<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
オーグウィンタの眠り
■ 眠りの地の話 ■■
其れは、長閑(のどか)な昼下がりに報せられた。
長い廊下の絨毯の上をばたばたと走る足音、次いで聞こえるのは自室の扉が勢い良く開かれる音。
片田舎の貴族の邸宅、其処に住まう老紳士は、座った革張りの椅子の上で小さく溜息を吐いた。
「何だね、騒々しい」
「御主人さま、大変で御座います!オーグウィンタが、オーグウィンタの眠りが──……!」
オーグウィンタ。歳若いメイドが口走る其の言葉に、老紳士は弾かれたように顔を上げた。
豊かな白髭に半分ほど隠れた唇を、薄く動かす。オーグウィンタだと。漏れ出た言葉は、自分でも驚くほど震えていた。
メイドは必死の形相で頷く。顔は歪み、今にも泣き出しそうだった。
「ああ、どうしましょう!あの魔法の眠りが解けてしまったら、この街は──……!」
老紳士はゆっくりと立ち上がると、とうとう泣き出してしまったメイドの肩に手を回し、優しく抱きかかえた。
だが老紳士の顔も、穏やかとは言えない。脂汗を浮かべ、目元は苦痛に歪むように皺が刻み込まれていた。
「落ち着きなさい。まずは、役に立つ傭兵を呼び集めるんだ。そうだな、帝都の酒場辺りに、今すぐ依頼書を回すんだ」
メイドにそう囁きかけると、老紳士は彼女を押し出すように腕を放した。
泣き腫らした瞳を老紳士に向け、彼女は力強く頷く。其の侭、メイドはスカートを翻して廊下を駆け出した。
彼女が行ってしまったのを見送ると、老紳士はそっと立ち上がり、自分の部屋の窓際へと移動する。部屋の中、朝の光が一番に入ってくるようにと作られた東側の大きな窓。
其処から、この館や小さな田舎町を監視するように聳(そび)え立つ、オーグウィンタ城を見つめた。薄暗い靄(もや)が、城を取り囲む茨の森に落ちている。ずっと、眠っていた筈の城。
城が目覚める時は、茨の森に白薔薇が咲く。城が目覚める時は、この小さな街の終わりであろう──
遠い昔に謳われた言葉。思い出して、老紳士はそっと目を伏せる。愛しい人の軽やかな笑い声と、劈(つんざ)くような悲鳴、そして呪いの言葉を紡ぐ声。全てがゆっくりと長い年月を経て、今再び動き出そうとしている。
「……愛しいオーグウィンタ。君は、茨の森と堅い城の中で、永遠に眠っているのでは無かったのか──……?」
■ 老人の話 ■■
茜射す部屋の中、赤銅色に輝く其の場所で、四人の冒険者と一人の老紳士が向かい合ってソファに座っていた。彼らの間の上等なテーブルには、汗をかいたグラスに入ったレモネードが並べられている。其れを手にとって一口嚥下し、老紳士はぽつりぽつりと語り始めた。
「今回お越し頂いたのは、貴方方にオーグウィンタの城を調べて頂きたいからです」
老紳士は目に染みるような夕陽の中、目を細めて自分の背後を見遣る。其処に佇むは、白く霧を被った眠りの城、オーグウィンタ。取り囲む茨の森には、白い薔薇が咲き乱れていた。不吉な薔薇だ。老紳士は小さく呟いて、視線を冒険者達に戻した。
「この地には、魔法が掛かっておりましてな。……いや、呪いと言うべきか……兎に角、悪い物がこの街を覆っておるのです」
白い髭に隠された口が、厳かに言葉を紡ぎ出す。其の言葉を聞いて、レモネードを美味しそうに飲んでいたリラ・サファトは、豊かなライラック色の髪を揺らして小さく首を傾げた。半分ほど中身が減ったグラスが、小さく音を立ててテーブルに置かれる。
「呪い、ですか……?」
老紳士は頷いた。組んでいた指を解き、また組みなおす。
「街を枯らせてしまう呪いです。掛けたのは、昔この街に住んでいた──魔女でした」
魔女、其の言葉を吐き出すとき、何故か老紳士の瞳は細まる。だが其れは一瞬のことで、老紳士は再び厳つい表情に戻った。やや声を厳しくして、小さく咳払いをする。まるで、何かを追い払うように。
冒険者達の顔を一人ずつ眺めながら、老紳士は懇願するように続けた。
「城が目覚める時は、茨の森に白薔薇が咲く。城が目覚める時は、この小さな街の終わりであろう──其れが、魔女の遺した言葉でした」
