<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


【夢見の実】
 白山羊亭には、多くの冒険者をターゲットにした行商が訪れることも少なくない。
「こいつは『夢見の実』といってね。寝る前に食べるとあら不思議、見たい夢を100パーセント確実に見ることが出来るんですわ」
 小太りの行商男がその実をつまんで見せた。色は白く、大きさはサクランボほど。
「見たい夢を……確実に見られる?」
「そうです。名前のまんまですわ」
 おおーと、どよめきが起こった。何とも神秘の代物ではないか。
「わー、面白そうですね。ルディアもひとつ買います」
「まいどあり」
 白い実をひとつ受け取って、ルディアは何を見ようかと嬉しそうに思案し始めた。
「夢は無限の世界です。かつてない強敵との死闘に胸を高鳴らせるもよし、はたまた憧れの人とめくるめくひと時を過ごすもよし。……おお、二度と会えないあの人に会いたいってのも、もちろん可能ですぜ。さあ、こいつは買わなきゃ損だよ!」

 寝台に入って灯りを消すと、エルダーシャは夢見の実を口に放り込んだ。あまりに買い手が殺到したのでひとつしか買えなかったのが至極残念だ。見たい夢を確実に見る――これが最初で最後の経験かもしれない。
「……あま〜い♪」
 虫歯になったらどうしようなどと思わず考える。笑みがこぼれるほど(といっても年中笑みを絶やさない彼女である)の甘さだ。
 甘味だけでなく催眠成分も含まれていたのかもしれない。エルダーシャはすぐに眠りの世界に身を委ねることが出来た。

 ――空は淡い桃色。プカプカと可愛い音がする雲に乗っている。飛べと命じるとものすごいスピードで進む。途中、鳥が話しかけてきてなかなか驚いた。
 こうも都合よくエルダーシャの気質に合う世界。さすが夢は何でもありだと思った。
 そうして雲のジェットでノンビリマッタリ、いずことも知れない空間を進むと、やがて目的の神様たちに出会うことが出来た。彼らは雲に乗ることなしに空に浮かび、ニッコリと微笑んでいる。
「スーちゃん様、キューちゃん様!」
 エルダーシャは大きく右手を振った。
「お久しぶりですね」
 球の体をした神様、キューちゃんがエルダーシャの元へ飛んでくる。
「本当、久しぶりね〜」
 ガッシとキューちゃんを掴むエルダーシャ。
「それにスーちゃん様も〜!」
 と、笑顔でキューちゃんをスーちゃんに投げつけた!
 ただ投げられるままかと思いきや、キューちゃん自身ノリにノッて加速する。こちらいたって普通の人の形をしたスーちゃんは、あえなくローリング・ボールの直撃を食らう。
「はは、いやホント久しぶりだね色々と。ずいぶんと力持ちになったようですし」
 山に穴が開くほどの勢いだったにも関わらず、お腹を軽くさするだけでヒョイっと起き上がる人型神様。これで挨拶は終了である。
 ここからとめどない雑談に入る。しょうもないことから大笑いするようなこと。悲しい話や美しい話。話題は一向に尽きない。
 いつしかキューちゃんが空腹を訴えると、スーちゃんが手の平を打ち合わせて紅茶セット一式とクッキーを出現させた。紅茶屋の店長でもあるエルダーシャは喜びに喜ぶ。
「変わりませんね、エルダーシャ。美しい乙女のままの姿は時には嫉妬を買うこともあるのでは」
 誰のせいですかーと背中を叩かれるスーちゃん。
「お蔭様で長生きしてますし、元気にやっています。考えるのも3秒で面倒になるほどの時間が経ったなあ」
「退屈はしませんか」
 キューちゃんは念動力でクッキーに触れることなく口に放り込む。
「不老不死だからこそ、色んなところを旅をして、色んな人に出会えて……ちっとも退屈なんかなかったわ。おまけに――千里眼、神器生成、時空転移とか素敵な力も授かっちゃって敵なし」
「それはよかった」
「これからも大切に使ってくださいね」
 スーちゃんキューちゃんともに、力の後継者にご満悦の様子である。
「んー、それにしても今までにない味わいだわ。この紅茶の葉はどんなのかしら?」
 エルダーシャが聞くと、スーちゃんは右の手の平を握った。開くと紅茶の葉が乗っている。見る角度によって金色になったり海色になったり虹色になったりする。
「これはそうですね、頭で究極の味のイメージをするだけです。私に作れるのだからエルダーシャにも作れるのでは」
「そっか、試してみようかな」
 エルダーシャはカップを置いて、一息ついた。
「……あのね、ふたりに逢わせたかった子がいるのよ」
「私たちに?」
 キューちゃんは目を丸くする。
「そう、すごく逢わせたかった」
 エルダーシャが振り返った先に人影が見えた。
 彼あるいは彼女は、エルダーシャの手招きに応じてこちらへ近づく――。

 小鳥の鳴き声が耳をくすぐった。
 淡い光が瞼を通り抜け、脳に活動を促す。全身に力がみなぎる。
 寝台から起き上がる。現実的な視界と匂いと感触。――目が覚めたのだ。
「終わりは唐突に……か」
 いかに不老不死の身でも、永遠に夢の世界に身を置くことは叶わないということだろう。彼女はそう考える。
「夢の中で逢わせても、ね。まあ、3人の顔が見れてよかったわ〜」
 あくびをかみ殺し、エルダーシャは背伸びをする。また変わりのない日常が始まる。

【了】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1780/エルダーシャ/女性/999歳/旅人・魔法遣い・2号店店長】

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■         ライター通信          ■
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 silfluです。このたびはご依頼ありがとうございました。
 自分としては、ちょっと今までとは趣の異なる話でした。
 楽しんでいただけたでしょうか。
 
 それではまたお会いしましょう。
 
 from silflu