<PCクエストノベル(5人)>


孤独の塔 〜イン・クンフォーのカラクリ館〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1076/スパイク・ブルースカイズ/便利屋               】
【1353/葉子・S・ミルノルソルン/悪魔業+紅茶屋バイト        】
【1543/オウリス        /個人配達業             】
【1780/エルダーシャ      /旅人・魔法遣い・2号店店長     】
【1953/オーマ・シュヴァルツ  /医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
イン・クンフォー

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prologue
 魔法石は、鉱石の一種である。
 それはこの国一帯に広く分布しており、過去にも掘り出されていたようで遺跡から発見されることも多い。見た目や大きさも多様で普通の宝石に似ていることから装飾品に使われることもあるが、宝石と違うのは魔力を含んでいるためで、ほとんどの場合魔力付与の道具に使われるため、魔法石の場合重視されるのは見た目の美しさよりも含まれている魔力の量になる。
 また、加工の度合いによっても魔力を高めることも出来、その辺りは技術者の腕次第とも言えるのだが、全般に言えることは宝石と同じく良質な物は貴重で、御伽噺に出て来るような魔法石になると小国がまるまる買えてしまう程の値打ちもあるらしい。――尤も、そのような石が現れたという噂も聞かないのだから、単なる夢物語にしか過ぎないのかもしれないが…。

***

スパイク:「さあ、行こうか!」
オウリス:「パークちゃん、張り切ってるね〜。で、ドコ行くの〜?おベントは〜?」
エルダーシャ:「持って来てるわよ〜。お店特製のハーブ鳥のサンドイッチに、フレッシュサラダに、冷製スープのゼリー寄せ。5人分もあると流石に重いわね〜」
オウリス:「すごーい。ごうかだー。ねーねー、これ持ってピクニック行こうよ〜」
スパイク:「今日はピクニックじゃなくて冒険に行くんだ。これ以上実益がないと近々塩スープだけで生活しなきゃならないんだからな」
オウリス:「ん〜。お腹が空いたら寝ていればいいのにー。お昼寝気持ちいいよー?」
オーマ:「エルダーシャ、その巨大なバスケット持ってやろうか」
エルダーシャ:「あら、持ってくれるの〜?ありがとう〜」
葉子:「ダンナは優しいんだネェ。一緒に俺も運んでクレネー?そーすりゃ俺サマ楽チンでキャー素敵☆」
スパイク:「それは最後の手段だろ…寝てても腹は空くしな」
エルダーシャ:「そうよねぇ。お腹は空くのよね〜。1ヶ月何も食べないでいるとようこちゃんまで食べ物に見えてきちゃうんだから大変よ〜?」
オーマ:「両腕が埋まると色々大変だしなぁ、パスさせてもらうか。…ほぅ?喰えそうなのかこれは」
葉子:「俺がエル店長食べるのはオッケーだけど熨斗付けて厨房放置だけはカンベン。サー、サッサト行きまショー」
 がやがや。
 お気楽にしか見えない集団が、のんびりとした調子で歩いている。
 明らかに大きな荷物と言えばエルダーシャが持ち出し、オーマが担いでいる巨大なバスケットのみ、後は思い思いの格好で、武器を携帯していると分かるのはスパイク1人だけ。先頭を切って歩いているスパイクの言葉さえなければ、オウリスの言うように近所の見晴らしの良い場所に行ってピクニックでもするようにしか見えないのだが。
スパイク:「1ヶ月も絶食出来ないしな…」
 食べずに済む体なら、それもアリかもしれないが。呑気ににこにこ笑っているエルダーシャを見ながら、そんなことを思ったのか軽く溜息を付いて、何故だか急ぎ足になったら葉子と肩を並べて歩き出す。
 今日の目的地は、イン・クンフォーと言う人物が、魔法石の研究に篭るために建てたと言われている塔。
 その付近で良く採れる良質の魔法石が目当てでそこに住居を建てたものらしい。内部には様々な仕掛けがしてあり、侵入者を拒むのだと言う。
 そう言った噂を聞いて、挑戦することが好きな冒険者たちが押しかけない筈は無い。
 今日の一団も、懸案者はスパイクだったものの誘われた皆も興味が無いわけではなく、愚にも付かない会話をしながらも目は楽しげに輝いていた。

