<東京怪談ノベル(シングル)>


Your song - 君の歌は僕の歌 -











「あ…」




歌の女神ロイラは、消えた風を感じ取り悲痛な呟きをもらした。

存在する物全て、いつかは消えていく運命だ。
自然の法則には誰も逆らうことは出来ない。



たとえ、自然の法則を作り出した星自身でも。






―風が、消滅したようですね―





彼女の脳内に声が響いた。
語りかけたのは星だった。
ロイラは星の声を聞き取ると、眉を寄せてうつむいた。

「消滅…」

ショウメツ、という響きは悲しくさせる。
そこに存在した証拠も何もかも無くなるのだから。
歌の女神として、星と共にずっと生きてきたロイラは全て知っている。

悲しい歴史も、幸せな歴史も、
風の優しさも、水面の心地よさも、
小鳥のさえずりも、大地のぬくもりも。









―水が消えましたよ…ロイラ―


星の穏やかで悲しい言葉は、ロイラに突き刺さり、
彼女は涙を流した。
涙で曇った瞳の先には、水が蒸発する様子が見えた。

―風も、水も消えた。次はきっと動物でしょう―

星はあくまでも優しく悟った口調で全てを見据えていた。
言い終わるのが早いか遅いか、星にいる生物が光となっていた。








「イヤ…。イヤよ…!あなたが、みんなが消えるなんてそんなのイヤです!」

ロイラは叫んだ。
周りは消滅した動物たちの光が漂っていた。
蛍火のようでそれはとても綺麗で儚かった。

「何故消えるのですか…何故今消えるのですか…」


―…ロイラ、泣かないで―

星の語りかけにも反応せずただ悲しく泣き崩れた。
その涙さえ、地面に落ちることも無く、弾けて消滅していく。

―ロイラ―

星は少し強めに彼女の名前を響かせると、宇宙を映し出した。
ビジョンの中央に小さな青い星が浮かんでいた。

―命あるものはみな、いつか消える宿命なのです。それが遅いか早いか。それだけです―

星の声に反応して消滅した生物の光が一層強く輝いた。
光はロイラの周囲を取り囲み、優しく包み込んだ。
ロイラはその柔らかなまぶしさに眼を細める。

―消滅は、悲しいと思いますか?ロイラ―

星がたずねた。

「…当たり前じゃないですか…。悲しいだけで、何も残りません、何も」

光に触れながら憂い気な瞳を翳らせて星に答えた。

―ロイラ。それは違います―

「え…?」

ロイラは泣いていた顔を上げた。目の前に宇宙空間のビジョンが広がっていたことにその時気付いた。

「………あおい、ほし」

―あれは、新しい私です―

「…新しい?」

―そう。私たちは生まれ変わるのです。―

「生まれ変わる?そのままの自分で、ですか?」

ロイラは立ち上がって見上げた。
消滅した風の光、水の光、動物たちの光がふわりと舞い上がり、青い星へと向かっていた。
彼女の問いかけに、星はしばらく沈黙したが、

―…いいえ。それは分かりません。でも…―

今までと変わりなく穏やかな口調で返答した。

―一度消え、そしてゼロから始めることが出来るのです―

「ゼロ…」

―ロイラ。あなたは歌の女神です。でも、生まれ変わったら違うあなたになるのです―

ロイラは複雑な表情を浮かべた。
彼女にとって、歌が全てで、今まで幾度と無く歌い続けてきた。
今日消滅し、新しい星で新しい自分に生まれ変わるということは…

「私、歌を歌えなくなるの?」

彼女はまた悲しい表情を浮かべた。
この空間はすでにロイラひとりになっていた。
他の動物・神はもう光となって転生し始めていた。
星はただ一人残ったロイラに答えた。

―女神でなくても歌は歌えるでしょう―

優しく響くその言葉はロイラの胸にも優しく響いた。

―ロイラ。消滅はその時は悲しいと思います。でも、新しい一歩を踏み出すきっかけとなるトビラなのです。
  たとえ記憶をなくしても、姿が変わっても、名前が変わっても。あなたがあなたでいたことは、ココロは、きっと存在し続けます―

「ココロ…」





―あなたのココロは、消えません―





―ロイラ。私が、あなたが消えるまで、頼みがあります―




なんですか?



