<PCクエストノベル(1人)>


無限回廊〜結界石の欠片〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1856 / 湖泉・遼介(こいずみ・き「り」ょうすけ) / ヴィジョン使い・武道家】

【その他登場人物】
【友人A / 魔法学院に所属する遼介の友人】
【老人 / 王都エルザートの城下街に住む魔法物品の鑑定士】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 数多の世界から様々な人達が集う世界。それぞれの世界からもたらされた多種多様な文化技術が幾つも入り混じり、ある種独特な世界観を形成している。
 そして、この世界を特徴として上げられるのが、36の聖獣によって守護された世界であるという事。その聖獣を、カードを介して具現化する力がヴィジョンといい、それを扱うことの出来る者をヴィジョン使いと呼ぶ。
 潜在的に高い能力を持つ、今だあどけなさの残る少年――湖泉・遼介もまた、そのうちの一人であった。

遼介:「‥‥こーんな小さいのに、よくあれだけの力があったよなぁ」

 半ば感嘆の声。
 寝転がったまま、空に掲げた手の中には、先日の冒険で手に入れた『結界石の欠片』が握られていた。日射しにかざしてみると、キラキラと透けるような輝きを放つ。
 水晶に似た、だけどそれよりはるかに強力な魔力を秘めている事が、こうして眺めているだけでも判ってしまう。

遼介:「ま、まあ砕けちゃったから、どうやって使ってたのかもわかんねぇしな」

 戦闘はともかく、こういった儀式的な類は術式が複雑で、遼介自身あまり得意ではない。小難しい事は、脳が考えるのを拒否するのだ。
 そうは言っても、それなりに高価で貴重な物だという事は、容易に推理出来る。
 ならばやることは簡単だ。

遼介:「友人に調べて貰う! んでもって、ヴィジョンの強化か俺の懐を暖めるのに使ってみるか」

 ‥‥あのう、自分で調べるってのは?

遼介:「そんな頭は俺にはねえ!」

 いや、その、そうきっぱり断言されても。
 誰にともなく宣言した彼は、さっさと魔法学院の友人のところへ足を向けるのであった。


●第一章〜鑑定結果・友人Aの場合〜
 ぼけらっと待つ事、一時間。
 学院内のカフェテラスで待つ遼介の元へ、友人が鑑定結果を持ってきたのは、頼んだパフェがすっかり空になり、二杯目に手を付けようかとしていた時だった。

遼介:「おーやっと来たか。遅かったじゃないか」
友人A:「‥‥なぁに言ってんだ、いきなり来て石を調べて欲しい、っつってもなぁ、そう簡単に解析出来れば苦労しねえよ!」

 文句を言う遼介に対し、思いっきりぼやく少年。遼介より背は低く、あどけない顔立ちをしてはいるものの、実のところ彼より年上だというから驚きだ。
 初対面の時など、てっきり年下だと思って生意気な口を聞いたら、えらい目に遭わされてしまい、それ以来友人として付き合っている。

遼介:「で? どうだった? その『結界石』についてなんかわかったか?」
友人A:「‥‥‥‥ねぇよ」
遼介:「は?」
友人A:「わかんねぇ、って言ったんだよ!」
遼介:「な、なんだよそれ!? その石はさ、すっげえ結界を張ってたんだぜ! 俺なんかすっかり騙されちまってさぁ」
友人A:「それぐらい解ってるさ、この石がどんだけの力を秘めてるかってぐらいはな」
遼介:「だったら!」

 なおも詰め寄る遼介に、友人はただ肩を竦めるだけ。お手上げだ、と言わんばかりに両手を広げている様子に、彼の力では無理だという事を察する。
 友人の顔も、どこか悔しそうに歪む様が垣間見えた。

友人A:「確かにこの石には、欠片になった今でもすげえ力が宿ってるのが俺にも解る。だけど‥‥それだけだ。年代からしておそらく古代の術式だった筈なのは予想出来るけど、さすがにそれ以上は俺の力じゃ、まだ無理だ」
遼介:「‥‥そっか」
友人A:「悪ぃな」
遼介:「あ、いや。サンキューな、わざわざ調べてくれて」

 はぁ、と溜息を吐き、がっくり肩を落とす遼介。
 その様子を前に悪いと感じたのか、友人はサッとメモを差し出してきた。そこには、街の外れに当たる住所が書かれている。

友人A:「とりあえず正式に鑑定してみろよ。俺の知り合いんとこ、紹介するからさ」
遼介:「ああ、解った。ありがとな」

 メモを受け取ると、遼介は一言礼を言う。
 一瞬気落ちした彼だったが、すぐに気を取り直してメモの住所へ走り去った。


●第二章〜鑑定結果・鑑定士の場合〜
 薄ぼんやりとした裏路地を抜け、辿り着いたのは汚れの目立つテントのようなもの。垂れ幕を掻き分けて中に入れば、そこに一人の老人が待ち受けていた。
 思わず気圧された遼介だったが、相手が声かけてきたことですぐに気を取り直す。

老人:「‥‥何か用かな?」
遼介:「あ、あのさ‥‥この石を調べて欲しいんだけど‥‥」

 遼介が差し出した欠片を見るなり、老人は一言呟いた。

老人:「ふむ、結界石の一部じゃな」
遼介:「!」
老人:「欠けてはいるが、それなりに高価なモノじゃ。なんなら儂のところで引き取ろうか?」

 一目で『結界石』だと見破り、その価値まで見出した老人の眼力に、遼介はただただ驚く。友人の話では古代のモノだと言うのに、いったいどうやって見抜いたのか。
 目を見開いた表情を見取り、その老人はやんわりとほくそ笑む。

