<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


雪まみれの天使


------<オープニング>--------------------------------------

「はっくしゅんっ!」

 エスメラルダが身を震わせてくしゃみをすると、隣にいたジークフリートが心配そうに顔を覗き込む。
 ちょうどステージが終わった直後だったため、二人は皆の注目を浴びてしまう。
「大丈夫ですか?なんか突然冷えてきましたけど……」
 そう言いながらジークフリートは外に目を向け、驚いたように声を上げた。
「……雪っ?」
「まさか、馬鹿言ってるんじゃないよ。なんでこの時期に雪なんて……」
 ジークフリートを笑い飛ばしたエスメラルダは、ジークフリートの指す窓に目をやり声を失った。
「でもやっぱり雪ですよ、これは……」
「嘘だろぅ?なんで雪なんて……」
 やっとの想いで口を開いたエスメラルダだったが、異常気象にただただ驚くばかりだ。
「何かあったんでしょうか……」
 不安そうなジークフリートの声。
 その時、黒山羊亭の扉が開かれて雪を頭に積もらせた人物が入ってきた。

「スミマセン……助けて貰えません?」
 真っ白な翼をはためかせた雪まみれの人物がそこにいた。
 緩やかなウェーブの金髪も白い翼も全て真っ白。溶けた部分からかろうじて金髪だということが分かる。
「何があったのか分からないけど……とりあえずその雪をはらったら?」
「はい」
 そう頷いてその人物はばさばさと雪を払ったのだった。


------<降り出した雪>--------------------------------------

 ルーセルミィが働いているのは酒場だったが、夜だけやっていたのでは収益も上がらない。
 もちろん稼ぎ時は夕方からだが、酒場とはいえどもランチセットなどもだしていくらかでも収益を上げる事に精を出していた。
 そして、今日のルーセルミィの出勤時間は昼間だった。
 今日も今日とて可愛らしい笑顔を振りまき、ルーセルミィはテーブルの間をぬって動き回っていた。
 小さい身体をすっと滑り込ませるようにし、狭い通路もクリアする。なおかつ手にしたトレイは水平に、そして笑顔を忘れない。
 昼間とはいえ、味でも評判の良い酒場には立ち寄る客も多い。
 それに今日は真夏日で客は店へと安らぎを求めてやってきていた。疲労度も普段の倍はあるに違いない。
 ルーセルミィはどんな忙しい時でも笑顔を絶やさずに客を迎えていた。それは今日みたいに茹だるような暑さで、自分自身も暑くて辛い時でも変わりはない。
「いらっしゃいませ〜☆」
 心からの挨拶はそれだけで他人の心を和らげる。そしてそれに加わる笑顔も。
 まさにルーセルミィはその店の看板のようだった。

 そしてルーセルミィの出番は終わり、やっと一息つく事が出来る。
 あとは家に帰るだけだったが、それだけではつまらない。
 ルーセルミィはちらりと空を見上げ、綺麗な夕焼けを見つめる。
 そして真っ青な空がゆっくりと姿を変えていく瞬間の空にルーセルミィは翼を広げ羽ばたいた。

 ルーセルミィの向かう先は一番ジークフリートの出没回数の多い黒山羊亭だった。
 ジークフリートの歌声は昼間他人を癒すために笑顔を振りまいていた自分へのご褒美のようなもの。
 少しくらい甘えたっていいのではないか、と思わせる雰囲気がジークフリートにはあった。
 黒山羊亭に向かう途中、突然冷えてきた空気にルーセルミィは動きを止め空中に止まる。
「なにコレ……」
 腕と足と腹が晒されている状態のルーセルミィは身を震わせる。
 真夏なのだからこの恰好でも寒くはない。むしろ暑いかもしれない。
 それなのにこの涼しいを通り越した寒さは異常だった。
 身を抱くようにしながらルーセルミィは目の前をよぎる小さな白いものを見つめる。
 そして呆けたようにそっとその白いものに手を伸ばした。
「…………雪?」
 掌に落ちてすぐに消えていく白いもの。
 それは間違いなく雪だった。
 この時期に雪が降るなどあり得ない。
 ちらちらと舞う雪は次第にその強さを増し、吹雪いて来るではないか。
「ちょっ……なにコレ……寒いし…信じらんない…」
 あっという間にルーセルミィは雪まみれになってしまう。
 慌てて高度を下げ黒山羊亭に入り込もうとした時、ルーセルミィよりも先に黒山羊亭の中に入っていった人物が居た。
 その姿にルーセルミィの脳裏にちらりと浮かぶ光景。
 昔、ルーセルミィはその人物を見た事があったのような気がしたのだ。
「まさか……ね」
 そう呟いて、今度こそ雪の重みで地面に落ちそうになる前にルーセルミィは黒山羊亭に飛び込んだのだった。


