<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


乗用獣免許を取ろう! 〜乗用獣探索編〜


『免許、取れます』

 その張り紙が貼り出されたのは、二日前のことだった。
 免許。それが必要になる時。それは、何かを運転しようとする時。
 もちろん、ここエルザードでもそれは変わらない。
 ただし、この場合は乗用獣。乗り物用の獣である。
 最終的にはエルザード城で、免許が交付される。
 しかし、独学で免許を取るのは難しい。そこで、このような学校が設立されたのだった。
「免許、か……」
 ルディアは、乗用獣にまたがる自らの姿を、夢見がちに想像していた。
 そのとき、ふと太い声が響きわたる。
「免許の受付、お願いしますですよ!」 
 筋骨たくましい熊のような大男が、暑苦しい笑顔を浮かべていた。
 乗用獣学校校長、バルクスその人であった。


■1・D それぞれの思い


「これって、なにかしら?」
 カミラは壁に貼ってある張り紙を指さし、ルディアに聞いた。
「ああ、それは免許のお知らせですよ〜」
 ルディアはカウンターの向こうでにこにこと微笑んだ。
 白山羊亭。そこは聖都エルザード内にあるアルマ通りの酒場である。香辛料の聞いた食事と豊富な種類の酒が
が売り物で、夜ともなるといつも大勢の人でにぎわう。がははという笑い声や、楽しそうな会話。だが昼間はさ
すがに閑散としていた。目立たない隅の小さな卓で、数人が食事を楽しむばかりであった。
「めんきょ? めんきょって?」
「うーん、免許とはですねぇ、獣に乗るための免許らしいですよー」
 ルディアはう〜んと眉間にしわを寄せる。そして、しゃがむとなにやらごそごそと探し始めた。
 カミラはそのあいだ、ゆっくりと店内を散策する。壁には様々な装飾が施されていた。遠い異国の鮮やかなタ
ペストリー、細やかな細工が施されたはと時計、そして銀の縁取りがなされた巨大な鏡。
 そこに、ふとカミラの姿が映る。肌が、ぬけるように白い。淡い紅の髪は高い位置でふたつに結ばれ、リボン
がそれを彩どる。瞳は大きく黒くぬれて光っていた。唇はかすかに朱を帯びている。
 カミラ・ムーンブラッド。何でも屋でありゴーレム技師という風変わりな少女であった。カミラは何か仕事が
ないかとたまたまここに顔を出したのだった。
「あったあった、ありましたですよぅ〜!」
 ルディアが、声を上げる。
 カミラはカウンターへと戻る。大きく肩口の開いた漆黒のドレスが、ひらりと舞う。
 そこには薄い本が置かれていた。
「これって……?」
「えっへへ、教習所のパンフレットです♪」
 そういってルディアはにっこりと微笑んだ。カミラはぺらぺらとページをめくる。
「バルクス乗用獣学校……」
 そこには、こう書かれていた。


○○ようこそ、バルクス乗用獣学校へ!○○


どこまでも続く道を自由に走る。
始めてみる景色。初めて感じる空気。人や自然との出会い。
無限に広がるあなたの可能性。
さあ、始めましょう。免許を取って夢をその手に!

当学校は、常時優秀な教官を取り揃えており、指名も可能。安心コースなどパックも充実!
確実な免許取得をサポートします!

●第一種乗用獣免許 ●第二種乗用獣免許 ●大型乗用獣免許 その他ご相談ください。

○○私達は、あなたの夢のお手伝いをします○○


                       バルクス乗用獣学校 (認可000011号)

