<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


トーナメント



■ オープニング

『来たれ、挑戦者!』
 そう書かれた貼り紙を、看板娘のルディアが白山羊亭の入り口のドアに貼りつけていた。
「これでよしっと」
「ルディアちゃん、それなんだい?」
 そこへやって来た一人の冒険者がルディアに訊く。
「これはですねぇ、エルザード城主催・武術大会の告知用ポスターなんですよ」
 昨年までも似たような催しが行なわれていたらしいのだが、今年は大々的に行なうらしい。
「武術大会か……面白そうだね」
「あ、そうそう、注意事項があるんですよ」
 ルディアがポスターに書かれた内容を読み上げていく。彼女の演説を思わせる姿に人だかりができはじめる。
「えっと、大会はチーム戦で行なわれる。一人でも参加も可能で上限は五人まで。優勝チームには正賞として賞状、副賞に賞金が――」
「すげえー、これ何桁だぁ?」
 告知用ポスターに群がる人ひとヒト、人の群れ!
「ふふふ、優勝は俺たち『マーシャルファイターズ』がいただくぜー!」
「誰……?」
 次々に名乗り出る挑戦者たち。暑苦しい大会になりそうだ――ルディアは心の中で呟いた。



■ 前座みたいなもの

 正方形のリング、それを取り囲む円形状の観覧席。賑わう場内――観客たちは試合が始まるのを、まだかまだかと待ちわびている様子だ。
 雲ひとつない快晴、炎天下の中、武術大会は開催された。大会の規定によると戦闘スタイルは自由。つまり武器の使用もありだ。
「初戦に勝った場合、その次、戦うことになるのはこの試合に勝利した方とだな」
 組み合わせ表を片手にリングを見やるミリオーネ=ガルファ――前髪にかかった銀髪を払いのけ両チームを観察している。
「どちらもむさ苦しいチームだねぇ」
 女性参加者がいないものかとキャプテン・ユーリは周囲を見回していた。しかし、視界の中に女性チームは見当たらなかった。残念。
「ふあ〜、退屈ですね〜」
 二席分を占領し、ごろごろ転がる不安田はもはや瞼が落ちかけていた。彼は暗殺拳士――見た目はどこか猫を思わせる。とにかく、不安田はごろごろするのが大好きなのだ。
「次の対戦相手になるかもしれませんから、分析するのも悪くありませんね」
 アイラス・サーリアスが視線をリングに投じた。
「だよな、出場するからには優勝を狙いたいぜ」
 ケイシス・パールがアイラスに賛同を示す。彼が最後の五人目――チーム白山羊はこのメンバーで戦う。チーム白山羊とは、ルディアが勝手につけた名前だ。無難といえば無難だが。
 両チームがリングの上に姿を見せる。どうやら、試合開始のようだ。
「ふふふ、チーム白山羊の諸君、君たちと戦うのは俺たちマーシャルファイターズだ!!」
 スキンヘッドの男(何となく偉そう)が五人に向かって叫んだ。いかにもありがちな予告――だが、観客たちは大いに沸いた。
 どうやら試合はコンフューズドファイト――乱戦で行なわれるようだ。これは互いのチームが同意して成り立つものだ。

「ふははは、まだまだー!!」
 一人立ち向かうスキンヘッドの男。
「リーダー!!!!」
 すでにリングの上に沈んだ四人の仲間たちが男に向かって必死に叫ぶ。
 そして――スキンヘッドの男は笑顔のまま静かに崩れ落ちた。
 場内に笑い混じりの歓声が飛び交う。
「おいおい、あいつら見かけだおしかよ?」
 ミリオーネが肩を竦めて呆れかえる。不安田を除く他の三人も同様に呆れ顔で、マーシャルファイターズの面子同士による暑苦しい抱擁を生暖かい目で見守った。マーシャルファイターズはどうも見た目だけでなくハートも熱いようだ。
「にや〜ん」
 そんな悲惨なマーシャル(略)を尻目に不安田は気持ち良さそうに眠っていた。