------<冒険デェト、レッツゴー♪>--------------------------------------

 黒山羊亭に転がり込んだルーセルミィは入口に人が居ない事を確かめで羽をぱさぱさと動かし、そして頭をブンブンと振って雪を払った。
「ルーセくん……雪まみれじゃないですか」
 大丈夫ですか、とジークフリートが奥からタオルを受け取り駆け寄ってくる。
「やほージーク♪今日もご機嫌麗しゅう〜☆」
 そんなジークフリートの姿を見て、今まで凍えそうに寒かった事も忘れニッコリと微笑み駆け寄ってきたジークフリートに抱きついた。
 首にぎゅぅっ、と抱きついてジークフリートの暖かさを感じる。
 それがとても心地よくて、そしてとても嬉しくてルーセルミィは絡める腕を強めた。
「ルーセくん……も…少し緩めて下さい……けほっ」
「あー、ごめんごめん。ジークに会えたから嬉しくって」
 それに暖かいんだもん、ごめんね、とペロっと舌を出しルーセルミィは軽くウインクをする。
「雪まみれでやってくるから……こんな雪の日にまで……」
 心配そうに告げるジークフリートにルーセルミィは、少し頬を膨らませて告げた。
「それジークおかしいってば。だって今は真夏でしょ。この雪がおかしいんだよ?」
 確かにその通りだった。

「それはですねぇ……」
 ジークフリートの影から現れた人物にルーセルミィは首を傾げ、そして、あっ、と声を上げた。
 それは先ほど自分が黒山羊亭に飛び込む前に見かけた人物だった。そしてどこか見覚えのある人物。
 しかしそれが誰かなのか思い出せない。もしかしたら他人のそら似かもしれなかった。それ以上ルーセルミィは考えるのを止めジークに軽口を叩く。
「何?ジークっては、今度は金髪色白美人さんを引っ掛け……」
「違います、違いますって。何でそう勘違いされるような事ばっかり言うんですかー!」
 ボク毎回変質者みたいです、とジークフリートはルーセルミィの言葉に被るくらいの慌てぶりで否定すると、苦笑しながらルーセルミィにその人物が天上からやってきた天使である事を告げる。
「……て……ええぇっ!ソレ、ほほほ本物の天使ーっ!?(@▽@;)」
 にゃーっ、と少しパニックになったルーセルミィだったが、ジークフリートに優しく髪を拭かれている間にやっと落ち着きを取り戻す。

「えぇぇっと、それじゃキミは天上の気象管理庁の所属で、ほんの出来心で雪を降らせる宝石を持ち出したら魔族に盗られてアラ大変……って事?」
 ルーセルミィは今まで伝えられた事を反芻して並べ立てる。
「はい、その通りです」
「………ドジ?」
 ぐさぁぁぁぁぁっ、とルーセルミィが放った一言が天使に突き刺さる。
 心が痛かったのか胸を押さえるようにしながら天使は呟いた。
「ボクの力では彼に太刀打ちできないんです。あっという間に盗られてしまって。ボクが殺されなかったのが不思議なくらいです」
 殺す価値ナイって判断されたとか?、と爽やかな笑顔でルーセルミィが告げるとうち拉がれたようにその場に崩れ落ちる天使。
「る……ルーセくん?あの……」
「あぁ、ジークは黙ってて☆………そうだな、取り返すの手伝ってあげるよ。このまんま雪だとジークのトコに遊びに来るのも大変だし。あ、もちろんジークも強制連行ね☆れっつ冒険デェト〜♪」
 くるり、とルーセルミィはその場でターンを決める。
「おいおい、デェトってねぇ。一緒に遊ぶ口実に利用してるだけじゃないのかい?」
 今まで様子を見守っていたエスメラルダが言うと、ルーセルミィは、えへへ、と笑う。
「まっさかぁ……ちゃんと手伝いはしますよー」
 ね?、とルーセルミィは上目遣いでジークフリートを見上げ、そして手を差し出した。
「もう。ルーセくんのその目には弱いんですよ、ボク。いいですよ、ご一緒します」
 クスクスと笑いジークフリートはルーセルミィの差し出した手を取った。
 完全に除外されている天使だったが、必死にその中に割り込む事に成功する。
「あのっ!彼が行った場所はボク分かるんです。ご案内します」
「え?そっか、道案内居た方がいいもんね。それ位役に立って貰わなきゃ」
 ニッコリと全開の笑顔を浮かべたルーセルミィ。言葉の端々に毒があるのは気のせいだろうか。
 しかしジークフリートは気にせずに頷く。
「そうですよね。道案内ないとこの雪ですし、大変ですから」
「ボク……道案内だけ?」
「だって、戦えないんでしょ?それって一緒にいってもねぇ?道案内できるから使えるだけで」
 さらり、と告げられる言葉は天使を打ちのめす。
「あははは……あの、エスメラルダ。防寒具とかありますか?この時期なんであるかどうか……」
 ちょっと待ってて、とエスメラルダは酒場の奥へと入っていき、手に白いふわふわのものを抱えて出てくる。
「ほら、これなら大丈夫だろう?」
 エスメラルダが持ってきたのは真っ白な毛皮のコートだった。ルーセルミィの分も天使の分もちゃんとある。
「すごーい、ふかふかーv」
 サラサラと指の間をくぐる長い毛を撫でてルーセルミィはそれを着てみる。
 少し袖が大きいような気もしたが、気になるほどではない。
「んじゃ、今度こそしゅっぱーつ☆」
 ルーセルミィはパタパタと走り、二人はその後に続く。
 そして三人は吹雪の中へと向かっていき黒山羊亭を後にした。


