<PCクエストノベル(2人)>
境界線〜貴石の谷
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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス
2067 / 琉雨 / 召還士兼学者見習い
1962 / ティアリス・ガイラスト / 王女兼剣士
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貴石の谷と呼ばれる洞窟の深部には、そこでしか採取できない魔法石がある。
かつては宝石採取のためにつくられた坑道であったが、モンスターが出現するようになって廃棄された場所でもある。
坑道ゆえに道は縦横無尽に掘り進められ、一旦迷えばそのまま地の底から出られなくなる可能性も高い。そしてまた、当然ながらモンスターも襲ってくる。
だがそんな場所でも、冒険者や学者はその目的を達するために集うのだ――。
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薄暗い洞窟を歩く二つの人影がある。
一人は、学者見習の少女・琉雨。もう一人は一国の王女でありながら剣士でもあるというティアリス・ガイラスト。
もともとここに来ることを決めたのは琉雨の方。琉雨も戦闘手段を持ってはいるが、一人で行くのは危険だからとティアリスに同行を頼んだのだ。
ティアリス「でも、少し楽しみよね」
歩きながら、ティアリスが明るく笑う。
洞窟の薄暗さなどまったく気にならなくなるような雰囲気を纏うティアリスに、琉雨は穏やかながらも淡々とした表情で返した。
琉雨「……楽しみ、ですか?」
永遠の炎を入手して調べたいと考えている琉雨はともかく、それに付き合ってくれているだけのティアリスが、何を楽しみにするというのだろう?
ティアリス「ええ。だって魔法石ってすごく綺麗なものが多いでしょ。永遠の炎はまだ見たことがないから」
そういう意味で言ったのならば納得できる。穏やかな笑みで頷いて、琉雨は前方へと注意を戻した。
洞窟に入ってからすでに一時間は経過しているだろうか。何度もあった分かれ道、何度かモンスターと遭遇して戦闘にもなっている。
永遠の炎は洞窟の深部にあるという話だが、詳しい場所までは調べられなかった。
ティアリス「琉雨さんってよくこういうところに来るの?」
琉雨「いえ……こう言ったところに来るのは初めてです」
ティアリス「そう? なら、私を誘ったのは大正解ね」
にこりと満面の笑みで笑うティアリスの意図が掴めなくて、琉雨は思わずすいと視線を逸らした。
ティアリスは剣士としてかなりの腕を持っており、本人もそれを自覚している――と同時に、自分の腕に絶対の自信を持っているわけではない。
けれど……自分の腕に絶対の自信を持っているわけではないという言葉とは矛盾するかもしれないけれど。ティアリスは本気で琉雨を護るつもりであったし、守りきる自信もあった。
そしてなにより、これをきっかけに琉雨と友人になれればいいなという思いがあった。現状ではティアリスと琉雨はまだ友人というほどには親しくない。
だからこその、嬉しい笑み。
友人となれるきっかけを得たことへの嬉しさが、ティアリスを笑顔にさせていた。
とはいえ、それだけを考えていられるような状況ではない。なにせここはモンスターの出没する洞窟の中なのだから。
――先にそれに気がついたのは、ティアリスのほうだった。
奥の曲がり角の向こうでチラチラと光が揺れている。しかしその光は時折何かによって遮られている。
ティアリス「……何かいるわ」
あの光はおそらく永遠の炎のもの。そしてそれを遮っているのはおそらくモンスターであろう。
ティアリス「行きましょう」
琉雨「はい」
いつまでもここで様子を見ているわけにはいかない。
二人はそっと足音を忍ばせて曲がり角の向こうを覗き込んだ。
ティアリス「…………うわあ」
琉雨「……すごい」
一瞬、モンスターのことなど頭から吹き飛んでしまった。
通路の奥には少し広い空間になっており、その壁と天井には永遠の炎がチラチラと顔を出していた。
そう大きくないサイズで、ひとつひとつの価値としては高いものではない――だが、暗闇に浮かび上がる小さな光は、まるで星空のようであった。
