<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


乗用獣免許を取ろう! 〜乗用獣探索編〜


『免許、取れます』

 その張り紙が貼り出されたのは、二日前のことだった。
 免許。それが必要になる時。それは、何かを運転しようとする時。
 もちろん、ここエルザードでもそれは変わらない。
 ただし、この場合は乗用獣。乗り物用の獣である。
 最終的にはエルザード城で、免許が交付される。
 しかし、独学で免許を取るのは難しい。そこで、このような学校が設立されたのだった。
「免許、か……」
 ルディアは、乗用獣にまたがる自らの姿を、夢見がちに想像していた。
 そのとき、ふと太い声が響きわたる。
「免許の受付、お願いしますですよ!」 
 筋骨たくましい熊のような大男が、暑苦しい笑顔を浮かべていた。
 乗用獣学校校長、バルクスその人であった。


■1・C それぞれの思い


 船は、波をわって進む。
 すでに高く昇った太陽は、じりじりと照りつけ、灼熱の光を投げかけていた。
 船のへさきに、一人の男が腕を組み佇んでいた。
 潮風が、男の赤髪をはためかせる。つんとした磯の香りが鼻腔をくすぐる。
 ガロード・エクスボルグ。海賊船、『ブルーフォビドゥン』のキャプテンである。がっしりとした体躯に、肩
まである長い赤髪。海上生活で、肌は浅黒く焼けていた。
 ガロードは海を見つめていた。とそこへ。
「あ〜〜〜にきぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!!」
 頭にバンダナを巻いた一人の小男が、ガロードに駆け寄る。
 手には、何かの広告がしっかりと握りしめられていた。
「なんだよ、そうぞうしいな」
「アニキ、これ見てくれよ!」
 子分は息を切らして、ガロードに広告を見せる。
「ん?」
 ガロードは男から、薄汚いそれを受け取り、読み始める。
 そこには、こう書かれていた。

『免許、取れます』

○○ようこそ、バルクス乗用獣学校へ!○○


どこまでも続く道を自由に走る。
始めてみる景色。初めて感じる空気。人や自然との出会い。
無限に広がるあなたの可能性。
さあ、始めましょう。免許を取って夢をその手に!

当学校は、常時優秀な教官を取り揃えており、指名も可能。安心コースなどパックも充実!
確実な免許取得をサポートします!

●第一種乗用獣免許 ●第二種乗用獣免許 ●大型乗用獣免許 その他ご相談ください。

○○私達は、あなたの夢のお手伝いをします○○


                       バルクス乗用獣学校 (認可000011号)

「免許……か」
 ガロードは興味深げに、広告を眺める。
「ほらっ! アニキィ、あいつを陸の移動手段になんて、どうでやすか?!」
 子分はぴっと人差し指を立てる。
「そうだな」
 ガロードの脳裏に、檻に入った巨大な魔狼の姿が浮かぶ。四本の尻尾が、怪しくうごめく。
 ガロードはしばらく考え込んでいたようだったが、やがて。
「いつまでも檻の中じゃ、もったいないからな」
 にやりと微笑んだ。
「でしょうっ!? アニキィっ!」
 子分はぐっと親指を立てる。
「やっぱ、陸ではへなちょこになるっていうのあれだしへぶるわっ!?」
 次の瞬間、子分の体はきれいな軌跡を描いて吹っ飛んだ。

 ちゅどごぉぉぉぉむっ!!

 けたたましい爆音と共に、子分の体が床にめり込む。
「この俺様にむかって、へなちょことはなんだーーーー!!?」
 ガロードの拳はぷるぷると震えていた。ひくひくと頬がひきつっている。
「ずっ……ずみまぜ……せんちょ……がくっ」
 子分はその言葉をつぶやくと、意識を失った。
「ちくしょうみんな、俺のことをバカにしやがって……」
 ガロードは、空を見上げる。
「情けないのは陸の上からじゃーーーーーー!!!!」
 ガロードの声が、こだました。