------<宝石を取り返せ☆>--------------------------------------

 んー、とルーセルミィは天使を何処で見たのかを思い出すのに必死だった。
 やはり何処か知っているのだ。なんというか漠然としたもものだったが身に纏う雰囲気が、過去の記憶の誰かに似ている。
 ちらりと浮かんでは消えていく顔。

「ルーセくん……ルーセくん。大丈夫ですか?」
「…え?」
 ジークフリートに顔を覗き込まれるまで気づかなかったのは不覚だった。余りにも深く考えすぎて周りが目に入らなくなっていたようだ。
 大丈夫だよ☆、と笑顔を浮かべルーセルミィは天使を見る。
「ねぇ……お兄さん、恋人とか居ないの?」
「へっ?」
 突然振られた話題に天使は、目を丸く見開いてルーセルミィを見た。
「天使ってほら両性具有っていうじゃない?だからさ、どんな人が恋人なのかなぁーって思って」
 教えてよ、とルーセルミィは可愛らしい笑みを浮かべる。
 もちろん天使の慌てふためく姿を見たいが為の話題なのだが。こういうことには奥手に見える天使は案の定、あたふたとパニックに陥っている。
 まるで『天使の見本』であるかのような姿の天使にルーセルミィは少なからず羨望と嫉妬の想いを募らせていた。
 自分には決してない色。金色の輝き。
 ちくり、と胸の奥が傷む。昔もいつだったか同じ思いを抱いたのを思い出した。しかしそれは未だに見えてこない。

「それじゃ、ルーセルミィくんの恋人はいるんですか?」
 どうしようもなくなった天使が言う言葉。それはもちろんルーセルミィには予測済みだ。
 うっとりするような笑みを浮かべ、ルーセルミィはジークフリートの腕に手を絡める。
「もちろん、ジークに決まってるじゃない。ね?」
 パチリ、とルーセルミィはジークフリートにウインクをする。
 これは合わせろという合図だろうか、とジークフリートは数秒迷った後、ルーセルミィの遊びに付き合う事にする。
「えぇ、そうなんです。だからさっきも雪の中……」
「そうそうvだってジークに会いたくて仕方ないんだもんv」
 ぎゅーっ、と抱きついて見つめ合う二人。
 そこには二人の世界が広がっている。
 ……が、二人は心の中ではかなりその状況を楽しんでいた。この二人は実は似たもの同士なのだ。ノリが良いというかなんというか。

「あっ……そのすみません、ボク……お邪魔ですね」
 それじゃ、と踵を返しそうになる天使のフードを引っ張りルーセルミィは告げる。
「道案内居なくなったら辿り着けないよ。ほらちゃんと、案内してってば」
 迷子になっちゃうでしょ、とルーセルミィは言うと天使を前に押しやるとその後をついていく。
 その道中もあらゆる事で天使をからかって遊びながら、ルーセルミィ率いるご一行は目的地へと辿り着いた。
 辿り着いた時には天使は気疲れでぐったりとしている。これでは本当に足手まといにしかならない。