■ 初戦

 一回戦――対戦相手はなんと城の兵士たち。初戦から厄介な相手だ。剣に鎧と盾という重装備、もちろん剣の腕も申し分ないはずだ。
「少なくともマーシャル……なんだったっけなぁ……。とにかく彼らよりも十倍は強そうだねぇ」
 機械的に整列する兵士たちを見てユーリが一言呟く。
「我々は対戦方法についてはどちらでも構わない。そちらで決めてくれたまえ」
 兵士の一人が自信ありげに言った。
「どうしますか?」
 アイラスが全員に訊く。
「俺はどちらでも構わないぜ。だが……相手は乱戦に長けているはずだ。こちらはまだ、お互いの戦い方を熟知しているわけではないだろう」
 ミリオーネがそう言うと不安田が、
「ん〜、じゃあ、シングルの方がよさそうですね」
「俺もそれで異論ないぜ」
 それにケイシスが同意を示し、
「シングルの方が断然好みだから、僕も賛成だねぇ」
 ユーリも了承した。こうして対戦方法が決定し、いよいよ試合開始。

 先鋒はミリオーネ――。
「はじめ!!」
 審判の一声で戦いは開始された。
「ふん、来いよ」
 ミリオーネは右手に持った日本刀を相手に向け挑発した。兵士がそれにつられて先手を打つ。
 ――ガキィーン!!
 金属音が反響する。そして、鍔迫り合い。空気が歪むような感覚さえ覚えるのは、お互いの気迫がぶつかり合っているからだろうか。
 再び離れる。今度はミリオーネが仕掛けた。
「だぁぁぁ!!」
 掛け声と共に猛烈な突き――刹那に三発。兵士は避けず、それを盾で弾く――否、避けられなかっただけだ。重い鎧をまとった兵士はミリオーネに翻弄される。
「……くそ……ぬっ!?」
 攻撃が止み前を見た兵士は、ミリオーネの姿が視界にないことに気づく。
「何処を見てるんだ? 俺はこっちだぜ」
 背後からの声――もはや避けることは叶わない。
「くうぁぁぁぁ!!」
 ミリオーネが刀を一閃、兵士がリングの上に倒れこむ。
「勝者、ミリオーネ!」
 審判の判定は観客の歓声によってかき消される。

「次、任せたぜ」
「任せてよ。ははは、ご声援どうもー」
 ユーリは上機嫌にリングへ上がる。女性客へのアピールを忘れるユーリではない。
「次鋒戦、はじめ!!」
 開始と共にユーリは兵士と若干の距離を取る。
 ロング・レピアによる彼の戦闘スタイルは中距離型なのである。
 対して兵士は片手剣を用いた近距離型のスタイルでユーリにとっては近寄らせたくない相手である。
 それでも、長い槍による凄まじい打突の連続に兵士は近づくことさえできない。
「くっそ!」
 兵士が距離を取る。そして、持っていた盾を外し、鎧も脱いだ。
「……どういうつもりなんだい?」
 ユーリが構えを解いて兵士に訊く。
「こういうことさ!」
 身軽になった兵士、その狙いとは――。
「――なにっ!?」
 先ほどとは打って変わって素早い動作。兵士はユーリの懐へ一気に飛び込んできた。
「その長い槍ではさばけまい!」
 ――キィィーン!
 兵士の持っていた剣が弾き飛ばされ、リングの上に突き刺さる。何が起こったのか分からず兵士は戸惑う。
「まだやるかい?」
 ユーリは左手――鉤爪を相手に向けた。義手の先端に装着された彼の鉤爪、その存在を失念していた兵士は、
「ま、まいった……」
 こうして、次鋒戦も勝利に終わった。

「さて、俺の番ですね。よっと……」
 それまで寝転がっていた不安田が跳ね起き、首を鳴らした。
 試合開始と同時に動く不安田――相手を翻弄する素早い動き。兵士は最初から鎧を外し、軽装備で立ち向かってきた。
 どうやら、相手も素手での戦いに長けているらしい。
 気迫がこもっている、負けると終わりだから。しかし、パフォーマンスの意味もあり、五戦とも行なわれるのが大会の規定だ。
「ちょこまかと動きやがってーー!!」
 逃げ回る不安田にペースを乱される兵士。しかし、相手もバカではないらしい、苛立ちながらも不安田の動きを分析している様子だ。
「オラッ! オラッ! 守るだけで精一杯か!」
 兵士の流れるような拳打を、たださばいてばかりの不安田。だが――。
「違いますよ。どうやって仕留めようか思案しているだけです」
「……なにっ!?」
「そう……殺さない程度に仕留めないと……失格ですから」
 目を細め不敵に笑う不安田。兵士は殺気のようなものを感じ、一瞬引く。
「逃がしませんよ!」
 相手の背後に回り手套を一発。
「……がっ……はっ!!」
 そのまま前方に倒れこむ兵士。
 審判が確認するまでもなく兵士は気絶しているようだった。
「ふう、手加減するのって難しいですね」
 不安田はリングから飛び降り再び寝に入った。