 気持ちよさそうに、巨大な鳥と草原をかける少女の写真が載っている。カミラはその姿を自分と重ね合わせた。
「乗用獣免許……あったら便利そうよね」
「そうですね〜♪ ルディアもとりたいと思っているのですよ〜」
 ルディアはお皿を拭きながらつぶやいた。
 うんうんとカミラも同意する。
「だって、仕事で出かけるときにいちいち馬車を借りるのは面倒だもの」
 カミラは唇に人差し指を当て、つぶやく。
「カミラさんは、どういう獣に乗りたいんですかぁ?」
「私?」
 ルディアはにっこりとうなずく。
「私はね、大蜘蛛に乗れたらいいなと思っているの♪」
「お、オオグモっ!?」
 ぐはとルディアはうめいた。
「ん〜……でもやっぱり、無理かしら……。無難なところでペガサス辺りが良いかしら。ね?」
「そ、そうですねぃ〜」
「ソーンって変わった生き物がたくさんいるんだもの、きっとどこかで見つかるわよね♪」
 きらきらと目を輝かせるカミラに、それ以上ルディアは何もいえなかった。



■2・とりあえず全員集合


「わっはっはっはっは! 皆さんようこそ、わがバルクス乗用獣学校へですよ!!」
 ある晴れた午後の日。降り注ぐ陽光のもと、突如あたりに響きわたる野太い声。
 そこには、ムキムキマッチョな大男が、腰に手を当て暑苦しい高笑いをあげていた。彼の背後には巨大な建物
がそびえ立ち、入り口に掲げられた看板が堂々とした輝きを放っている。
 バルクス。この学校の校長であり、なおかつ現役の教官である。バルクスの横には、三つ首の黒き魔犬が控え
ていた。魔犬はぺこり、と頭をたれると、ゆっくりと口を開く。
「皆さんここに集まっていただいた目的はただひとつ! 免許の取得? だと思いま〜〜〜す♪」
 それぞれ言葉のニュアンスが違うのは、三つの頭が一斉にしゃべったためである。最初は頬に刀傷のある犬首、
二つ目は自身のなさそうな犬首、そして最後がやけに明るい犬首であった。しかし、意外なことに言葉は一つに
まとまっていた。
「そうですねーその通りですねー」
 うんうんとバルクスは、満足げに微笑む。
「私はですね、過去に獣で友人をなくしましたのですね。ですから、皆さんには安全な獣の扱い方を学んでもら
おうと思ってこの学校を創設したわけなのですよ」
 バルクスはどこか遠くを見つめて語った。
 だが。
「きゃあ〜〜〜あの子なんて可愛らしいのかしら!」
 少女は柵から身を乗り出し、無邪気に獣を指さす。淡い紅の髪をふたつにわけ、リボンで結んでいる。黒のド
レスが風にひらひらと舞う。
「ええ、本当に、かわいいですね」
 そんな少女をみつめ、にっこりと微笑む眼鏡の少年。長い青髪を首の後ろでまとめ、ゆったりとしたローブを
着込んでいる。
 カミラ・ムーンブラッドとアイラス・サーリアスであった。
「私、最初はオオグモに乗れたら格好よいと思ったのだけど……」
「へえ、オオグモですか」
 カミラはうなずく。
「でもね、ちょっと無理があるかもしれないし……ほら、体重的に」
 ぽっとカミラの頬が赤く染まる。
「そうなんですか? そんなことないと思いますよ?」
 優しくアイラスは、カミラを見つめる。するとカミラの目が輝いた。
「ほんとに? ほんとにそう思う?」
「ええ、もちろんですよ」
 カミラの表情に笑顔が生まれる。
「私ね、ペガサスもいいかなと思っているの」
「へぇ〜、僕は一般的な獣に乗りたいと思っていますね」
 そういうと、アイラスはぴっと人差し指を立てた。
「そうですね、やはり『馬』が一般的なのでしょうか?」
 とそのとき、柵の向こう側から叫び声が聞こえてきた。
「うぉぉぉぉ! 食い物だ!」
「やめろ雲緑ーーーーー!?」
「ゴケーーーーーっ!?」