■2・とりあえず全員集合


「わっはっはっはっは! 皆さんようこそ、わがバルクス乗用獣学校へですよ!!」
 ある晴れた午後の日。降り注ぐ陽光のもと、突如あたりに響きわたる野太い声。
 そこには、ムキムキマッチョな大男が、腰に手を当て暑苦しい高笑いをあげていた。彼の背後には巨大な建物
がそびえ立ち、入り口に掲げられた看板が堂々とした輝きを放っている。
 バルクス。この学校の校長であり、なおかつ現役の教官である。バルクスの横には、三つ首の黒き魔犬が控え
ていた。魔犬はぺこり、と頭をたれると、ゆっくりと口を開く。
「皆さんここに集まっていただいた目的はただひとつ! 免許の取得? だと思いま〜〜〜す♪」
 それぞれ言葉のニュアンスが違うのは、三つの頭が一斉にしゃべったためである。最初は頬に刀傷のある犬首、
二つ目は自身のなさそうな犬首、そして最後がやけに明るい犬首であった。しかし、意外なことに言葉は一つに
まとまっていた。
「そうですねーその通りですねー」
 うんうんとバルクスは、満足げに微笑む。
「私はですね、過去に獣で友人をなくしましたのですね。ですから、皆さんには安全な獣の扱い方を学んでもら
おうと思ってこの学校を創設したわけなのですよ」
 バルクスはどこか遠くを見つめて語った。
 だが。
「きゃあ〜〜〜あの子なんて可愛らしいのかしら!」
 少女は柵から身を乗り出し、無邪気に獣を指さす。淡い紅の髪をふたつにわけ、リボンで結んでいる。黒のド
レスが風にひらひらと舞う。
「ええ、本当に、かわいいですね」
 そんな少女をみつめ、にっこりと微笑む眼鏡の少年。長い青髪を首の後ろでまとめ、ゆったりとしたローブを
着込んでいる。
 カミラ・ムーンブラッドとアイラス・サーリアスであった。
「私、最初はオオグモに乗れたら格好よいと思ったのだけど……」
「へえ、オオグモですか」
 カミラはうなずく。
「でもね、ちょっと無理があるかもしれないし……ほら、体重的に」
 ぽっとカミラの頬が赤く染まる。
「そうなんですか? そんなことないと思いますよ?」
 優しくアイラスは、カミラを見つめる。するとカミラの目が輝いた。
「ほんとに? ほんとにそう思う?」
「ええ、もちろんですよ」
 カミラの表情に笑顔が生まれる。
「私ね、ペガサスもいいかなと思っているの」
「へぇ〜、僕は一般的な獣に乗りたいと思っていますね」
 そういうと、アイラスはぴっと人差し指を立てた。
「そうですね、やはり『馬』が一般的なのでしょうか?」
 とそのとき、柵の向こう側から叫び声が聞こえてきた。
「うぉぉぉぉ! 食い物だ!」
「やめろ雲緑ーーーーー!?」
「ゴケーーーーーっ!?」
 東洋的な衣装に身を包んだ人物が、巨大な鳥を追い掛け回している。腰まである青い髪が風に揺れる。その人
物の後を追うように、眼帯をした長身の男が息を切らしながら走っている。
 雲緑・ザンリューハとテオ・ヴィンフリート。
「だってこれは食い物以外の何者でもないではないか!」
 雲緑は不満げに鳥を指さす。
「それは乗用獣といって、乗り物用なんだっ!!」
 テオは必死で説明した。
「ゴケーーーーーーっ!?」
