<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


青水晶唄

▲序

 黒山羊亭のドアが、ギイ、と開いた。エスメラルダは「あら」と小さく呟きながらそちらを振り返る。
「いらっしゃい。お一人?」
 だが、やって来た客はエスメラルダの言葉一つにびくりとし、それからただこっくりとうなずく事だけをした。エスメラルダは苦笑を一つ漏らし、客を席へと案内した。客は、魔法使いのローブを纏い、杖をぎゅっと握り締めていた。つまりは、魔法使いだということなのだろう。
「何か、魔法でも使われるんです?」
「……がうんです」
 気楽に話し掛けてきたエスメラルダに、客はただぼそりと呟く。
「ただ……お願いしたい……事があって。僕、イークと言いますけど……」
 ぼそぼそと話すイークは、ただの一度も顔を上げない。
「勇気の出る滝、という場所にある青水晶を……手に入れないと……失格でして」
「その、青水晶を取りにいくのと何が関係するのかしら?」
 優しく問うエスメラルダに、イークは漸く顔をあげた。
「其処に至るまで、サポートを……その、してほしくて」
「サポートって言ってもねぇ」
「僕が青水晶を手に入れるまで……魔物が出るって聞きましたし」
 今にもイークは泣き出しそうな顔をしている。何とも頼り無さそうな顔だ。エスメラルダは苦笑し、イークの肩をぽんと叩く。
「分かったわ。つまり、あなたが青水晶を手に入れればいいだけね」
 エスメラルダはそう言うと、小さく笑った。周りを見回し、この件に関して手伝ってくれる仲間を探しながら。


▲始

 静かにお酒を口にしていた長い黒髪に青の目をしたシェアラウィーセ・オーキッドは、そっと手にしていたコップをテーブルに置いた。
「護衛?」
「そうなのよ、シェアラ。良かったら引き受けてくれないかしら?」
「今は納品物も無いし……良いといえば良いんだが」
 シェアラウィーセがそう言うと、エスメラルダはにっこりと笑う。
「じゃあ、お願いしても良いわよね」
 念を押すかのように言うエスメラルダに、思わずシェアラウィーセは苦笑する。
「分かった。で、いつ行くんだ?」
「明日の朝よ。今日はもう、遅いから」
「そうだな。……じゃあ、今日は帰って準備をした方が無難だな」
 そう言うと、シェアラウィーセは立ち上がった。エスメラルダに酒の代金を払い、店を後にする。
「青水晶、か……」
 一体どういったものなのだろうか、とシェアラウィーセは呟いた。青と名のつくくらいだから、青いのであろうが……。
「ま、見てみれば分かるか」
 小さく呟き、そっと微笑む。未だ見ぬ、水晶に心を寄せながら。


 次の日、黒山羊亭に集まったのは5人の男女であった。思いもよらず集まって貰えた喜びからか、イークはぺこぺこと頭を下げながら半泣きで「有難う御座います」を繰り返した。
「まあまあ、そんな風に何度も頭を下げないでいいからよ」
 刀伯・塵(とうはく じん)は茶色の髪の頭をがしがしとかき、苦笑しながら言った。黒の目は困ったようにイークに向けられている。
「そうですよ。ただ、少しでもお手伝いできるのならばと思ってきたんですから」
 ユーリ・フォレストは茶色の髪の奥にある緑の目を優しくイークに向け、そう言った。
「そ……そうですか。あ、ああ……有難う御座います」
 イークは、やっぱり頭を深く下げる。
「それよりも、何故青水晶が必要なのかを教えて欲しいんだが」
 シェアラウィーセは目をイークに向けた。苦笑交じりである。
「そ、それは……認定証代わり、なんです」
「認定証、ですか?」
 青の目をくりくりっとさせながらイークに向かってリラ・サファトが尋ねる。目と同じく青い髪は、ライラックの如し、である。
「そうです。……ま、まだ僕はそのぅ……魔法使い、ではなくて」
「ああ、魔法使いの認定証代わりが、青水晶なのか?」
 黒の目を優しく向け、榊・遠夜(さかき とおや)は尋ねた。黒の髪がふわりと揺れる。
「え、ええ。何というか……僕の師匠が、そのぅ……」
「お前さんに、魔法使いとして認定するから、青水晶を取って来いって言われたとか?」
 塵が尋ねると、イークはこくこくと何度も頷いた。そんなイークの様子に、皆の心は一つになる。……不安。
「ともかく、出発しようじゃないか。話は歩きながらでもできるんだし」
 シェアラウィーセが提案し、皆が賛成した。
「勇気の滝は、ここからどれくらいの場所にあるんですか?」
 ユーリが尋ねると、イークは少しだけげっそりした顔をして微笑む。
「……歩いて、2時間です」
「2時間……ですか」
 イークのげっそりした顔とあわせて、思わずユーリの顔が曇った。
「ああ、そうそう。リラさんは迷子にならないようにしっかりと僕の前を歩いてね」
 遠夜がはっと思いついたようにリラに言うと、リラはこっくりと頷きながら笑う。
「イークさんを先頭にして、出発しましょう」
 リラはそう言うと、びくりとするイークを引っ張って先頭に立たせ、にっこりと笑った。イークは暫く考え込んだ後、ぱしんと頬を叩いてから歩き始める。それに皆、後ろからついていくのであった。