 東洋的な衣装に身を包んだ人物が、巨大な鳥を追い掛け回している。腰まである青い髪が風に揺れる。その人
物の後を追うように、眼帯をした長身の男が息を切らしながら走っている。
 雲緑・ザンリューハとテオ・ヴィンフリート。
「だってこれは食い物以外の何者でもないではないか!」
 雲緑は不満げに鳥を指さす。
「それは乗用獣といって、乗り物用なんだっ!!」
 テオは必死で説明した。
「ゴケーーーーーーっ!?」
 鳥が奇声を上げる。いつのまにか鳥の足に雲緑がかじりついていた。テオは、うっとうめき胃を押さえた。
「って、みなしゃん人の話を聞くですよーーーーーー!!!?」
 ぐはぁっとバルクスはうめいた。誰もバルクスの話など聞いてはいなかった。
 と。
「うわっはっはっはっはっはっは!! バルクスーーーー!! 俺様と勝負だーー!!」
「おうおう、やっぱ親父たる者その信念と極意、真髄にかけてもここぁいっちょ人生数千年、このオーマ先生が
参加しねぇわけにはいかねえよなぁ?」
 びしぃっ! とバルクスを指さす赤髪の男。そして派手な着流しを粋に着こなした長身、眼鏡の男。
 ガロード・エクスボルグとオーマ・シュヴァルツである。
 ガロードとオーマは突然上半身裸になると、バルクスに筋肉勝負を挑んだ。
「おらおらーーー!! バルクスこれでどうだーーー!!」
「どうだ? バルクスさんよぉ。ちったぁお前さんもその筋肉みせかけじゃねえってことを見せたらどうなんだ
よ?」
 引き締まった筋肉、浅黒く焼けた肌、無駄のない体つき。ガロードとオーマはこれでもかっとばかりにバルク
スに自慢の肉体をみせつける。
 だがしかし。
 むきむきむきっ!! ぴくぴくぴくっ!! びくんびくんびくんっ!!
「をおおををををを!!?」
 次の瞬間、二人はきれいな軌跡を描いて宙を舞っていた。
 上半身裸になったバルクスの超筋肉オーラに、吹っ飛ばされたのであった。
 オーマの赤いふんどしが、ひらひらと優雅にたなびく。
 そして。
 ちゅどごぉぉぉぉむっ!!
 けたたましい轟音と共に、二人は地面に激突した。
「お、漢だ……」
 オーマは、ぐっと親指を立てるとぱたりと倒れた。
 一方、ガロードは。
「うをををを!?」
「おお、美味そうな食い物だっ!!」
「やめろーーー雲緑ーーーーそいつは人間だーーーー!!」
 雲緑によって背後から羽交い絞めにされていた。
「っだ……」
 ひくり、とガロードの頬がひきつる。
「だから陸に上がるのはイヤなんじゃーーーーーーーーーっ!!? いへぁぁぁぁっっ……!?」
 ガロードの声がこだました。
「はいはーい、一段落着いたところで説明しま〜す」
 何事もなかったかのように、ケルベロス(温和)が話し出す。
「まず、てめぇらにはそれぞれの用途にあった獣を調達してきてもらうんじゃっ!」
 ケルベロス(つよがり)が叫ぶ。
「教習所の獣は使わないの?」
 カミラが尋ねる。
「あ、あの……ですね……教習所の獣は練習用なんです……。免許を取る皆さんには基本的に調達してきてもら
うんです……ああの、すみません……」
 ケルベロス(おくびょう)がびくびくと答える。
「そうそう、獣は生き物! 何よりも心の交流が一番大事ですよ!! 獣に乗るのは皆さんでしょう!? なら
ばその獣と親しくなることが何より重要なのですよ!」
 バルクスがにかっと暑苦しい笑みを浮かべる。
「ということで、まず先に皆さんには乗用獣を探してきてもらいます。獣の種類によって免許が変わりますから
注意してください。まあ、心に決めたものがあるならかまいませんけどね」
 にっこりと温和なケルベロスが微笑む。
「そういうことで、さあいきますですよっ!!」
 こうして、乗用獣探索が始まったのだった。