 鳥が奇声を上げる。いつのまにか鳥の足に雲緑がかじりついていた。テオは、うっとうめき胃を押さえた。
「って、みなしゃん人の話を聞くですよーーーーーー!!!?」
 ぐはぁっとバルクスはうめいた。誰もバルクスの話など聞いてはいなかった。
 と。
「うわっはっはっはっはっはっは!! バルクスーーーー!! 俺様と勝負だーー!!」
「おうおう、やっぱ親父たる者その信念と極意、真髄にかけてもここぁいっちょ人生数千年、このオーマ先生が
参加しねぇわけにはいかねえよなぁ?」
 びしぃっ! とバルクスを指さす赤髪の男。そして派手な着流しを粋に着こなした長身、眼鏡の男。
 ガロード・エクスボルグとオーマ・シュヴァルツである。
 ガロードとオーマは突然上半身裸になると、バルクスに筋肉勝負を挑んだ。
「おらおらーーー!! バルクスこれでどうだーーー!!」
「どうだ? バルクスさんよぉ。ちったぁお前さんもその筋肉みせかけじゃねえってことを見せたらどうなんだ
よ?」
 引き締まった筋肉、浅黒く焼けた肌、無駄のない体つき。ガロードとオーマはこれでもかっとばかりにバルク
スに自慢の肉体をみせつける。
 だがしかし。
 むきむきむきっ!! ぴくぴくぴくっ!! びくんびくんびくんっ!!
「をおおををををを!!?」
 次の瞬間、二人はきれいな軌跡を描いて宙を舞っていた。
 上半身裸になったバルクスの超筋肉オーラに、吹っ飛ばされたのであった。
 オーマの赤いふんどしが、ひらひらと優雅にたなびく。
 そして。
 ちゅどごぉぉぉぉむっ!!
 けたたましい轟音と共に、二人は地面に激突した。
「お、漢だ……」
 オーマは、ぐっと親指を立てるとぱたりと倒れた。
 一方、ガロードは。
「うをををを!?」
「おお、美味そうな食い物だっ!!」
「やめろーーー雲緑ーーーーそいつは人間だーーーー!!」
 雲緑によって背後から羽交い絞めにされていた。
「っだ……」
 ひくり、とガロードの頬がひきつる。
「だから陸に上がるのはイヤなんじゃーーーーーーーーーっ!!? いへぁぁぁぁっっ……!?」
 ガロードの声がこだました。
「はいはーい、一段落着いたところで説明しま〜す」
 何事もなかったかのように、ケルベロス(温和)が話し出す。
「まず、てめぇらにはそれぞれの用途にあった獣を調達してきてもらうんじゃっ!」
 ケルベロス(つよがり)が叫ぶ。
「教習所の獣は使わないの?」
 カミラが尋ねる。
「あ、あの……ですね……教習所の獣は練習用なんです……。免許を取る皆さんには基本的に調達してきてもら
うんです……ああの、すみません……」
 ケルベロス(おくびょう)がびくびくと答える。
「そうそう、獣は生き物! 何よりも心の交流が一番大事ですよ!! 獣に乗るのは皆さんでしょう!? なら
ばその獣と親しくなることが何より重要なのですよ!」
 バルクスがにかっと暑苦しい笑みを浮かべる。
「ということで、まず先に皆さんには乗用獣を探してきてもらいます。獣の種類によって免許が変わりますから
注意してください。まあ、心に決めたものがあるならかまいませんけどね」
 にっこりと温和なケルベロスが微笑む。
「そういうことで、さあいきますですよっ!!」
 こうして、乗用獣探索が始まったのだった。