▲道中

 遠夜はそっとポケットから符を取り出し、そっと息を吹きかける。だんだん符は形を為し、小鳥と為りて空へと舞う。
「式を僕らの周りに飛ばしているから、何かしらの危険があったら教えてくれると思うよ」
 遠夜はそう言い、にっこりと笑った。思わず他のメンバーがぱちぱちと手を叩く。
「凄いです!遠夜さんは、まるで師匠のようですね」
 興奮しているかのように、イークは頬を赤らめる。遠夜は少しだけ照れながら「有難う」と言って微笑む。
「んじゃ、俺も」
 塵はそう言い、懐から符を取り出し、さっと宙に向かって投げる。すると、符はたちまち鳥となり、どこかへと飛んでいってしまった。
「遠夜の式神は周りを飛んで、危険を察知するんだろう?俺のは先に行かせて、偵察と先導をさせておくから」
 塵がそう言ってにっこりと笑うと、再び拍手が起こる。一番ぱちぱちと大きな音を立てているのはイークである。
「お二人とも、凄いです!僕にも使役魔法が使えると良いんですけど」
 少しだけ遠い目をしながら、イークは苦笑する。
「イーク、分かれ道なんだけど……どちらにいけばいいんだ?」
 シェアラウィークが分かれている道を指差し、イークに尋ねる。イークはポケットから地図を取り出し、きょろきょろと確認しながら「ええと」と呟く。
「ど、どちらがいいと思います?」
 イークの問いに、皆が顔を見合わせる。
「イークさん、そういうのはイークさんが決められないと」
 ユーリがやんわりと諭すように言った。
「で、でも……ほ、ほら。塵さんは偵察用に式神を飛ばしてらっしゃいましたし……僕よりも頼りに……」
「あくまで偵察だけで、俺は道を決めたりしねえぞ」
 塵は、至極真顔でイークに言った。イークは「え」と小さく呟き、今度は遠夜のほうを見る。
「僕も、同意見だよ。危険回避の為に式神を飛ばしているだけだから、道程を決める事はしない」
 遠夜はそっと飛んでいる式神を見ながら言った。イークは「そ、そんな」と言って俯く。リラはきゅっとイークのローブを掴んで微笑む。
「イークさん、大丈夫ですよ。私達、イークさんの決めた道に一緒に行きますから」
「リラ、さん……」
「そうだよ。道筋はイークが進む道を決めるんだ」
 シェアラウィークもにっこりと笑い、ぽんとイークの肩を叩く。
「で、ですけど……もしも変な道に行ってしまったら」
「そのための、私達じゃないんですか?イークさん」
 ユーリがそう言って微笑むと、皆も同様に頷く。
「皆さん……」
 イークは皆の顔をぐるりと見渡し、再び地図を開いて辺りの光景と見比べる。そして、きっぱりと顔を上げて右の道を指差す。
「じゃ、じゃあこっちで」
「了解」
 皆がにっこりと笑い、イークを先頭にして右の道に進んでいった。イークはごくりと喉を鳴らす。額に、つう、と汗が流れる。ドッドッと、心臓が響くように音を刻んでいる。そんなイークのローブを、リラはそっと握り締めながら微笑む。
「大丈夫ですよ、イークさん。私達はイークさんを、サポートする為に来たんですから」
「……は、はい」
 リラの笑みに、ちょっとだけイークは息をつく。
「皆さん、ちょっといいですか?」