■3・C 獣を探して



 道は、頑強な石造りの建物のあいだを縫うようにして続いていた。道の両脇には多くの店が軒を連ねており、
活気に満ちている。それは切り妻屋根の店から、露天、果ては老婆が地面に布を広げただけと様々であった。肉
を焼いた香ばしい香り、普段使う日用品、旅の道具、怪しげな薬草、宝石……。ありとあらゆるものが堂々と売
られている。太陽はやや傾いてはいたが、強い日差しを投げかけていた。
「あっつーい……」
 カミラは、日を避けるように手をかざした。
「大丈夫ですか? カミラさん」 
 アイラスは心配そうにカミラを見やる。
「わっはっはっは!! その程度で根をあげていちゃ何もみつからないですよ!!」
 バルクスは、熊のような体を揺すり、叫んだ。
 3人は、アルマ通りをゆっくりと進んでいた。時折、風がふわりと頬を撫でていく。
「あのー、バルクスさん……」
 ふとアイラスが口を開く。
「ん、なんですよ?」
 バルクスはゆったり歩きながら、返事をする。
「一般的な獣といったら、普通は何を指すんでしょうか?」
「あ、私もそれ聞きたいわ」
 カミラが小さく手を上げる。
「う〜ん……」
 バルクスは両腕を組み、しばらく考え込む。だがやがて、2人の方に向き直るとあふれんばかりの笑顔でこう
いった。
「それはやっぱり『ドラゴン』ですな!」
「えぇぇぇぇぇ!!!!?」
 二人は大声を上げた。
「ど、どらごん!?」
「どらごんて!?」
「何かの聞き間違いじゃないですか?!」
「もしくは言い間違いかも?!」
 二人は激しく動揺する。だが、バルクスは相変わらず暑苦しい笑顔を浮かべたままだ。
「……」
「……」
「……」
 三人のあいだに、気まずい沈黙が流れる。
「ぼ、僕……そんなたいそうなものじゃなくてもいいんです……」
 沈黙を打ち破るかのように、アイラスは、遠慮がちにちらりとバルクスを見た。
 が。
「何を言うんですよ!!!? この世で一番ポピュラーな獣といえばドラゴン!! 当たり前ですよ! 普通で
すよ! さあ、れつごーれつごーー!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 やけにテンションの高いバルクスに、アイラスはずるずると引きずられていった。
「…………」
 カミラはしばらく遠い目をしていた。だがやがて、無言で後に続いた。
    

■4・A ついた店は 


 表通りから一歩はなれたうらぶれた路地。その路地を更に奥に進んだところにそれはあった。
「さっ、ここですよ!」
「こ、ここ……??」
 二人は思わず声を合わせた。
 その店は、怪しげな雰囲気満載であった。からまったツタ、散乱したゴミ。見上げた先には、『けものや』と
いう看板があったが長い年月のせいか、ぼろぼろに腐っていた。
 入り口は錆びた扉があったが、鍵がかかっていないのか自由に出入りできるようになっていた。ときおり、奥
の方からぎゃあぎゃあという奇声が聞こえてくる。
「な、なんか……すごいところですね……」
「そ、そうね……」
 二人のこめかみから、たらりと一筋汗が流れる。と。
「私はここで待ってますから、好きな獣を選んできてくださいねー」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「なんで、こないんですか!!?」
 予想外の発言に、二人は猛烈に抗議する。だがバルクスはにっこりと微笑むと、無言で二人を突き飛ばした。
「ををををを!?」
 ふらふらとバランスを崩し、店の敷地内に入ったその瞬間。
 
 がっしゃーーーーんっ!
 