「……確かに、薔薇が咲いている」
窓の外の城、其れを取り囲む茨の森に白薔薇を認めたセフィラス・ユレーンは、瞳を細めて呟いた。本来なら花など咲くはずも無い茨。其れに薔薇が咲いたとなれば、異変だと判るのは容易だった。
老紳士は頷き返し、小さく溜息をつく。搾り出すように、声がうめいた。
「魔女には封印を施しておりました。彼女の胸に金無垢の剣を突き刺し、銀の台座に射止めて居るのです」
「其れが、解けてしまった……と?」
老紳士の顔を覗き込むようにしながら、アイラス・サーリアスはそう問うた。老紳士は頷く。
「呪いが発動したということは、魔女が目覚めたということ。貴方方は魔女が本当に目覚めたかどうか……其れだけを調べて頂きたい」
老紳士が静かに呟くと、榊 遠夜は訝しげに眉根を寄せた。黒山羊亭で聞き付けた、この依頼。調べて魔女を見つけたのならば、当然討伐するのが筋だ。だが、この老紳士は。
遠夜は老紳士に視線を向け、疑問を塊にして言葉に乗せる。
「討伐ではないんですか?呪いを掛けるほどならば、邪悪な存在なのでしょう」
遠夜の言葉に、老紳士は僅かに視線をずらす。何秒間か答えに迷っているようだったが、やがて其れを導き出したのか、しっかりとした眼差しを遠夜に投げた。其れから、順番に冒険者達にも眼差しを向ける。
「いいや、確認してくれるだけで良い。……恐らく、魔女は君たちに攻撃を仕掛けてくるだろう。だが、其れでも手は出さないでくれ」
しんみりとした言葉が、部屋に落ちて染み込んだ。
■ 茨の森の白薔薇と ■■
「凄い……」
其の一面の光景に思わず感嘆の吐息を漏らしたのは、リラだった。茨の森に咲き乱れる、白い薔薇の群生。今までは硬く道が閉ざされていた、とあの老紳士は言っていたが、今はどうだ。茨は自ら其の身を解き、冒険者達を受け容れるようにして、城までの一本道を作り上げていた。
「……静かだな。どうやら此処はまだ、安全圏のようだ」
これなら茨を斬る必要は無さそうだ。そう判断したセフィラスは、用心にと剣の柄に掛けていた手をぶらりと下ろす。此処は不気味な気配さえ漂うものの、悪しき者の雰囲気や殺意などは、露ほども感じられなかった。
其の傍らで、相変わらずリラは白薔薇を愛でていた。指先で軽く突付き、霧の所為で付いたのあろう露を弾く。
「遠夜さん、見て。綺麗なお花が一杯……」
茨の森を、ふわふわとした足取りで先へと進むリラを見、遠夜は慌てて其の袖を引っ張った。幾ら安全圏だとは言え、此処はもう何が起こるか判らない領域だ。其れにあんな足取りでは、この森で迷子にでも成りかねない。
「危ないよ、リラさん。用心しなくちゃ」
「でも、つい手を伸ばしたくなる気持ち、判ります。綺麗ですから」
兄妹のような微笑ましい姿に小さく笑いを零しながら、アイラスは自分も小さく薔薇を撫でた。指先から伝わる冷たい感覚に、思わず指を引く。其の振動で震える白薔薇は、矢張り野の原に咲く可憐な其れと変わりは無かった。
ただ、茨の森に咲いているというだけで、こんなにも禍々しいものになってしまうのか。其れは其れで、悲しいものかもしれない。セフィラスは小さく溜息を吐き、皆の足取りに合わせてゆっくりと歩き始めた。
■ 螺鈿細工 ■■
城の内部は、まるで誰かが掃除をしたかのように綺麗に磨き上げられていた。床の大理石も、螺旋階段の手摺も、硝子棚に並べられた螺鈿細工の品物も、勿論其の硝子棚も。
試しに、とアイラスは自分の靴の底を大理石の床に擦り付けた。霧の残滓で湿った地面を歩いてきた靴は、僅かに泥がこびり付いている。大理石に付着した泥は、見る間のうちに消えてなくなった。
「魔女の魔法、でしょうか」
アイラスは床の大理石から視線を上げ、正面へと続く大きな階段を見遣った。其の右脇に、長く細く続く階段。螺鈿細工の美しい螺旋階段、其れが老紳士が教えてくれた「魔女の眠る部屋」がある塔に繋がる、唯一の階段だった。
「でも、おかしい。普通、魔法が使えるのならば、万が一の侵入者避けに魔獣とか置いておかないのかな?」