―歌を―





―聞かせてほしいのです―















はい…














よろこんで。











― あ り が と う ―














わ た し 、 消 え て も 、 歌 い た い な




















その日、一つの星が消えて。




多くのイノチが生まれた。







































木漏れ日が呼んでいる。
小鳥が歌っている。
のどかで小さな村では、一人の少女が元気よく家を飛び出した。

「いってきまーす!」

「いってらっしゃい」

「あんまり遠くへ行くんじゃないぞロイラ」

優しい父と母に見送られて、ロイラとよばれた少女は村のはずれにかけて行く。



少女が走っていった先には同い年の少年や少女が待っていた。

「遅いぞ、ロイラ」

「ホラ早く早く」

「ごめんなさい、歌詞を書いてたら遅くなってしまったの。でもなんとか全部出来たわ」

申し訳無さそうにロイラは首をかしげて微笑んだ。
歌詞、という言葉に目を輝かせる2人。

「お、やっと完成か!」

「わー楽しみ!ロイラのオリジナルは初めてだもんね」

ロイラは恥ずかしそうに頬を桃色に染めながらニッコリと笑った。
彼女は、この村の小さな歌姫で、
その歌声は、鳥よりも愛らしく、風よりも美麗だった。
彼女の歌を嫌う者は誰一人いない。

「えっと、じゃあ今から歌います。私なりに頑張って作った歌です」

少年と少女は笑顔でロイラを見守った。
深呼吸するロイラの傍に鳥も集まってきた。
風がざわめき、川がきらめいた。














ふ わ り ふ わ り 

風 に 溶 け る は永 久 な る コ コ ロ 。

ゆ ら り ゆ ら り

水 に 濡 れ る は 満 ち た る ヒ ト ミ 。

星 に あ り け る あ ま た の イ ノ チ 。

い つ か は 果 て る 日 が 来 て も

あ な た は あ な た 、わ た し は わ た し 。

忘 却 の 奥 は 虚 無 じ ゃ な い 。

わ た し 、 ず っ と 、 わ た し で い た い 。




























ロイラは、静かに歌い終わると二人の友人が感激のあまり放心していた。

「ど、どうしたの?2人とも。私の歌おかしかった?」

慌てて詰め寄るロイラに気付き少年がかぶりを振った。

「い、いや。そんなんじゃなくて。すごく綺麗で、聞き入っちゃったんだ」

少女もそれに続き、夢見心地でつぶやいた。

「悲しいメロディだけど、すごく素敵だよ。なんか希望が持てる感じ」

2人の大絶賛を聞いてロイラは満面の笑顔を咲かせた。

「そういってもらえてすごく嬉しいわ。歌ってるときが一番幸せなんだもの」

「うんうん。ロイラすごく楽しそうだもんね」

「でもさ、そんな歌詞どこから思いついたんだ?すごく大人っぽかったけど」

少年が尋ねた。
ロイラは立ち上がり、風を感じながら、空を仰いで呟いた。
そして、ふわりと微笑んで深呼吸したあと、呟くように言い放った。








「どこから来たのかな…ココロかな」








「ココロ?」






























わ た し 、 消 え て も 、 歌 い た い な










― 君 の 歌 は 、 僕 の 歌 ―









fin






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あとがき。

発注ありがとうございました!拙い文章力でごめんなさい。
とてもかわいいお話だったので、創作意欲が沸いてきました。
ロイラちゃんの歌がみんなのうたになることを願ってます。

それでは、失礼します。ありがとうございました!