「!!?」
 扉が無情にも閉ざされたのだった。
「いい獣、みつかることをいのってますですよー♪」
 バルクスは手を振りにこにこと微笑んだ。
「うそ……」
「なんで……」
 カミラとアイラスは呆然とその場に立ち尽くした。

* * *

「とととりあえず、お互いに探しましょうか」
 ずれた眼鏡を直しながら、アイラスがつぶやく。
「そうね……そうよね……」
 カミラもつぶやいたが、その声は怒りに震えていた。ごごごという音がどこからか聞こえてきそうなほどの、
その気迫にアイラスは一瞬びくつく。
「じゃあ、それぞれ好きな獣を探し、その後ここでまた落ち合いましょう。いいですね?」
「ええ……」
 すでにカミラの背後には青い炎が立ち上っているようだった。
「……」
「……」
 気まずい沈黙が続く。しかしその沈黙を打ち破ったのはアイラスであった。
「で、ではまた! いい獣が見つかりますように!」
 そして、アイラスとカミラはその場を後にした。

* * *

「もうっ! なんなのよっ一体!」
 カミラは、ぷうと頬を膨らませた。
 彼女は、さまよっていた。
 店の中は、あまりにも広すぎた。そのあいだ、奇声を上げる鳥、石を投げてくる猿、歯の抜けた狼を見ていた
が、どれもぴんとこなかった。
「……どれもこれも、私の求めている獣じゃないわ!」
 カミラは、腕を組みながら、ふと顔を背ける。と。
『ぺがさす』
 と書かれた看板が、そこにはあった。
 だがそれは、あまりにもへたくそな字で書かれており、とてつもなく怪しい雰囲気を放っている。
「ぺがさす……」
 カミラのこめかみから、つうと一筋、汗が流れる。
「な、なんだかとっても怪しいけれど……」
 だが、カミラは真ちゅうのノブを握り、ゆっくりと扉を押し開けた。

 ぎぎぎぎぃ……。

 扉は鈍い音をたててゆっくりと開く。そこには。

ぶひひひひぃ〜〜〜んっ!

「えぇぇぇぇぇぇ!?」
 カミラは大声を上げた。そこには、明らかにロバとおぼしき獣に、はりぼての羽をつけた奇妙な生き物がいた。
「………………」
 カミラはしばらくその場に立ち尽くし、遠い目をする。
(これが……? これがペガサス……? 私の思っているペガサス……? ちがうわっ!!)
 自称『ぺがさす』達は、そのあいだカミラのドレスをひっぱったり、髪の毛を食べたり、やりたい放題である。
「……ちょっーーーとやめなさーーーーい!」
 カミラは、かあっ!! と一喝する。その瞬間、びびくっと『ぺがさす』達は動きを止める。
「ぜぇ……ぜぇ……」
 カミラは肩で息をしていた。きらり、とカミラの目が鋭く光る。
「……ふんっ!」
 カミラはくるりときびすを返すと、その場を後にした。

* * *

「まったく……近場で探そうとしたから、だめなのよ……」
 帰り道、カミラはぶつぶつと文句を言っていた。
 あれからカミラは、牧場に来ていた。多くの馬達が、風を切って草原を走りぬける。馬達は、陽光に照らされ
てきらきらと輝いた。
「うわぁ……」
 思わず見とれる。
「あっ……!?」
 ちらり、と一瞬黒い馬が見えたような気がした。カミラは思わず柵にもたれかかる。
 もしかしたら。そんな思いがカミラの胸を満たしていた。と、そこに。
「お嬢さん、どうかしましたかな?」
 突然、空から声が降ってくる。
「えっ……あっ……?」
 カミラは慌てて振り返る。
 そこには、穏やかな表情をした老人がいた。まっしろなヒゲに、オーバーオール。その姿は、どこか親しみを
感じさせた。
「そんなに慌てて、何かお探し物かね?」
 老人はカミラの横でつぶやく。
「ええ……その、あの……今黒い馬を見かけたんです」
「くろいうま?」
 老人の目が、一瞬大きくなる。
「ええ、黒い馬……しりません?」
 カミラは必死に尋ねる。
「ふむ」
 老人は、しばらく考え込んでいたようだったがやがて、ゆっくりと口を開いた。
「もしかしたら、おまえさんならやれるかもしれん」
「え?」
 そして老人は語り始めた。その黒い馬は、伝説の馬であるということを。姿を見ることさえ困難を極め、まし
てや乗ることなど不可能に近い。そんな馬であると。
「お前さんにそいつが見えたとしたら……もしかしたら、あんた呼ばれていたのかもしれないな」
 老人は、ふと遠くを見つめる。そこには巨大な風車塔がそびえたっていた。
「きなさい」
 老人に促されるままに、カミラは後についていった。