「こちらの勝利は確定ですね。でも、どうせなら全勝と行きましょう」
 アイラスがリングへ向かう。今度の兵士はやや重装備だが、それでも動きやすさを重視した格好をしている。
 武器は長剣、といってもそれほど長いわけではなさそうだ。
「はじめ!!」
 アイラスは両手に持った釵を構え相手の攻撃に備える。
 十手のような形をした釵は剣技よりも武道に近い概念で、相手の武器を受けたり、引っかけたり、様々な戦い方が望める便利な道具――もちろん一流の使い手であればの話だ。
「……ぬお!?」
 長身の兵士がアイラスの真上から剣を振り下ろすも、釵でもってそれをさばかれる。
 それどころか、十手の部分に剣を引っかけられ、長い剣では小回りが効かないため、結果として身動きが取れなくなる。
「たあああ!!」
 そこへアイラス渾身の蹴りが炸裂する。衝撃で剣は空中に、兵士はリング上を二転三転する。
「……くそぉぉ!! このままで終われるか!!」
 立ち上がった兵士は怒りに任せてアイラスに向かっていく。
 アイラスは腰を落とし、
「……なっ!?」
 兵士の視界が回転――世界が百八十度回転したところで全身に衝撃。
 相手の勢いを利用した華麗な投げ技はアイラスの得意とするところだった。
「勝者、アイラス!!」
 試合終了の鐘が場内に鳴り響く。
「いい準備運動になりましたよ」
 リングに倒れる兵士に向かって一礼しアイラスはリングを降りた。

「最後は俺だな」
 ケイシスが槍を左手に抱えリングへ。
「ふん、全勝できるなんて思うなよ」
 出てきたのは兵士長――見た目はいかにも肉体派で巨漢、ケイシスも長身とはいえ、明らかに体格の差があった。
「はじめ!!」
 審判の合図と同時に兵士長が剣を振り回しながら飛び掛ってくる。
 猛烈な剣圧――ケイシスの頬を僅かに掠め取り、血が頬を伝い流れ落ちた。
 ケイシスは即座に後方へステップし、距離を取った。
「チッ、今日もついてねぇな」
 ケイシスは血を拭うと――式神を召喚した。
「……なんだ!?」
「悪いが、おまえが俺に攻撃できる機会など二度とない」
 式神が兵士長の周囲を飛び回り撹乱する。
 大会の規定では式神や魔法などは反則ではない。魔法使いの集団が参加しているぐらいだ。しかし、肉弾戦を好む兵士たちにそのスキルはない。
「くそぉ、邪魔だ!! ……し、しまっ!?」
「気づくのが遅いぜ!」
 式神に気をとられた兵士長は背後から迫り来るケイシスへの対応が間に合わず、
「――うおおおおお!!」
 巨漢が宙を舞う。
 リングに穴を開けるのではないかと思わせるほどの衝撃音を轟かせた。
「勝者ケイシス!」
 こうして、チーム白山羊は初戦を全勝で飾った。



■ そして決勝

 初戦から圧倒的な強さを見せたチーム白山羊はその後も順調に勝ち進んだ。
 そうして夕刻を迎え、ついに決勝戦が開始された。
 対戦相手はチーム『ラディカル』――女性だけで構成されたチームだった。
「だぁぁぁぁ!!」
 ミリオーネが日本刀を横に薙ぎ払う。空気が歪むほどの威力。
「うっ……きゃあああ!」
 時間にして半刻という長期間に渡った決勝戦、先鋒の戦いは、体力、精神力、気力のどれかが疲弊した方の負けとなった。やはり体力的に劣る女性が不利になるのは当然の結果といえた。
 しかしながら、ミリオーネも何とか勝ちはしたものの辛勝、
「女だと思って甘く見ないほうがいい」
 そう、次鋒のユーリに告げた。