老人:「ふぉっ‥‥こんな老いぼれの言うことは信用出来んか?」
遼介:「あ、いや、その‥‥そうじゃないけどよぉ‥‥こいつの力ってのも解るのか?」
老人:「‥‥貸してみよ」

 言われるまま、石の欠片を老人へと手渡す。差し出した老人の手は、枯木のようでどこか薄気味悪かったが、遼介はそのまま掌の上に石を置いた。
 一瞬、掌の上に魔法陣の様な紋様が浮かぶ。
 光は欠片を通過して、すぐに消えた。まるで走査したかの印象を遼介は持つ。

遼介:「どうだ?」

 問うた遼介の言葉に、老人は静かに答える。

老人:「成る程、かなり古いモノじゃ。おそらくこの石を四方に置く事で、そこに無限回廊の結界を作る事が加納じゃな」
遼介:「‥‥すげぇ、当たりだ!」
老人:「幻惑、というよりは空間を歪める感じじゃな。ここに囚われた者は、どこまで行っても出口のない空間で一生彷徨い続けるんじゃが‥‥お主、よく無事に抜け出せたな?」

 老人のどこか感嘆する声に、遼介は「へへっ」と自慢げに笑った。

遼介:「まぁな。多少違和感があったしな」
老人:「お主の魔力も大したモンじゃ。さて‥‥それで、お主はこの石の欠片に何を望んでおる?」

 フードに隠れて顔は見えないものの、こちらを見上げている事は想像できる。
 その視線を受けて遼介は、石に秘められた力で自分のヴィジョンを強化出来ないか、そう尋ねてみた。

遼介:「折角、俺のヴィジョンも進化したんだ。だったらその『幻の能力』を強化出来る媒体が作れればなぁって思ったんだよ。なあ、なんとかならないか?」
老人:「‥‥ヴィジョンの力は術者の精神の力、基本的なそれはお主の心を強くせぬ限り、大した強化にはならんぞ」
遼介:「そ、そこをなんとかさぁ!」

 頭を下げて必死に頼み込む遼介。
 やれやれ、と老人は息を吐く。しばらく掌に乗せた欠片をじっと見つめた後、ポツリと呟いた。

老人:「三日後、また来るがよい」
遼介:「えっ?」
老人:「‥‥なんとか加工してみるわ」
遼介:「ホントか?! あ、ありがとう!」

 老人の言葉に遼介はぺこぺこと頭を下げる。
 そのまま、ヴィジョン好みの装飾品を事細かく説明して、彼はその店を後にした。


●第三章〜ヴィジョンの強化〜
 チャラン、という金属音と共に、腕を空に掲げる。
 日射しを受けて光が反射する様を、その少年は嬉しそうに眺めていた。

ヴィジョン:「へへへ♪」
遼介:「どうだ、その腕輪?」
ヴィジョン:「すっげぇいいじゃん。格好いいしさ。サンキュー遼介!」

 嬉しそうな少年――具現化したヴィジョンの姿――の隣で、遼介もまた嬉しそうに眺める。普通に生きてる存在ではないとはいえ、人型を為したヴィジョンはもはや彼にとって友人同然だ。ヴィジョンが嬉しければ、遼介もまた嬉しいのだ。
 もっとも、そっと手を当てた懐は、かなりスースーしていたが。

遼介:(「‥‥痛い出費だったよなぁ。ま、当然か。こんだけ加工してもらったんだし‥‥」)

 三日後。
 鑑定士の老人の元へ向かった遼介は、渡された加工済みの腕輪と同時に、目の玉が飛び出るような請求書も渡されたのだ。
 ある意味、それは当然の結果だ。相手も別に無料奉仕で仕事をしているのではないのだから。
 加工するために削った部分の欠片をあげる事で、かなりの値引きはしてもらったものの、それでも遼介にとっては破格の値段だ。
 おかげで懐を暖めるどころか、すっかり冷え切ってしまったのは言うまでもない。

ヴィジョン:「‥‥ん、どうした遼介? なんか顔色悪いぞ?」
遼介:「あ、いや‥‥なんでもねえよ。その腕輪、気に入ったみたいだな」
ヴィジョン:「おう! なんかこう力が沸いてくるっつうかさ!」
遼介:「鑑定の爺さんの話じゃ、空間を曲げて感覚を惑わす力になるらしいぜ。つっても、そんなに強力なモンじゃないみたいだけさ」
ヴィジョン:「それで充分だって。後は遼介、お前の成長次第なんだぜ」

 ニヤッと笑うヴィジョン相手に、遼介もまた苦笑を洩らす。
 自身の力を高める事が、お互いの向上に繋がる。そうなれば、今まで行けなかった危険な場所にも行けるようになるかもしれない。
 まだ見ぬ冒険の予感を胸に、二人は互いの拳を重ね合わせた。

遼介:「やってやるさ」
ヴィジョン:「そうこなくっちゃ!」
遼介:(「――もう少し懐暖めるぐらいにはなりたいしな」)

 涼しくなった懐を思い返し、遼介は強くなりたい願望を更に己に言い聞かせるのだった。


【END】


●ライター通信
 お待たせいたしました。葉月十一です。
 再びの発注、ありがとうございました。そして非常に遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
 今後はこのような事がないよう、十分注意いたします。

 何か意見等ありましたら、テラコンなどからお願いいたします。