<PCクエストノベル(1人)>


共同戦線〜クーガ湿地帯〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

 ■1953 /オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り

【その他登場人物】

 ■大蜘蛛
 ■ウォズ数体

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■□■ 想い

 目の前で崩れ去る姿をもう見たくはなかった。
 寿命で命の灯火が消えるのは理解できる。
 しかし、寿命ではなく他人の介入があっての死は理解できない。いや、したくなかった。
 不殺生主義などこの混沌とした世界においては甘すぎるのかもしれない。
 それでもオーマにはその考えを曲げる事は出来なかった。
 自分の目の前で誰かを失ってしまう事も、そして自分自身が消えてしまう事も。
 その想いを諦める事は死を意味する。
 肉体の死も、そして心の死も。
 志の消えた心など生きてはいない。
 だから、どんなときでも最前を尽くす。
 それがオーマの信念であり、前を向き生き続ける源だった。

オーマ:「さてと…あれは一度失敗しちまったからなぁ。もう少し改良しねぇと実用には向かねぇし」

 先日作った薬を前にオーマは呟く。
 最近、このソーンにもウォズといわれる存在が多く入り込んできていた。
 そしてそのウォズを狩れるのは、ヴァンサーと呼ばれる者達だけで普通の人間では微かな傷を付ける事は出来ても完全なる封印まですることは出来ない。
 むしろ封印すら出来ない人間が頑張ったところで命を落とすのは目に見えている。
 それに彼らを屠る事は色々な意味において禁忌とされていた。
 ヴァンサーにとってそれは『同族殺し』を意味し、多大なる『代償』を背負うばかりではなく、その場に在りしモノ全ての『死』に繋がるということから『封印』という形で彼らを捕らえるのだ。
 オーマ以外にもヴァンサーと呼ばれる者達がウォズを追いソーンへとやってきてはいたが、ウォズの数がどのくらい入り込んでいるのかも未だ分からない状況だ。
 ウォズが出たからといってすぐにオーマが駆けつける事が出来るとは限らない。
 もしヴァンサー以外がウォズと遭遇した時に、微弱な効果でも一時的にその場をしのげる程度の具現能力を使えたとしたらどうだろう。
 それは時間稼ぎにも使えるのではないか、とオーマは思う。
 オーマは先日、ウォズとの戦いの際ウォズによって死者が出てしまった事を未だに悔やんでいた。
 それは『仕方なかった』等という一言で括られるようなものではない。
 あの時、どうしてそのようなことが起きてしまったのか。
 それを考えるたびにオーマは自分の力が及ばなかった事を悔やんだ。
 もし、既に具現能力を使える薬とも呼べる『茶』を開発していたらあのようなことは起きなかったのではないかと。
 しかし悔やむだけでは前に進む事などできはしない。
 すでに失ってしまったもの、それを心に焼き付け、そして前へと進む糧とする。
 そして今オーマは時間を見つけ、護身用的な『茶』の開発を密かに進めていた。

オーマ:「あぁ、やっぱりあいつとはラブラブとまではいかなくてもだ、スウィートな関係っつーか仲良くなっとくべきだよなぁ……」

 悩んでいるのは性に合わない。
 オーマは、よし、と呟くと必要最低限のものを鞄に突っ込むと、薬草専門店を後にした。



■□■ いざ湿地帯へ

 クーガ湿地帯に足を踏み入れるのは初めてではない。
 オーマは勝手知ったる土地の如く、ぬかるみで足を取られるものの迷うことなく進んでいく。
 オーマの目指すのはもちろん、この湿地帯の主である大蜘蛛の住処だった。
 前回は力業で蜘蛛の糸を持ってきたのだが、今回はそういうわけにも行かないだろうと思う。
 これからも『茶』の研究で大蜘蛛の糸を使う事が多くなるに違いない。
 凶暴な大蜘蛛と和解出来るのかどうかは分からないが、出来るだけその方向で話を持って行きたいとオーマは思っていた。

オーマ:「まぁ、なんとかなるだろう。この俺様のグレイトでイロモノな熱き想いを知ったら大蜘蛛だって惚れるかもしれねぇしな」

 やけに無茶苦茶な事を口走っていたが、オーマは本気だった。
 とにかく大蜘蛛の糸を手に入れるためにオーマは進む。
 しかしもう少しで大蜘蛛の住処に辿り着く、というところでオーマは見知った気配を感じ取り歩みを止めた。
 それは本来ならばこの世界には存在しなかった生物。
 まさかこんなところで出会うとは思いもしなかったが、オーマは大蜘蛛の住処の近くにウォズの気配を数体感じ取った。