 夜。月はもう高くまで上り、優しい光をあたりに投げかけている。カミラは一人、風車塔の頂上にいた。
 老人の言葉が脳裏によみがえる。
「いいかね? 思いを強く念じるのじゃ。そして、このえさを投げてみぃ。もし気に入られれば、その獣はあん
たのものじゃ」
 ふと、言葉が途切れる。
「だが、もし失敗したら。お前さんは命をなくすかもしれん。それでもいいのかね?」
 いいと、カミラはうなずいていた。
 風が出てきた。カミラはゆっくりと目を閉じると、獣に向かって呼びかけた。
 ふわり。辺りの空気が変わる。何かが、目の前にいる。
 カミラはゆっくりと目を開ける。するとそこには、黒々とした雄雄しい馬が、巨大な翼をはためかせて彼女の
前に姿を現していた。
「あ……あなたは……?」
 ペガサスは、ゆっくりとうなずくと、カミラの手からえさを食べる。カミラは一瞬驚いたようであったが、や
がてその表情が笑顔に変わる。
「ほんとに……ホンモノなのね……?!」
 カミラは、ペガサスの首に抱きついた。


■5・e 教習のお知らせ 


 後日。カミラのもとに手紙が届いた。

○○カミラ様○○
 
 次回の教習のお知らせ

 教習生の皆さんこんにちは。獣を手に入れたその後、いかがお過ごしでしょうか? さてカミラ様には次回か
らさっそく教習に入っていただきます。しっかり勉強して、楽しい獣ライフをすごしましょう!


                                         バルクス


 カミラは手紙を読み終えると、にっこりと微笑む。

 ―もちろん、頑張りますわ。

「ねぇ、シェアト」
 カミラは外に呼びかける。窓からひょこりと黒い馬が顔を覗かせる。カミラは近寄り、やさしくシェアトの鼻
面を撫でた。ペガサスは気持ちよさそうに、その羽を大きく羽ばたかせた。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【1889/テオ・ヴィンフリート/男/40歳/封印師】
【1888/雲緑・ザヴェリューハ/女/789歳/封印師】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2091/ガロード・エクスボルグ/男/26歳/海賊:キャプテン】
【1988/カミラ・ムーンブラッド/女/18歳/なんでも屋/ゴーレム技師】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/フィズィクル・アディプト】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。また小文字が入っ
ているものは、同じ展開で、ちょっとアレンジが加えてある場合を指します。

 この文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。もし機会がありましたら、他の参加者の
方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。また今回の参加者一覧は、受注順に掲
載いたしました。

 大変お待たせいたしました。免許シリーズ第一弾をやっと皆様のお手元にお届けすることができました。
なんだか、早めに頑張ろう計画とかいってたわりにはまたぎりぎりです。すみません。
 そのぶん、個別を多くしてみたりと、かなり頑張ってみたのですが、いかがでしょうか? 楽しんでいただけ
れば幸いです。

 第二弾の予定(教習編)はまだ未定ですが、6月末〜7月には出したいと思います。そのときにまた皆様にお会い
できることを楽しみにしております。もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコ
ン、もしくはショップのHPに、ご意見お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。 


カミラ様>はじめまして。今回はご参加ありがとうございます。なんだかとんでもない店に連れて行かれてしま
いましたが、カミラ様は危機一髪で脱出となりました。(笑) それではどうもありがとうございました。