「お手柔らかにお願いしますね」
 対戦相手の女性が微笑みかける。
「いえいえ、こちらこそ」
 女性と戦うのは不本意だが、決勝戦を辞退するわけにもいかない。ユーリは最小限の手数で決めようと考えていた。
「――くっ、早いですね!」
 スピード、技のキレ、パワーも女性であることを感じさせない。
 本気でやらねば勝てないと悟ったユーリは一気にテンポを上げた。
「きゃああ!?」
 フェイントを入れ、背後へ回り込んだユーリは彼女のしなやかな腕を素早く、だが優しく掴んだ。そして、義手を伸ばして囁く、
「まだ、やりますか?」
「……いえ、まいったわ。攻撃させないどころか攻撃もしないなんて……会場の人たち怒るんじゃないの?」
「あはは、それより優先すべきことが僕にはありますからね」
 そう言って、ユーリは女性に微笑みかけリングをあとにした。
(ふう……本当はああでもしなければ負けていたかもしれないなぁ)
 内心ではちょっとした焦りもあったのだが、ユーリはそれを悟られないように観客へ手を振って誤魔化した。
「相変わらずユーリは女に甘いな」
 ミリオーネが呟く。
「紳士のたしなみという奴ですよ。さて、次は――」
「不安田さん、寝ているようですね……」
 アイラスがぐーすか眠っている不安田を見下ろしていた。
「……ん〜、あれ……? もう、出番?」
 寝ぼけまなこの不安田がやっとのことで立ち上がった。
「おいおい、次の相手……何だよ、あれは?」
 ケイシスが指差したリングの上には男性ではないかと誤認してしまいそうになる(実際、街で見かけたらそう思うだろう)女性(なのか?)が立っていた。四肢は常人の何倍もありそうなほどに太くて、長くて――まあ、一言でいえば『ありえない』という所感しかないわけで……。
「ま、まあ何とかなりますよ〜」
 乾いた笑い――不安田は四人に「生きて帰って来い」と言われた。
「あんたが、あたいの相手かい?」
 見た目にピッタリな話し方だったので不安田は笑いそうになったが、すぐにこれから始まる現実に目を向けた。どうあっても、まともに戦えないような気がした。しかし、暗殺拳の使い手である不安田に妙案が浮かぶ。
 試合開始の合図で不安田はリング上を走り回った。とにかく、相手に掴まれたら逃げられないだろう(掴まれたくないというのが本音)。
「こざかしいわね!!」
 巨人(一応女性)が見た目に似合わないスピードで不安田を追いかけてくる。
「まだまだ、甘いですよ!」
 さらにスピードを上げる不安田。相手は接近戦に持ち込めずイライラしているようだ。
「たあああ!!」
 スピードを重視した拳打は的確に相手の急所だけを狙う。それも、なるべく危険性の低い場所だけを――中には死に至るツボも存在するからだ。
 しばらく攻防が続くも、優位に立っていたのは不安田。そして、大きな体が宙を舞ったのには観客も目を疑ったことだろう。
「勝者、不安田!!」
 うおおおお、という観客の声援――場内は一気に盛り上がり過熱した。

 三戦を勝利でかざったチーム白山羊は、もはや残す二戦を加味しなくとも優勝なのだが、それでは面白くないということで、残り二戦は相手チームに限っては二ポイントが入ることになった。
「おいおい、大会本部適当すぎじゃないか?」
 ミリオーネが呆れ顔で言う。
「あはは、盛り上がっていいんじゃない? 僕的にはこういう趣向もありだねぇ」
 ユーリは上機嫌だった。何故ならば、相手の残り二人が美人だからだ。姿態を拝むチャンスである。
「では、行ってきますよ」
 アイラスが武器を準備し、リングへ向かう。
 相手は細身の女性。体格的にはアイラスと変わらないかもしれない。
「ふふふ、容赦しなくてよ」
 妖艶な微笑み。服装も妖艶な雰囲気がある。軽装というよりは露出度が高い。
「はじめ!!」
 アイラスは様子見と思い、両手に持った釵で攻撃を仕掛けた。
 相手の武器は双剣――左右対称な二つの剣は長さがアイラスの釵に近いものがあった。
 どうやら女性はスピードとテクニックを重視した戦法を好むらしい。だが、アイラスも負けてはいない。むしろ、釵による武闘術を極めるアイラスは戦い方に幅がある。
「……え?」
 双剣が釵によって防がれ、しかも身動きが不可能になる。アイラスは釵を器用に操り、その勢いに任せて相手を双剣ごと投げ飛ばした。
 双剣が空に舞い上がり、観客席まで飛んでいく。
「……ま、まいりましたわ」
 武器を失っては勝機がない。勝負ありだった。