 歩いていたユーリが、突如口を開く。皆がユーリの方を向くと、ユーリは道端の土がへこんでいる所をそっと指差す。
「あれ、何かの足跡に見えませんか?」
「あ、本当だ」
 遠夜が近付き、しゃがみ込む。そこにあるのは、長さ30センチくらいの獣のような足跡。
「これは……足跡から考えるとかなりの大きさだな。しかも、爪が長い」
 シェアラウィークも足跡を覗き込み、呟く。イークが小さく「ひい」と呟く。
「ややや、やっぱり魔物が!ぼ、僕がこっちの道を選んだから……!」
「何を言っているんだよ。だからこその、俺たちなんだろうが。……青水晶が欲しいんだろう?だったら、弱音を吐いたりせずに……いや、吐いても良いから逃げずに前に進むんだな」
 塵が苦笑し、ぽんとイークの肩を軽く叩く。叱咤するかのように、励ますかのように。
「は、はい」
 イークはそう言い、はあ、と溜息をつく。頭では分かっていても、なかなか体が言う事を聞かないかのようだった。
「ユーリさん、まだこの近くにいそうですか?」
 リラが尋ねると、足跡の様子を再び調べてからユーリは口を開く。
「まだ、土が固まりきってないようですからここら辺にいる可能性が全く無いともいえませんけど、すぐそばにいるというわけでもないようですよ」
 ユーリはそう言うと、そおっと立ち上がる。それを見て、遠夜も立ち上がって式神が何らかの危険を察知していないかを確認する。
「塵さん、一応僕の式は危険を察知して無いみたいなんですけど……そちらはどうですか?」
「俺の方も大丈夫みたいだぜ。……今のところは」
 塵も式神を確認してから答える。空を詮索している式神は、ただただ先導しているだけだ。とりあえず、何も危険が差し迫っていないようである。
「とにかく進んでみるしかないだろうね。このまま立ち止まっている事の方が危険かもしれないし」
 シェアラウィーセはそう言って皆を見渡す。皆は頷き、再びイークを先頭にして歩き始めた。リラはそっとイークのローブを引っ張る。
「イークさん、水の匂いがしませんか?」
「水の?……そういえば」
 リラに言われ、イークは突如走り出した。護衛についてもらっている皆の役に、少しでも役に立ちたいかのように。それと同時に、塵と遠夜の式神がもの凄いスピードでイークについて行った。何かを察知したかのように。
「……塵さん……まさか」
 遠夜は駆け始めながら、塵に問い掛ける。それに対し、塵も駆け出しながら頷く。
「恐らくは、そうだろうな」
 イークは、少し小高い丘の上から皆に向かって手を振った。少しだけ晴れやかな顔で。皆は慌ててイークのいる場所に向かって走り出した。神経をあたりに集中させながら。
「皆さん、滝です!滝が……うわっ!」
 イークの声が、途中から悲鳴に変わった。皆が漸く辿り着いた時、イークは大きな前足によって、滝の落ちている辺に投げ飛ばされてしまっていた。
「イークさん!」
 慌ててユーリとリラが近寄る。シェアラウィーク、塵、遠夜はさっと戦闘態勢に入った。
「何人も、安易に、足を踏み入れる事、適わず!」
 うおおお、と魔物が咆哮した。滝の傍に立ちはだかっていたのは、全長3メートルはあろうかという、熊のような風貌の魔物、ルブであった。


