<PCクエストノベル(2人)>


月桂樹を其の手に

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1893 / キャプテン・ユーリ / 海賊船長】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
なし
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■ 未知の遺跡の前にて ■■

機獣遺跡。そう称される遺跡は、ただ硬質な空気を纏ったまま、其の場所に佇んでいた。自分たちが普段行き交う街並には見ることが出来ぬ建物の造りは、其れだけで人を遠ざけていそうだ。実際、遠ざけているのだが。
そんな未知なる存在にも関わらず、冷たい金属質の遺跡を眼前にして、感嘆したように声を上げる人物が居た。

ユーリ:「へぇ、話に聞いたとおり、奇妙な形をしているねぇ……」

風に豪奢なマントをはためかせながら、威圧感を見せつける其れを見上げてキャプテン・ユーリは呟いた。この地の雰囲気には絶対にそぐわない風貌が、返って其の遺跡のみを空気から分断し、より一層不気味さを増しているように思える。
内部から誘うように流れてくる不穏な空気。其れを読み取ってか、ユーリの後ろに歩いてくる大柄な男は顔を歪めた。

オーマ:「中には何が居るか判りゃしねぇな……油断するんじゃねぇぞ」
ユーリ:「勿論。……で、どう?何か判りそうかい?」

オーマはユーリの横を通り過ぎ、こつこつと遺跡の壁を叩き始める。何やら調べ始めた彼に向かって、ユーリはそう問うた。
矢張り、彼を引っ張ってきて良かった。ユーリは確信し、自分の目利きに間違いが無かったことに胸を張る。彼は機械類に詳しいらしく、ユーリが是非にと連れ出したのだった。自分ひとりでは、この未知なる文明に太刀打ち出来るかどうか不安だし。

オーマ:「こりゃ、特殊な金属だな。俺に判るのは、これが金属って事ぐれぇだ」

ユーリの方を振り返り、肩を竦めるようにしてオーマは声を張り上げた。其の報告を聞きながら、ユーリは腕組みをして小さく唸る。矢張りというか、どうやらというか、一筋縄では行かなさそうだ。でも其れも又一興。
深い海の色をした髪を風にゆらし、ユーリは機獣遺跡へと足を進める。オーマの横に立ち、ぐ、と拳に力を込めた。此れは気合だ。

ユーリ:「さぁ、行こうか。未知なる物が待ち構える場所へ……!」



■ 機獣の残骸 ■■

通路は自分たちが入った中央部の入り口より、放射状に伸びていた。もう既に幾人かの冒険者達が来たのだろうか、遺跡の中は彼方此方(あちこち)壊されていた。いや、壊されていたと表現するのは少しおかしいか──頑固な鋼鉄の壁には、幾つかの傷や抉れた跡のクレーターが造られていた。
どんな猛者がこの遺跡に挑んだのだろうと、ユーリの胸は自然と高鳴る。

ユーリ:「それじゃ、定石通り真ん中を進むとしようか?」
オーマ:「だな。さぁて、どんな珍妙な敵が出てくるのやら……」

一歩ずつ歩を進めるたび、いやに大きな音が響く。其れはこの遺跡の建設に使われた材質の特性だと知りながらも、矢張り気になってしまうものは気になってしまう。何か、何か得体の知れないものが居る。そんな僅かな感覚を拭い切れずに、ユーリとオーマは通路を歩き出した。てらてらと光を反射する床の材質が、自分たちの姿を下から映し出す。
不安げに、ユーリの連れている赤い竜──たまきちが鳴いた。

ユーリ:「怖いのかい、たまきち?大丈夫だよ」

尻込みしている様子のたまきちを優しく撫で、ユーリは諭すようにそう言い聞かせる。
ふと、そんな時だった。視界の端に、妙な物体が掠めたのは。

オーマ:「んん?何だ、ありゃァ?」

いち早く其れを見つけたのはオーマだった。眉根を寄せて、其れを見極めようと視線を鋭くする。自分たちが進んでいる通路の少し先、其の端に其れは蹲っていた。いや、既に動くことは無い。其れは完全に動きを停止しているようで、蹲ると表現するよりかは落ちている、という表現の方がしっくり来るようであった。