***

 川を越え、山岳と海の間に出来ている海辺を歩く。
 夏が近づいているせいでか、涼しげな潮風が心地良い。
オウリス:「あれ、かな〜?」
 目ざとく見つけたのは、オウリス。…尤も、山の中に隠れているわけではなく、山すそににょっきり生えているような状態の塔なのだから見間違えろと言う方が無理なのかもしれないが。
スパイク:「聞いた場所だとこの辺だしな。間違いないだろ」
エルダーシャ:「ふー、到着ね。それじゃあお昼にしましょうか〜」
スパイク:「……いきなり?入らずにか?」
エルダーシャ:「あら〜、だって中に入っちゃったら、食べる時間があるかどうか分からないじゃない。ねえ〜?」
葉子:「アイアイアサー。オーマのダンナ、バスケット寄越して」
オーマ:「おう。じゃあ潮風に当たりながらのんびり食うかね」
オウリス:「わーい。ごはーん。ごはーん」
 ばさりと広げた広いレジャーシート。その上にてきぱきと料理を並べていくと、塔を目の前にしながら一休みの意味もあってそこで早めの昼食を摂ることになった。
スパイク:「…まあ、それもそうか」
 中に入ってから、のんびりとこういう弁当を開く場は期待出来そうにない。寧ろ冒険前だがこの方がいいのかもしれない、と思い直したか、最後まで迷っていたスパイクがどさりとシートの中に腰を降ろし、そして自分の目の前に置かれたサンドイッチを頬張った。
オウリス:「ゼリーまでちゃんと冷えてる〜。なんで〜」
エルダーシャ:「あったまっちゃったら冷製じゃないもの〜」
 …どうやら、バスケットの中全体に冷気が行き渡るよう魔法をかけていたものらしい。それと気付いたか、ぱくぱくと勢い良く食べていたオウリスがバスケットの中に手を入れて涼しげな顔をし、そしてごそごそと潜りこんでいく。
オーマ:「…入るのはいいが、オウリスもサンドイッチ並みに冷えちまうぞ?」
オウリス:「ひや〜」
 聞いちゃいない。
 あらかた食べ尽くし、用意の飲み物も空になった所でバスケットからオウリスを引っ張り出すと、ぷるぷると震えながら日の光に暖まったシートにごろんと転がり丸くなってしまった。

***

オーマ:「さてと…腹ごなしに行くか」
スパイク:「そうだな」
葉子:「ヘンな仕掛け一杯希望〜」
エルダーシャ:「ええ、どうせなら、楽しいのがいいわね〜」
オウリス:「……お昼寝ルームあるかなぁ〜」
 潮風に当てられてか、細部は削れているそれなりに大きな塔を見上げつつ。
 エルダーシャがバスケットを細かく折りたたんでポケット仕舞ったのを横目で見、スパイクとオーマの2人が先に立って塔へとずんずん進んでいった。その後ろにはのんびりと続く葉子とオウリス。そして最後に笑みを湛えたエルダーシャ、と言う並びで。
 まず、すぐ目に付いた入り口らしき部分へ足を踏み入れると、5人全員が入ったか入らないかという位置で行き止まりになってしまった。目の前にいくつも小さな穴が空いており、どうやら通風孔らしいということが分かる。
スパイク:「壁1枚で通路が繋がってるなら開けてしまえばいいんだけどな」
葉子:「調べてみりゃいーんじゃネーノ?ひょいっと覗いてサ」
スパイク:「…出来るか」
 通風孔だけにしては穴が多すぎるような気もするこの場で、素直に覗き込むような真似をするのは自殺行為に近い。例え何も無くとも、だ。
オーマ:「他の場所探すか。何も無かったらまた戻って来りゃいいだけの話だ」
スパイク:「ああ」
 そう言い、踵を返しかけた――その時。
 カチリ。
オウリス:「あー。ごめん、何か踏んだ〜」
 一足先に外へと出たオウリスが呑気な声で言い、急ぎ足で戻ろうとした2人の目の前で、
 ――ガシャン!
 鉄柵、のようなものが上から落ちて地面に食い込んだ。途端、がらがらと壁の向こうから怪しげな音がして来る。
オーマ:「前か後ろか?」
スパイク:「…柵は任せろ」
オーマ:「オウケイ。じゃあ何かみょーなモンが出て来ても止めてみせてやるからさっさと頼むな」
スパイク:「――当然」
 ひゅんひゅんひゅんひゅん!
 細い孔から、風を切る音――と言えば、矢だろう。それが、予想通り大量に壁一面から吹き出して来る。――鉄柵の目の前にいるスパイクと、背を向けているオーマに遮られてほとんど見えなかったが、中にいる2人から外れ、壁の端から外へと向けてはじき出された矢の一本を触手の様なもので絡め取ったのが一瞬だけ見えた。その直後、
 スッ。
 酷く鋭い視線で鉄柵を眺め回していたスパイクが、腰から抜いた短剣を無造作に鉄柵の一部へと宛がい、そして。
 ――ごとん。
 易々と切り抜いて外へと放り投げた。
スパイク:「開いたぞ」
オーマ:「いい手際だな――今出る」
 オーマが振り向き、そしてのそりと外へ出る。――後ろには、発射された筈の矢がばらばらと落ちており、先程エルダーシャたちの目に映った触手状のものは影も形も無くなっていた。
 外に出てから調べ直してみる。オウリスは踏んだ、と言ったがスイッチのようなものは見えず、場所を聞いて木の枝でそのあたりを突付いてみたが、反応は無く。
スパイク:「この程度の重さじゃ駄目ってことか?」
エルダーシャ:「そうかもしれないわねー。試してみましょうか〜」
 皆に下がってもらい、
エルダーシャ:「え〜い」
 何か気の抜ける声がエルダーシャから発せられた――と見る間に、踏んだとおぼしき辺りにいくつも氷の塊が出現する。それが、ある程度積み上がった瞬間。
 かちり。
 あの時と全く同じ音がし、再び大量の矢が外へ向かって発射された。
エルダーシャ:「1人分じゃ無理だったみたいね〜」
葉子:「なかなかエグイ罠ジャネーノよ。ダンナたちが最後でヨカッタネ」
 のんびりと、にやりと笑いながら言う葉子。ふっふっふっ、とオーマが胸を張り、そしてスパイクはこれからのことを思い難しい表情で上を見上げた。

