<PCクエストノベル(1人)>


地獄の沙汰も何とやら〜貴石の谷〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1758 / シヴァ・サンサーラ / 死神】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 数多の世界から様々な冒険者が集う世界。そこからもたらされた雑多な文化技術が入り混じった世界でもある。
 各地に眠るたくさんの遺跡。ソーン創世の謎を探る手掛かりと目され、こぞって冒険者達が探求しようと躍起になっていた。その謎を持ち帰る事が出来れば、莫大な報酬が贈られる。そんな一攫千金を夢見て、彼等は仲間と連れ立って探索に出ていった。
 夢への探求を続ける冒険者にとって、ある意味貴重な資金源にもなった。
 そうして、旅を続ける内に懐がじり貧になっていった冒険者がまた一人、明日の糧を得るために危険な場所へと足を赴けようとしていた。

シヴァ:「‥‥さて、困りましたね」

 声に出しつつも、さほど困った様子は見られない。女性と見粉う程端正な容姿は、こんな時でも完璧な美貌を保っていた。
 先程まで流れるような指使いで趣味と実益――彼自身の旅の費用は、全て彼の作る装飾品の売上げで賄われている――を兼ねた装飾品を作っていたのだが、今はピタリとその動きが止まっている。

シヴァ:「このまま完成しても、このペンダント、何か物足りないような気がするんですよね」

 一見、完璧な飾り細工を施しているが、なんとなく華がない。
 これでは露店に売りに出したところで、他の装飾品に紛れてしまう。

シヴァ:「綺麗な石でもあれば、見栄えが良いのですがね‥‥」

 そこまで呟いた彼の脳裏に、唐突に浮かび上がった場所がある。
 貴石の谷と呼ばれ、これまでにも稀少な――あるいは貴重な宝石が、幾つも産出した事で有名だった。殊に冒険者達の間では、一攫千金を狙うには都合のいい場所として、世に知らされていた。

シヴァ:「そうですね。あそこならいい宝石を手に入るかもしれませんね。では」

 思い立ったが吉日。
 その言葉通り、彼はペンダントの製作を一時中断し、すぐさま立ち上がる。そして、そのまま部屋を出て谷へ向かう装備に取り掛かった。


●第一章〜始まりはいつも雨〜
 谷、とは言っても実際の渓谷のような場所で宝石が取れるのではない。それならば、一般の人間が採掘にもっと頻繁に訪れている筈だ。
 宝石が取れると言われているのは、渓谷のあちこちに開いている洞窟内での話だ。内部は迷路状になっていて、かなり入り組んでいる。おまけに野生動物や異形の怪物――モンスターと呼ばれるモノが、そこを住処としているのだ。
 一般人が襲われでもしたらひとたまりもない。
 だからこそ、冒険者達の独壇場であり得ているのだ。

シヴァ:「やれやれ、とうとう降ってきましたね」

 天はどんよりと暗く曇り、しとしとと雨粒を降らす。
 咄嗟に近場の洞窟へ飛び込んだが、その直後、バケツをひっくり返したような土砂降りとなった。これでは他の洞窟に行くには、ずぶ濡れになるのを覚悟する必要がある。

シヴァ:「しょうがないですね。今日はここを探索しますか」

 常に前向きな彼らしく、ランタンを片手に洞窟内へと迷うことなく進む。
 どんどん。どんどん。
 どんどん。どんどん‥‥。

シヴァ:「おや?」

 迷うことなく踏み出していた足を一旦止める。
 キョロキョロと右や左を向き直り、やれやれと苦笑を零す。

シヴァ:「‥‥どうやら迷ってしまったようですね」

 そりゃあ、あなた。
 初めての場所に地図も付けずに進めば、誰だって迷います。
 思わずそんな突っ込みが聞こえてきそうだが、シヴァ自身は特に焦る様子もなく、一つに束ねた長い黒髪を軽く掻き上げてみる。

シヴァ:「まあ、いいでしょう。道は何処かに続いています。その内、深部に辿り着くでしょう」

 いや、だから。
 行き止まりだったらどうするんですか!?

シヴァ:「その時は戻ればいいでしょう?」

 ‥‥‥‥(脱力)。
 あくまでもマイペース、どこまでも気楽である。
 止めていた足を再び動かし始め、彼はスタスタと歩き始めた。その動きには一切の迷いはなく――居場所の方は迷っているのだが――かなり堂々としたものだ。
 歩いては立ち止まり、行き止まっては引き返し、を何度も繰り返しながら彼は前に進み続け‥‥暗闇の洞窟の中、ひっそりと射す明かりを見つけた。
 狭い通路からぽっかりとした広い空洞。
 そこは明らかに特別な場所を意味している。それを裏付けるように彼の視線が見つけたのは、独特な光彩を放つ石。
 光の受ける角度により、七色の輝きを持つと言われる稀少な貴石――『虹の雫』。

シヴァ:「ほらごらんなさい。ちゃんと最後には辿り着くものなのです」

 誰に対しての言葉か(苦笑)。
 そのまま彼は、石を手にしようと空洞へ一歩踏み出した、途端。

シヴァ:「――ッ!? 何者です?」

 振り下ろされた腕。
 間一髪で避け、シヴァは勢いよく声を荒げた。


●第二章〜番人との死闘〜
 四つん這いの姿で、唸りを上げてこちらを睨むモンスター。口元からはガリガリと何かを噛み砕く音がして、気付いたシヴァはそこから零れ落ちた物を注視する。