▲水晶

 塵は防護障壁を皆に展開し、防御を固めた。戦闘準備の完了だ。そんな中、イークについていたユーリは辺りを見回してから戦闘態勢に入った三人に向かって叫ぶ。
「皆さん、ここは崩れやすい地層をしてます!あまり派手にすると、ここら一帯が崩れ落ちるかも知れませんので、慎重にお願いします」
「慎重にって言ってもなぁ……それは、奴さんに言って貰わねぇと」
 苦笑しながら塵はいい、ぼりぼりと頭を掻いた。
「そうも言ってられないからね。一応心に留めておかないと」
 遠夜も苦笑し、そっと符を取り出す。
「まあ、多少は気にしてやればいいということだな」
 シェアラウィーセはアオザイを風に靡かせながら、リュックに入れていたロッドを取り出す。
「イークさん、大丈夫ですか?」
 戦闘に入った三人に背を向け、リラはそっとイークの傷の手当てを始めた。
「……ま、魔物は……」
「大丈夫ですよ。皆、大丈夫そうですから」
 ユーリが安心させるように言い、微笑む。だが、どこか顔の端に不安げな気持ちが見られる。それは、リラも同じ。
「……ぼ、僕は……」
 イークがそう呟いたときだった。
「リラさん!」
 遠夜が叫び、慌てて結界を張る。塵は展開させていた防御障壁を強化する。シェアラウィーセはロッドに念を入れてルブの動きを遮ろうとする。
 だが、ルブの方が全てにおいて早かった。
「あっ……!」
 リラに向かってルブの前足が振り上げられた。皆がその回避を絶望的だと思った。全て、間に合わなかったのだと。だが、実際に倒れたのはイークであった。リラを突き飛ばし、自らの体を以ってして、ルブの前足を受け止めたのである。幸いにして、前足はイークの左肩を抉っただけであったが。
「こいつ……!」
 塵が唸るように言うと、剣を構えて一閃する。それに追い討ちをかけるようにシェアラウィーセが呪を唱えて光の礫をルブに叩きつけ、遠夜が符を放って動きを封じる。
「イークさん!」
 ユーリは慌ててイークの左肩を薬草で止血し始め、最初は呆然としていたリラも、すぐにはっとして治癒魔法をかけ始めた。
「あの、私、イークさん……」
 リラは泣きそうな顔をしてイークを見つめる。イークは小さく震えたままの手をそっと上げ、リラの無事を確かめてからそっと微笑む。
「よ……良かったです。僕は、少しでも勇気を……出せたでしょうか」
「イークさん……ええ。勇気がある人だって、私が証明します」
 リラはそう言い、にっこりと笑う。危険を顧みずに助けてくれたという、その事実こそが勇気に思えてならなかった。
「ユーリさん、リラさん。有難う御座います」
 イークは血が止まった左肩をちらりと見てからそう言い、そっと立ち上がる。今まで飾りのようであった杖を握り締めて。
「イーク、その様子じゃ魔法は無理だろう?無理に戦えなど言わないぞ」
 塵が剣をかざしながら叫ぶ。
「ここは僕たちに任してもいいよ。最終的に、君が取りに行ってくれるのならば」
 遠夜が符を放ちながら叫ぶ。
「イークさん、がむしゃらも度をすぎるとただの無謀です!今はじっとその傷を癒す方が大事ですよ!」
 ユーリがイークを止める為に近寄りながら叫ぶ。
「そうです!私を庇ったせいで……」
 リラがきゅっと手を握り締めながら呟く。
「……それとも、覚悟があるのか?」
 ぽつりと、シェアラウィーセが問い掛ける。イークは頷く。最初の頃の、弱々しさは見られない。
「僕は、守られる事だけを考えてきたんです。皆さんに守られて、皆さんに道を決めてもらって、皆さんに頼りきって……でも、違ったんですよね」
 イークはそっと杖をルブに向かって掲げる。
「皆さんは、僕を先頭にたたせました。道を決めさせました。前に進めと教えてくれました……!」
 杖に魔力が集中していく。ルブがそれを阻止しようとイークに襲い掛かろうとする。それを塵の剣が、遠夜の符が、シェアラウィーセのロッドが遮る。
「僕自身が進まなければ、何も変わらないんです……!」
 イークの杖から光の洪水が放たれた。ルブの動きを阻止していた三人はさっと瞬時にそれを避け、ルブはその光の中心に置かれてしまった。光の中でルブは咆哮する。うおおおお、と。そうして光が治まった時、既にルブの姿は無かった。ただあったのは、先程と変わらず流れ落ちる滝だけ。何とか、崩れ落ちそうだった地層も崩れ落ちずに済んだようだった。魔力を放出して疲れたのか、それとも気が抜けたのか。イークはその場にふらふらと座り込んでしまった。
「イークさん、あれ……!」
 ユーリがはっとして滝の方を指差した。だんだん滝の水が消えていき、そうして一つの光がそこから放たれた。
「青、水晶……?」
 ぽつりとリラが呟く。暫く皆、その光に見惚れる。滝の奥にある青き光は、きらきらと日の光を受けて輝いていたのだから。大きさは、直径10センチくらいであろうか。
「ほら、イーク」
 塵に手を差し伸べられ、イークは少しだけ照れながらその手を取って立ち上がる。
「君が、他でもなく君自身が取りに行かないとね」
 遠夜がそっと微笑みながら言う。
「何といっても、イークが取りに来たんだからな」
 くすりとシェアラウィーセが笑いながら言う。イークは皆の言葉を受け、そっと水晶に近付く。青く光り輝く水晶にそっと手を伸ばし、確かに握り締める。
「……こ、これが青水晶」
 ぽつりとイークは呟く。きらきらと輝く青水晶を、強く強く握り締めながら。