***

 ぐるりと周辺を歩き回ると、丁度海側の正反対に当たる部分に扉が見え、そこから慎重に中へ入っていく。
 通路は意外に広々としており、無理をすれば3人が肩を並べて歩けそうだった。が、最初のフォーメーション通りの体勢で移動し続ける。
オウリス:「せまーい」
 金属製の扉――罠はかかっていなかった――を開けて内部の空間へひょこっと顔を出したオウリスが言った言葉は、そこを見た皆の気持ちを代弁していた。表から見た大きさに比べ、やたらと狭い空間がそこにはあった。周辺を見回してみても壁だけで、奥に見える同じく金属製の扉の他には数人が横になれば一杯になりそうな広さの部屋しかない。
オウリス:「あ、でもこの壁すべすべ〜」
 見た目石のようにでこぼこしては見えるが、オウリスが言うように表面は滑らかで目地も何かで埋められており、
葉子:「チョッとばかり長居したくネェ部屋ダネ」
 何かを感じたのか葉子が、それに続いてオウリスとエルダーシャが先に奥の扉へ進む。オーマとスパイクは背後や上を警戒しつつ、少し歩を遅めて様子を窺っていた。
エルダーシャ:「あら?鍵がかかっているみたい」
葉子:「イヤンな予感的中?」
 そう言う間に室内が急激に冷えてくる。どこかで小さくかちりという音がしたのを聞けば、入ってきた扉も出て行けないように鍵がかけられたらしい。
オーマ:「急速冷凍でナマモノも鮮度そのままって感じだな。――俺様の熱い心まで冷やそうって言う魂胆が気にくわねぇが。どうするよ」
エルダーシャ:「鍵開けは出来るけれど…こっちのが優先かしら〜。え〜〜と…中和〜〜」
 ほんの少しだけ眉を寄せて、そう言ったエルダーシャ。途端、温度がゆるみ、かたかたと震えていたオウリスがほわーっと顔の緊張を解く。
オウリス:「涼しー。ここでお昼寝したいね〜」
スパイク:「……鍵開けるからさっさと行こうか」
エルダーシャ:「お願いしまーす。向こうもどんどん冷えてきてるから、ちょっと大変なの〜」
 全然大変に見えないのんびりとした口調のエルダーシャにこくりと頷くと、柵を切った時と同じような鋭い目付きになったスパイクが、鍵ごとドアを切り裂き、向こうの通路へオウリスと葉子を先に通してやった。次にオーマ、スパイク、そして最後まで残っていたエルダーシャがするすると移動し、扉を付け直して冷気が通路に一時だけ通路に流れないようにして急ぎ先へと進む。
エルダーシャ:「それにしてもスパイクくん凄いのね。何でも切れるナイフなの〜?」
スパイク:「いや…『切る』時の得物は選ばないから」
エルダーシャ:「素敵ね〜。いい料理人になれるわよ〜」
スパイク:「――これで『切った』素材は多分美味くないよ」
オウリス:「パークくんお料理上手だよー」
 話に割り込んできたオウリスにそういう意味じゃない、と軽く手を振るスパイク。
 冷凍室から抜け出した彼らを次に襲ったのは、ある意味オーソドックスな槍付きの落とし穴、そして天井からの押し潰し。引っかかりようによっては一番初めに放たれた矢と言い、ただでは済まないタイプの仕掛けばかりが目に付く。
 落とし穴はオーマがどこからともなく作り上げた床板でなんなく通過し、天井はエルダーシャが押さえ、そして開かない扉はスパイクが切り落とす、その連携で先へと進む。ぶらぶらと一緒に付いてきているオウリスは時折奇声を上げながらその様子を楽しんでいるようで、葉子に至ってはヒマー、とほざいてはスパイクに睨まれていた。

***

葉子:「ン?――ナンカ変な部屋」
 何かを踏んだり触れたりするのを恐れたのか、それとも歩くのに飽きたのかふよふよと浮いて移動していた葉子が、新しい部屋へと顔を覗かせてぼそりと呟く。
 ぞろぞろと同じく中へ入ってきた皆も同じように眺め回し、小さく首を傾げた。
 ――下から見たときには気付かなかったが、大きく切れ込みの入った空間が外へと繋がっており、そこから涼しげな海風が流れ込んできている。…そして。
 室内に立っているのは、オーマよりも大きな人間でもいなければ着る事が出来そうにない全身鎧が数体。その他にも黒々とした何かが床にうずくまっており、その傍には一抱えはありそうな大きさの筒がいくつも置かれていた。
オウリス:「お昼寝の部屋は無いの〜?」
スパイク:「ここじゃないことは確かだな」
 今までの短剣ではなく、愛用の剣をすらりと抜いたスパイクが鋭い目付きで室内を眺め渡す。
オーマ:「ようやくマトモな遊び相手が来たって感じかね。――おうおう。寝たフリなんざしねーでさっさと起きな…でねぇと片っ端からぶち壊しちまうぜ?」
エルダーシャ:「頑張ってね〜。フォローはお任せ〜」
葉子:「フレーフレーダ・ン・ナ♪」
 葉子に手伝う気はまるでないらしい。その隣にすすす、と戻ってきたオウリスも同じく、壁際にぺたんと座って自己判断で休憩に入ることにしたらしい。
エルダーシャ:「………」
 すぅ、と笑みはそのままで目を細めたエルダーシャが『何か』をし、そして何もない空間へ手を伸ばしたオーマが鎧に負けず劣らずの大きさの巨大な銃を取り出し――スパイクが剣を構え。
 それが合図となったのか、
 ――ヴン。
 室内の『それら』が一斉に起動し、5人へと目標を合わせた。