だがそうそう感動ばかりもしてはいられない。……部屋の中央付近に、両生類のような外見をしたモンスターが一体。全長二メートルといったところだろうか。
琉雨「宝石(いし)喰い、ですね……」
ティアリス「宝石喰い?」
琉雨「宝石喰いと言う名前がついていますけど、宝石を食べるわけじゃありません。宝石を取りに来た人間を食べるモンスターです」
ティアリス「それじゃ、多分他の場所にもいるわね」
余計な闘いはしない方が良いに決まっている。
余裕があれば他に魔法石のある場所を探してみてもよいのだが、宝石のあるところにはかなりの高確率で宝石喰いがいる。
ならば、無駄に動きまわるよりも、ここであれを倒して宝石を入手する方が良いだろう。
ティアリス「琉雨さんは後方から援護をお願い」
琉雨「はい」
琉雨が頷くのを待って、ティアリスがモンスターの方へと飛び込んで行く。
ティアリスの姿に気がついたモンスターは鋭い牙の並んだ口でティアリスに噛みつこうと襲ってくる。
と。
ボンっと勢いよく当たった炎に、モンスターの動きが鈍った。琉雨の魔法による炎だ。
その隙に、今度はティアリスのレイピアがモンスターの身体に突き刺さった。
しかしモンスターにとってはたいした打撃ではなかったらしい。ブンッと前足を振ってくるモンスターを、ティアリスは後方に飛んで避ける。
ちょうどそのタイミングを狙ったかのように、琉雨の魔法が再度モンスターへと激突した。
動きはそう早くないし、倒すのは難しくないかと思われたその時。
琉雨は、自分の後ろに動く気配を見つけて振り返る――そこには、宝石喰いがもう一体。
なにかの理由で巣を離れていたが、実はここにはニ体のモンスターがいたということだろう。
自分は接近戦には向いていない――それを自覚している琉雨は、慌ててそこから下がる……が、反応が遅かった。
琉雨「きゃああっ!?」
ティアリス「琉雨さんっ!!」
避け切れない――そう思った時、ドンッと何かに押されて、琉雨は横に倒れた。
視線をモンスターの方へ戻すとさっきまで琉雨がいた場所にはティアリスがいた。致命傷――ではないが、傷を負っていて、このままでは倒れるのも時間の問題。
琉雨「どうして……」
どうして、命を賭けてまで護ってくれるのだろう?
依頼をしたのは確かに琉雨だが、ただの知り合いであるのも確かで。
だが今はそんなことを延々考えている場合でもなかった。
琉雨はありったけの力を使って攻撃魔法をモンスターにぶつけた――たいして広くない部屋の中に魔法の轟音が響きわたる。
ニ体のモンスターは黒こげになって床に落ちていた。
そして。
精神力を使いきった琉雨もその場に崩れ落ちる……体が地に落ちるその前に、ティアリスの腕が伸びた。
ティアリス「大丈夫?」
しかしその時には琉雨はもう気絶しており、ティアリスの問いに答えることはできなかった。
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琉雨「……ん……」
ティアリス「あ、起きた?」
琉雨の目の前で、ティアリスがにっこりと笑う。
ティアリス「よかった」
本当にホッとした様子で息を吐くティアリス。
琉雨「……どうして?」
応急手当はされているが、決して軽くはないだろうティアリスの傷を見つめて。
琉雨は、尋ねる。
琉雨「どうして。まだ知り合ったばかりなのに……。どうして、そんなに必死になるんですか?」
問われて、ティアリスはきょとんと琉雨を見つめ返した。
ティアリス「だって、友達でしょ?」
何を指して、どのくらい仲が良ければ友達というのかはわからない。
少なくともお互いにまだ、相手のことは知り合い程度にしか思っていなかった。
それでもあえて『友達』だと言ったのは、半分くらいは、ティアリスの希望が入っていた。
そうなれれば良い――という希望。
琉雨「……」
琉雨は、こんな時に返す言葉を知らなかった。
ここで友達だと頷いてしまって良いのか。それとも……。
答えに窮しているが嫌そうではない琉雨を見て、ティアリスはくすりと笑った。
ティアリス「さ、邪魔物もいなくなったことだし。宝石持って帰りましょ」
立ちあがったティアリスに手を差し伸べられて、琉雨はそっと自らの手を重ねた。
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