2人共亡くなってしまって、パパの友人で劇場を経営する夫婦に引き取られたんだ。ティアラはパパやママの事を覚えてない・・。でも、この歌があればティアラは想いをパパやママに伝えられる・・」
切なそうに話すティアラの姿に、アズリィは自分の幼い頃の姿と重ねてしまい、怒りも自然と解け、無言でティアラを見つめていた。
結局、父の友人の夫婦に過保護なほどまでに大切に育てられてきた。
優しい夫婦の愛にティアラは幸せを感じていた。
しかし、本当の両親はこの世でたった2人しかいない。
ティアラにとっては生みの親も、育ての親もどちらも大切な親であり、感謝をしている。
両親との絆を結ぶ方法として、ティアラは両親に自分の声を届けたいと思い、歌を歌い続けていた。
そんな理由がティアラの歌の魅力を更に高めてくれるのだろう。
「だから、パパやママにティアラは歌声を届けてあげたい・・」
「ティアラ・・・ごめん」
いつの間にかアズリィのぎゅっと握り締めていた握りこぶしも緩み、表情が緩やかになっていく。
「でも、アズリィさんの気持ち、分かるよ。大切な人がたくさん殺されたんだもん・・」
ティアラは自分の意見を一方的に述べるだけではなく、アズリィの気持ちも、きちんと察していた。


「アズリィ、ご苦労様。少し交代するから休むといい・・」
突然、扉を開くと仲間の団員が見張りの交代を告げに来た。
アズリィは一息ついてから、表情を調え、向けていた背をくるりとドアの方へと向ける。
そして何事も無かったかのように仲間と少し会話をして、ドアの外へと出る。

「アズリィ・・・さん」

出際にアズリィを見つめるティアラと目が合う。
ドアを閉めると閉めたドアに寄りかかりながらアズリィはある決意を固める。



「待って、お頭・・・頼むよ!!!」
騒がしく会話が飛び交っていた室内にアズリィの声が響き渡り、全員の目が、幼いアズリィに向けられる。
「見張りをしている間に歌姫に同情でもしちまったのか?」
「同情なんかしてない。ただ・・・ティアラだって幼いんだ!お願いだよお頭、ティアラを劇団に返してやって!!」
ご飯を食べながら頭は呆れたようにため息をついていたが、必死に懇願するアズリィの姿を見て、聞き流していた言葉に返事を返す。
「・・・はぁ〜・・、分かった」
「じゃ―、ティアラを開放してくれるんだな!」
必死に頼んだ甲斐があり、アズリィの顔にも明るい表情が窺える。
だが、話にはまだ続きがあった。
「ただし、一つだけ条件がある・・」
「条件??」
首を傾げ聞き返すアズリィに頭は大きく一度だけ頷き、その条件を告げる。



ティアラが監禁されている部屋の方に向かって、走ってくる足音が聞こえてくるかと思えば、ドアが勢いよく開く。
「ティアラ!あんた、ここから解放されるよ!!条件付だけど・・・」
「本当?!・・えっ?条件??」
アズリィが条件を告げようとすると、開いているドアをノックする音が聞こえ、振り返ると頭がそこに立っていた。
「頭、本当に解放してくれるんだろうな??」
「アズリィの願いだ。それに俺は『アルメージュ盗賊団』の頭だ。・・嘘は言ったりしないさ」
2人の会話がティアラには理解が出来ず、条件とやらを気にしていた。
誰かを人質にする代わりだとか言われたら絶対に断ろうと思っていたのだが、条件とは意外なものだった。
「ティアラがアルメージュのために一回歌ってくれたらチャラ、って言うのが条件だ」
「ティアラの歌を・・・?」
ティアラはきょとんとした様子で、アズリィと顔を見合わせる。
「嫌か?」
「ううん・・全然。歌なら喜んで歌わせてもらうよ」
ティアラの顔に再び笑顔が戻る。
縄をはずしてもらい、逃げないようにと監視の下、ティアラは盗賊達から、たくさんの注目を浴びながらも用意された決して大きくは無い舞台に立たされる。
盗賊達がなにを話しているのかは分からないうえに、酒を飲み酔っている人がいたりと、いつもと違うムードを漂わせる中、ティアラは心を落ち着かせ、自分のペースで歌い始めのリズムを作る。
「あ〜・・・・・・・・」
ティアラの第一声に騒がしい室内もあっと言う間に静かになる。
だが、ティアラは歌を歌い続ける。
だんだん、歌う中で緊張も解け、普段の素晴らしい歌声を取り戻し始めていた。
『癒しの歌姫』と呼ばれる少女の歌は評判どおりの素晴らしい歌声と美声、柔らかな歌声と雰囲気に全員が感動する。
歌い終えると、素晴らしいほどまでの拍手を得る。
ティアラは全員に軽くお辞儀を見せる。

「お穣ちゃん良かったよ!」
「また、聴かせてくれよな?」
良い感想ばかりがティアラに告げられる。
一番後ろでティアラの歌う姿を見ていた頭も酒を飲み、高笑いしながら上機嫌な様子を見せる。
「お穣ちゃん、気をつけて帰んな・・・」
ティアラが持っていた荷物を持ってこさせると、頭は自らティアラに鞄を投げる。
アズリィに途中まで送ってもらい、その後は無事、劇団へと戻る事が出来た。


もちろん、アルメージュ盗賊団での出来事は皆には秘密にしている。
ティアラにとっては大切な思い出である。
昔の出来事を今でも鮮明に覚えている。
当然、アズリィもティアラとの出会いをしっかりと記憶しているに違いない。


あの日のように今日も快晴。
こんな日は2人の出会いを思い出すことがある。
今じゃ『癒しの歌姫』の名は昔以上に多くの人達に広まっている。
そして、ティアラの歌声は今日も多くの人達を癒し、幸せにしていく。


【おしまい】




『ライターより』
初めまして。今回、担当させていただきました葵桜です。
ティアラさんとアズリィさんの素敵な出会いを知り、素敵なプレイングに心を打たれました。
素敵な出会いはその先も想いでも素晴らしいものにしてくれますよね。
お2人はこれから先も色々な思い出を作っていくと思いますが、素敵な出来事がたくさん訪れる事を願っています。