シヴァ:「‥‥宝石を食べている? なるほど、あなたがこの洞窟の‥‥その宝石の番人というワケですか」

 視線を逸らさぬように溜息を洩らし、シヴァは素早く戦闘態勢を取った。

シヴァ:「『宝石喰い<ジュエルイーター>』とはね。厄介なモノを置いていってくれましたね」

 ジリジリと互いの距離を詰め寄り、緊張を高めていく。
 宝石喰い‥‥石喰いと呼ばれるモンスターの上位種族である彼らは、文字通り宝石を糧としている。その体が一番最後に喰らった宝石と同じ硬度となるので、生半可な攻撃では傷一つ付けられない場合がある。
 シヴァの武器は、紅刃の大鎌『ロンギヌス』。切れないモノはないと自負しているが、果たして『虹の雫』を喰らってきたヤツに効果があるのかどうかは不明だ。

シヴァ:「無闇な殺生はしたくありません。私はその石をいただきに参りました。そこを退いてください」

 無駄とは思いつつ、言わずにはいられない。
 やがてお互いがお互いの間合いに足を踏み入れた時。
 最初に動いたのは、宝石喰いの方だった。問答無用で跳びかかり、振り上げた腕を脳天めがけて勢いよく降ろす。さっきよりリーチが長い理由は、先に尖る爪の分だろう。
 キラキラと光る光彩が爪の硬度を物語る。

シヴァ:「くっ!?」
宝石喰い:「‥‥ぐるるぅ‥‥」
シヴァ:「本気を出さないと、こちらが危ないですね」

 ハラリと散る数本の髪の毛を見送り、彼は素早く攻撃に転じた。
 意志持つ鎌がその軌道を自在に変化させる。得意の槍術を駆使し、何度か攻撃を仕掛けたが、敵の体を欠かせる事ぐらいで決定打にはなり得ない

シヴァ:「‥‥仕方、ないですね」

 一旦宙を飛び、距離を稼ぐ。
 まっすぐにこっちに向かってくるモンスターを前に、彼は手の中にある鎌に意識を集中させた。己が身に課せられた冥界での理――宿る力を解放する。
 死神としての、その力を。

宝石喰い:「ぐぉぁあ〜〜!」
シヴァ:「死へと導き給え――その魂を」

 交錯は、一瞬。
 振り下ろされた大鎌は、宝石喰いの身体を傷つける事なく貫いた。
 断末魔の悲鳴もなく。
 ゆっくりとモンスターの体が地面へ倒れる。
 明滅するシヴァの持つ鎌の光が、徐々に小さくなって消えていくのを、彼は寂しげに見つめていた。

シヴァ:「申し訳ありません。ですが、私もここで死ぬワケには参りませんでしたから」


●第三章〜大円団にはまだ遠く〜
 奪った命に軽く黙祷を捧げた後、彼はすぐに宝石探索を始めた。
 小粒なヤツは、おそらく宝石喰いの食べ残しだろう。ペンダントにするのならなるべく大粒の方がいい。そう思って懸命に探し、僅かではあるが希望の大きさの石を見つけた。

シヴァ:「これぐらいが丁度いいですね」

 何故か明るい空洞の中、スッと光に翳してみれば、七色の輝きが瞬きを始める。その色合いにも満足した彼は、来た時同様、スタスタとその場を後にした。
 ‥‥洞窟から抜け出るまでに、三度空洞の方に行ってしまった事を付け加えておこう。

 そして、自室に戻ってきて丸一日。

シヴァ:「‥‥ふぅ。なんとか出来ましたね」

 豪奢な飾り細工が周囲に施され、その中央には燦々と輝く『虹の雫』。
 納得のいくモノが完成し、自然と笑みが浮かんでくる。

シヴァ:「これで懐も温かくなりそうですね」

 幻想的な装飾品を眺めながら、現実的な利潤を考えるシヴァ。
 思わず突っ込みかけたところへ、続きの呟きがそれを打ち消す。

シヴァ:「なんとかこれで旅に出られますね。パールバティー‥‥待っていて下さいね。あなたがどんなに変わろうとも、私は絶対に見つけだしてみせますから」

 はせる思いは、遠い過去に失った最愛の妻。
 何度も転生を繰り返すその魂を、シヴァは長い時間を掛けて探し続けているのだ。旅を続ける理由‥‥物理世界に存在する限り、金銭関係はまさに死活問題だ。
 そのためならば、シヴァは己が作り出す装飾品を金に換える事を厭わない。

シヴァ:「さて。今回の品はどれぐらいで売れるでしょうかねぇ」

 満足げにほくそ笑む。
 ただ、双眸はどこか淋しげで。


 まだまだ、ハッピーエンドは遥か遠く――――。


【END】


●ライター通信
 初めまして、葉月十一です。
 この度は発注していただき、ありがとうございました。
 路線はシリアスに、多少のオチを絡めて‥‥みたいな形に仕上げてみましたが如何だったでしょうか? シヴァさんの性格をトコトン前向き、な形にしてしまいましたが‥‥(汗)。
 ご意見、ご感想等ありましたら、テラコンの方よりお願いいたします。
 それではまた、ご縁がありましたらよろしくお願いします。