***

 ――ヒュッ。
 ダン!
 鎧は見た目の重さにも関わらず異様に素早く、そして身軽な動きで一番近くに居るスパイクとオーマの2人へ飛び掛ってくる。1人などは天井へ飛び上がり、張り付いたその反動で背後を取ることまでをしてみせ。
 ギィィン、と耳障りな音を立てながら交わす刃の隣で、
 ドゥン!
 低い、が重い銃の発射音。同時にチュイン、と弾かれる音がし、ちっ、とオーマが舌打ちを漏らす。
オーマ:「見た目程木偶じゃねぇな。魔力障壁でコーティングしてやがる」
スパイク:「――お手上げ、か?」
オーマ:「なぁに。そっちがそのテなら、親父パワー全開で相手してやるまでさ――」
 すぱんッ
 直後、オーマの銃弾ですら弾かれた鎧の腕と胴が、綺麗に断ち切られてふっ飛んだ。その腕が切り落とした勢いそのままで葉子の顔目がけて一直線に飛び。
葉子:「キャー情熱的。そういう愛情表現はエンリョさせて貰うヨ」
 上手く避けたと思った瞬間、壁に跳ね返って後頭部へ直撃――する前に、オウリスが素手でキャッチし、ぽいと捨てて再び壁へころん、と寄りかかった。
葉子:「ヤルネ」
エルダーシャ:「ありがとう、オウリス〜」
オウリス:「なんのなんの〜」
 あふっ、と欠伸を噛み殺してひらひらと手を振り、エルダーシャが立ったままにこりと笑う。――そこへ、
 ――じゅうっ。
 エルダーシャの目の前数センチ程の所まで来ていたビームが、何かに弾かれて消えた。…いつの間にか、ぞわぞわと這いよってきていた子供の膝ほどまでしかない大きさの『何か』が、赤い目を光らせて目標…5人へと、ビーム砲を繰り返し射ち込んでいる。それら全てはエルダーシャの言う『フォロー』により弾かれ、一切効果を上げていなかった。
オーマ:「うぉぉぉりゃぁぁぁ!」
 バリバリと電流が流れているのではないかと思われる程の威力に押された銃をぐいん、と鎧たちへ向ける。
オーマ:「喰らいやがれぇぇぇぇっっっ!」
 ――ドォォォゥゥン!!!
 『弾』が違うのだろうか。
 同じ銃身から出たとは思えない勢いと輝きの弾が、鎧たち3体を巻き込んで奥の壁にぶち当たり、激しい勢いで爆発した。
スパイク:「やるね」
 ひゅぅ、と小さく口笛を吹いたスパイクが、剣を振るってきた相手の剣ごと半割りに断ち切ってにやりと笑う。
 ぐしゃりと潰れた鎧は、スパイクの足元に積み重なって…中に生き物の姿は見えなかったのに、その姿は死骸のようだった。
葉子:「アブネェ――」
 隙が、あったのだろうか。
 普段にあまり似ない鋭い葉子の声が耳に届き、はっとそちらを向いた時には。
 いつの間に照準を合わせていたのか、中央に立っていたスパイクとオーマに、室内に置かれていた砲台が全て向けられていた。
 咄嗟のこと。避けるヒマとてない。
 砲口が一斉に火を吹いた――その瞬間までが、スローモーションで見え。
 肩と足に熱い何かを感じた――それと同時に、それ以上に熱い何かに遮られ、スパイクは外へと弾き出されていた。
オウリス:「スパーくん!」
 びっくりしたようなオウリスの声も、その時のスパイクには届いていなかった。
???:『――起きろ』
スパイク:「っ!?」
 何か酷く不安定な足場に、それ以上に頭の中をかき回されるような感触に跳ね起き、そして思わず痛みを訴えてくる肩へと手を置く。
 見れば。
 大地へと落ちた筈の自分の体はまだ中空にあり、そして体の真下には――そこにあるモノに気付いてもう一度飛び上がりかけた。
???:『落ち着け』
 宥めるような『声』が、再び頭へと響く。いや、これは声とは呼ばないのかもしれない。意味は読み取れるが、言葉とは少し違う。
 巨大な獣――獅子の上に寝ていたスパイクが目を覚ましたのに気付いたか、獅子がゆっくりと上へ上がっていく。弾かれたビームが塔の上から外へ向かって流れているのを見れば、スパイクが気を失っていたのはほんの僅かな間だったらしい。
???:『エルダーシャ。邪魔な物を掃除する――バリアを張ってくれ』
エルダーシャ:「了解〜」
 びんびんと頭へ響く『声』もしくは『音』。すぅ、と上へ上がって行くと、下からは見えないよう上手く設計されている窓へとたどり着き、そして獅子と目を合わせたエルダーシャがにこりと笑って頷き。
???:『フゥゥゥゥゥゥ……』
 不穏な息を吐き出した獅子が、くわっと口を開く――と、今までの戦闘などが児戯にも等しい、そう思わせるような巨大な『力』が、その口から思うさま吐き出された。
 ――床に横たわった鎧が、ぞわぞわと這いまわっていたソレが、再び獅子へと照準を合わせようとしていた砲台が。
 全て、ぼろぼろと崩れ落ち――残ったものも反対側の窓から外へと放り出されて行った。
 窓近くに身体を付けた獅子が、下りろ、とでも言うのか顎をしゃくる。素直にすとん、と降り立ったスパイクがバランスを崩しかけて床にへたりそうになる、その腕を誰かががしりと捉えた。
???:「ご苦労さん」
 オーマに酷く似ているが、何だか若々しい声。
エルダーシャ:「オーマさんこそ、お疲れ様〜。でもちょっとやり過ぎたんじゃないですか?……ほら、抑えていたのに壁が少し削れちゃったのよ」
オーマ:「はっはっはっ、これぞ親父パワーたるイロモノ怪光線ってな…それはともかく、大丈夫か?」
スパイク:「ああ…」
 顔を上げ。
 一瞬、きょとんとする。
 驚いている様子の無いのは、当人を除けばエルダーシャだけだっただろう。…そこにいたのは、オーマよりもずっと若い、銀髪の青年だったのだから。
オウリス:「大丈夫〜?」
 てってって、と駆け寄ってきたオウリスがスパイクの怪我を見て早速うずくまり、足と肩に手を置いて癒しの力を与え…そして葉子が、よろけながらオーマの傍へと現れた。
葉子:「オーマの旦那、隠し玉アルンダッタラ最初からケチってないでミセレバいいのに」
オーマ:「何いいやがる。切り札は最後まで取っとくもんだろーが。というか大丈夫か?」
葉子:「旦那の魔力の光線浴びてヘロヘロ。モォダメってことで一足先に帰ってイイ?」
エルダーシャ:「さあ行こうねようこちゃんも」
 がし、と肩を掴まれた葉子がハイハイハイハイ、と何かを感じたのか怯えたようにかくかくと頭を上下に振った。