口許に手を遣り、遠夜は僅かに首を傾げた。セフィラスも頷いて同意を示しつつ、周りを見遣る。
「全くだ。……何処か、不自然さを感じる」
遠夜がもう一度口を開きかけた時、だった。かしゃん、と何かが外れる音と、きぃきぃと軋む音がしたのは。
他に侵入者が、とセフィラスと遠夜は身構えたが、彼らの視線の先に居たのは、先程視線に止まった硝子棚の扉を開けているリラだった。否、開けた後と言うべきか。取っ手に手を掛け、硝子棚の扉を大きく開く。そっと、其の中に手を伸ばした。
「……見て、此れ。この螺鈿細工の宝石箱、模様に紛らせて何か文字が掘ってあるの……」
止める間もなく、リラはつい、と螺鈿細工の箱に手を這わせる。何とか読もうとしているようだったが、装飾文字の上に紛らせてあるからだろうか、中々解読できないようだった。
「見せて下さい」
アイラスがリラの方へと駆け寄り、其の宝石箱を持ち上げる。目を細め、鑑定するような視線を其れへと走らせた。
「……愛……する、オーグ……ウィンタ……へ。……そう、読めますね」
「オーグウィンタ、だって?」
セフィラスが顔を歪める。足音高く二人の傍に歩み寄り、宝石箱をアイラスから受け取って眺めた。指し示して貰えれば、自分にも微かに読めた。愛するオーグウィンタへ。確かにそう記されてあった。
同じく近寄ってきた遠夜が、硝子棚の中を覗き込む。螺鈿細工の煙管を一つ手にとって、小さくあ、と声を漏らした。
「これ。此れにも掘ってある……多分、同じ文句かな?」
遠夜は、其の煙管をひょいと掲げた。年代の所為か、少し煤けたように感じられる螺鈿細工の其れを、そっと元の場所に戻す。
アイラスも其れに倣(なら)い、そろりと宝石箱を元在ったであろう場所に戻す。二つの細工が無事収まったのを見て、セフィラスは大きくマントを翻した。
「……行こう。魔女が答えを知っている筈だ」
■ 目覚めたお姫様 ■■
螺旋階段は長く、そして高かった。行き掛けには、こんな高い塔は見えなかった筈だ。そう思うと不思議な現象ではあったが、矢張りこれも魔女の魔法なのであろう。しっかりした造りの階段を踏み締めながら、セフィラスは小さく息を吐いた。
「見えた……最上階だ」
ふと、自分の後ろから声が上がる。其方を見遣ると、遠夜が螺旋階段の空洞になっている部分の上部を指差していた。つられて、其方を見遣る。成る程確かに螺旋階段は終わりを告げて、何処か部屋に入る為の通路が僅かに視界の端に移った。
どくん、と心臓が跳ねるのを感じる。セフィラスは顔を顰めて、左胸の部分を強く押さえた。何て高圧的な魔力。何て強い力。
「……気をつけろ。魔女はきっと目覚めている」
冒険者達は身体を引き摺りながら、最上階へと辿り着いた。真っ白い部屋が、其処にはあった。
壁も床も調度品も、全てが真白い。六角柱の部屋の中、窓が無い其の部屋の真ん中に、銀の台座が安置されていた。
其の上には、豪奢な白いドレスを広げて横たわる、女。手は静かに腹部の上で組まされ、胸には真っ直ぐに、蕩けてしまいそうな金無垢の剣が深々と突き刺さっていた。
此れが、魔女。
「……綺麗」
ぽつりとリラが言葉を漏らす。女──否、少女と呼ぶべき背格好の人物は、其れは其れは綺麗な形(なり)をしていた。流れるような銀の髪に、遠めでも判る少々きつめの造作。
魔女と呼ばれ、今尚人々を恐怖という鉄籠に捉えている人物。
だが其の身体は動かない。冒険者達がそっと近寄り、遠夜が其の頬にほんの少し、手を触れさせる。其れでも、少女は目覚めなかった。
老紳士の思い違いか。そう思いかけた時だった。
『侵入者か……?』
突如、意識の中に直接響くような声が聞こえた。ぼやけるような、霞がかったようなそんな声。其の所為で、元は美しかったのであろう声も、随分と湾曲してしまっていた。もう一度、声が響く。
『忌まわしき者……私の邪魔をするの……?』
「──しまった、精神体です!」
いち早く状況を理解したアイラスが、鋭い声で一声叫ぶ。
冒険者達が素早く飛び退き、少女の身体から距離をとった。部屋全体を揺るがすような、酷い耳鳴りがする。苦しそうな顔をして、リラが床に崩れ落ちた。
