<PCクエストノベル(1人)>
守護者〜機獣遺跡
------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス
1934 / ジラルダン=リュウ=ザウエル / ガン・バイパー
------------------------------------------------------------
薄暗い遺跡の奥――動かぬ白銀の機獣の傍に、少女は一人でぽつんと立っていた。
どこからどう見ても冒険者とはかけはなれた白いワンピースの少女は、この地には酷く不似合いに見える。
が、何故か。少女は、この地の雰囲気にしっくりと馴染んでもいた。
少女がそっと機獣に手を伸ばしかけたその時……少女は、ふいと何かに気付いて上を見上げる。
しばらくそのまま動きを止めていた少女は、ゆっくりとその場を離れて歩き出した……――
■ □ ■ □ ■ □ ■ □
カランっ!
人気のない遺跡の中に、無機質名金属音が響いた。
ジラルダン「……こんなものかな」
適当に機獣のパーツを詰め込んで、ジラルダン=リュウ=ザウエルは誰にいうでもなく呟いた。
今回ジラルダンがここにやってきたのは、銃器改造と売買用に、機獣の外殻を回収するためだ。
まだそう奥までは入っていないが、次々に襲ってくる機獣たちのおかげで、すでに充分な量を得られた。
このままここで帰ってしまっても良いのだが……。
ジラルダン「せっかく来たんだ。もう少し奥まで行ってみるか」
すでに用は済んでいるからこそ。ジラルダンは気楽にそう決めた。
引き時を知らぬほど愚かではないし、もう少し……行けるところまで行って見ても良いかと思うのだ。その理由の半分以上は単純な好奇心であったけど。
金属的なつくりの通路を、ジラルダンは迷うことなく進んで行く。
奥に進むにつれて襲い来る機獣も強くなってくるが、ジラルダンの足を止めるほどではなかった。数種類の銃を見事な腕で使い分け、次々と機獣たちを沈めていく。
ジラルダン「……光?」
変わり映えのない風景の向こうに淡い光を見つけ、ジラルダンは足を止めた。
警戒しつつゆっくりと足を進める――と。通路の奥に広い部屋のような場所があることに気付いた。
そしてその広間の奥には、ピクリとも動く気配の無い、白銀の機獣。
ジラルダン「すげえな……」
美しいフォルムを持つそれに、思わずふっと息をもらす。
もう少し近くで見てみたい――そんな好奇心に駆られ、ジラルダンは一歩、その機獣に歩み寄った。
突然動き出すことも警戒していたのだが、どうやらこの機獣は完全に壊れているらしく、近づいても動く気配はまったくなかった。
さらに数歩、機獣に近づく。
室内に灯る淡い光に照らされて、白銀の機獣は鮮やかな存在感を持ってそこに各坐していた。
あと数歩で手が届くと思ったその時。
少女「それ以上近づかないで!」
甲高い少女の声が、室内の静寂を切り裂いた。
振り返ればそこには、声から想像した通りの少女の姿があった。
年齢は十七、八といったところだろうか。フレアの白いワンピースに身を包んだ、ロングストレートの髪の少女。
現在地を考えると、少女の服装はずいぶんとミスマッチだ。
少女「その子から離れてください」
硬い声で、少女は言う。
少女の右手には小さな銃がひとつ、握られていた。
今はだらんと下げられているが、その気になればいつでも少女はその銃口をジラルダンに向けることが出来るだろう。
しかしジラルダンは、少女の持つ銃口の行方よりも、何故少女がこんな場所にいるのか……それが気になって、あっさりと少女の言葉に従い機獣の傍を離れた。
少女は意外そうにジラルダンを見つめ、少しだけ、緊張を解く。
少女「悪い人では……ないんですね」
ジラルダン「俺はジラルダン=リュウ=ザウエル。この遺跡に興味があってね。まあ、ほとんどただの好奇心だけでここまで来たんだ」
少女「そう……なんですか」
ほっとしたように息を吐きながら、少女はふっと肩の力をぬいて、白銀の機獣の傍へと歩み寄った。
どこか寂しげな……まるで今にも壊れてしまいそうな、薄い氷を連想させるような声で言う。
少女「私は……この子を護るためにここにいるんです」
愛しそうに。けれど苦しそうに。
少女はそっと機獣を撫でる。
少女「この子は父の形見なんです。この子を盗賊たちに渡したくなくて……」
ジラルダン「たった一人でずっと? 食料やなんかはどうしてるんだ?」
ここは海底にある遺跡だ。街とここを行き来するだけでも大変だろう。道中に盗賊が出ることもあるし、遺跡内には機獣が大量にいる。……この儚げな少女が戦闘に向いているとは到底思えなかった。
少女「食料も、眠りも必要ないんです。私も……機獣ですから」
言って、少女は微笑む。
けれど……その瞳は、まるで泣いているかのように見えた。
感情豊かな機獣もいいるのかと驚くと同時、少女の悲しみの原因が気になった。
ここに一人きりでいること?
それとも……。
この部屋のあちこちに血の跡が残っていることに、ジラルダンは気付いていた。死体はおそらく少女が片付けたのだろう。
けれど。
優しげ瞳を持つこの少女にとって、いくら父の形見を護るためとは言え、人の命を奪う高いは酷く重い事なのではないかと思えた。
ジラルダン「……なあ」
ジラルダンの声に、少女は俯いていた顔をあげる。
ジラルダン「あんたにとって、人を殺すのは辛い事なんじゃないか?」
ちらと白銀の機獣に視線を向ければ、少女はジラルダンの発言の意図をしっかりと汲み取ってくれた。
少しの間、考えるような仕草を見せてから。
少女「……そうですね」
言って、笑う。
少女は無言でそっと、ジラルダンに道を譲った。
ジラルダン「いいんだな……?」
少女「はい」
少女は、迷わなかった。
返された言葉に応え、ジラルダンは銃を構える――
■ □ ■ □ ■ □ ■ □
残骸となった白銀の機獣のカケラを手に、少女は、寂しげでありながらもどこか晴れやかに微笑んだ。
少女の笑みを受けて、ジラルダンは、言う。
ジラルダン「これで、いいんだな……?」
聞くまでもないことだ。
今更聞いてもどうしようもないことでもある。
だが、聞きたかった。
少女は今度は、にっこりと笑顔を見せてくれる。
少女「良かったんです、これで……」
そうは思っていても、大切な父親の形見。思うところもあるのだろう。
目尻に涙を溜めて笑う少女の頭をポンとなで、ジラルダンは、遺跡をあとにした……。
|
|