***

 スパイクの傷が目立たない程に回復したのを見計らって更に上へ移動する。途中現れた雑魚は見るまに残骸となり、大きな罠もないままに先へ進んだ。…どうやらこの辺りから生活空間になったらしく、魔力は感じられるものの侵入者を排除するというところまでは行かず。
 ――とは言え、普通の冒険者たちならば途中で音を上げるか、ぎりぎりやってきても最後の雑魚にぼこられるかがせいぜいだったのだろうが。
 そして。
 厳重な魔法の鍵がかかった扉をスパイクがなんなく開け――というか、鍵穴すらなかった扉を切り裂いて――奥に小さな灯りの見える、なにやらごちゃごちゃと物が置かれた暗闇に足を踏み入れた。

???:「誰だ?」
 闇の中から声がする。ぼぅ…と、灯りがこちらへ向けられた気配がし。
 ぬぅ、と1人の男が顔を出した。無遠慮な視線がじろじろと5人を眺め回し、ふぅ、とあからさまな溜息を吐いて肩を竦める。
???:「…やれやれ。また客か…何用かね」
オウリス:「キミがインくん〜?」
???:「中途半端な略し方をするな――こら。暗がりに隠れて何をしようとしてるんだ」
オウリス:「ん〜。暗くて気持ち良さそうなトコ探して寝るの〜」
 話が進みそうにない。やーれやれ、と溜息を付いたオーマがずいっと一歩大きな身体を進ませ、
オーマ:「んでオッサンがイン・クンフォーってワケかい。ははぁん。いかにも研究者然とした青っ白い顔してるねぇ。駄目だぜそんなんじゃ、もっと外に出て日の光を浴びねぇと体壊すぜ?骨も身も丈夫そうじゃねぇしなぁ」
???:「余計な世話だ」
 じろりと無遠慮な視線を向けた男が、ふう、と息を付く。
???:「いかにも私がイン・クンフォーだが。…君らもカラクリ館なぞ言う噂を信じて遊び半分でやって来たのだろう?全く。これも全てあの男のせいだと言うのに」
スパイク:「あの男?」
イン・クンフォー:「エッケハルトの腐れ野郎に決まっている。『カラクリ館』と名が付けば遊技場と勘違いした客が絶えんのだ…そうやって怒らせておいて表へ誘き出すつもりなのだろうがそうは行かん」
エルダーシャ:「あらー?じゃあ、カラクリ仕掛けのお人形とかー、回る巨大なティーカップとかー、そう言ったものは無いんですかぁ?」
イン・クンフォー:「あるわけがなかろうが。カラクリなど作ったことは一度もないわ」
葉子:「全く全然サッパリ無いってコト?そりゃツマンネーね」
イン・クンフォー:「当然だろう。研究の邪魔をする者を排除する罠以外のものなど作る必要が何処にある」
オーマ:「……なあなあ。カラクリってなそれのことを指してるんじゃねぇのか?」
イン・クンフォー:「……………ごほん。それはともかくだ」
オウリス:「あ、逃げた」
イン・クンフォー:「それはともかくだ!」
 きっ、と強い視線を皆へ向け、カンテラの中の灯りを――どうやったのかは分からないが――調整し、部屋の隅々にまで行き渡るように強める。
イン・クンフォー:「ここまで来たと言うことは罠を潜り抜けてきたということだな。…ふぅむ…もっと強めの罠にした方が良いのだろうか」
スパイク:「待て待て待て」
 慌てたスパイクが、まだ鈍い痛みを訴えている自分の体を省みながら声を上げる。
スパイク:「今回はたまたま俺たちだったから良かったようなものの、これ以上キツイ罠だと確実に死人が出るぞ」
 実際、飛び抜けた能力を持った者が複数いなければここまで来る事など思いもよらなかっただろう。
 だが。
イン・クンフォー:「……だからだ」
 すぅ――色白の男の目が、細められた。ただそれだけで、
 室内の空気が、ひやりと冷えたような気がした。
イン・クンフォー:「貴様らのような者たちが気軽に来れるようでは、奴にいつこの場に踏み込まれないとも限らないのだからな。犠牲が出るくらいで丁度いい」
オーマ:「――穏やかじゃねぇな」
 ふん、と白衣姿の男が軽く鼻を鳴らした。最初感じたどこか偏屈なイメージはなりを潜め、今はただ…ただ、冷たく感じられる。スパイクたちが通り抜けて来た罠のことを考え、態度を変えたものらしい。
イン・クンフォー:「穏やかな戦争用の兵器があるならば教えてもらいたいものだ。…私が何を作っているのか、知らぬわけではなかろうが」
エルダーシャ:「それはそうかもしれませんけど〜、そんなことを言ったらあなたが作らなければいいだけじゃないんですか〜?」