▲後日

 数日後、再び黒山羊亭にイークは現れた。大きな荷物を手にしたまま、偶然居合わせたメンバーにぺこぺこと挨拶をし、それから申し訳無さそうに笑う。
「み、皆さん。先日はどうも……」
「イーク、無事に認定はされたか?」
 塵がそう笑いながら言うと、イークはつう、と汗を一筋たらす。
「そ、それがですね……完全な認定は駄目だっていわれたんです」
「どうしてですか?ちゃんと、青水晶は手に入れたじゃないですか」
 ユーリが尋ねると、イークは涙目に少しだけなりながら答える。
「皆さんに手伝って貰ったの、実は駄目だったみたいなんです」
「そうだったのか?でも、そんな事を言われてはなかったんだろう?」
 遠夜が驚いたように尋ねると、イークはちょっぴり涙を流しながら答える。
「そうなんです。まさか皆さんに助けを求めるとは思ってなかったらしくて」
「でも、何でそれがばれたんだ?自分から言った訳じゃないんだろう?」
 シェアラウィーセが不思議そうに言うと、イークは突如頭をがばっと下げた。
「す、すいません!実はあのルブとかいう魔物……師匠が作ったみたいで!」
「そ、そうだったんですか……」
 襲われそうに為った身としては複雑な気分がして、思わずリラははっと息をのみながら言った。
「ぼ、僕が勇気を持ってあの魔物に立ち向かった時点で認定だったみたいで……そ、そのために皆さんを先に気絶なりなんなりしようとしたらしくて」
 はた迷惑な師弟だ。皆そう思ったが、ぐっと心の中で堪える。
「そ、そういう訳で皆さんに一度謝っておこうと思ったんです」
「それで、その荷物はどうしたんだ?」
 塵が最初から気になっていた疑問を口にした。黒山羊亭に謝罪を入れに来ただけにしては、大きすぎる荷物だ。
「実は……これから旅に出るんです。所謂、補修ですね……」
 ふと遠くを見ながらイークはそう言い、ぺこりと頭を下げてから黒山羊亭を後にしようとした。それからふと振り返り、にっこりと笑う。
「でも、本当に感謝しているんです。僕一人だったら、まだあの勇気は出てなかったでしょうから。有難う御座いました」
 イークはそう言うと、黒山羊亭から出ていった。最初のころのおずおずした態度は、既に何処にも無かった。
「青水晶が、そうさせたのかもしれないですね」
 ぽつりとリラが呟いた。皆、その言葉に対してそっと頷きあう。目を閉じると、あの光り輝く青い水晶が浮かんでくるかのようだった。

<青き水晶は胸のうちで光り輝き・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0277 / 榊 遠夜 / 男 / 16 / 高校生/陰陽師 】
【 1514 / シェアラウィーセ・オーキッド / 女 / 184 / 織物師 】
【 1528 / 刀伯・塵 / 男 / 30 / 剣匠 】
【 1879 / リラ・サファト / 女 / 15 / サイバノイド 】
【 1925 / ユーリ・フォレスト / 女 / 21 / 植物学者 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。ソーンでは初めまして。霜月玲守です。このたびは「青水晶唄」にご参加いただき、本当に有難う御座いました。
 今回、オープニング文章が本当に分かりにくかった事と思います。ヒントが少なすぎました。単純なものの割に、分かりにくかったという恐ろしいものに。本当にすいません。そして、窓を開けた直後にこちらのミスで定員に達していないのに閉まるという事態が。今後気をつけます。失礼しました。
 シェアラウィーセ・オーキッドさん、初めまして。ご参加有難う御座います。服装の描写を事細やかに出来なくてすいません。はきはきとした性格の現れるプレイングで、気持ちよかったです。
 ご意見・ご感想等心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。