オーマ:「なんでこんな所にいやがるんだ……?いや、理由があって存在してるとは限らねぇなぁあいつらは」

 気配を悟られないよう、オーマは慎重に前へと進む。
 木立の影から様子を窺うと、人型のウォズが2体とまるで芋虫の様な姿をしたウォズが2体が大蜘蛛の住処の前に固まっていた。
 どうやら大蜘蛛の住処を窺っているようだが、芋虫型の一体が動き出した。
 何をしようというのだろうか。
 みるみるうちにその芋虫の姿が変形していく。
 そしてそれは巨大な剣へと姿を変えた。
 ギラギラと光る刃が鬱蒼と茂る木々の間から漏れる光に反射して煌めいた。

オーマ:「おぃおぃ、大蜘蛛の糸を切ろうっていうのか……」

 剣となったウォズを人間体のウォズが持ち、前へと進む。
 そしてそのまま幾重にも張られた糸を切り落とした。
 その自分の巣を荒らされた衝撃に気づいた大蜘蛛が奥から現れる。
 出入口を埋め尽くすような大蜘蛛にウォズは容赦なく剣を向けた。
 しかし大蜘蛛もそれくらいでは怯むことなく、吐いた糸でその剣自体を使い物にならないくらいに瞬時に巻いてしまう。
 すると人型のウォズはその剣を使い物にならないと思ったのか、沼地にそのまま放り投げた。

オーマ:「狙いは……大蜘蛛か。厄介だな」

 オーマは狙いを定め具現能力で取り出した愛用の銃でまずは芋虫体のウォズを狙った。
 相手はまだオーマには気づいていない。
 屠ることはしないまでも、具現する力ぐらいは削いでおくに越した事はない。
 銃を構え安全装置を外す。
 その時、カチリ、という微かな音が湿地帯に響いた。
 振り返るウォズ達。

オーマ:「ちぃっ!こうなったら隠れていても仕方ねぇなぁ」

 そのままオーマは一発芋虫体にお見舞いすると、大蜘蛛の方へ駆けた。
 そして動植物や魔物と会話できる能力を使い、大蜘蛛に呼びかける。

オーマ:「よぉ。久しぶりだなぁ。この間は悪かった」
大蜘蛛:「貴様はっ!何をしにきた!アイツラも貴様の仲間か!」

 ギィギィとうるさいくらいに喚く大蜘蛛だが、人型のウォズの一体が大蜘蛛に迫っていた。
 そしてもう一体はオーマの元へ。
 話している隙を与えないとでも言うかのように、鋭く伸びた爪で大蜘蛛とオーマを襲う。
 オーマに一撃喰らったウォズはそのまま動けないでいた。

オーマ:「っ!これが仲間に見えるかってんだ。こいつと仲良かったら俺は攻撃受けて喜ぶ変態か?腹黒イロモノ親父だがっ、そんな性癖は持ちあわせてねぇなぁっ……っと」
大蜘蛛:「ならばコイツラは何故攻撃してくるっ!」

 際どいところで避けながらの会話。
 そんな余裕など無いはずなのにオーマは笑みを浮かべている。
 爪が突き刺さりそうになるのを持っていた銃ではじき返し、更に一発喰らわせる。
 しかしそれ位では致命傷になるはずもなく、即座に間合いを詰めてはオーマの首筋を狙ってきた。
 大蜘蛛は大蜘蛛で固い剛毛で覆われている足でその爪を弾き、糸を吐いては攻撃を繰り返している。

オーマ:「こいつらはウォズってやつらで、多分にしてお前さんのねぐら欲しさだろうなぁ。それでだ。良い事思いついたんだけどよ。お前さん乗る気はあるか?」
大蜘蛛:「乗る気も何も………それしか方法が無いと言うのだろう?」

 その言葉にニヤリとオーマは笑う。

オーマ:「察しが良いなぁ。ここは一つ俺と共同戦線をくまねぇか?どうやら現在あいつらは共通の敵。しかも俺でないとウォズは封印できない。…ということはだ、あいつら封印しなけりゃお前さんは安心して寝れねぇって事になるなぁ」

 悩む暇はなかった。
 大蜘蛛はオーマの言葉に頷くしかない。

大蜘蛛:「我とてまだ死にたくはない。ねぐらを奪われるわけにもな……いいだろう。お前の案に乗ってやる」
オーマ:「よし!それじゃ兄弟、イロモノ技MAX全開で完全粉砕決行だな」