イン・クンフォー:「は!」
 ――それは、吐き捨てるような笑い声だった。
イン・クンフォー:「それは私に生きるなと言っているのだな?研究のみが生き甲斐だというのに」
スパイク:「…それは」
イン・クンフォー:「研究に生きる術しか知らん私に、それすら捨てて野に下れとでも言うのか」
スパイク:「―――――」
 その言葉に何か思うことでもあったのか、きゅ、と唇を噛む。そんな様子を見てふん、と鼻を鳴らし。
イン・クンフォー:「もし、私がここから連れ出されたとしたらだ。遠慮なく研究した兵器を投入させるぞ。研究したからには結果も知りたいのは当然のことだからな」
 ぐっ、とスパイクがその言葉を聞いて身を乗り出す。
スパイク:「犠牲が出る事が分かっていてもか。…良心は何処にあるんだ?」
イン・クンフォー:「良心か」
 一瞬…ほんの一瞬だけ、目の前の男が遠い目付きをし。それから再び強い眼光へと戻り、
イン・クンフォー:「――研究者の良心など信じない方がいい」
 真っ直ぐ。
 男の視線が、真っ直ぐスパイクの視線に向けられていた。
 それは――ある意味堂々と、胸を張るように。
イン・クンフォー:「だから――お前らも遠慮なく壊しに来い。正面から相手してやる」
 そう言い、そしてにやりと笑いかける。余程のひねくれ者なのか、皮肉屋なのか…それは分からなかったが、ただ1人、この塔の中で過ごし、外の人間との接触をほぼ絶っているその生き方が少しは分かったような、気がした。
 気がしただけだけれど。
スパイク:「いっそ今のうちに壊してしまえばいいんじゃないのか?」
 半ば無造作に、一番手近にある作りかけらしい筒状の何かを、ケーキか何かを切り分けるようにすぱりと切り落としながら言う。
イン・クンフォー:「何をするか!せっかくここまで作ったものを」
 ごとん、とその切り落とされた筒が床に落ちる音を聞いてずかずか近寄ってきた男がそれを拾い上げ、そして刃物のような鋭い視線をスパイクに向ける。
イン・クンフォー:「…これは……まあいい。さて、それでは帰る時間になったようだ。右手のドアから出て行きたまえ、一方通行の道だが罠は無い」
葉子:「ハイコレマデヨっ〜て?――ヤダナァ。俺タチそんなんで大人しく帰るってオモッテナイヨネ旦那?」
 真上からひょいと切り落とされた筒を拾い上げ、指先でその切り口の滑らかさを楽しんでいる様子の葉子が目も合わせずに男へ言い、そしてぎゅむっと眉を顰めた男が大仰な溜息を付くと、がさごそと研究机の引き出しを探った。
イン・クンフォー:「――分かった分かった。下手にこれ以上探られてはかなわん、これを持って行け」
 ぽいと無造作に放り投げた皮袋をオーマが受け取り、中を覗き込んで皆に見せてまわす。
イン・クンフォー:「自前の採掘場から取ったモノだ。私が使うには小さすぎるがお前らには丁度良いだろう」
エルダーシャ:「あら?もう1つ、入っていますね」
 小さく切った羊皮紙に、びっしりと細かい文字で書き込まれた地図が、言うように小粒ではあるが良質な魔法石の間に埋もれており。顔を上げて見ると、後ろを向いた男が自分の研究の続きに戻って行きながら、
イン・クンフォー:「この近くに、もう1つ優良な鉱石の採掘場跡がある。少しばかり調べたのだが今の場所の方が良いのでそれにはもう興味が無い。――採掘跡だが完全に枯れたわけではない。…変な物を掘り当てたらしい、それで皆逃げ出した…それだけだ」
オーマ:「それだけってまぁ、確かにオッサンには関係ない話だろうがなぁ…」
オウリス:「へんなものって、なに?おいしい?」
イン・クンフォー:「そこまで私が知るものか。――さあ、帰った帰った」
 ふ、っと室内の灯りが薄暗くなり、イン・クンフォーの辺りだけがぽう…と明るさを増す。
スパイク:「あー…その、押しかけたってのにわざわざ土産までくれて、サンキュ、な」
イン・クンフォー:「なに、構わぬさ」
 その時だけ、くるりと顔を振り返らせた男がにやりと笑い、
イン・クンフォー:「罠の調整に付き合ってもらった礼ということにしておこうよ。…被害も大きかったがな」
 そして、今度こそ自分の研究へと没頭していった。
 後は何を話し掛けても、返事をすることがなかった。からかいの言葉をかけた時だけは、ぴくっ、と反応したそうに身体が動いていたのだが。