ユーリ:「もしかして……あれが噂の機獣、かな?僕は実物を見たことが無いんだけれど……」

腕組みをして、むう、と悩むような声を絞り出しながらユーリは呟いた。床を高く踏み鳴らし、対象が動かないことを確認して、ユーリとオーマは其方へと近寄っていく。動かないという擬態をしているかもしれないので、勿論二人は其々武器を構えたままだ。
先ずは機械類に詳しいから、という理由でオーマが其の物体を調べ始める。高圧のレーザーか何かで焼き切られたような、溶かされた傷痕がざっくりと抉った其の物体は、オーマに触れられても反撃することはない。どうやら、間違いなく完全に停止しているようだった。

オーマ:「こりゃあ……噂の機獣とやらに間違いは無さそうだな。どうやらこの遺跡と同じ材質で作られてるみてぇだ」
ユーリ:「其れにほら、この傷痕も不思議じゃないかい?こんな跡、どうやったら出来るんだろうね」

不思議そうな口調で言葉が綴られる。ユーリは其の手を伸ばし、溶けた傷痕にそっと触れた。もう何の温度も感じない。この傷痕が造られてから、かなりの時間が経っている。そう判断することが出来た。

オーマ:「……見たこともねぇ溶け方してやがる。手掛かりは無し……か」

溜息を吐いて、オーマはゆっくりと立ち上がった。こきこきと首を鳴らし、其の巨体をしゃがませていた所為で固まってしまった身体を解す。

ただ、厄介なのは───。ユーリは改めて機獣の残骸に目を通して、其れから小さく眉を潜めた。これだけの機獣を、一撃で倒してしまえるほどの強さを持つ何かが、まだこの遺跡内に居る可能性が高いということだ。十分に注意せねばならない。
ユーリはオーマの方を振り返り、自分の考えを述べた。オーマも頷く。

ユーリ:「やっぱり、キミもそう思うのか……」
オーマ:「あァ。この奥に宝があると仮定するンなら……鉢合う可能性は高い、だろうな」

どうする、まだ引き返せるぜ?にやにやとした笑いを其の顔に浮かべながら、オーマはユーリに問うた。其の言葉に、ユーリは迷う間もなく首を横に振った。

ユーリ:「まさか!この先には凄いお宝が隠されてるかも知れ無いんだ、諦めるわけがないだろう?」

自身満々と言った言葉に、オーマは力強く肯定し返した。たまきちはユーリの肩の上、嬉しそうに尻尾を振る。

オーマ:「おう、其れでこそキャプテン・ユーリよ!」



■ 扉の番人 ■■

進む通路は薄暗く、何処が終わりなのかさえも判らなかった。
そんな状況の中、先に其れを見つけたのはユーリだった。彼は目を凝らし、数メートル先の薄闇の中の其れに気付いて片手でオーマを制する。人差し指を立てて唇に宛がい、静かにというジェスチャーをし、ユーリは自分の重心を下げた。何時でも飛び出せるように、と足にばねを溜め込む。

ユーリ:「……見て御覧。あそこに、何か居る……」
オーマ:「ん……?」

ユーリの言葉と、彼の肩の上で警戒した様子を見せるたまきちを交互に見、オーマも注意深く目を凝らした。薄闇の中、段々と瞳が其のほの暗さに慣れてくる。
其処には、通路の終点らしき支柱が二本立っており、其の間に大きな扉が据えられていた。思わずおお、と感嘆を漏らす。だがもう少し視線を下げれば、其れだけでは無いことが判った。