 イロモノ親父と大蜘蛛のタッグが組まれた。
 それは歴史に残るものなのではないか。

オーマ:「それじゃとりあえずだな、あいつらが動けなくなればいい。そうしたら俺のスペシャル封印術を喰らわせてやる。足止めを頼んだぜ」
大蜘蛛:「よかろう。しかしどうやって……このままでは……」
オーマ:「こういう時はだなぁ、こうやんだよっ!」
 
 オーマは今度は身の丈よりも大きな銃を取りだし、渾身の力を込めそのまま目の前のウォズを突き飛ばす。
 そして大蜘蛛にも同じ事をするよう指示をだした。
 大蜘蛛もそれに合わせ思い切り足でウォズを振り払い1体目のウォズの付近へと飛ばしてやる。
 そこに照準を合わせたオーマは大砲と言えるほど大きな銃で2体のウォズを狙った。

オーマ:「今だっ!奴らに向けて糸を吐き出せっ!」

 岩壁に叩き付けられたウォズ達はすぐに反撃をしようと身を起こすが、そこに大蜘蛛の糸が吐き出され、真っ白になっていく。
 そして隙間無くその糸を絡められたウォズの繭がそこに二つ誕生した。
 オーマは近づいていきそれらが糸を切って暴れ出さないうちに封印を施す。
 すぅ、と吸い込まれるようにウォズは質感を失いオーマの中に吸い込まれていく。
 しかしウォズはその2体だけではなかった。
 足下にいた芋虫型のウォズがオーマの足に食らい付く。
 油断していたオーマはまともにその攻撃を受けてしまうが、大蜘蛛の巨大な足がその芋虫を突き刺し引きはがした。

オーマ:「助かったぜ。芋虫の串刺しはまずそうだけどなぁ」

 苦笑しながらオーマは大蜘蛛が押さえつけている間にそのウォズも封印してしまう。
 そして始めに大蜘蛛に繭にされてしまったウォズも封印し、大きな溜息を吐きながら大きな石の上に腰掛けた。


■□■ 大蜘蛛との交流

 一息ついたオーマは、住処の入口に居る大蜘蛛に改めて声をかける。

オーマ:「お疲れさん。やっぱ俺の見込んだ奴だったぜ、お前さんは。俺たちは最高のタッグを組む事が出来たよなぁ」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべ、オーマは大蜘蛛に告げる。

オーマ:「そこでだ。更に俺は良い事を思いついたんだが……これからも互いに協力するっていうのはどうだ?」
大蜘蛛:「貴様と組むのはこれっきりだ。これからはない」
オーマ:「そう言うなって。またあいつら来るかもしれねぇし、俺としてもあいつらを封印するべく頑張る中でお前さんの糸が必要だったりするしでだな、俺たちが手を組むって事はそれほど悪い事じゃないと思うんだがね」

 無言のままの大蜘蛛にオーマは更に続ける。

オーマ:「つーか、俺としてはそういうこと抜きにしてお前さんと友達になりてぇなぁと思ってるんだが。利害関係抜きにしてだ。腹割って話そうぜ」
大蜘蛛:「………くだらん」
オーマ:「くだらなくねぇだろうがよ。別にお前が凶暴だと恐れられてる大蜘蛛だろうとなんだろうと、俺には全くそんなこと関係ないし、どうでもいいことだ」

 そんなオーマを大蜘蛛は見下ろす。
 オーマはにやついた笑みを浮かべていたが、目だけは本気だった。

大蜘蛛:「貴様は…………」
オーマ:「………」
大蜘蛛:「……勝手にするが良い」

 大蜘蛛が折れた。
 そして大蜘蛛は先ほどウォズに切られた糸をオーマの元に蹴り落とす。
 それを拾い上げたオーマが大蜘蛛を見上げ笑った。

オーマ:「おぅおぅ!これからも仲良くやろうや。たまーに、いや、これから頻繁にここに遊びにくっからよ。今度は手みやげでも持ってきてやろうかね」
大蜘蛛:「……うるさい奴だ。さっさと帰ってしまえ」
オーマ:「これからもっとうるさくなるぜ?俺様はしつこいからな」

 豪快に笑い飛ばしたオーマは大蜘蛛から貰った糸を手に、ひらひらと大蜘蛛に手を振ると薬草専門店へと足を向けた。
 湿地帯に差し込む夕日が、鮮やかな色で景色を染め上げていく。