***

オウリス:「結局さぁ。あのヒトってー、私たちに来てもらいたくなかったの、来てもらいたかったの、どっちー?」
 じゃらじゃら。
 皮袋をぽんぽんとお手玉のように手の上で跳ねさせながら、オウリスがぽつんとそんなことを呟く。
エルダーシャ:「さあ…、どうなんでしょうね〜。あんまり悪い人には見えなかったんですけれど…案外、誰かが遊びに来るのを待っているのかもしれないわね〜」
葉子:「ソコラ辺はエル店長の人をミル目によるんだろうケド…信頼シテもイイノカネ?」
エルダーシャ:「ひどいですね、ようこちゃんって。私はようこちゃんも良い人だって思ってるのに〜」
スパイク:「やっぱり信用しない方がいいんじゃ…」
オーマ:「なぁに言ってんだよ、エルダーシャの目は確かだぜぇ?何しろこの様々なモノが溢れかえってる俺様に臆した事も無いしな。俺様がイイ奴だってことは分かるだろ?」
スパイク:「………あ、ああ。そうだな。――エルダーシャの目云々はともかく、エルダーシャがいいやつだと言うのはよーく分かった」
葉子:「イロモノダンナを『良いヒト』って見るエル店長もどうかと思うけどネー」
オウリス:「いーじゃん、良くても悪くても…だめだぁ、眠い〜。誰か連れて帰って〜」
 ぽてぽてと歩いていたオウリスの足取りがふらん、と揺れ、慌ててすぐ近くを歩いていたスパイクが支えると、寄りかかる何かが見つかったのに安心したかそのまますやすやと寝入ってしまう。
スパイク:「えーと…」
オーマ:「ほれ、寄越せ」
 自分が担いで帰らなければならないのだろうか、そんなことを思う間も無くオーマがひょいとオウリスを抱え上げた。
スパイク:「…すまない」
オーマ:「気にすんな。なぁにこの素晴らしきイロモノ溢れる肉体があれば辛いなんてことないしな」
エルダーシャ:「あー、いいわね。私も連れ帰ってもらおうかしら〜」
葉子:「エル店長がダンナに乗っかるナラ店員もビンジョーしましょ〜♪」
スパイク:「…俺はいい、俺は。…おっと」
 ぶらん、とオウリスの腕が力を無くして降りてきた勢いで、さっきまで握っていた皮袋が床に落ちる。それを拾い上げ、そして無くさないよう荷物の中へと仕舞いこんだ。…せっかく、ここまで来て手に入れた品なのだし。
 そして、何気なく後ろを振り向いて気付いた。――そこは、確か来た時には通風孔と罠が仕掛けられていた場所だった。雨が吹き込まないよう、少しだけ外から引っ込んだ部分に仕込んであったのも覚えている。
 いつの間に排除したのか、落とされた矢も切り取った鉄柵も見当たらず。
 そして――研究室は、覚えている限りでは塔の上部にあった、筈だった。
オーマ:「一方通行ってのはそういうことか。転移装置が仕掛けられてたんだな」
葉子:「ほほぅ?ンジャそれを塔のテッペン、出っ張りの上に飛ばせば立派なトラップになるって事ジャン」
 塔の外、柔らかな地面の感触を楽しみながら葉子が楽しげに言う。当然、自分は飛べることを思ってのことだろうが。
スパイク:「ってちょっと待てよ。そこの3人は飛べるし…」
エルダーシャ:「?」
 眠っているオウリス、そのオウリスを肩に担ぎ上げたオーマ、そして楽しそうな葉子を順に見た後で視線を向けられたエルダーシャはかくん、と首を傾げて上を見上げ。
エルダーシャ:「あー、大丈夫〜。あのくらいからなら、なんとかなるから〜」
 にっこりと笑って見せた。
スパイク:「それじゃ上まで飛ばしたところで俺にしか罠にならねえじゃねえか…」
オーマ:「そうなるなぁ。はっはっは、まあ諦めろ」
スパイク:「出来るかっ」
オーマ:「じゃあ俺様のあつーい胸板に抱きとめられながら下まで行くか」
スパイク:「……いや、それは遠慮しとく…」
 くぅくぅ眠っているオウリスを担ぎ上げたままん〜〜〜っと大きく伸びをしたオーマが、くるりと皆を振り返り、
オーマ:「それじゃ、帰るか。歩き良い所まで送ってやるよ」
 にやり、と、ある種人懐っこい笑みを浮かべて言い放った。