「えー、大将戦は五ポイントになります」
 そんな適当加減なアナウンスに対してブーイングはない。場内はますます盛り上がるだけだった。
「この大会……エルザード城主宰じゃねえのか?」
 重荷を背負いケイシスが大将戦へ向かう。まさか、自分の運の悪さではないだろうかと心配になった。

 大将戦――相手はかなりの実力者だった。
「ふ、やるわね!」
 相手もケイシス同様に式神を使いこなすようだ。ケイシスが呼び起こした式神と激しくぶつかり合い、常軌を逸する戦いが展開されていた。
 ケイシス自身も槍を使い、凄まじい攻撃を繰り出す。対する女は魔法攻撃も多いが、基本的には剣技を使用してくる。
「これならどうだ!」
 ケイシスはさらに式神を呼んだ。複数の式神で相手を撹乱する。
「きゃあああ!!」
 女がリング、ギリギリまで転がる。場内からブーイング(男からの)が飛び交うも、ケイシスには余裕などない。
「……仕方ないわね」
 女が埃を払いながら立ち上がった。そして――。
「Thunder coming flying! −飛来する雷−」
 そう魔法を唱えると、急に辺りが暗くなり雷雲が去来した。そして、眩い光と共に雷がリングに落ちた。凝縮された雷がリングを焦がす。
「っと、危ねえ……」
 ケイシスは何とか落雷をかわしていた。
「まだよ!」
 再び落ちる雷。かわすケイシス。
 お互い一歩も譲らないその攻防は数十回も続いた。
「……くっ、まずい」
 女はどうやら魔力が尽きかけているようだ。ケイシスは今が好機と思い、一気に相手との距離を詰めた。
「し、しまっ……た……」
 気づいたようだが時すでに遅し。
 場内は歓声やらブーイングやらで大変なことになる。
「峰打ちだっての」
 ケイシスは倒れこんだ相手を抱きかかえて相手側のチームへと運んだ。



■ その後

 こうして無事優勝を果したチーム白山羊だったが、噂が噂を呼び、白山羊亭へ戻ってみると、お客で溢れかえっていた。
 中には対戦した相手なども混じっているようだったが……。
「なあ、計算してみた方がよさそうじゃないか?」
 ミリオーネが四人に問う。
「そうだねぇ、賞金っていくらだったかな……」
 ユーリが言うと、
「その前に、このお客さんの数から確認した方がいいような気もしますね……」
 アイラスが呟く。
「せ、せっかくの賞金が……まさかねえ?」
 不安田がたじろく。
「……優勝したのは俺たち……だよな? ったく……どうなってるんだ今日は」
 ぶつぶつ言うケイシス――だが、もはや溢れかえる人と、その熱気に逆らうことは物理的に不可能そうであった。
 武術大会はこうして幕を閉じた――。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1980/ミリオーネ=ガルファ/男/23歳/居酒屋『お気楽亭』コック】
【1893/キャプテン・ユーリ/男/24歳/海賊船長】
【1728/不安田/男/28歳/暗殺拳士】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/フィズィクル・アディプト】
【1217/ケイシス・パール/男/18歳/退魔師見習い】

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■         ライター通信          ■
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こういう武術大会で最初に思い浮かべるのは、悪の組織が味方側の子供か何かを人質にとって『次の試合に負けなければ子供の命はない』とか言って、脅迫して、主人公は仕方なく負けようとするがヒロインの声援で本当に大事な何かに気づいて、その頃、仲間が人質を助けたという報告が入って……(以下略)。
そんな妄想にふけりながら書いていました。どうも、前置きが長くなりました、担当ライターの周防ツカサです(長すぎだっての)。
一対一を好まれる方が多かったので初戦も決勝戦もシングルファイトで書いてみました。やはりタイマンの方が栄えますね。
実は書いているうちに最初の予定よりも随分長くなってしまいまして、終われるのか? とか思いながら何とか決勝戦。皆さん、個性的なキャラクターばかりで書いてる私も楽しませていただきました。いやぁ、乱戦などで華麗な連携プレーを書きたかったですねー。
また今度、違う形で武術大会のようなものを書ければなあと思っているのですが、具体的にはまだ決めてません。

さて、ご要望や、ご意見などがございましたら、どしどしお寄せください。
どんどんソーンを盛り上げていきましょう。と、最近ソーンにくびったけなのです。
それでは、またの機会にお会い致しましょう。

Writer name:Tsukasa suo
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141