オーマ:「もしかすると……あれがさっきの残骸をやった機獣、か?」
ユーリ:「だろうね。機獣は自由に動き回ると聞く……侵入者と間違えたんだろう」

ユーリは言いながら、そっとたまきちを抱えて自分の背後の床に降ろす。突然主人の肩から下ろされてしまったミニドラゴンは、不安そうに一声鳴いた。其の頭を小さく撫で、ユーリは口を開く。

ユーリ:「たまきちは危ないから、下がっててね」

渋々ながらもたまきちが頷いたのを見ると、険しい顔つきに戻ってユーリはオーマに視線を向けた。其の耳にしか聞こえぬよう、限り無く音量を絞った声でぼそぼそと話す。
機獣は此方に気付いているのか居ないのか、はたまた動いていないのか──じっと黙って扉の前に鎮座したまま、此方に視線を向けている。いや、機獣が止まったままで、偶然に此方を向いているだけかもしれない。だが、奇妙なほど其の視線は自分たちに集中していた。

ユーリ:「……先ず、僕が交渉してみよう。僕が攻撃されたら援護を、巧く行きそうだったらたまきちを連れて来てくれるかい?」
オーマ:「…………了解」

オーマが神妙に頷いたのを確認すると、ユーリは下げていた重心を元に戻した。そっと、腰に携えたロング・レピアを撫でる。これで、あの機獣相手に何処まで行けるか。
ゆっくりと、無骨な機獣の前に歩み寄る。

ユーリ:「失礼。キミの後ろの扉を通らせてもらい……」

彼の言葉は、其処で途切れた。機獣の目が光ったと同時に、直感で其の場を飛び退いたユーリの袖を、赤い光が直線的に掠めていく。じゅう、と何かが焼ける音がしてユーリが袖を見ると、赤い光が触れた其処は物の見事に焼ききれていた。
矢張り、一筋縄ではいかないか。ユーリはぺろりと唇をなめ、腰のロング・レピアへと手を滑らせる。其れを抜き取って構えつつ、ちらりと肩越しに背後へ視線をやると、オーマが銃器を担いで床を蹴っていた。

ユーリ:「援護射撃は任せたッ!」

ユーリは軽く床を蹴り、斜め上へと高く上空へと飛び上がった。ジャンプした其の姿勢のまま、落下速度を利用して、ロング・レピアの矛先を機獣へと真っ直ぐに向ける。
相手も相手で、当たり前のように其れを回避する。くるりと重心を使って其の鋼鉄の身体を反転させ、ユーリを狙って瞳を光らせた。ユーリは素早く矛先を仕舞い、着地すると同時に右足を後ろにずらす。僅かに下がった重心を使い、ユーリはひらりと鳥のように光線のから逃れた。

オーマ:「退け!」

ユーリが地を踏むと同時、鋭い声が背後から掛かる。ああなるほど、とユーリは友人の考えを瞬時に理解する。いくら機獣とて、障害物があれば彼の姿を確認することは出来まい。そして、障害物は自分だ。
腹筋に力を込めて、ユーリは右に飛び退いた。其の隙を見計らって、オーマが銃器を担いで走り込む。オーマは下半身にぐ、と力を込めて其の場に留まり、がしゃ、と銃器を機獣に構えた。
赤い光を撃つ暇など与えさせない、素早い狙撃。銃声が響き、彼の放った弾丸は、迷うことなく機獣の瞳部分を貫いた。これでもう赤い光は出せない。銃から伝わる振動に、オーマが一瞬ぐらついた。機獣は自分の武器である瞳を潰されても、尚まだ動いていた。此れ幸いとでも言いたげに、肩膝をついたオーマに突進してくる。

ユーリ:「そうは、させない……ッ」

ユーリはもう一度床を蹴り、自分の身体に加速をかける。機獣とオーマの間に身体を滑り込ませ、右手に握ったロング・レピアで一瞬、機獣の動きを止めた。だが、此れは長くは持たないだろう。ユーリは咄嗟に判断し、左腕にぐ、と力を込めた。
ひゅ、と空気を裂いて左肘を下げる。ロング・レピアと自分の身体で止めた機獣に、躊躇うことなくユーリは左手を撃ち込んだ。