ゆらりゆらりと、少女の身体から白い靄のようなものは湧き上がってくる。其れはあっという間に人の形を為し、瞬いた次の瞬間には、目の前で横たわる少女の姿になっていた。
『また、私を殺そうとするのね……』
悲痛な声で、少女はゆっくりと冒険者達の脳内に語り掛ける。彼女がふわりと片手を上げたかと思えば、茨の蔦が自分たちに向かって真っ直ぐに伸びてきていた。
遠夜がリラを庇うように飛び出し、念の込められた符を投擲する。其れが茨の蔦に張り付いたと同時に、霧散するように茨は消えていった。
「気をつけて!此れは魔法……剣の類は効かない!」
「……ならば」
次いで少女が出現させたのは、幾多もの氷の矢。其れに向い、セフィラスが大きく右腕で薙ぐ。瞬間発生した炎の壁に、氷の矢はぼろぼろと溶けていった。
「アイラスさん、リラさんをお願い……!」
鋭い声が飛ぶ。壮絶な魔法に立ち竦んでいたアイラスは、はっとしたように我に返り、遠夜の言葉に小さく頷いた。苦しそうに床にへたり込んだままのリラを抱え、そっと入り口へと後退する。
背後で人が動く気配を確認し、遠夜は懐から一枚の符を取り出した。其れを構えながら、隣で魔法を撃つセフィラスに小さく耳打ちをする。
「僕が呪縛符で、彼女を縛り付ける。其の間に何とか……」
「……判った。やってみよう」
セフィラスは頷き、自分もぐ、と足に力を入れて構えなおした。其れを見、遠夜の手から呪縛符が少女へと一直線に飛んでいく。
『きゃあ……っ』
幻影の少女は大きく身を折り、其の小さな手から魔法を発するのを止めた。一瞬の、隙。其の隙を狙って、セフィラスが大きく手を振って封印魔法を放つ。
黄金色の残滓を撒き散らしながら、魔法は真っ直ぐに彼女を貫いた。びくり、と幻影の少女は揺らめき、其の侭金無垢の剣へと吸い込まれていく。
しん、と静まり返った室内。其の中央、銀の台座に安置された体が、ぼろぼろと砂になって急速に風化をし始めた。一体、何年の間、此処で眠っていたのか──漸く顔をあげることが出来たリラは、其の様子に目を背けた。
部屋は寂れ、あちこちに汚れや埃が堆積していく。銀の台座には錆びが浮き上がった。
「とりあえずは、捕獲完了だな。……此れを、老紳士の所へ持って行こう」
そう言って、セフィラスは銀の台座から金無垢の剣を抜き取った。唯一、時を感じさせない金無垢の其れ。
一気に50年の時を駆け抜けたオーグウィンタ城には、華やか過ぎるものであった。
■ オーグウィンタ ■■
「……そうですか。一目、逢いたかった……」
冒険者達の手から金無垢の剣を受け取った老人の言葉は、こうだった。酷く悲しそうな、寂しそうな色を燈した瞳で金無垢の剣を見遣る。柔らかく、其の抜き身の刀身を撫でた。
「……少し、お尋ねしても宜しいですか」
アイラスが一歩前に進み出て、老紳士にそう呟きかける。老紳士は少し驚いたようだったが、小さく首を縦に振った。
自分の荷物を漁って、アイラスは城で見つけた螺鈿細工の物品を見せる。老紳士に其れを手渡すと、彼は酷く驚いていたようだった。こんなものがまだ残っていたのか、と。そう、呟いた。
「愛するオーグウィンタへ。そう掘られていました。……城の名前が入っているのは、偶然ではないでしょう?」
「……魔女は、銀の髪を持っていたかな?」
老紳士は愛しそうに螺鈿細工の宝石箱を撫でながら、アイラスの質問には答えずそう問うた。少々面食らいながらも、アイラスは頷く。
「あの娘の名前は、オーグウィンタ。……かつてこの地一帯を収めていた貴族の娘です」
「…………其れは」
注意深く、セフィラスが声を掛けた。老紳士はゆっくりと視線を上げ、ぐるりと冒険者達を見回した。
「少し、年寄りの昔話に付き合って下さいませんか。……きっと、貴方方の疑問も解決するでしょう」
私は若い頃、しがない街職人でした。そう、こんな風な、螺鈿細工の物を細々と作っていたのです。
其の品物を気に入って、何か作るたびに買って行ってくれたのが、オーグウィンタでした。