epilogue
 住み慣れた街が目の前に見える。ここからならば、後は平原を少し渡ればすぐだ。
 流石に獅子の姿のまま街の中に入ろうとはせずに、険しい山を避けて海岸線を越え、川を軽く飛び越えた先の平原でオーマはふわりと地面へ着陸した。
オーマ:『――オウリスを頼む』
葉子:「アイヨー☆」
 くにゃん、と空を渡る間も呑気に眠っていたオウリスを、珍しいことに葉子が真っ先に抱きかかえるとお姫様抱っこでふわん、と獅子の上から優雅に降り立った。その後をエルダーシャがさり気なく魔法を使いつつ、するすると降りてくるスパイクを手伝って地面に降り立つ。
エルダーシャ:「オーマさん、いいわよ〜。お疲れ様ー」
 ふわふわとした手応えのなさそうな笑顔が、巨大な獣に向かってぱたぱたと手を振った。こくり、と深い色の瞳で皆を見ながら頷いたオーマが、降りやすいように寝そべった身体を大きく立ち上げた…と見る間に、再びあの姿――銀髪の若々しい青年となって、くしゃりと風になびく銀の髪を手ぐしで乱暴に掻き上げる。
オーマ:「ん〜、いい風だ。たまんねぇな」
 普段のオーマよりも見た目は若いのだが、威圧感はこちらの方が遥かに上。いや、寧ろこれでも抑えているような気さえする。
エルダーシャ:「お疲れ様ねー。帰ったら冷たいお茶でも飲みましょうか〜」
スパイク:「そりゃありがたいな」
 塔を上がったり降りたり動き回ったせいで結構汗もかいている。思わず顔をほころばせたスパイクの隣で抱きかかえられていた体から腕が動いてこしこし、と目を擦る。
オウリス:「……ん〜〜〜〜、私甘いの〜〜〜」
葉子:「ム、起きてるんだったら何時までもぶら下ってネーデ。あー、エル店長、出すのはイイケド手伝ってクレヨ?」
エルダーシャ:「そうねー、いいわよ。なんだったらご飯も出しちゃおうかしら〜?」
葉子:「アイアイ。ジャア俺サマ腕にヨリを戻してやらせて頂きマショー☆」
スパイク:「戻さなくていいっ。じゃなくて下手に弄らない方が…なんなら俺も手伝うよ」
 何か葉子の言葉に酷く不安になったのだろうか、スパイクが思い切り苦笑いをしながら言い。その後ろからすっかり普段通りの姿へ戻ったオーマがにやにや笑いながら話に首を突っ込んでくる。
オーマ:「それじゃ俺様の親父パワーも加えさせてもらうかぁ?異世界へようこそってな素晴らしい味を保障するぜ?」
スパイク:「いや、いやいやいやいやそれは結構」
エルダーシャ:「あら〜。オーマさんのお店の品使っちゃうんですか〜?ハーブなんかの薬草尽くしもいいわねぇ…」
オーマ:「おうおう、疲れた身体に確実にキく料理でも作りゃいいのかい?一口でぶっ飛ぶような素晴らしいシロモノの調合ならお任せってトコだが。まあ、ほんの少々副作用はあるかもしれねぇがそれもまた愛嬌ってことでな」
オウリス:「どーでもいいけど…出来るまで寝ててもいい〜?」
 葉子に抱かれていたオウリスが、降ろされたものらしくほてほてと歩きながら聞いて来る。いいわよ〜、と楽しげな声のエルダーシャに、大きく首を振りながら、
スパイク:「そんなモン食えるかぁぁぁぁっっ!」
 スパイクの絶叫のような声が、広い広い平原へと響き渡った。


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ライター通信
お待たせしました…お気に召すと良いのですが、無事に探索を終えて戻ってきた所で終了です。
このまま打ち上げになだれ込む気配ですが、ナニが作られるか間垣は関知いたしません(笑)
疲労回復、に効けば良いなぁと思いつつ締めさせていただきます。

発注していただいてありがとうございました。また宜しければご利用下さい。お待ちしています。
間垣久実