「で、何処にいるの?」
 ルーセルミィが動けないで居る天使に尋ねると、天使はぐったりしつつも地下へと続いているであろう階段を指さす。
「あそこ…です。あの下に居るハズなんです………彼は」
 ………その言い方に何処か含みがある事に気づいたルーセルミィはそこを面白半分につついてみる。
「彼?……知ってる人なの?」
「……!」
 しまった、という表情を一瞬したのをルーセルミィは見逃さなかった。
「へぇ、知ってる人なんだ。それじゃ、ボクたちはなに?」
 すっ、とルーセルミィの瞳が細められる。
 冷たすぎる瞳、それは深い色を湛えていて。
「知ってるけど……でも……でも本当に盗られたたんだ。嘘は付いてない」

「あぁ、そうだ。俺が盗った」
 コツコツ、と階段を上ってくる音が聞こえそこに黒髪の男が現れた。
「だぁれ?宝石持ってる人?」
 男が姿を現した時にはルーセルミィの表情は一変している。浮かんでいるのはいつもの笑顔だ。
「宝石は持ってるな」
 ルーセルミィは笑顔で男に手を差し出す。
「それじゃ、宝石ちょーだい。雪降られると困るんだよね」
「でも俺もコイツがないとアイツを苛められなくてな」
 男は天使を指さす。びくり、と天使は羽を振るわせた。
 それを見てルーセルミィは、くすり、と笑う。
「耳貸して」
 攻撃なんてしないから安心して、とルーセルミィは近づいていき男の耳に唇を寄せた。
『そんなのなくてもきっとたくさん可愛がれると思うよ。だってもんのすごい意識してるもん』
 そう告げてニッコリと微笑む。
「ね、これはボクが保証する。だから、それ返して」
 そしてルーセルミィは、戦う意思無い人に攻撃しかけてもつまんないし、とさらりと告げる。
「……まぁ、それは俺にもわかってたんだが……」
 ぽいっ、とルーセルミィの手の中に宝石が戻ってくる。
「確信ないと怖いよね」
 男とルーセルミィの会話に天使はきょとんとした表情を見せている。
「全くな」
 その会話でジークフリートは何か気づいたようでルーセルミィに微笑む。
 そしてルーセルミィは宝石を天使の手に返すと告げた。
「ちゃんとね、言わなくちゃ分からないんだよ。大切なら大切。離したくないならちゃんと掴んでなきゃ居なくなっちゃうんだから」
 そこら辺しっかりね、とルーセルミィは小さく笑ってジークフリートに、行こう、と告げる。

 そこにいてももうすることはない。
 宝石は戻ったし、きっと明日には雪も上がるだろう。
 これ以上居たら出刃亀も良いところだ。

 ちらり、とルーセルミィはその金髪の天使を振り返る。
 そしてその時、やっと思い出した。その人物が誰に似ているのかを。
「………まさか……ね」
 小さな呟きはジークフリートにも届かない。
 まさかこんな所に居るはずがない。
 金色の天使。ルーセルミィの異母兄が。
 幼い頃に窓越しに見ただけだが、とても印象的だったあの金色。
 自分にはない色。
 手には出来ない温もり。

「どうしました?」
 ジークフリートは歩みを止めたルーセルミィに手を差し伸べる。
「行きましょう」
 にっこりと微笑むジークフリートを見上げたルーセルミィは笑ってその手を取る。
 あの時は無かった温もりが今は自分の周りには溢れている。
 だから別にあの金色は要らないと。
 金色が欲しかったのではなく、温もりが欲しかったのだからと。
 ルーセルミィは嬉しそうな笑みを浮かべ、降り積もった雪を踏みしめた。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)


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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。夕凪沙久夜です。

今回はまた違った仕上がりになったのですが、如何でしたでしょうか。
バトルも入れようと思ったのですが、バトルどころじゃなくなんかとってもアレな感じのお話に仕上がりました。(笑)
天使が異母兄に似てるという事だったので、あんな風にごまかして(笑)みましたが。
そしてすみません。(土下座)
勝手に……勝手にジークフリートと遊ばせてしまいましたー!
いえ、私はジークフリートに懐いてくれるルーセくんが好きなので、書いていてとっても楽しかったのですけれども。
少しでも楽しんで頂けたらいいなぁと思いつつ。
ファンレターとかもいつもどうもありがとうございますvとても嬉しく読ませて頂いてます。

今回も本当にありがとうございました。
またお会いできるのを楽しみにしております!