いつも品物が出来上がる日曜日の午後になったら、日傘をさして買い物に来る。其れが、オーグウィンタ。
惹かれ合うのは自然の摂理と申しましょうか──私とオーグウィンタは、恋仲になりました。
其れから造る品物は、全て彼女のために造り……其の全てに、愛するオーグウィンタへ、と掘ったのです。
ですが彼女は貴族の娘。当然身分違いの恋ですから、周囲には内緒にしておりました。
ところが、何処かから噂というのは漏れるもので──彼女の父親に、私達の仲が知られてしまったのです。
父親は私の所に来て言いました。良家の娘を紹介してやる、だからオーグウィンタとは別れてくれ、とね。
私は承知しました。きっと近い将来、私が居ては彼女の足枷になるだろうと。そう思ったのです。
私と紹介された娘は、オーグウィンタに黙って式を挙げました。其れをオーグウィンタの父親が望んでいたからです。
ですが、其れを知ったとき……オーグウィンタは、魔女になりました。
「愛しいオーグウィンタ。僕と君では、身分が違う。君はこの城の城主なんだ」
「貴方となら、どうなっても良かったのに……」
「呪ってやる──私たちの愛を見守ってきたこの街も、この城も。全てを呪ってやる……!」
彼女の全ては私で。私の全ては彼女だった。──そう気付くのが、私は遅すぎたのです。
オーグウィンタの母親は、魔女でした。魔女の気性と言いましょうか……兎に角、彼女は狂ったのです。
オーグウィンタは魔女となり、父親や家のもの全てを殺して塔に上りました。
私は後を追いました。彼女の母親から、母親が死ぬ間際に私に託した金無垢の剣を携えて。
金無垢の剣で彼女の胸を貫き、銀の祭壇に縫い止めました。すぐに後を追うから赦しておくれ、と。そう泣きながら。
でも、彼女は私が死ぬことを赦しはしなかった。
「城が目覚める時は、茨の森に白薔薇が咲く。城が目覚める時は、この小さな街の終わりであろう──そして、貴方はこの街とともに滅ぶのです」
彼女の死に際の言葉です。
憔悴しきって城から逃げ、街に戻った私を歓迎したのは、人々の高らかな歓声と、新しい領主の地位でした。
オーグウィンタの家が無くなった後、私の妻の家が実権を握るようになったのです。
ならば、せめて忘れないように。
私はあの城を、オーグウィンタを呼ぶようになったのです。
■ 終末に ■■
今も聳えるオーグウィンタの城。
眠りの森は消え、咲いた白薔薇は一夜のうちに枯れたと聞く。
時折冒険者は考える。
あの老紳士は幸せなのだろうか、と。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1879 / リラ・サファト / 女性 / 13歳 / 不明】
【2017 / セフィラス・ユレーン / 男性 / 22歳 / 天兵】
【1649 / アイラス・サーリアス / 男性 / 19歳 / フィズィクル・アディプト】
【0277 / 榊 遠夜 / 男性 / 16歳 / 高校生/陰陽師】
※登場順にて表記しております。
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■ ライター通信 ■
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今日和、ライターの硝子屋歪で御座います。(礼
私の風邪の所為で大変お待たせ致しましたことを、お詫び致します(汗
セフィラスさん、アイラスさん、二回目のご参加有難う御座いますー!
リラさん、榊さん、初めまして。今回はご参加有難う御座います!
気張って書かせて頂きました、オーグウィンタの眠り。如何でしたでしょうか?
金無垢の剣に、銀の台座。其れから眠るお姫様。このモチーフは、一度使ってみたいと思っていたのです。
お楽しみに頂けましたら幸いですっ。
又機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。(礼
其れでは。
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