何か爆発するような音が響いて、もうもうと白い煙が立ち込める。オーマは慌てて身を起こし、ユーリの傍へと駆け寄った。
ユーリはゆっくりと立ち上がり、にぃ、と口端を吊り上げてみせる。

オーマ:「……やったのか?」
ユーリ:「みたいだね。もう動いてない」

ふと気付いて、オーマは左腕は大丈夫かとユーリに問うた。ユーリは笑って、無傷の左腕を掲げてみせる。鋼の義手なんだ、と彼は少々誇らしそうにそう口にした。
そんなユーリのスボンを、くいくい、と何かが引っ張る。不思議そうに下を見たユーリは、ああ、と顔を綻ばせた。何時の間にかちゃっかりとこちらまで動いてきていたたまきちを肩の上に抱き上げ、其の背を柔らかく撫でてやる。

オーマ:「まァ、とりあえず……お疲れさん」
ユーリ:「オーマもね。いやぁ、あそこで瞳を潰せなけりゃ、僕きっとやられてたよ」

軽く笑うユーリに肩を竦め、オーマも自分の唇を綻ばせた。
オーマはす、と拳を握った右腕を掲げる。彼の意図に気付いて、ユーリも微笑んだまま、同じく拳を握った右腕を高く掲げた。オーマの其れに、腕が交差するようにして軽く叩き付ける。ナイスプレイ、とユーリは小さく呟いた。

目指す宝は、扉の奥だ。



■ 財宝は ■■

扉の奥へと足を踏み入れたユーリは、予想もしなかったことにあんぐりと口を開けた。
自分のイメージの中では、勿論扉の奥には金銀財宝がぎっしりと詰まっているはずだったのに。なのに、何だ此れは。ユーリはもう一度簡素な室内を見渡したが、矢張り自分の目当てのものは無かった。

そう、部屋の中は空っぽであった。

ユーリ:「……僕たちの苦労は、どうしてくれるんだ」

がっくりとした、落胆した表情。其れを拭えずに居るユーリの肩を、オーマが軽くぽん、と叩いた。

オーマ:「良いじゃねぇか。少なくとも俺ァ満足だぜ?お前さんがあんなに強いって判ったからなァ」
ユーリ:「其れを言うなら僕もだぁね。凄いと思ったよ」

空っぽの部屋。其れをもう一度だけ見回してから、ユーリは小さく息を吐いた。唯其れは落胆のものではなく、満足げな質感だ。オーマの方に向き直り、ユーリは緩く目を細めた。

ユーリ:「キミになら、僕の背中も預けられると思うよ」
オーマ:「おう、俺もだな。背中を預ける奴ァ、強く在ってもらわねぇと困る」

財宝など無くとも。其の言葉が自然と頭の中に浮かんできて、ユーリは思わず苦笑を零した。全く、自分も流されやすい。
だが、そう思ったのは事実だ。友人と又一つ理解を深めることが出来た。互いを互いに認め合うことが出来た。其れで十分ではないか。この空っぽの部屋が、自分たちの財宝だ。


ユーリとオーマは、もう一度右腕を掲げあう。空っぽの部屋の真ん中で、其の腕はもう一度交差された。



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■ ライターより ■■

今回は発注有難う御座いました。
私の体調不良により、納品日を過ぎての納品となりましたこと、深くお詫び致します。(深礼

さて、今回は友情の再確認・・・ということで、二人での協力戦闘などを入れてみました。
中々満足する出来になったのですが、如何でしたでしょうか?
・・・話の構成は・・・もう少しスマートにするべきだったでしょうか。(汗
精進いたします・・・(ほろり

タイトル「月桂樹を其の手に」ですが、小噺を一つ。
月桂樹の花言葉は、「勝利と栄光」。話の流れより、こんな風にタイトルしてみました。

何はともあれ、お楽しみ頂けましたなら幸いです。
其れでは。