■3・C 獣を探して  


 船底は、ひんやりとした空気で満たされていた。じめじめとして薄暗く、明かりは天井からぶら下げられた裸
電球のみであった。じじっとくぐもった音を出し、弱々しい光が明滅する。
 ガロードは、檻の前に一人佇んでいた。明かりが、ぼんやりと中のものを浮かび上がる。
 それは、巨大な魔狼であった。黒々とした毛並みはあでやかで美しい。四本の尻尾がそれぞれ独立した意思を
持つかのように、うねりをみせる。血の赤を思わせる真紅の瞳は、怪しく輝いていた。
「ミストガング……」
 ガロードは、つぶやく。

 ぐおおおおおお……。

 ガロードに答えるかのように、獣も声を上げる。
「いま、だしてやっからな……」
 ガロードは、ポケットをまさぐる。だが、ない。
「おろっ……?」
 もう一度、ポケットの中をまさぐる。ポケットの中身をすべて出す。飴玉、ナイフ、虫の抜け殻、貝殻、宝石
……。一体その小さなポケットにどれだけ入っていたんだというくらいいろんなものがでてくる。辺りは、ガラ
クタでいっぱいだった。だが、肝心なものはみつからない。
 何度やっても結果は同じだ。ガロードは、さらに範囲を拡大し、そこらじゅうを引っ掻き回して探す。だが、
やはり鍵は見つからない。
「ぬおぅっ!? なんでみつからないんじゃーーーっ!?」
 ガロードは、頭を抱えた。檻は頑丈で、太い鉄の棒が何本も組み合わさっていた。ちょっとやそっとでは壊す
ことはできない。だが、本気を出せばどうにかなるかもしれない。
「いっちょ、やってみるか……」
 ガロードは親指の腹で、鼻をこする。にやりとした笑みがうかぶ。
「ふんぬっ!」
 ガロードは、それぞれ檻の両端を掴み、思い切り叫んだ。
「ぬ、おおおおおををををををををを!!!!」
 最初、それはびくともしなかった。だが、少しずつではあるが、鉄の棒がゆっくりとたわんできたのだ。
「ぐははははははは俺様の力を思い知ったかーっ!!」
 いつのまにかガロードは、上半身裸になっていた。凄まじく隆起した筋肉が衣服を引き裂いたのだ。厚い胸板
は汗で、てらてらと輝いていた。
「うぉりゃぁぁぁ!!」
 そして、ガロードは最後の気合を込めて、力を振り絞った。
 その瞬間。

 ばきばきばきばきぃっ!!!

 檻はけたたましい轟音と共に崩れ去った。もうもうと煙が立ち込め辺りは何も見えない。
「うっぷっ!」
 ガロードは思わず目をつぶった。しばらくたち、ゆっくり目を開ける。するとそこには、雄々しい魔狼がたた
ずんでいた。
「ミストガング、こいっ!」
 ガロードは叫ぶ。だが、獣は近づかない。警戒しているのだ。
 ガロードはもう一度叫ぶ。
「こいっミストガング!! 俺はお前の主人だ!!」
 ガロードは、ぐっと親指を立てた。
 獣は警戒を解いたのか、ゆっくりとガロードに近づく。そしてぺろぺろとその顔をなめ始めた。
「はははははははははは!!」
 ガロードは、魔狼の背に乗る。魔狼は、走り始めた。その姿は、風のように俊敏だった。ふたりは、やがてひ
とつになった。


■5・c 教習のお知らせ 


 後日。ガロードのもとに手紙が届いた。

 ○○ガロード様○○
 
 次回の教習のお知らせ

 教習生の皆さんこんにちは。獣を手に入れたその後、いかがお過ごしでしょうか? さてガロード様には次回
からさっそく教習に入っていただきます。しっかり勉強して、楽しい獣ライフをすごしましょう!


                                         バルクス


 ガロードは手紙を読み終えると、魔狼の頭を優しく撫でた。

 ―さあ、行くぞミストガング!

 ガロードはさっそうと魔狼の背に飛び乗り、遠くを指さした。だが。
「にゅぉぉぉぉおおぅっ!??」
 
 どぐしゃぁぁぁぁん!!

 突然暴れだした魔狼に振り飛ばされ、ガロードは露天を破壊した。
「きゃああぁ!? ちょっとあんた!! なんてことしてくれるんだよ!! 弁償しな!」
 陸の上では、神はガロードを見放したのかもしれない。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1889/テオ・ヴィンフリート/男/40歳/封印師】
【1888/雲緑・ザヴェリューハ/女/789歳/封印師】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2091/ガロード・エクスボルグ/男/26歳/海賊:キャプテン】
【1988/カミラ・ムーンブラッド/女/18歳/なんでも屋/ゴーレム技師】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/フィズィクル・アディプト】


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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。また小文字が入っ
ているものは、同じ展開で、ちょっとアレンジが加えてある場合を指します。

 この文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。もし機会がありましたら、他の参加者の
方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。また今回の参加者一覧は、受注順に掲
載いたしました。

 大変お待たせいたしました。免許シリーズ第一弾をやっと皆様のお手元にお届けすることができました。
なんだか、早めに頑張ろう計画とかいってたわりにはまたぎりぎりです。すみません。
 そのぶん、個別を多くしてみたりと、かなり頑張ってみたのですが、いかがでしょうか? 楽しんでいただけ
れば幸いです。

 第二弾の予定(教習編)はまだ未定ですが、6月末〜7月には出したいと思います。そのときにまた皆様にお会い
できることを楽しみにしております。もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコ
ン、もしくはショップのHPに、ご意見お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。 


ガロード様>はじめまして。依頼のご参加ありがとうございます。なんだかものすごく熱いキャラクターで、書
いていてとても楽しかったです。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。